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10.改めて市に行く魔王
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金貨300枚を入手した俺は、当初の目的を達成した。アレーナと俺の昇格試験の知らせはいまだ来ず、俺たちは次の市まで賞金稼ぎの仕事をこなしていた。最初に倒した盗賊団がやはり一番報酬は美味かったが。
市の当日。
すっかり重くなった懐を抑え、セバルドの露店を見て回ろうと思うのだが、先に例の変な店に行くことにした。
「7日ぶりですね」
相変わらず人のいない天幕に声をかけると、前と同じようにのろのろと俺の半分くらいの身長を起こして小人族の店主が出てきた。
「おや、やけに早いけど。まさか代金をもう持ってきてくれたんですかい?」
「そのまさかです。ほら、金貨300枚」
金貨を渡すと、店主は奥から黒い鎧を引っ張り出してくる。着ることができませんとなったら元も子もないので試しに袖を通す(鎧だけど)と、脚の部分がほんの少し短いくらいで難なく着用できた。いや、そこそこ手間取った。
自分では見えないが似合っているともいうのだろうか、アレーナの言うところの「悪役感」が一層強くなった気がする。首枷が隠れるのは助かった。能力的にも申し分なく、爆破耐性や不壊などてんこ盛りだ。闇属性が付与されているのも闇属性への親和性が高い俺にとっては好都合だ。
ちなみにどうやって効果を判別しているかというと、鎧の表面に張られた魔力の波形を見るやり方を使っている。
鎧に対する忌憚のない感想を仲間達に聞いてみることにした。
「どう思う」
「言葉にできないくらい格好いい……というより美人……? どういうこと。犯罪者でしょこんなのもう」
「無駄使いだとは思いますが、よくお似合いですよ」
らしい答えが返ってきた。
アレーナは大真面目な表情をしながら取り乱しているが、珍しいことではないだろう。クエレブレには無駄使いと言われてしまった。大目に見てほしい。
「おまけにクロークをつけときますよ。今後もご贔屓に」
黒いマントがおまけで付いてきた。また悪さが増してしまう。まだ何か買うかと訊くと、アレーナは軽装の鎧が欲しいそうだ。今はコールタールを塗った上着と鎖帷子が主な装備だが、青ランク昇格試験のことを見据えると新調したいそう。
「彼女さんの防具ですかね?」
アレーナは頷いた。
彼女、彼女か。
店主はごちゃごちゃとした鎖の山の中から、軽装の鎧を引っ張り出した。
「アレーナは魔法防御と物理防御、どっちを重視してる」
「汎用性の高さからいって物理防御かな。魔法防御が役に立つ時は、大抵もう物理で打ちのめされてるだろうから」
出された鎧の魔力の張られ方は、どちらかというと魔法防御寄りに見える。
「もうちょっと物理防御寄りの鎧ってありますか」
「あ~それだとこっちですねぇ」
金属をがちゃがちゃと鳴らしながら出されてきた鎧は、今度こそ条件に合うものだった。魔法防御もそこそこに、物理防御は面積に対して非常に高い。薄いプレートが胴体を覆うだけの簡素なものだが、特に衝撃耐性に秀でていて優秀だ。さっきのものよりは値段は張るが、金貨300枚とまではいかない。
代金の金貨を支払い、アレーナは軽装鎧を小脇に挟んだ。着ていかないのか訊いたら、俺のように完全武装でそこら辺を歩いていれば、常人ならものの数分で倒れるらしい。そういうものなのか。
店主の人も胡散臭い喋り方だけどいい感じだし、これからも機会があったら通いたいと思う。
「シェミハザ様、耐性や属性と仰られていましたが、なんのことなのですか?」
「それよ。もしかして情報的なのが見えてるの? 言葉自体には聞き覚えあるけど」
店から離れて歩き始めると、二人が俺にさっきの防具選びについて質問してきた。
説明を忘れていたな。
属性というのは土水風火の元素に、光と闇を加えた6種類があるということは二人とも知っていた。魔力の有無や魔法への適性に関わらず、個々人には属性への親和性というものがある。稀に全属性同程度の親和性を持つ人がいるが、自分に合う装備品が見つからなさそうで大変だと思う。俺はさっきの通り闇属性、アレーナは風属性、クエレブレは火属性に親和性が高い。これらは魔法や装備品でも同様に当てはまる。別属性だからどうということはないが、魔法なら燃費が悪くなるし、装備品なら付与されている魔法の効果が弱まってしまうのだ。
さて、耐性やら防御とはどういうものかというと、単純に持続性と再現性のある魔法を組み込んだものだ。属性は魔法を付与した術者と同じになる。
属性が自分にとって適切かどうか、付与された魔法は使用目的に合致しているかどうかは装備選びでは大事だと語ると、二人は納得すると同時に何故だか意外そうな表情をした。
「え、なんだその神妙な顔は」
「真面目なところもあったんだね……」
「これは意外でした……」
寝て、殺すことしかしないからか俺のイメージが頭空っぽみたいな感じになっているが、魔法に関しては詳しいのだ。披露する手段がないけど。
それからは市を散策してこまごまとした日用品を買い、一度冒険者ギルドに寄ることにした。
「あっ、お二人ともちょうどいいところに! ついさっき昇格試験の日程が決まったんです。あの、本当に急の日程で申し訳ないのですが、シェミハザさんは明日で、アレーナさんは三日後に冒険者ギルドの裏手に集合するということになりました」
受付の女性に申し訳なさそうに告げられた。確かに急だな。
「明日ですか」
その日暮らしの身、明日の予定なんぞないので何の問題もないが、一つだけ懸念があった。
合宿で角をどうやって誤魔化そうか。
市の当日。
すっかり重くなった懐を抑え、セバルドの露店を見て回ろうと思うのだが、先に例の変な店に行くことにした。
「7日ぶりですね」
相変わらず人のいない天幕に声をかけると、前と同じようにのろのろと俺の半分くらいの身長を起こして小人族の店主が出てきた。
「おや、やけに早いけど。まさか代金をもう持ってきてくれたんですかい?」
「そのまさかです。ほら、金貨300枚」
金貨を渡すと、店主は奥から黒い鎧を引っ張り出してくる。着ることができませんとなったら元も子もないので試しに袖を通す(鎧だけど)と、脚の部分がほんの少し短いくらいで難なく着用できた。いや、そこそこ手間取った。
自分では見えないが似合っているともいうのだろうか、アレーナの言うところの「悪役感」が一層強くなった気がする。首枷が隠れるのは助かった。能力的にも申し分なく、爆破耐性や不壊などてんこ盛りだ。闇属性が付与されているのも闇属性への親和性が高い俺にとっては好都合だ。
ちなみにどうやって効果を判別しているかというと、鎧の表面に張られた魔力の波形を見るやり方を使っている。
鎧に対する忌憚のない感想を仲間達に聞いてみることにした。
「どう思う」
「言葉にできないくらい格好いい……というより美人……? どういうこと。犯罪者でしょこんなのもう」
「無駄使いだとは思いますが、よくお似合いですよ」
らしい答えが返ってきた。
アレーナは大真面目な表情をしながら取り乱しているが、珍しいことではないだろう。クエレブレには無駄使いと言われてしまった。大目に見てほしい。
「おまけにクロークをつけときますよ。今後もご贔屓に」
黒いマントがおまけで付いてきた。また悪さが増してしまう。まだ何か買うかと訊くと、アレーナは軽装の鎧が欲しいそうだ。今はコールタールを塗った上着と鎖帷子が主な装備だが、青ランク昇格試験のことを見据えると新調したいそう。
「彼女さんの防具ですかね?」
アレーナは頷いた。
彼女、彼女か。
店主はごちゃごちゃとした鎖の山の中から、軽装の鎧を引っ張り出した。
「アレーナは魔法防御と物理防御、どっちを重視してる」
「汎用性の高さからいって物理防御かな。魔法防御が役に立つ時は、大抵もう物理で打ちのめされてるだろうから」
出された鎧の魔力の張られ方は、どちらかというと魔法防御寄りに見える。
「もうちょっと物理防御寄りの鎧ってありますか」
「あ~それだとこっちですねぇ」
金属をがちゃがちゃと鳴らしながら出されてきた鎧は、今度こそ条件に合うものだった。魔法防御もそこそこに、物理防御は面積に対して非常に高い。薄いプレートが胴体を覆うだけの簡素なものだが、特に衝撃耐性に秀でていて優秀だ。さっきのものよりは値段は張るが、金貨300枚とまではいかない。
代金の金貨を支払い、アレーナは軽装鎧を小脇に挟んだ。着ていかないのか訊いたら、俺のように完全武装でそこら辺を歩いていれば、常人ならものの数分で倒れるらしい。そういうものなのか。
店主の人も胡散臭い喋り方だけどいい感じだし、これからも機会があったら通いたいと思う。
「シェミハザ様、耐性や属性と仰られていましたが、なんのことなのですか?」
「それよ。もしかして情報的なのが見えてるの? 言葉自体には聞き覚えあるけど」
店から離れて歩き始めると、二人が俺にさっきの防具選びについて質問してきた。
説明を忘れていたな。
属性というのは土水風火の元素に、光と闇を加えた6種類があるということは二人とも知っていた。魔力の有無や魔法への適性に関わらず、個々人には属性への親和性というものがある。稀に全属性同程度の親和性を持つ人がいるが、自分に合う装備品が見つからなさそうで大変だと思う。俺はさっきの通り闇属性、アレーナは風属性、クエレブレは火属性に親和性が高い。これらは魔法や装備品でも同様に当てはまる。別属性だからどうということはないが、魔法なら燃費が悪くなるし、装備品なら付与されている魔法の効果が弱まってしまうのだ。
さて、耐性やら防御とはどういうものかというと、単純に持続性と再現性のある魔法を組み込んだものだ。属性は魔法を付与した術者と同じになる。
属性が自分にとって適切かどうか、付与された魔法は使用目的に合致しているかどうかは装備選びでは大事だと語ると、二人は納得すると同時に何故だか意外そうな表情をした。
「え、なんだその神妙な顔は」
「真面目なところもあったんだね……」
「これは意外でした……」
寝て、殺すことしかしないからか俺のイメージが頭空っぽみたいな感じになっているが、魔法に関しては詳しいのだ。披露する手段がないけど。
それからは市を散策してこまごまとした日用品を買い、一度冒険者ギルドに寄ることにした。
「あっ、お二人ともちょうどいいところに! ついさっき昇格試験の日程が決まったんです。あの、本当に急の日程で申し訳ないのですが、シェミハザさんは明日で、アレーナさんは三日後に冒険者ギルドの裏手に集合するということになりました」
受付の女性に申し訳なさそうに告げられた。確かに急だな。
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その日暮らしの身、明日の予定なんぞないので何の問題もないが、一つだけ懸念があった。
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