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霧谷智花の場合
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人は自分とは異なるものを忌み嫌う。
それは恐怖から来るものであり、理解できないものには近づかず、恐れる……。
だからだろうか。
私もまた嫌われて、誰にも理解をしてもらえない。
私は、追いつめられていく。
どこまでも、どこまでも。
でも、私は逃げない。
だって……こんなにも愛しい人がいるのだから。
そのためなら、私は……。
「私」は『私』と恋をする。
episode 8 霧谷智花
私は、今……教室にと立っている。
右手にあるのは冷たい包丁で、その包丁からは、赤黒い血が流れ落ちている。
私の目の前にと倒れているものは、もう壊れてしまっているのか動く気配がない。
私は、周りを見つめる。
周りにいるものたちは、悲鳴を上げながら、教室から出て行こうとしている。
私は、その手にあったナイフを放り投げた。
回転をしながら進んでいくナイフは勢いをそのままに、出て行こうとした誰かの後頭部にと突き刺さった。
それも壊れてしまったかのようで、扉にもたれかかるように崩れ落ちる。
再び悲鳴が上がった。
私は、別のナイフを鞄から取り出しながら、教室にいるものたちにと向けた。
彼女達は、また声を響かせている。
五月蠅い。
私は、ぼやけた視界の中で、そう思った。
私はナイフを握りながら、自分の周りを見渡した。
そういえば……どうしてこんなところにいたんだっけ。
あれは……私が、半年前。
私がこの教室に座っていた時だった。
私は、普通の生徒だったと……思う。
別にイジメられていたわけじゃないし、話し相手だっていた。
家族がいないわけじゃなかったし、先生から嫌われていたわけじゃなかったし
先輩から目をつけられて、呼び出しをくらうだなんてこともなかった。
私は、その他大勢と同じ、ただの生徒だった。
髪の毛が目立つわけじゃなく、人並みの茶髪で
耳にかかるほどのショートヘアー。
顔だって不細工っていうほどでもない。
身長も150センチ代だから普通かな……。
お金持ちでもなければ、特殊な家系っていうわけでもなかったし。
ただ……私は、誰とでも同じだった。
そう、学校から帰って自分の部屋に帰ってくるまでは。
あの日は、なんだか頭がクラクラして
あまり体調が良くなかったような気がした。
何度か途中で意識がなくなるようなそんな感じ。
だから早く帰って寝ようかなってそう思っていたような気がした。
「ただいま」
母親も父親も共働きだったから、誰もいないから、ただの挨拶としての決まりごととして口に出す。
玄関には既に革靴が置いてあった。
出しっぱなしにしていたかなと思いながら、私は自分の部屋にと向かう。
二階建の家の、自分の部屋の扉をあけると、そこには、別の女の子が制服を着替えている姿があった。
私の手から荷物が落ちる。
向こうの私も、私を見て両手で口を抑えた。
「「ん。@sc:。pc!?」」
声にならない声で、叫んだことを今でも覚えている。
私達が、互いの肩に手を置いて、ようやく落ち着いて、お互いの顔を見れたのは、出逢ってから2時間ほどたってからだ。
姿かたちは勿論のこと……性格、記憶、思考、感情なんていう細かなところまで全部一緒だった。
私達に違いなんてものは存在していなかった。
私同士で、お互いが偽物だなんていうことは言い合わなかった。
そんなことを言い出しても不毛だし
何も生み出さないことを私達は知っていたし、相手も想っていることを理解し合った。
同じ私同士だからこそ、こういったところは話が早くて助かった。
「これから……どうしようか」
「部屋でご飯食べるようにしないと、お腹空いちゃうよね」
「学校だって、入れ替わっていかないといけないよね」
「はあー……隠し通せるかな」
「隠し通せなきゃ、お母さん腰抜かしちゃうよ」
「そうだよね、まさか娘が二人になったなんて信じられないし」
「ホントそうだよね」
私達は、そう言いながら、一人っ子であったこともあって
姉妹ができたことに、多少なりの嬉しさがあった。
一緒にお風呂に入って、お互いの身体を見比べてみたりもした。
「ふーん、自分の身体ってこう見える訳ね?」
浴槽から肩から上を出した私が、髪の毛を洗う私を見つめてそうつぶやいた。
「なに、人の身体ジロジロみてんのよ、変態」
「自分の身体をジロジロみてるどこが変態なのよ?」
「少なくとも、私はいい気分はしない」
「私同士で遠慮も恥ずかしさもないでしょう?」
「あるっつーの……そういうのなら、私が私のを見ていてあげるんだから」
数分後
「見過ぎ」
「自分が見ていた状況分かってないでしょ?これくらいで見られてたんだよ?」
「自分の身体をそんなにジロジロ見て何が楽しいのよ!?」
「さっき見てたやつが偉そうに注意すんな!!」
バカだな……。
こんな言い争いをしてさ。
でも、それがすごく楽しかった。
なんでだろう。
同じ私同士なのに……何一つ変わらないもの同士なのにさ。
「今日やったところを共有するね」
「うん、よろしく!」
一人の『霧谷智花』を二人で演じるのって大変だった。
それもそうだ。
私達はそもそも一人だったんだから。
それが二人になって、空いた時間を二人で潰しながら生活するのって……すごく大変で。
でも、それでも、私は一緒にいることが楽しかった。
ただ、楽しかった。
楽しかっただけだったはずなのに。
私達は同じ想いを共有している。
それは心が繋がっているのと同じなのかもしれない。
同じ想いをしていることで、私達は相手の気持ちが分かった。
それは=自分と同じ気持ちだから。
こうすれば彼女は喜ぶ。
ああ、そんなことしてくれるなんて、嬉しいな。
一緒にいると、楽だな……楽しいな。
ずっと、一緒にいてほしいな……。
それが、私達の気持ちを最初からどんどん高鳴らせていってしまった。
もしかしたら、逆にすべきだったのかもしれない。
私達が最初から嫌い合っていれば
きっと、今とは違う末路があったのかもしれない。
でも、どっちにしろ、私達は行き着く先に行くしかないんだ。
なぜなら
私達は同じ霧谷智花だから。
嫌い合えば、その気持ちが増幅していって、いつしか存在さえ許せなくなっちゃって
私達は殺し合うだろう。
それで、同じ私なら、片方が生き残るなんて、無理。
だから、私達は結果的に、一緒に死ぬ。
きっと、心臓の鼓動が止まるのだって同じだろう。
私達の場合は逆だった。
目の前の自分を前にして、もう我慢ができなくなってしまっていた。
涙目になりながら、私達はお互いの身体にと腕を伸ばす。
交錯するでは、目の前の自分と同じ女子の身体にと触れる。
それだけで体震え、心の底から嬉しいと声を漏らしてしまう。
「……はあ」
「ん……」
触れ合う唇を止めることができなかった。
互いの肩に手を置いて、私達は甘い息を吸い合う。
私達は、もう……目の前の自分のことしか見えなくなってしまっていた。
お互いへの思いは募るばかり。
友達
親友
家族
恋人
その階段を上るのはあっという間だった。
私達が互いへの想いを吐露し合い、我慢ができなくなってしまって
溺れていく。
私達は、自分たちの部屋から出て行きたくなくなってしまっていた。
互いへの想いが募り、触れていないと寂しくて、辛くて、苦しくて……どうにかなってしまいそうで。
私達は……ただの普通の女子だったはずなのに。
私のすべてを知ってくれる私を前にして、私は彼女にすべてを委ねた。
彼女は、私のことをわかってくれる。
私の味方でいてくれる。
私を大切にしてくれる。
私を否定しない。
私を好きでいてくれる。
私を愛してくれる。
嬉しい……。
私のことをずっと見てくれている。
私のことをほめてくれる。
私の身体を強く抱きしめてくれる。
温かくて……柔らかくて、ずっとそうしていたくなるような感覚。
ずっと、二人でいたい。
二人でいれば、ずっとこの満たされている気持ちを共有することができる。
離したくないから。
私だって……離したくない。
同じ想いを、同じ口で、同じ姿で、囁き合い、語りかける。
同じ私同士だからすべてを共有できたし、同じ私同士だから遠慮もいらないし、同じ私同士だから何でも許せた。
どんなことだって受け入れて、どんな欲望にだって答えて、答えてもらった。
嫌な顔一つせず、笑って、答えた。
部屋に閉じこもり、目の前の私にと囁き続ける。
もう、そこからは私達の時間の感覚はなかった。
眠るまで、お互いを抱きしめて、求めて……。
気が付けばそのまま眠ってしまっていて。
起きれば、また同じように求め合う……。
時間の感覚がまるでない。
「……ずっと、こうしていたいよ、智花」
「私だって……ずっと、智花の隣にいたい」
「智花、愛してる……大好き」
「私の方が好きだし、愛してるよ、智花のこと……」
「うーっ、私のほうが、智花のこと好きだもん」
「そんなことないって、私の方が智花のこと好き」
囁き合う私達の世界。
乱れたベッドの上で、私達はお互いの手を握り合い、指と指の間に、互いの指を絡ませて、顔を見つめ合いながらつぶやき合う。
私がいれば、私は何もいらなかった。
「好き……智花」
「智花……大好き」
幸せで。
もう、何も考えられなくなってしまっていた。
鈍い音ともに、私達の部屋の扉がこじ開けられた。
そこにいたのは、私達の母親だった。
彼女は、私達を見て驚いた表情を浮かべていた。
何か大きな声でしゃべっているようだったが、何を言っているかは聞こえなかった。
私達に向かって近づいてきた彼女は、私の腕を引っ張って引き離そうとした。
「やめて!!」
「いやあああ!!」
大きな声がとどろいた。
引き剥がされる。
私の大切な半身が、恋人が、大切な人が……。
そう思った時、咄嗟に私は、近くにあった時計で叩きつけた。
頭を押さえて倒れ込む母親。
私は、大きく息を吐きながら、四つん這いになって、倒れている私の元にと駆けつける。
両手を広げながら私にと近づいてきた私に、私は強く抱きしめながら、唇を吸い合う。
私達の身体は、目の前の私のためにあるようになっていて、こうして抱きしめていることで、全てを忘れることができた。
嫌なことも、私たち以外のことも全部忘れることができた。
床を見ると、何かがうごめいている。
「……悪魔は」
「退治しないと」
身体を引きずりながら部屋を出て行こうとしていた。
私達は、自分たちの部屋にと入り込んだものを、邪魔だと思って、捨てた。
階段を転げ落ちながら、崩れ落ちるもの。
私達は、部屋にと戻って、鍵を閉める。
これで、私達はまた一緒にいることが出きる。
ずっと一緒に……。
「はあ、智花……私疲れちゃった」
「悪魔を倒したから……私も、もう眠い」
「一緒に寝よう……」
「そうだね、眠れば嫌なことも忘れられる」
私達にとって嫌なことは、私達と一緒にいることができなくなるということだけ。
一緒にいられれば、そこがどこであったって……楽園だった。
でも、それは長くは続かなかった。
私達の家の近くにとやってくる複数の車。
私達はそれを窓の外から見つめる。
私達の敵であることはなんとなく察することができた。
私達は、その場所から逃げることにした……、使い慣れたベッドから立ち上がり、抱きしめ合いながら、キスを繰り返す。
そうしないと……もう、私達は生きることもできなくなっていた。
衣服を着替えると、窓の外から私達は逃げ出す。
行く宛なんかなかった。
二人で一緒にいることができれば、どこだってよかった。
私達は、見つかって追われた。
ただ手を繋いで走りながら、いつの間にか、学校にと足を踏み入れていた。
行く宛がなかったから、そこしか知らなかったから。
私達は、教室にと足を踏み入れる。
そこにある顔。
どうしてだろうか。
つい少し前まで知っていたはずなのに、もう誰も思い出せない。
「みんな。出て行って」
私の言葉に、誰もが私達を見つめながら、呆然としている。
誰かが私の方にと歩いてくる。
何かしゃべているようだった。
私は邪魔だから、ナイフで刺した。
壊れた人形のように崩れ落ちるそれ……。
そして、話は一番最初にと戻る。
教室から、逃げ出していく者たち。
誰もいなくなったそこで、私達は、ようやく二人になれたと、その場で膝を落としながら
お互いの背中にと手を回して、唇を重ね合う。
このぬくもりが、この柔らかさがずっと欲しかった。
もう手放したくなかった。
外から、足音が聞こえてくる。
複数の足音だ。
私達は既に、互いを抱きしめ合って、床の上で崩れ落ちていた。
漏れる声に熱い体……他にはなにもなくて
ただ、好き……愛してるという言葉を投げかけ合う。
そう言ってもらえるだけで、私達は嬉しい……とつぶやき合うのだった。
扉が開くと、黒い影が、私達を取り囲む。
また……邪魔をするの?
どうして……邪魔をするの?
私達は、ただ二人でいたいだけなの。
お願い、邪魔をしないで。
二人でいたい。
二人だけでずっと一緒にいたい。
どうしてこんなふうに思ってしまったのかはわからない。
でも、止まらない。
心も体も、目の前の私に溺れてしまっていて。
後のことは何も考えられないの。
好きで好きで狂ってしまいそうで、どうしようもないの。
それは……許されないことなの?
目の前の私を抱きしめながら、私達は、瞳から涙を零す。
離したくない。
離さない。
ずっと一緒にいたい。
ずっと、隣に。
ずっと、傍に。
もしそれが、叶えられないのだというのなら。
もう私は生きていくことができない。
生きられない。
「……智花、どうして。私達こうなっちゃったのかな」
「最初は、ただ友達だったのに……ただ親友だったのに」
「もう、私、智花のことしか見えなくなってる」
「うん、私も……智花以外ね。もう何も感じられないの、見えないし、聞こえない」
「……私達、壊れちゃってるんだね」
「それでもかまわない……智花を失うくらいなら、私はもう……」
求めてくる智花を、私は拒めない。
私達は、自分の感情に飲み込まれていく。
もう、何考えられない。
目の前の私のことだけしか見れない。
私達は、ナイフを握りしめ合う。
一緒にいられない。
それは私達にとって死と同義だ。
だから、私達は死ぬ。
私達はナイフをお互いにと向けあった。
私達は、狂っている。
そう思われているのだろう。
でも、他人の定規ではからないでほしい。
私は、同性で、血液も、DNAも同じ
姉妹よりも深い血でつながり合った、自分に恋焦がれ、溺れている。
私は、それが幸せだった。
心も体も、引き寄せあい、どちらも喜んでいて。
止まらなくて……愛しくて。
抱きしめ合いながら、流れ出る血を混ぜ合わせながら、私達は、お互いを見つめ合う。
私達は、唇を重ね合いながら、目を閉じる。
好き。
大好き……。
そう思いながら、一緒にいることができないという、この世界に対する絶望を胸に秘めながら……私達は意識を沈めていく。
もし、次の世界でもまた一緒にいることができたのなら
そのときは……
そのときも……
一緒にいようね。
一緒に、ずっと一緒に……。
もう、誰にも邪魔されない世界で。
「私」は『私』と恋をする……。
それは恐怖から来るものであり、理解できないものには近づかず、恐れる……。
だからだろうか。
私もまた嫌われて、誰にも理解をしてもらえない。
私は、追いつめられていく。
どこまでも、どこまでも。
でも、私は逃げない。
だって……こんなにも愛しい人がいるのだから。
そのためなら、私は……。
「私」は『私』と恋をする。
episode 8 霧谷智花
私は、今……教室にと立っている。
右手にあるのは冷たい包丁で、その包丁からは、赤黒い血が流れ落ちている。
私の目の前にと倒れているものは、もう壊れてしまっているのか動く気配がない。
私は、周りを見つめる。
周りにいるものたちは、悲鳴を上げながら、教室から出て行こうとしている。
私は、その手にあったナイフを放り投げた。
回転をしながら進んでいくナイフは勢いをそのままに、出て行こうとした誰かの後頭部にと突き刺さった。
それも壊れてしまったかのようで、扉にもたれかかるように崩れ落ちる。
再び悲鳴が上がった。
私は、別のナイフを鞄から取り出しながら、教室にいるものたちにと向けた。
彼女達は、また声を響かせている。
五月蠅い。
私は、ぼやけた視界の中で、そう思った。
私はナイフを握りながら、自分の周りを見渡した。
そういえば……どうしてこんなところにいたんだっけ。
あれは……私が、半年前。
私がこの教室に座っていた時だった。
私は、普通の生徒だったと……思う。
別にイジメられていたわけじゃないし、話し相手だっていた。
家族がいないわけじゃなかったし、先生から嫌われていたわけじゃなかったし
先輩から目をつけられて、呼び出しをくらうだなんてこともなかった。
私は、その他大勢と同じ、ただの生徒だった。
髪の毛が目立つわけじゃなく、人並みの茶髪で
耳にかかるほどのショートヘアー。
顔だって不細工っていうほどでもない。
身長も150センチ代だから普通かな……。
お金持ちでもなければ、特殊な家系っていうわけでもなかったし。
ただ……私は、誰とでも同じだった。
そう、学校から帰って自分の部屋に帰ってくるまでは。
あの日は、なんだか頭がクラクラして
あまり体調が良くなかったような気がした。
何度か途中で意識がなくなるようなそんな感じ。
だから早く帰って寝ようかなってそう思っていたような気がした。
「ただいま」
母親も父親も共働きだったから、誰もいないから、ただの挨拶としての決まりごととして口に出す。
玄関には既に革靴が置いてあった。
出しっぱなしにしていたかなと思いながら、私は自分の部屋にと向かう。
二階建の家の、自分の部屋の扉をあけると、そこには、別の女の子が制服を着替えている姿があった。
私の手から荷物が落ちる。
向こうの私も、私を見て両手で口を抑えた。
「「ん。@sc:。pc!?」」
声にならない声で、叫んだことを今でも覚えている。
私達が、互いの肩に手を置いて、ようやく落ち着いて、お互いの顔を見れたのは、出逢ってから2時間ほどたってからだ。
姿かたちは勿論のこと……性格、記憶、思考、感情なんていう細かなところまで全部一緒だった。
私達に違いなんてものは存在していなかった。
私同士で、お互いが偽物だなんていうことは言い合わなかった。
そんなことを言い出しても不毛だし
何も生み出さないことを私達は知っていたし、相手も想っていることを理解し合った。
同じ私同士だからこそ、こういったところは話が早くて助かった。
「これから……どうしようか」
「部屋でご飯食べるようにしないと、お腹空いちゃうよね」
「学校だって、入れ替わっていかないといけないよね」
「はあー……隠し通せるかな」
「隠し通せなきゃ、お母さん腰抜かしちゃうよ」
「そうだよね、まさか娘が二人になったなんて信じられないし」
「ホントそうだよね」
私達は、そう言いながら、一人っ子であったこともあって
姉妹ができたことに、多少なりの嬉しさがあった。
一緒にお風呂に入って、お互いの身体を見比べてみたりもした。
「ふーん、自分の身体ってこう見える訳ね?」
浴槽から肩から上を出した私が、髪の毛を洗う私を見つめてそうつぶやいた。
「なに、人の身体ジロジロみてんのよ、変態」
「自分の身体をジロジロみてるどこが変態なのよ?」
「少なくとも、私はいい気分はしない」
「私同士で遠慮も恥ずかしさもないでしょう?」
「あるっつーの……そういうのなら、私が私のを見ていてあげるんだから」
数分後
「見過ぎ」
「自分が見ていた状況分かってないでしょ?これくらいで見られてたんだよ?」
「自分の身体をそんなにジロジロ見て何が楽しいのよ!?」
「さっき見てたやつが偉そうに注意すんな!!」
バカだな……。
こんな言い争いをしてさ。
でも、それがすごく楽しかった。
なんでだろう。
同じ私同士なのに……何一つ変わらないもの同士なのにさ。
「今日やったところを共有するね」
「うん、よろしく!」
一人の『霧谷智花』を二人で演じるのって大変だった。
それもそうだ。
私達はそもそも一人だったんだから。
それが二人になって、空いた時間を二人で潰しながら生活するのって……すごく大変で。
でも、それでも、私は一緒にいることが楽しかった。
ただ、楽しかった。
楽しかっただけだったはずなのに。
私達は同じ想いを共有している。
それは心が繋がっているのと同じなのかもしれない。
同じ想いをしていることで、私達は相手の気持ちが分かった。
それは=自分と同じ気持ちだから。
こうすれば彼女は喜ぶ。
ああ、そんなことしてくれるなんて、嬉しいな。
一緒にいると、楽だな……楽しいな。
ずっと、一緒にいてほしいな……。
それが、私達の気持ちを最初からどんどん高鳴らせていってしまった。
もしかしたら、逆にすべきだったのかもしれない。
私達が最初から嫌い合っていれば
きっと、今とは違う末路があったのかもしれない。
でも、どっちにしろ、私達は行き着く先に行くしかないんだ。
なぜなら
私達は同じ霧谷智花だから。
嫌い合えば、その気持ちが増幅していって、いつしか存在さえ許せなくなっちゃって
私達は殺し合うだろう。
それで、同じ私なら、片方が生き残るなんて、無理。
だから、私達は結果的に、一緒に死ぬ。
きっと、心臓の鼓動が止まるのだって同じだろう。
私達の場合は逆だった。
目の前の自分を前にして、もう我慢ができなくなってしまっていた。
涙目になりながら、私達はお互いの身体にと腕を伸ばす。
交錯するでは、目の前の自分と同じ女子の身体にと触れる。
それだけで体震え、心の底から嬉しいと声を漏らしてしまう。
「……はあ」
「ん……」
触れ合う唇を止めることができなかった。
互いの肩に手を置いて、私達は甘い息を吸い合う。
私達は、もう……目の前の自分のことしか見えなくなってしまっていた。
お互いへの思いは募るばかり。
友達
親友
家族
恋人
その階段を上るのはあっという間だった。
私達が互いへの想いを吐露し合い、我慢ができなくなってしまって
溺れていく。
私達は、自分たちの部屋から出て行きたくなくなってしまっていた。
互いへの想いが募り、触れていないと寂しくて、辛くて、苦しくて……どうにかなってしまいそうで。
私達は……ただの普通の女子だったはずなのに。
私のすべてを知ってくれる私を前にして、私は彼女にすべてを委ねた。
彼女は、私のことをわかってくれる。
私の味方でいてくれる。
私を大切にしてくれる。
私を否定しない。
私を好きでいてくれる。
私を愛してくれる。
嬉しい……。
私のことをずっと見てくれている。
私のことをほめてくれる。
私の身体を強く抱きしめてくれる。
温かくて……柔らかくて、ずっとそうしていたくなるような感覚。
ずっと、二人でいたい。
二人でいれば、ずっとこの満たされている気持ちを共有することができる。
離したくないから。
私だって……離したくない。
同じ想いを、同じ口で、同じ姿で、囁き合い、語りかける。
同じ私同士だからすべてを共有できたし、同じ私同士だから遠慮もいらないし、同じ私同士だから何でも許せた。
どんなことだって受け入れて、どんな欲望にだって答えて、答えてもらった。
嫌な顔一つせず、笑って、答えた。
部屋に閉じこもり、目の前の私にと囁き続ける。
もう、そこからは私達の時間の感覚はなかった。
眠るまで、お互いを抱きしめて、求めて……。
気が付けばそのまま眠ってしまっていて。
起きれば、また同じように求め合う……。
時間の感覚がまるでない。
「……ずっと、こうしていたいよ、智花」
「私だって……ずっと、智花の隣にいたい」
「智花、愛してる……大好き」
「私の方が好きだし、愛してるよ、智花のこと……」
「うーっ、私のほうが、智花のこと好きだもん」
「そんなことないって、私の方が智花のこと好き」
囁き合う私達の世界。
乱れたベッドの上で、私達はお互いの手を握り合い、指と指の間に、互いの指を絡ませて、顔を見つめ合いながらつぶやき合う。
私がいれば、私は何もいらなかった。
「好き……智花」
「智花……大好き」
幸せで。
もう、何も考えられなくなってしまっていた。
鈍い音ともに、私達の部屋の扉がこじ開けられた。
そこにいたのは、私達の母親だった。
彼女は、私達を見て驚いた表情を浮かべていた。
何か大きな声でしゃべっているようだったが、何を言っているかは聞こえなかった。
私達に向かって近づいてきた彼女は、私の腕を引っ張って引き離そうとした。
「やめて!!」
「いやあああ!!」
大きな声がとどろいた。
引き剥がされる。
私の大切な半身が、恋人が、大切な人が……。
そう思った時、咄嗟に私は、近くにあった時計で叩きつけた。
頭を押さえて倒れ込む母親。
私は、大きく息を吐きながら、四つん這いになって、倒れている私の元にと駆けつける。
両手を広げながら私にと近づいてきた私に、私は強く抱きしめながら、唇を吸い合う。
私達の身体は、目の前の私のためにあるようになっていて、こうして抱きしめていることで、全てを忘れることができた。
嫌なことも、私たち以外のことも全部忘れることができた。
床を見ると、何かがうごめいている。
「……悪魔は」
「退治しないと」
身体を引きずりながら部屋を出て行こうとしていた。
私達は、自分たちの部屋にと入り込んだものを、邪魔だと思って、捨てた。
階段を転げ落ちながら、崩れ落ちるもの。
私達は、部屋にと戻って、鍵を閉める。
これで、私達はまた一緒にいることが出きる。
ずっと一緒に……。
「はあ、智花……私疲れちゃった」
「悪魔を倒したから……私も、もう眠い」
「一緒に寝よう……」
「そうだね、眠れば嫌なことも忘れられる」
私達にとって嫌なことは、私達と一緒にいることができなくなるということだけ。
一緒にいられれば、そこがどこであったって……楽園だった。
でも、それは長くは続かなかった。
私達の家の近くにとやってくる複数の車。
私達はそれを窓の外から見つめる。
私達の敵であることはなんとなく察することができた。
私達は、その場所から逃げることにした……、使い慣れたベッドから立ち上がり、抱きしめ合いながら、キスを繰り返す。
そうしないと……もう、私達は生きることもできなくなっていた。
衣服を着替えると、窓の外から私達は逃げ出す。
行く宛なんかなかった。
二人で一緒にいることができれば、どこだってよかった。
私達は、見つかって追われた。
ただ手を繋いで走りながら、いつの間にか、学校にと足を踏み入れていた。
行く宛がなかったから、そこしか知らなかったから。
私達は、教室にと足を踏み入れる。
そこにある顔。
どうしてだろうか。
つい少し前まで知っていたはずなのに、もう誰も思い出せない。
「みんな。出て行って」
私の言葉に、誰もが私達を見つめながら、呆然としている。
誰かが私の方にと歩いてくる。
何かしゃべているようだった。
私は邪魔だから、ナイフで刺した。
壊れた人形のように崩れ落ちるそれ……。
そして、話は一番最初にと戻る。
教室から、逃げ出していく者たち。
誰もいなくなったそこで、私達は、ようやく二人になれたと、その場で膝を落としながら
お互いの背中にと手を回して、唇を重ね合う。
このぬくもりが、この柔らかさがずっと欲しかった。
もう手放したくなかった。
外から、足音が聞こえてくる。
複数の足音だ。
私達は既に、互いを抱きしめ合って、床の上で崩れ落ちていた。
漏れる声に熱い体……他にはなにもなくて
ただ、好き……愛してるという言葉を投げかけ合う。
そう言ってもらえるだけで、私達は嬉しい……とつぶやき合うのだった。
扉が開くと、黒い影が、私達を取り囲む。
また……邪魔をするの?
どうして……邪魔をするの?
私達は、ただ二人でいたいだけなの。
お願い、邪魔をしないで。
二人でいたい。
二人だけでずっと一緒にいたい。
どうしてこんなふうに思ってしまったのかはわからない。
でも、止まらない。
心も体も、目の前の私に溺れてしまっていて。
後のことは何も考えられないの。
好きで好きで狂ってしまいそうで、どうしようもないの。
それは……許されないことなの?
目の前の私を抱きしめながら、私達は、瞳から涙を零す。
離したくない。
離さない。
ずっと一緒にいたい。
ずっと、隣に。
ずっと、傍に。
もしそれが、叶えられないのだというのなら。
もう私は生きていくことができない。
生きられない。
「……智花、どうして。私達こうなっちゃったのかな」
「最初は、ただ友達だったのに……ただ親友だったのに」
「もう、私、智花のことしか見えなくなってる」
「うん、私も……智花以外ね。もう何も感じられないの、見えないし、聞こえない」
「……私達、壊れちゃってるんだね」
「それでもかまわない……智花を失うくらいなら、私はもう……」
求めてくる智花を、私は拒めない。
私達は、自分の感情に飲み込まれていく。
もう、何考えられない。
目の前の私のことだけしか見れない。
私達は、ナイフを握りしめ合う。
一緒にいられない。
それは私達にとって死と同義だ。
だから、私達は死ぬ。
私達はナイフをお互いにと向けあった。
私達は、狂っている。
そう思われているのだろう。
でも、他人の定規ではからないでほしい。
私は、同性で、血液も、DNAも同じ
姉妹よりも深い血でつながり合った、自分に恋焦がれ、溺れている。
私は、それが幸せだった。
心も体も、引き寄せあい、どちらも喜んでいて。
止まらなくて……愛しくて。
抱きしめ合いながら、流れ出る血を混ぜ合わせながら、私達は、お互いを見つめ合う。
私達は、唇を重ね合いながら、目を閉じる。
好き。
大好き……。
そう思いながら、一緒にいることができないという、この世界に対する絶望を胸に秘めながら……私達は意識を沈めていく。
もし、次の世界でもまた一緒にいることができたのなら
そのときは……
そのときも……
一緒にいようね。
一緒に、ずっと一緒に……。
もう、誰にも邪魔されない世界で。
「私」は『私』と恋をする……。
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中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
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小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/
カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761
身体だけの関係です‐原田巴について‐
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毎日19時ごろ更新予定
「身体だけの関係です 三崎早月について」と同一世界観です。また、1~2話はそちらにも投稿しています。今回分けることにしましたため重複しています。ご迷惑をおかけします。
良ければそちらもお読みください。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/500699060
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