人形師の第三夫人は傍観者

久守 龍司

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 舞踏会で訪れて以来の王宮です。緑豊かな庭園の一つに足を踏み入れた私は、賑やかに催されようとしているお茶会に参加していました。

「テオドラさん。いらっしゃい。あんまり地味なドレスなものだから、見つけられなかったわ」
 王太子妃殿下が木陰から呼ぶので、そちらの方へ向かいます。数人の女性がテーブルについていました。知らない顔もちらほら、そして元伯爵夫人の二人とイザベラさんもいます。

「招待してくださってありがとう。素敵なお茶会ね」
 王太子妃殿下……マルグリットさんは、前に会った時と口調が違うことに怪訝そうな顔をしました。帰還した時に言葉を交わした時は敬語でしたから。でも王太子妃と王弟妃は、この国の制度上は対等なのです。ですから、別におかしくはないことです。

「ゾフィーさんとマリアさんは久しぶりじゃない? あの騒動の後、どうされていたのかしら」
 マルグリットさんが何か言う前に素早く席に着き、知り合いの二人に声を掛けました。

「お、お久しぶりですテオドラ様! 今は北国の貴族の方と婚約しております。テオドラ様は王弟殿下とご成婚なさったようで……お祝いが遅くなって申し訳ございませんが」
「私は離縁したままで、実家に暮らしていますわ」
「そう。お互いに色々と大変だったようね」
 話の主導権を私が握っているということで、マルグリットさんはやや機嫌を損ねたようです。

「今はわたくしが開いたお茶会よ。わたくしに最初に話しかけるのが筋ではなくって?」
「だから最初に挨拶をしたのだけれど……聞こえていなかったのかしら」
 すらすらと言葉が口をついて出ます。私の性格上、こういった高圧的な貴婦人然とした喋り方は苦手としているところです。内心の焦りを表面に出さないように努めて話しました。

 本人にはとても言えませんが、これはイザベラさんとアイリーンが言い争っている時の口調を真似たものです。

「あれが話しかけたうちに入るのでしたら、そうかもしれませんわね」
「では、叙述詩でも語った方がよろしかったかしら?」
 メイドが運んできた紅茶を口元へ運びながら、静かに闘争を繰り広げる私とマルグリットさん。余裕そうな表情を浮かべることに尽力しているため、紅茶の味も茶菓子の味もよくわかりません。

「『序列やしきたりを気にせずに催しましょう』と先に仰ったのはマルグリット様の方ではなくって?」
 これまで静観していたイザベラさんが助太刀をしてくれました。マルグリットさんはますます不機嫌になり、他の令嬢はうろたえ始めました。

「いいのよ、イザベラさん。今日は戦いに来たわけではないのだから」
「テオドラ様はお優しい方ですね。本来対等な立場なのに敬って当然とばかりのマルグリット様に対して……いいえ、他意はありませんのよ」
 不敬ぎりぎりのラインで挑発をするイザベラさんに感心しながら、この辺りで煽るような喋りは切り上げておきます。
 知らない令嬢には確実に怖いイメージを持たれた気がします。
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