敗北魔王の半隠遁生活

久守 龍司

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13.訓練と疑いの魔王

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「やっぱり姿勢に無理があるぞッ! ゆっくり蹴りを出して、いや、それだと腰をいためる! こうだ、こう。そう!」
言っていることは大体わかるものの、なかなか覚えるのは厳しい。あれこれ姿勢を変えて蹴りを試していると褒められることもあったが、再現してやってみようとすると違うと言われたりもする。

2人組で戦ってみろと言われてから、かなりの時間が経った。俺は休みなく格闘の練習を続けているが、他の受験者は休憩を取っているようだ。

「お前は根性があるな! 蹴りは良くなってきたから、次はパンチだ!」
エイブラハムさんと俺だけが実戦形式で殴り合ったり、型を覚えたりしている。俺は力とスピードで解決しようとして、実際解決してしまうため実戦よりも型で覚えた方がいいそうだ。

「シェミハザさん、帽子取れそうで取れないですよね……」
木陰で休むイルマが戦う俺の様子を見て呟いた。

その通り。
激しい運動で帽子がうっかり取れてしまう、なんてことを防ぐために俺は今回ある策を施してきた。
帽子の内側にベルトを縫い付け、それを角に巻きつけるというものだ。角にも神経が通っているので若干の違和感はあるが、これで取れてしまうことはない筈。

「やっぱり実戦はできるな……その鎧、その帽子
でよく動けるもんだ。魔力による身体強化かっ!?」
「俺は魔力使えないんで、普通に動いてるだけですよ」
「嘘だろ」
実戦形式で殴り合っても、お互いダメージを与えられていない。俺はエイブラハムさんの拳も蹴りも見切れて躱し、俺の攻撃は届いているように見えて全て受け流されているのだから。

ガチャガチャ鎧を鳴らしながら攻撃を避けつつ体を捻って腕を振るうが、当たった感覚がない。出来た隙に膝蹴りが飛んできたのをまた躱し…………と、ずっと続けていた。


「つ、疲れた……」
日が半分以上沈んでもまだ訓練は続いていた。体力が無尽蔵にある俺と、俺同様に底なしのエイブラハムさん以外はへとへとになっていた。しかし、へたり込む度に「まだまだ!」と無理矢理起こされていた。クラウスなど燃え尽きたようになっている。
……もしかしなくても、合宿は物凄く厳しいのではないか?

疲労などないので、無料で特訓を付けてくれてありがたいと思っている俺は他人事のように感じる。受け流されている仕組みが回数をこなすにつれて分かってきたような気もして自分の上達を実感できている。

「今日はこれくらいにしておく。まだまだ序の口、張り切って気合を入れていくぞ!」



4日経った。
寝る時に角がバレるんじゃないのかと思ったが、幸運なことにベルトも健在であるためバレてはいないようだ。小屋のそばの井戸水を浴びることができるし、俺の格闘技も様になってきたような気がする。気のせいかもしれない。
昼は鍛錬、夜はクエレブレの魔力で魔法を行使することの練習を続けている。今のところ突然の睡魔に襲われることもない。

ハルフォーフ姉妹とクラウスはかなり疲れているようだった。休憩の度に大きくため息をついて項垂れている。デイブはわからない。そして俺の鎌は1度も構えていない。

「才能があるな。成長速度がおかしいくらいだ」
何故俺に謎の自信がついたかというと、エイブラハムさんとの殴り合いの時に俺の方が押していると感じることがあるからだ。

躱すところは躱し、受け流すところは受け流す。魔力の流れが見えるのは有利だ。大体の動きを掴んだら、それで次の行動を予測できるのだから。魔力を見る能力ありきの上、お世辞かもしれないが俺には才能があるのかもしれないと心の片隅で期待したりもするのだった。


「おーい、怪力のシェミハザ。ちょっとこっち来てくれ!」
昼休憩でエイブラハムさんが小屋の裏手から呼んでいる。また岩か、もしくは木材か……そう思って裏に回ったがどちらもそこにはなかった。

「シェミハザ、用があるんだ。時間は取らなせない、話を聞いてくれないか」
「何で深刻そうな表情をしているのかは皆目見当がつきませんが、大丈夫です」
エイブラハムさんの表情が少し和らぎ、話し始めた。

「……お前は素直な感じがするから言っておくがな、実は太っちょの挙動が怪しいんだ」
最初からだと思う。太っちょ、つまりデイブのことだろうが、俺もずっと何を考えているのかわからないままだ。

「実力を隠している……そんな気がするんだ。あくまで冒険者の勘だがな。お前はどう思う?」
「俺は自分のことしか考えてないのでわかりませんね。いや、あー……そういや、俺の肘を食らってもピンピンしてました。普通は死ぬのに」
エイブラハムさんは変な髪型に太陽光を反射させながら驚いたように顎に手を当てた。

「やっぱりそうか。奴は何か隠している。ゴブリンに攻撃を使わなかったのもそうだ。ここだけの話、実は冒険者ギルドに間者がいるという噂が広まっていてな」
「俺は一応は試験官だからな、向こうも少なからず警戒しているだろう。その、なんだ、つまり……」
「こっそり監視してくれってことですか?」
「そうだ」
言葉を引き継ぐ。
別に正義感があるとかではないのだが、断る理由もないし、俺も丁度鼻息を耳にかけてきたお礼をいつかしたいと思っていたところだ。仮にデイブが間者だったとするなら、捕まえたら金も貰えるだろうしな。

「なるほど。引き受けました」
「助かる。礼といっちゃなんだが、俺も何かあったらお前の力になろう」
私欲が8割、あとの2割は流されて引き受けた俺の言葉を、エイブラハムさんは真摯に受け止めたようだった。俺の力になってくれるとは頼もしいが、そこまで言われるようなことはしていないだろうに。
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