人形師の第三夫人は傍観者

久守 龍司

文字の大きさ
3 / 59

3.

しおりを挟む
 朝食は夫人と旦那様で揃って食べることになっています。旦那様をテーブルの上席に、席次順に席につく──その筈なのですが、旦那様の左手側の、本来は第二夫人であるゾフィーさんの席にアイリーンさんが座っていました。
 旦那様とイザベラさんは既に席に着いていますが、後から来た私を含めた三人は、どうするべきかとテーブルの側に立ちつくしかありません。

「どうしたんだ? 早く座って食事にしよう」
「し、しかし……」
 旦那様はなんでもないことのように私達を見回します。
 イザベラさんは格式を重んじる方なので抗議の声を上げかけますが、旦那様は不機嫌そうにそれを遮りました。

「席次なんてどうでもいいじゃないか。そうだろう? アイリーン」
「そうですよね、旦那さま。みなさまはそう思ってらっしゃらないようで、こわいです……」
「よしよし。怖がらなくても僕が君を守る」
 政略結婚で男女のことなどまるで分からない私ですが、色恋とはここまで人の目を曇らせるのですか? 旦那様は確かに端正な顔立ちをなさっていますが、決まりをめちゃくちゃにしてまで独占したいという欲求はどこから来るのでしょう。だいいち、側から見ている限りではアイリーンさんの言い分はあまりにも滅茶苦茶すぎます。それでも肩を持つなんて。

 イザベラさんの顔はまさしく憤怒の形相といったふうで、それを意地悪く見つめるアイリーンさんの笑みはますます深くなります。

 結局、アイリーンさんはそのままの席で私達は一つ後の席にずれることになりました。私が普段座っている席はゾフィーさんが座り、私はマリアさんの席に座ります。

 張り詰めた空気のままで食事が運ばれて来て、いつになく雰囲気の悪い朝食が始まりました。


「それにしてもイザベラ。あんまりアイリーンを虐めないでやってくれ」
「……何を仰っているのかわかりませんわ。私が、アイリーンを虐めている? 有り得ません」
「でもアイリーンがそう証言してくれているんだ。彼女が嘘をつくなんて有り得ない」
 恋は盲目とはよく言ったものです。アイリーンさんは嘘をつかなくて、イザベラさんが嘘を言っていると決めつけるなんて。渋々イザベラ派に属している私ですが、今度ばかりはイザベラさんの味方をしたいと思います。

 この出来事にはアイリーン派のマリアさんも些か愕然としていましたが、完全にアイリーンさんへと気持ちが傾いている旦那様を味方にしたアイリーンさんに敵はないようなもの。
 このままでは、旦那様が現在の官職を賜るきっかけとなった公爵家の姫であるイザベラさんの第一夫人としての立場が揺らぎ兼ねません。それが実家である公爵家に知られればどうなるか……公爵家は王家に最も近い家柄、旦那様の今後の出世に響くのは間違いありませんが、私も他人のことを心配している場合ではなくなってしまいます。

 使用人達の話題では、アイリーンさんから他の夫人を離縁するように旦那様が頼まれたという噂が広がっています。夫人とはいってもアイリーンさん以外には全くお渡りはないので可能性は否定できません。私も余生は伯爵家で過ごすものとばかり思っていましたが、身の振り方を考えた方がいいのかもしれません。

 先行きが不安になるようなことばかりですが、お得意様から「直接会って話がしたい」という文が届いたのは僥倖でした。旦那様に許可を頂こうとしたところ、碌に内容も見ずに許可されました。喜んで訪問したいと思います。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

25年の後悔の結末

専業プウタ
恋愛
結婚直前の婚約破棄。親の介護に友人と恋人の裏切り。過労で倒れていた私が見た夢は25年前に諦めた好きだった人の記憶。もう一度出会えたら私はきっと迷わない。

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」 ※ベリーズカフェにも掲載中です。そちらではラナの設定が変わっています。(貴族→庶民)それにより、内容も少し変更しておりますのであわせてお楽しみください。

~春の国~片足の不自由な王妃様

クラゲ散歩
恋愛
春の暖かい陽気の中。色鮮やかな花が咲き乱れ。蝶が二人を祝福してるように。 春の国の王太子ジーク=スノーフレーク=スプリング(22)と侯爵令嬢ローズマリー=ローバー(18)が、丘の上にある小さな教会で愛を誓い。女神の祝福を受け夫婦になった。 街中を馬車で移動中。二人はずっと笑顔だった。 それを見た者は、相思相愛だと思っただろう。 しかし〜ここまでくるまでに、王太子が裏で動いていたのを知っているのはごくわずか。 花嫁は〜その笑顔の下でなにを思っているのだろうか??

処理中です...