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12.戦闘見学の魔王
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俺の素人回し蹴りは他の受験者にも概ね好評だった。
「シェミ、すごい」
幼く見える姉の方、ヘルマもぱちぱちと手を叩く。
仕草も幼女のようだが、年齢を尋ねたところ24歳だと返ってきた。嘘でしょう。
「素手で戦っている人は、皆こんなに力が強いんですか?」
15歳だという妹のイルマも口元に手を当てて笑っている。とても15歳には見えない立ち居振る舞いだが。姉妹で9歳離れているようだ。
2人は魔法職であるらしく、なるほど魔力が他の人より多い訳だ。特にイルマは魔力がそこらへんの人の3倍近くある。ヘルマの方は戦闘を見ていないのでまだ未知数だが、幼い……失礼、小柄な体格という身体的なハンデを打ち消すほどの魔法の素養があるということは見て取れる。
「はは。実は全員でちょっとずつ壊してもらおうと思ってたんだけどな」
エイブラハムさんは頭を掻きながら言った。俺の怪力で岩砕きしてすみません。
「どれくらいの攻撃力があるのか確かめたかったんだが、まあ動かない物でやってもしょうがないな。実践といくぞ!」
そう言って指を森の向こうを指差す。
森の間から出てきたのはお馴染みゴブリンの群れだった。20体くらいだろうか。ウォーリアやメイジも含まれているようだ。俺なら瞬殺できる。
「おっと、シェミハザ君はさっき充分に力を見せてくれたからな。今回は休みだ」
俺がゴブリン殲滅のため動こうとしているのを察知されたのか、手で制止された。
見ていろということらしい。
一理あるなと思ったので大人しく指を咥えて見てあることにする。
俺を除く受験者──ヘルマとイルマのハルフォーフ姉妹、伯爵家のクラウス、デブのデイブはゴブリンの群れの方を向き、各々の得物を構えて攻撃姿勢をとった。
ハルフォーフ姉妹は、年齢と外見の違いだけでなく、その戦い方も予想外だった。
ヘルマは近接型の魔法師のようだ。格闘のような動きはしないが、素早い移動によって最小限の魔力でゴブリンを撃破している。しかも全てを魔法の魔力制御で行っているのだから見事なものだ。
イルマは、膨大な魔力を生かした遠距離型の魔法師で、姉妹で上手く連携を取っていることが見て取れた。
クラウスの方に目をやる。剣とバックラーを装備した典型的な剣士の戦い方をしている。俺は剣士のことは知らないので特に語ることはないが、攻撃を喰らっている様子はないしまあ、いいんだろう。アレーナの方が俊敏だけど武器もランクも違うからな。
デイブは、俺の肘を受け流した時のようにぽよんぽよんと跳ね、ゴブリンの攻撃をものともしない。余力がある筈なのにこれほど避け続けるのはどこかわざとらしい気もする。魔力はどちらかというと多い方だと思うが、魔法を使う素振りはない。となると、魔法師以外の戦い方はわからないので判別のしようがなかった。
こうして戦っているうちにゴブリンは全滅したようだった。
エイブラハムさんは俺達と一緒にゴブリンの死体を一箇所に纏め、地面を掘って埋めるという。
あれ、今までずっとその場に放置していたんだが。
「モンスターの死体を放置しておくと、他のモンスターを呼び寄せる原因になるからな。地面を深く掘って死体を埋めるのが、冒険者としての基本的なマナーだ」
アレーナ師匠にはそんなこと教わらなかったな。初回の依頼から相当なマナー違反をしてしまっていた……知らなかったから許されることであってくれ。
「ヘルマ。興味深い戦い方をしている。魔法師としては珍しいな。イルマ、少数の敵相手ならもっと威力を落としても良いかもしれないな」
教官はゴブリンの死体を引き摺り、深く掘った穴に投げ込みながら俺の時と同様に1人ずつ褒めたり、アドバイスをしたりしている。
「クラウスは仲間と組んだら活きるタイプだ。デイブ、避けてばっかりじゃなくて攻撃もしてみたらどうだ?」
クラウスは少しむっとしたような表情になったが何も言わず、デイブは感情が読み取れないものの鼻息は相変わらず荒い。疲れているようには見えないので、癖か?
ゴブリンの死体を片付け終わったところで、次の場所にまた移動するようだった。
冒険者ギルドを出てからは岩を壊してゴブリンを倒し、なんとも脈絡がないように感じるこの昇格合宿だったが、今までの戦闘は移動のついでだったようだ。
森の中を暫く進むと、拓かれた場所にあまり造りが良くなさそうな山小屋が見えてきた。手入れのされていないような雰囲気ではない。まさかここに泊まるのでは、という予想は的中した。
「合宿中はここに泊まるぞ。部屋は2つしかないんでな。男の方はちょっと狭くなるかもしれんが、我慢してくれ」
山小屋に入り、大して量のない荷物を雨風の辛うじて凌げる部屋に置き、外に出ると早速次の指示があった。
「よし、2人1組で戦うぞ! もう相手はさっきの戦い方で決めているからな」
俺は先程の宣言通りエイブラハムさんと組まされることになった。周りも似たようなタイプで組まされているようだ。
忘れていたが、俺は徒手格闘ではなく大鎌で戦うと決めていた筈だったのに今日1度も使っていない。
「シェミ、すごい」
幼く見える姉の方、ヘルマもぱちぱちと手を叩く。
仕草も幼女のようだが、年齢を尋ねたところ24歳だと返ってきた。嘘でしょう。
「素手で戦っている人は、皆こんなに力が強いんですか?」
15歳だという妹のイルマも口元に手を当てて笑っている。とても15歳には見えない立ち居振る舞いだが。姉妹で9歳離れているようだ。
2人は魔法職であるらしく、なるほど魔力が他の人より多い訳だ。特にイルマは魔力がそこらへんの人の3倍近くある。ヘルマの方は戦闘を見ていないのでまだ未知数だが、幼い……失礼、小柄な体格という身体的なハンデを打ち消すほどの魔法の素養があるということは見て取れる。
「はは。実は全員でちょっとずつ壊してもらおうと思ってたんだけどな」
エイブラハムさんは頭を掻きながら言った。俺の怪力で岩砕きしてすみません。
「どれくらいの攻撃力があるのか確かめたかったんだが、まあ動かない物でやってもしょうがないな。実践といくぞ!」
そう言って指を森の向こうを指差す。
森の間から出てきたのはお馴染みゴブリンの群れだった。20体くらいだろうか。ウォーリアやメイジも含まれているようだ。俺なら瞬殺できる。
「おっと、シェミハザ君はさっき充分に力を見せてくれたからな。今回は休みだ」
俺がゴブリン殲滅のため動こうとしているのを察知されたのか、手で制止された。
見ていろということらしい。
一理あるなと思ったので大人しく指を咥えて見てあることにする。
俺を除く受験者──ヘルマとイルマのハルフォーフ姉妹、伯爵家のクラウス、デブのデイブはゴブリンの群れの方を向き、各々の得物を構えて攻撃姿勢をとった。
ハルフォーフ姉妹は、年齢と外見の違いだけでなく、その戦い方も予想外だった。
ヘルマは近接型の魔法師のようだ。格闘のような動きはしないが、素早い移動によって最小限の魔力でゴブリンを撃破している。しかも全てを魔法の魔力制御で行っているのだから見事なものだ。
イルマは、膨大な魔力を生かした遠距離型の魔法師で、姉妹で上手く連携を取っていることが見て取れた。
クラウスの方に目をやる。剣とバックラーを装備した典型的な剣士の戦い方をしている。俺は剣士のことは知らないので特に語ることはないが、攻撃を喰らっている様子はないしまあ、いいんだろう。アレーナの方が俊敏だけど武器もランクも違うからな。
デイブは、俺の肘を受け流した時のようにぽよんぽよんと跳ね、ゴブリンの攻撃をものともしない。余力がある筈なのにこれほど避け続けるのはどこかわざとらしい気もする。魔力はどちらかというと多い方だと思うが、魔法を使う素振りはない。となると、魔法師以外の戦い方はわからないので判別のしようがなかった。
こうして戦っているうちにゴブリンは全滅したようだった。
エイブラハムさんは俺達と一緒にゴブリンの死体を一箇所に纏め、地面を掘って埋めるという。
あれ、今までずっとその場に放置していたんだが。
「モンスターの死体を放置しておくと、他のモンスターを呼び寄せる原因になるからな。地面を深く掘って死体を埋めるのが、冒険者としての基本的なマナーだ」
アレーナ師匠にはそんなこと教わらなかったな。初回の依頼から相当なマナー違反をしてしまっていた……知らなかったから許されることであってくれ。
「ヘルマ。興味深い戦い方をしている。魔法師としては珍しいな。イルマ、少数の敵相手ならもっと威力を落としても良いかもしれないな」
教官はゴブリンの死体を引き摺り、深く掘った穴に投げ込みながら俺の時と同様に1人ずつ褒めたり、アドバイスをしたりしている。
「クラウスは仲間と組んだら活きるタイプだ。デイブ、避けてばっかりじゃなくて攻撃もしてみたらどうだ?」
クラウスは少しむっとしたような表情になったが何も言わず、デイブは感情が読み取れないものの鼻息は相変わらず荒い。疲れているようには見えないので、癖か?
ゴブリンの死体を片付け終わったところで、次の場所にまた移動するようだった。
冒険者ギルドを出てからは岩を壊してゴブリンを倒し、なんとも脈絡がないように感じるこの昇格合宿だったが、今までの戦闘は移動のついでだったようだ。
森の中を暫く進むと、拓かれた場所にあまり造りが良くなさそうな山小屋が見えてきた。手入れのされていないような雰囲気ではない。まさかここに泊まるのでは、という予想は的中した。
「合宿中はここに泊まるぞ。部屋は2つしかないんでな。男の方はちょっと狭くなるかもしれんが、我慢してくれ」
山小屋に入り、大して量のない荷物を雨風の辛うじて凌げる部屋に置き、外に出ると早速次の指示があった。
「よし、2人1組で戦うぞ! もう相手はさっきの戦い方で決めているからな」
俺は先程の宣言通りエイブラハムさんと組まされることになった。周りも似たようなタイプで組まされているようだ。
忘れていたが、俺は徒手格闘ではなく大鎌で戦うと決めていた筈だったのに今日1度も使っていない。
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