敗北魔王の半隠遁生活

久守 龍司

文字の大きさ
12 / 40

12.戦闘見学の魔王

しおりを挟む
俺の素人回し蹴りは他の受験者にも概ね好評だった。

「シェミ、すごい」
幼く見える姉の方、ヘルマもぱちぱちと手を叩く。
仕草も幼女のようだが、年齢を尋ねたところ24歳だと返ってきた。嘘でしょう。

「素手で戦っている人は、皆こんなに力が強いんですか?」
15歳だという妹のイルマも口元に手を当てて笑っている。とても15歳には見えない立ち居振る舞いだが。姉妹で9歳離れているようだ。
2人は魔法職であるらしく、なるほど魔力が他の人より多い訳だ。特にイルマは魔力がそこらへんの人の3倍近くある。ヘルマの方は戦闘を見ていないのでまだ未知数だが、幼い……失礼、小柄な体格という身体的なハンデを打ち消すほどの魔法の素養があるということは見て取れる。

「はは。実は全員でちょっとずつ壊してもらおうと思ってたんだけどな」
エイブラハムさんは頭を掻きながら言った。俺の怪力で岩砕きしてすみません。

「どれくらいの攻撃力があるのか確かめたかったんだが、まあ動かない物でやってもしょうがないな。実践といくぞ!」
そう言って指を森の向こうを指差す。
森の間から出てきたのはお馴染みゴブリンの群れだった。20体くらいだろうか。ウォーリアやメイジも含まれているようだ。俺なら瞬殺できる。

「おっと、シェミハザ君はさっき充分に力を見せてくれたからな。今回は休みだ」
俺がゴブリン殲滅のため動こうとしているのを察知されたのか、手で制止された。
見ていろということらしい。
一理あるなと思ったので大人しく指を咥えて見てあることにする。

俺を除く受験者──ヘルマとイルマのハルフォーフ姉妹、伯爵家のクラウス、デブのデイブはゴブリンの群れの方を向き、各々の得物を構えて攻撃姿勢をとった。

ハルフォーフ姉妹は、年齢と外見の違いだけでなく、その戦い方も予想外だった。
ヘルマは近接型の魔法師のようだ。格闘のような動きはしないが、素早い移動によって最小限の魔力でゴブリンを撃破している。しかも全てを魔法の魔力制御で行っているのだから見事なものだ。
イルマは、膨大な魔力を生かした遠距離型の魔法師で、姉妹で上手く連携を取っていることが見て取れた。

クラウスの方に目をやる。剣とバックラーを装備した典型的な剣士の戦い方をしている。俺は剣士のことは知らないので特に語ることはないが、攻撃を喰らっている様子はないしまあ、いいんだろう。アレーナの方が俊敏だけど武器もランクも違うからな。

デイブは、俺の肘を受け流した時のようにぽよんぽよんと跳ね、ゴブリンの攻撃をものともしない。余力がある筈なのにこれほど避け続けるのはどこかわざとらしい気もする。魔力はどちらかというと多い方だと思うが、魔法を使う素振りはない。となると、魔法師以外の戦い方はわからないので判別のしようがなかった。


こうして戦っているうちにゴブリンは全滅したようだった。
エイブラハムさんは俺達と一緒にゴブリンの死体を一箇所に纏め、地面を掘って埋めるという。
あれ、今までずっとその場に放置していたんだが。

「モンスターの死体を放置しておくと、他のモンスターを呼び寄せる原因になるからな。地面を深く掘って死体を埋めるのが、冒険者としての基本的なマナーだ」
アレーナ師匠にはそんなこと教わらなかったな。初回の依頼から相当なマナー違反をしてしまっていた……知らなかったから許されることであってくれ。

「ヘルマ。興味深い戦い方をしている。魔法師としては珍しいな。イルマ、少数の敵相手ならもっと威力を落としても良いかもしれないな」
教官はゴブリンの死体を引き摺り、深く掘った穴に投げ込みながら俺の時と同様に1人ずつ褒めたり、アドバイスをしたりしている。

「クラウスは仲間と組んだら活きるタイプだ。デイブ、避けてばっかりじゃなくて攻撃もしてみたらどうだ?」
クラウスは少しむっとしたような表情になったが何も言わず、デイブは感情が読み取れないものの鼻息は相変わらず荒い。疲れているようには見えないので、癖か?

ゴブリンの死体を片付け終わったところで、次の場所にまた移動するようだった。



冒険者ギルドを出てからは岩を壊してゴブリンを倒し、なんとも脈絡がないように感じるこの昇格合宿だったが、今までの戦闘は移動のついでだったようだ。

森の中を暫く進むと、拓かれた場所にあまり造りが良くなさそうな山小屋が見えてきた。手入れのされていないような雰囲気ではない。まさかここに泊まるのでは、という予想は的中した。

「合宿中はここに泊まるぞ。部屋は2つしかないんでな。男の方はちょっと狭くなるかもしれんが、我慢してくれ」
山小屋に入り、大して量のない荷物を雨風の辛うじて凌げる部屋に置き、外に出ると早速次の指示があった。

「よし、2人1組で戦うぞ! もう相手はさっきの戦い方で決めているからな」
俺は先程の宣言通りエイブラハムさんと組まされることになった。周りも似たようなタイプで組まされているようだ。

忘れていたが、俺は徒手格闘ではなく大鎌で戦うと決めていた筈だったのに今日1度も使っていない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...