敗北魔王の半隠遁生活

久守 龍司

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19.風の剣士と再会の魔王

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「はあ……はぁ……」
もうどれくらい戦っているのかもわからない。致命傷は負っていないけどあちこちに傷ができているし、細剣もいつ折れてもおかしくない状況だ。

サイクロプスの数は一向に減らない。他のモンスターも増えているような気さえする。倒しても倒しても、また次のモンスターが現れる。

交代で仮眠を取ってはいる。でも疲れはまるで取れないし、魔法師は魔力の底が尽きている人がほとんど。正直、もう限界。

声を上げた斧使いの女は手首を捩じ切られて戦闘不能、熊耳の男は腹部に風穴を空けて即死した。

なんで試験官がこんな時にいないの。というかなんでこんな目に遭わなくちゃいけないんだろう。やっと青ランクになったばっかりなのに。


「……ッ!?」
余計なことを考えていたからだ。
脇腹にサイクロプスの拳が当たり、横に吹っ飛んでなんとか受け身を取った。いい加減ガタが来ていた細剣が手から離れ、岩壁に当たって半分に折れる。

肋骨がほとんど折れている感覚がある。それに瞼も切れて、片目が効かない。

サイクロプスは無慈悲に距離を詰めてくる。
数秒後には頭を潰されて死ぬ自分の姿がありありと思い浮かんだ。

こんなところで死にたくないのに。
嫌だ。

サイクロプスが腕を振り上げる。

目を閉じた。



「…………」
覚悟していた衝撃はない。
もしかして、もう死んだのかな。
痛み無く死ねたならよかった、かも。

いや、違う。
まだ肌に風を感じる。血の鉄臭さと、戦闘の音も。
生きてる。

「アレーナ」
知っている声。
目を開けた。

竦むほどの長身を黒装束で覆い、頭には不釣り合いなとんがり帽子を乗せている男。
その手に握られた死神のような大鎌も、束ねられた白の長髪も瞳の色と同じ鮮血に塗れている。
やっと来てくれた。

「……シェミハザ様!」
ともすれば人型モンスターのようにも見える仲間の名前を掠れた声で呼ぶ。
駆け寄りたいくらいだけど、身体が全然動かなくてその場で勝手に涙が溢れた。

襲ってきたサイクロプスは首を綺麗に落とされていた。辺りにいたモンスターも皆倒れ伏していて、シェミハザ様に全滅させられたようだ。
シェミハザ様は空に信号弾のようなものを打ち上げた。

「すぐに治癒魔法師が来る。かなり不味いことになった」
相変わらずの要領を得ない話し方に首を傾げると、赤い蛇竜──クエレブレが舞い降りてきて私に説明をした。

「セバルドの街も襲撃を受けているようなのです。もうじきシェミハザ様と同行していた紫ランクの冒険者が到着しますから、ここは安全です。シェミハザ様は街に戻ってモンスター達を召喚している術者を倒すと仰っていて」
「術者?」
「このモンスターはある種の催眠状態にあり、セバルドの街を襲うように指示されている。下等な魔法だ、術者も大したことがない奴に決まっていることだし俺が倒してくる。元を断てばモンスターは元の場所に戻るだろうから」
「……わかった。でも道は大丈夫なの?」
「モンスターの動きを見ればわかる」
それを聞くと下等な魔法とはとても思えないのだけど。きっとシェミハザ様ならサクッと倒しちゃうんだろうな。

アタシとクエレブレをその場に残してシェミハザ様は踵を返して地面を蹴り、間も無く視界から消えた。


クエレブレが暫く襲ってくるモンスター達を倒してくれ、治癒魔法師が近付くといつものように襟巻きの状態に変身して姿を隠した。

骨折のような大規模なものは治癒魔法師でも治せないと言われてしまったけど、無数についた切り傷や擦り傷は止血できたみたい。余裕ができたので冒険者達の方を見ると、半分以上が助からなかったようだった。

運が良かったのか、悪かったのか。
あそこでシェミハザ様が来ていなかったら間違いなく今頃はとっくに死体になっていた。

シェミハザ様、絶対無事だろうけど無事に帰ってきてほしい。
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