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18.

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 複数人の駆け回る音。扉を開ける音。きっと私たちを探しているのです。今更動いてもきっと気付かれてしまうでしょうから、じっと息を潜めて見つからないようにと願うばかりです。

 そんな中、門の方からまた新たに軍靴の音が聞こえてきました。見つからない程度に正門の様子を伺うと、僅かながらに状況を把握できます。
 さらに敵方の増援かと危惧したのですが、そうではないようです。制服は正式な国家憲兵のもので、何より馬車に公爵家の紋章が付いていました。味方……と捉えていいのでしょうか。

 憲兵達は列を組んで屋敷の中に突入し、また乱闘が始まる音が聞こえました。私とイザベラさんは身を寄せて縮こまるばかりです。

「逃げろ! 公爵が戻ってきたらしい」
「むしろ討ち取る好機じゃないか?」
「そうだとしてもベネット隊長がいるのはまずい、一旦退くぞ!」
 公爵様が戻ってきたということは、殿下も戻ってきたということ。憲兵を連れて戻ってきたなら、殿下が殺されてしまう心配はいくらか減ります。

 あまり見えませんが、裏切った一派が退散していくのを皮切りに、公爵邸を占拠していた兵士達は憲兵に随分と押されているようです。

「捕らえろ」
「ハッ!」
 殿下の声です。怪我などされていないといいのですが。

 
 闘いの音は段々と減っていき、とうとう静かになりました。前に静かになったときは焦りましたけれど。

「テオドラ! 無事なら返事をしてくれ!」
「生きているか!? イザベラ!」
 公爵様と殿下が私達を探しているようですから、殿下が目の前の廊下を通りがかったときに立ち上がりました。

「フリードリヒ様!」
 窓枠から上半身が見えたくらいで、ちょうど殿下と目が合います。

「あっ」
 うっかりずるりと足を滑らせ、バランスを崩してしまいました。

 落ちる。
 そう思ったのもつかの間、私の腕を殿下が掴み、引き上げてくださいました。

「すまない。痛かったか? ともあれ、無事でよかった。あんな場所にいただなんて思わなかったよ」
「ありがとうございます。とても、とても怖かったです……死んでしまうかと思いました……」
「貴女に怖い思いをさせてしまった。引き上げた時に腕の神経を傷めているかもしれないから、医者にも診てもらおう。本当に無事でよかったよ」

 イザベラさんも憲兵に救出されています。私が滑り落ちかけていたのを見てか、階下から梯子をかけての救出でした。
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