「私」は『私』と恋をする。

一兵卒

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詠月八重の場合

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私はいつも幸せだった。

なんだって周りにはあったし
どんなことだって、私にはできた。

いつもいつも私は何不自由なく生きてきた。

なのに。



そんな幸せよりも大きなものができてしまって

私は、幸せを感じることができなくなってしまった。


本当の幸せって……なに?





「私」は『私』と恋をする。

episode 9 詠月八重





私の富豪の家で生まれた。
どんな望みも、思うがままで……。
普通では不可能なものでさえ、私は、なんなく手に入れることができた。

「大きいドームがほしい!」
「ゾウがほしい!」

私は、そんな滅茶苦茶な要求を望んでみても、目の前の母親はただ一つ頷くだけだった。
逆に嫌なものはなんでも、断れた。
メイドが気に入らなかったからいらないといえば、翌日からそのメイドは姿を消した。
私は、そんな自分の思うがままの生活に満喫し、幸せに浸っていた。
どんなことだって叶うこの世界が私は好きだった。
大きなベッドで横になりながら、私は、静かに息を吐く。
大金持ちで生まれてよかった。
私は、この世界で一番の幸せ者だと思う。
そういえば、クラスの奴が、彼氏の自慢でもしていたな。
私も、そんな奴がいればいいのに……望めば叶えてくれる家。
きっと、私の理想に会うような奴も現れるだろう。

明日……頼んでみようかな。




朝、目を覚ました私の前にいたのは、

私と同じピンク色の下着を身に着け、寝癖の髪を晒す茶髪の女子、眠そうな表情でお互いを見つめ合った私達。
鏡が何でこんなところにあるのだろうと思って、互いに腕を伸ばし合い、頬にと触れる手。
そのぬくもりを感じて私達は、大声を上げようとする。
私達は、お互いの口元を抑えながら、何とか大声を抑えながら、お互いを見た。
私達は、お互いを見つめ合いながら、大きく息を吐く。

「「あ、あんた誰よ??」」

同じ声色で問いかけ合う私達。
その細い体に、鏡でよく見る顔といい、どこからどう見ても、それは私だった。
何も変わらない、自分の姿がそこにあったのだ。
私達は呆然としながらお互いを見る。

「「……あ、あんた偽物でしょ!?」」

「なにいってるのよ!?」
「あんたこそ!?」

私達は、お互いを指さして、罵り合う。

「私が本物だっていってるでしょう!?」
「私が本物だっていってるのわかる!?」

お互いの頬を掴み合いながら、私達は同じ顔を近づけ合い言い合う。
これだけ自分の言うことを聞かない奴は生まれて初めてだ。

「ふーん、それじゃあ!確かめてみようじゃない!」
「ええ!そうしましょう!あんたが偽物だってことを証明してあげるわ!」
「望むところよ!偽物さん、せいぜい短い人生を顧みることね」
「私に化けたっていうことで、あんたの人生はもう積んでるのよ!」

私達は、メイドを呼び寄せる。
私達が二人になったことは、家で大騒ぎとなった。

「「こいつは偽物よ!それを証明するものを持ってきなさい!」」

同じ声で重なる声で言い合う私達。
そこからさまざまな検証が行われた。
血液検査、DNA検査、嘘発見器で記憶の虚偽がないかも調べ、心理テストで互いの心理的描写、性格判断もおこなわれた。
そして導き出された答えは……。

「「は?」」

私達が互いに握りしめあった紙には『同一人物』と言う文字が記載されていた。
私達は、その紙を見て体を震わせる。

「「んなわけないでしょうがぁ!!?私が二人になったっていうの!?」」
「五月蠅いわね!あんたは黙ってなさいよ!」
「そっちこそ!汚らわしいわ!近づかないで!」
「なんですって!?このブス!」
「はあ!!?幼児体型が偉そうにしないで頂戴!」
「この!!言わせておけば!!」
「頭来たっ!!この女!!」

互いに掴み掛り合いながらの喧嘩。
私の人生で初めて、言うことを聞かない、望みを叶えさせなくした女が現れた。
それが自分自身であるというのは……ある意味、当然の結論かもしれない。
自分の願いが何でも叶う。
そんな自分がもう一人現れれば、当然ぶつかり合い、そしてお互いの望みは、打ち消し合う。
私達は自分相手に対する願いは一切効かなかった。
私達は、同じ部屋で背中合わせになりながら、生活をするしかなかった。
同じ部屋、同じ居場所を共有し、同じ時間帯で学校に向かって、お風呂だって、トイレだって……。
私達は全ての時間を共有することとなってしまった。
同じタイミングで食事をしたいといい、同じタイミングでお風呂にと入りたいという。
私達は、常に隣同士で生活をする羽目になった。
お互いを見ればいつも喧嘩をして、取っ組み合いのけんかをしながら、気が付けば、疲れ果てて、寝てしまっている。

寝ている時……。

イヤでも感じるお互いの身体。
取っ組み合って掴み合って、罵倒して、そのまま眠ってしまうもんだから。
互いを抱きしめ合っていて。
いつしか、その体を引き合うようにしながら、そのぬくもりを感じたいと思いながら、眠ってしまっている。
そういえば、こんなぬくもり……感じたのは初めてだったな。
私には、母親に抱きしめられた記憶がない。
私は、こうして喧嘩をした経験も、こうして、誰かと一緒に過ごした経験もなかった。

「「……いつまでしがみついてんのよ?」」

目を開けた私達が、額を重ね合いながら、お互いにと言い合う。
私達は互いの言葉を聞いて、自分の手がしっかりと相手の背中にと回されていることに気が付いて、急いで体を離す。

「ったく、ホント、あんたといると……」
「……私がおかしくなっちゃうわ」

私達は、お互いに言い合いながら、静かに息を吐く。

「もっと!そっち寄りなさいよ!肩が当たるの!」
「あんたこそ、足くっつけてこないでよ!」
「もう、暑苦しいって!」
「くっついてくるなぁ!」

同じ私同士、重なり合う行動。
学校に行くときだって、自然と体が近づき合ってしまう。
教室の席だって、お互い決まった席がいいからって、隣同士になってしまって
そこでもまた喧嘩。

「「はあ、もう……なんなのよ」」

私達は、ほとほと疲れてしまった。
ここまで自分の言うことを聞かない奴がこの世の中にいることに驚き
そして、それを受け入れざるを得ないということ。


二人してベッドにと倒れる。


私が二人になってから、2ヶ月が経過していた。



「「……」」
「ホントに、あんた……私なんだね」
「みたいね、ここまで同じなんだから」
「不愉快だけど」
「認めたくないけど」
「あんたは」
「私」
「「詠月八重」」

私達はベッドで倒れたままお互いを見つめ合い、ため息をついて、静かに笑ってお互いを見つめ合った。
それは、初めて自分にと見せた笑顔だった。
今まで互いを引っ張り合い、嫌い合って喧嘩ばかりしていた自分達から、お互いを認め合ったといったところだろう。
実際、この2ヶ月の間に、どんなことだって競争してきた、、それが全部互角で、一寸の狂いもなかったのだ。
それに……もう同じ顔の子相手に競い合うのに疲れてしまった。
だからこそ、私達はお互いを認め合った。
それで、もう喧嘩はなくなり、競い合いこともなかった。
それよりも、一緒にいて、楽しいことでも考えれたほうが気持ちも楽だろう。

私達はそう考えて、それからの生活をしていくこととなる。


「「キャハハハハ」」


そっからは、楽しいことばかりだった。
私達には、お互いを拘束する権利もないし、自由だった。
他の奴はみんな私に恐怖し、私の命令にそぐわないとと必死だったけれど
目の前の私は、私だからこそ、何でも言い合えたし、どんなことだって許し合えた。
だから楽しくて、時には喧嘩して

「「ばーかばーか!」」

私達の間には、そういったことができたんだ。


私達の家の広大な庭……。


夜に出かけたその場所で、私達は、草木に大の字になりながら空を見上げる。
星明りに照らされたその場所で私達は、お互いを見た。

「なんか……あんたと一緒にいれて、楽しい」
「なに、突然言い出してるのよ?……まあ、私もそうだけどね。同じ私だから、想ってることも一緒か……」
「……想っていることだって、記憶だって、性格だって、なんだって同じでしょ?」
「なんでも……全部、同じか」
「そう、私達の想いも……全部ね?」

あんたが思うことは私も思っているし
私が思うことはあんたも思っている。

これだけ近しい人物がいなかった私達にとってみれば、彼女の存在は、本当の家族・親友だったのかもしれない。
一緒に同じ時間を過ごしていて、何でも話し合えるんだから。
だから、一緒にいたいって、そう思えたんだと思う。
私達は、星空を見上げながら、触れた手を自然と絡ませ合う。
それは、無意識につないだものだったけれど
離れたくないということを……心の奥底で想ったのかもしれない。
私達、二人して……。




『二人を離れさせる』




そう言われたのは、一週間後のことだった。

「「どうして!?」」

私達は二人して抗議の声を上げた。
理由は簡単だった。
私達が二人いることは、本来あってはいけないこと。
どちらかを隠さなくてはいけないことだった。
社会と言うのは、私達のことなど関係なく物事が決まっていく。
でも、私達だって、文句は言えない。
今までさんざん好きにやってきた、そのツケが回ってきたと思えば、納得せざるを得ない。
理性的に考えれば。
でも、私達の感情は、全く理解ができなかったし、納得もできなかった。
ただ、私達の願いは届かなかった。
同じ人間が二人いるという現実を、誰も受け入れることはできなかったのだ。
私達は、ようやっと対等に、何でも言い合える存在を見つけることができた。
私と言う腫物に対して、私と言う存在になんの気遣いも、遠慮もなく話してくれる存在にと出逢えた。
それが失われようとしている。


……いやだ。


いやだ!いやだ!!いやだっ!!!!


どうすればいい。
どうしたら、こいつと、私と一緒にいることができる。
どうやったら一緒にいることが……。


私達にはある回答しか思い浮かばなかった。


ただし、それは今あるすべての物と引き換えだ。
この家から逃げるという選択。
私の家で何不自由なく過ごしてきた私には、今この家から出て行けば何もない。
何も私の中にはないのだ、それでもかまわないのか?それでも、いいのか?

「……決まってる」
「答なんて……」

私達は、ベッドの上でお互いを見つめ合いながら小さく笑った。
彼女はいくらお金を出しても手にはいるものじゃない。
幾ら願っても、望んでも……彼女と言う存在は手に入らない。
私はわがままだ。
だから、その我儘を……最後まで通させてもらう。
なに、今までやってきたことだ。
それはいつも与えられてきたものだったけど、今度は私自身の手で作り出す。

「「行こう?八重」」

私達は学校帰りに、そのまま姿を消した。
家に帰らず、下駄箱で靴を片手にしながら、そのまま裏から抜けて、学校から駅まで向かって走り
そのまま電車にと乗り込んだ。
ボックス席にと座った私達は、向かい合うようにして座った。

「うまくいった?」
「さあ、これからじゃないかな」
「……これで私達は全てを失った」
「全部じゃないでしょ?」
「そっか……、私の一番欲しかったものは手に入れられたのか」
「今あるすべてを犠牲にして、私達は私達を取った……バカな選択をしたものだよね」
「ホント、我ながら信じられないことをしていると思うよ」

私達は笑いながらお互いを見つめ合う。
僅かな金額しかない私達は、このまま電車に揺られつつ、活きていく道を捜していかなくちゃいけない。
今までのようなことはできない。
私達は地べたをはいずるようにして生きていく。
それでもかまわないっていう理由があったんだ。


「改めて……よろしくね?八重」
「こちらこそ……よろしく、八重」



数か月後



私達に追手はかからなかった。
家は、表立って私達がいなくなったなんて言えないし、探そうにも行き先が分からない。
だいたい、私達が行く場所なんて検討もつかないだろう。
今までずっと家でしか生活をしていなかったのだから。
それに、捜してはいるのだろうけど、人手も時間もないのだろう。
私達は、名前を変えて、今はワンルーム、共同の台所とトイレのアパートで過ごしている。
こんなボロい場所、前の私達だったらすめないのかもしれないけれど
今は一緒に過ごしている。

「今日も早いね!」

隣人のおばさんからそんなことを言われて、私達は、笑顔であいさつする。
今日は二人で朝の新聞配達の帰り。
学校には通わないといけないけれど、今はまだそこまでの金がないから、一生懸命働かないといけない。
二人で一緒に話をしたりなんてできないけれど、でも、隣で彼女の存在を感じることができるから我慢できる。

「「はあ~~~疲れた」」

私達は、一つの布団にと倒れながら、お互いを見る。

「あー……眠い」
「……そうだね、少し寝ようか」
「あんた仕事は?」
「今日は休み、そっちは?」
「あんたが休みなら……私も休みでしょ」
「ったく、別に休み合わせなくてもいいでしょ?」
「……偶然かもしれないけど、でも、たまには一緒にいたいじゃん」
「同じ顔を見て楽しい?」
「楽しいよ」
「同じ自分と話をして、楽しい?」
「楽しい」
「同じ自分と一緒にいれてうれしい?」
「嬉しい」
「同じ、自分のこと好き?」
「……好き」

私達は、お互いの方にと顔を向けた。

「「今、なんていった?」」

私達は、自分たちの会話を思い出しながら相手に問いかける。
私達は、お互いを見つめ合いながら、静かに息を吐く。
腕を伸ばして、互いの身体にと触れる。
同じ自分同士である以上、同じ感情を抱き合っていることは間違いなく、そして私達は、いつの間にか家族と言う絆と言うものさえ、乗り越えてしまっていて
私達は、互いが大切であるという気持ちを、強くし過ぎてしまっていた。
でも、それでいいのかもしれない。
私達は、お互いといたいと思った。
お互いが必要で、ずっと一緒にいたいってそう思った。
だから、この結論は……当然のことなのかもしれない。
私達は、お互いを見つめ合う。

「「好き……」」

私達は、そう囁くと、顔を近づけ合い
同じもう一人の私の唇を押し付け合った。
二人の私の身体が震える中で、私達は、静かに何度か息を吸い合い、何度も唇を重ね合う。
堰を切ったかのように、何度も互いの身体にと触れ合う私達。
輪郭にふれあい、顔の向きを変えて
指同士を絡ませて握りしめあい、離さないと目で告げて、潤んだ瞳で、私達は重なり合う。
そこから聞こえてくるのは、一人の声と2人分の吐息。
私達は、何度も何度も、確かめ合うように互いにと触れあった。



幸せ。



どっちかの私がつぶやいた。

私もだよ。
大好きなあんたといれて幸せ。
ああ……嬉しい。
大好き。
……大好き。

私達は、お互いと溶け合う中で、幸せにと浸った。
その幸せは、今まで感じたことのないものであった。
どんなに裕福であっても手に入れることのできない幸せを私達は感じ取っていた。

この幸せの中で私達は一緒に溶けていく。


私達の幸せは、私達と一緒にいること。


それ以外、何もいらない。
なにも……。




「私」は『私』と恋をする。

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