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15.その後と魔王
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手についた返り血と刃を水で洗い流し、ことの次第を姉妹に訊く。
「ちょっとお手洗いでも行こうってなってたんですけど、そしたら後ろからあの人が着いてきてるみたいで……何か用があるのかと問い詰めたら、突然お前は魔族だろうと言われたんです」
「異端、だって」
相槌を打ちながら、デイブは本当に脈絡がなさすぎじゃないかと思う。もしかしたら、今まで外見は人間なのに実は魔族だったという例があったのかもしれない。疑わしきは罰せよというのなら、確かに魔力が多い人に目を付けてもおかしくはないかもしれない。
「デイブが怪しいって教官から言われてたから、見張ってたんだけど。本当に怪しい奴だったとは」
俺も聞いておいて何も語らないのはフェアじゃないだろう。エイブラハムさんから言われていたことを多少誤魔化しながら話した。
「とりあえず、デイブが消えたことを話した方がいいですね……えっ、どうして着いてくるんですか?」
「いや、戻るのかと」
「……お手洗いにまだ行けていないんですよ!」
「あっ、それは失礼」
いそいそとその場から離れて山小屋の方へ戻ることにした。
小屋の前では、クラウスがエイブラハムさんに剣の振り方の指導をされていた。
エイブラハムさんはこちらを見ると、指導の手を止めて近寄ってきた。一方、クラウスの目はサボりかと問いたげだ。
「どうだった。何か怪しいことでも……」
「話すと長くなるんですけど、話します。デイブは王都から来た異端審問官で、ハルフォーフ姉妹のイルマの方が魔族だと疑われてました。取り逃がしてしまったんですが手傷は負わせたと思います」
「あの太っちょが異端審問官!? そしてお前人を攻撃するのに躊躇いが……そういえば賞金稼ぎか。イルマはどうなった。実際に魔族じゃないんだろうな」
情報量の多さにエイブラハムさんも戸惑っているようだ。
「魔族じゃないです。少なくとも俺の知識では違います」
「だよな。俺もそう見てる。異端審問官なら見間違えなどないと思うんだが……この事は冒険者ギルド本部へ伝えておく」
伝えておくとは言ったものの、試験を途中で放り出すわけにはいかないため俺達の訓練は続行するそうだ。エイブラハムさんはデイブが残した持ち物を取りに行ったりと、痕跡は探すらしい。
1人欠けたのでクラウスと俺が組むことになった。エイブラハムさんは、休憩している時に俺と戦ってくれるらしい。
クラウスと戦うので、当然俺も素手ではなく大鎌だ。エンチャントは使わずにそのままで戦う。
「平民風情が。そのふざけた武器と僕の剣、どちらが強いか勝負だ!」
クラウスが剣と盾を構えて切りかかってくる。鎌で受け止めるが、折れ曲がった形状のため力の加減が難しい。
俺は武器は初心者で、クラウスは熟練者だ。打ち合っている分には俺は押され、最終的に地力の差で競り勝つことがままあった。
最初から物凄く上から目線だったが、クラウスが悪い奴ではないことは俺にも分かる。勝っても負けても偉そうだが、ただプライドが高いだけで嫌味は言わない。
そしてまた数日経った。
クエレブレは干し肉にもいい加減飽きたと愚痴を零し、ハルフォーフ姉妹とクラウスも休憩の回数と時間が日に日に増えている。
俺とエイブラハムさんだけは相変わらずの耐久力で訓練を続けていた。
意外にも俺は多才だったようで、格闘だけでなく大鎌の扱いにも慣れてきた。
クエレブレとの魔法の練習も大詰めで、もしまた魔力が戻ったとしても使える技も編み出した。
それはそれとして、アレーナは今どうしているだろうか。合宿じゃないから、もう帰ってきているかもしれない。
「攻撃が重い……そして速く、正確だ! 試験があるから飛び級ができないのは残念だが、紫ランクでも上位は確実だろう。お前が魔族でも驚かないッ!」
実戦形式の訓練でも余裕が有り余るくらいだ。
待てよ。紫ランク上位が魔族と同じということは、魔族ってそんなに強いのか?
「魔族は強いな。上位の魔族になると、青か紫ランクの冒険者数人でやっと互角というレベルだ。実は紫の上にも冒険者のランクはあるが……紫まで上がってきたら教えてやる」
戦闘を終え、汗を拭きながらエイブラハムさんが答えた。
紫より上のランクがあるのか。実質紫ランク上位なら教えてくれてもいいものだろうに。
「ドラゴン族は手出ししなけりゃ大人しいもんだが、魔族に話し合いは通じん。戦闘狂で、強欲で、感情的な奴らだ。それでも上位の方はまだ喋れるらしいがな。詳しいことは全くわからんよ」
「戦ったことがあるんです?」
「いいや、ないよ。さっき言った最上位ランクの冒険者の1人が俺の師匠でな。魔族ハンターを自ら名乗ってるのさ。勇者様とも会ったことがあるらしい」
勇者。久しぶりに聞いた名だ。世間知らずの俺の中では、人間の中で1番強かった。
エイブラハムさんの師匠だという魔族ハンターさんにも会ってみたいが、ハンティングされそうだからやっぱり会いたくない。
魔族、最上位ランク、勇者。
どうして強者に限って情報源が少ないんだか。
「ちょっとお手洗いでも行こうってなってたんですけど、そしたら後ろからあの人が着いてきてるみたいで……何か用があるのかと問い詰めたら、突然お前は魔族だろうと言われたんです」
「異端、だって」
相槌を打ちながら、デイブは本当に脈絡がなさすぎじゃないかと思う。もしかしたら、今まで外見は人間なのに実は魔族だったという例があったのかもしれない。疑わしきは罰せよというのなら、確かに魔力が多い人に目を付けてもおかしくはないかもしれない。
「デイブが怪しいって教官から言われてたから、見張ってたんだけど。本当に怪しい奴だったとは」
俺も聞いておいて何も語らないのはフェアじゃないだろう。エイブラハムさんから言われていたことを多少誤魔化しながら話した。
「とりあえず、デイブが消えたことを話した方がいいですね……えっ、どうして着いてくるんですか?」
「いや、戻るのかと」
「……お手洗いにまだ行けていないんですよ!」
「あっ、それは失礼」
いそいそとその場から離れて山小屋の方へ戻ることにした。
小屋の前では、クラウスがエイブラハムさんに剣の振り方の指導をされていた。
エイブラハムさんはこちらを見ると、指導の手を止めて近寄ってきた。一方、クラウスの目はサボりかと問いたげだ。
「どうだった。何か怪しいことでも……」
「話すと長くなるんですけど、話します。デイブは王都から来た異端審問官で、ハルフォーフ姉妹のイルマの方が魔族だと疑われてました。取り逃がしてしまったんですが手傷は負わせたと思います」
「あの太っちょが異端審問官!? そしてお前人を攻撃するのに躊躇いが……そういえば賞金稼ぎか。イルマはどうなった。実際に魔族じゃないんだろうな」
情報量の多さにエイブラハムさんも戸惑っているようだ。
「魔族じゃないです。少なくとも俺の知識では違います」
「だよな。俺もそう見てる。異端審問官なら見間違えなどないと思うんだが……この事は冒険者ギルド本部へ伝えておく」
伝えておくとは言ったものの、試験を途中で放り出すわけにはいかないため俺達の訓練は続行するそうだ。エイブラハムさんはデイブが残した持ち物を取りに行ったりと、痕跡は探すらしい。
1人欠けたのでクラウスと俺が組むことになった。エイブラハムさんは、休憩している時に俺と戦ってくれるらしい。
クラウスと戦うので、当然俺も素手ではなく大鎌だ。エンチャントは使わずにそのままで戦う。
「平民風情が。そのふざけた武器と僕の剣、どちらが強いか勝負だ!」
クラウスが剣と盾を構えて切りかかってくる。鎌で受け止めるが、折れ曲がった形状のため力の加減が難しい。
俺は武器は初心者で、クラウスは熟練者だ。打ち合っている分には俺は押され、最終的に地力の差で競り勝つことがままあった。
最初から物凄く上から目線だったが、クラウスが悪い奴ではないことは俺にも分かる。勝っても負けても偉そうだが、ただプライドが高いだけで嫌味は言わない。
そしてまた数日経った。
クエレブレは干し肉にもいい加減飽きたと愚痴を零し、ハルフォーフ姉妹とクラウスも休憩の回数と時間が日に日に増えている。
俺とエイブラハムさんだけは相変わらずの耐久力で訓練を続けていた。
意外にも俺は多才だったようで、格闘だけでなく大鎌の扱いにも慣れてきた。
クエレブレとの魔法の練習も大詰めで、もしまた魔力が戻ったとしても使える技も編み出した。
それはそれとして、アレーナは今どうしているだろうか。合宿じゃないから、もう帰ってきているかもしれない。
「攻撃が重い……そして速く、正確だ! 試験があるから飛び級ができないのは残念だが、紫ランクでも上位は確実だろう。お前が魔族でも驚かないッ!」
実戦形式の訓練でも余裕が有り余るくらいだ。
待てよ。紫ランク上位が魔族と同じということは、魔族ってそんなに強いのか?
「魔族は強いな。上位の魔族になると、青か紫ランクの冒険者数人でやっと互角というレベルだ。実は紫の上にも冒険者のランクはあるが……紫まで上がってきたら教えてやる」
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紫より上のランクがあるのか。実質紫ランク上位なら教えてくれてもいいものだろうに。
「ドラゴン族は手出ししなけりゃ大人しいもんだが、魔族に話し合いは通じん。戦闘狂で、強欲で、感情的な奴らだ。それでも上位の方はまだ喋れるらしいがな。詳しいことは全くわからんよ」
「戦ったことがあるんです?」
「いいや、ないよ。さっき言った最上位ランクの冒険者の1人が俺の師匠でな。魔族ハンターを自ら名乗ってるのさ。勇者様とも会ったことがあるらしい」
勇者。久しぶりに聞いた名だ。世間知らずの俺の中では、人間の中で1番強かった。
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魔族、最上位ランク、勇者。
どうして強者に限って情報源が少ないんだか。
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