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櫻井綾音の場合
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「もう!どこ触ってるのさ?!」
「きゃあ!!バカ!!」
「呆れるわ……あんたは」
「ちょっと!なにしてるの!!
「はいはい、わかったわかった」
「誰にでも言ってるでしょ?」
「女の子だったら、誰でもいいの?」
今日一日で言われた言葉の数々。
はあ……。
そんなこと言われたって、女の子は可愛いものだよ。
とかいうと、本当に変態だと思われてしまうけれど
残念。
私は女の子。
だから、こういう行為は、セーフなわけですね、はい!
女の子は皆、可愛い生き物さ!
その反応から、言動まで、なんともね、そうね、愛でたくなるんだよ。
だから、勝手に手が出てしまうんだよ、
もうしょうがないじゃないか!受け入れなさいよ。
「じゃあさ、自分がもう一人いたら、それも愛でられるわけ?」
「え?」
「私」は『私』と恋をする。
episode 14 櫻井綾音
友人から言われた言葉に私は、口をあけたまましばらく呆然としていた。
それは、彼女が言った言葉の理解が私の中で出来ていなかったからである。
そもそも、ありえないことがこのたった一行の言葉に二つ存在する。
まず一つ目が、私が二人いるという状況だ。
そんなことが、まずありえない出来事であるから、想像ができなかった。
二つ目が、愛でる。
私がたとえば、もう一人現れたとして愛でることができるだろうか?
こんな女の子にいつもセクハラまがいをしている女のことを?
ありえない。
絶対にありえない。
私は可愛い女の子を見て愛でるのが好きであって
人の胸を後ろから揉んだり、スカートに手を突っ込もうとする女などに興味はない。
そんな奴がいたらグーパンだ。
「ないないないないない」
私は、教室で私の方にと向いて話しかける友人を見て大きく首を横にと振った。
そんな私を見つめて、友人は、大きく首を上下に揺らして、不思議そうな表情を浮かべた。
「だってさ、綾音って……スタイルいいし、胸でかいし、まあまあ可愛いし。人のことセクハラするオヤジ女には、ぴったりの奴だと思うけどね」
「なんだか褒められているのか、バカにされているのかわからないけれど」
「まあ、バカにしている」
「してるんかーい!!」
そんな、やりとりが学校で行われて私は、家にと帰る。
もう一人の自分が現れたとして、そいつのことにセクハラができるか。
ふむ、考えたことがなかった。
私は、一人暮らしをしている寮にと向かいながら腕を組み考える。
一つ一つハードルを考えてみよう。
まず、私は女の子が好きだ。
これは前提だ。
でも、その好きとはなんだろうか。
Q,私は、女の子の身体が好きなのか?
A,イエス。
柔らかくて、いい匂いがして、抱きしめてしまいたい。
Q,女の子と付き合えるのか?
A,わからない。
男子と付き合ったこともない私としては、好きになるという感覚がよくわからない。
友人たちのように、あれだけ相手に溺れていくようなこと……私には真似ができないし、そんな相手ができるとも思えない。
それでいうならば、私は女の子同士や男の子同士の同性愛とかいう奴に、嫌悪感はない。
好きな奴が異性だろうが同性だろうが、好きになったもの同士が幸せなら、周りがどうこう言うのはおかしな話だ。
問題は此処からだ。
Q,私の身体は好きか?
A,不もなく可もなく
家にと帰り、等身大の鏡に、その体を映す。
胸はEカップ……小さいとはとてもじゃないが言えない大きさだ。
スタイルも、自分ではいい方だと思っている。
こんな身体の女の子が、目の前にいると考えてみよう。
……。
胸は、揉むかな……前から、後ろからでもいい。
鷲掴みにするかな……。
お尻も、触るかもしれないな~、きっと可愛い声で喘いでくれるだろう。
私の顔で?
……いや、いやいやいやいや。
私の顔で、そんなことされたら驚くし、なによりも気持ちが悪い。
となると、やはり……
Q,私は私と付き合えるか
A,出来ない
となってしまうわけだ。
まあ、私のような体を持っている女の子がいたらまあセクハラはするってことになるね。
なかなか、こんな身体を持っている奴はいないだろうけど~ってこれってナルシストか?
違う違う、これはただの自慢だから。しかも身体だけだから。
私は、荷物を置いて大きく背伸びをしながら、制服を脱ぎ捨てる。
外はオレンジ色の夕日に照らされており、私の部屋を照らしている。
でも……。
姉妹、みたいなのは欲しかったかも。
私は自分の誰もいない寮の部屋を眺めながら、ふとそう思った。
家族は仕事で家にはいつもいなかった。
そんな私はいつも一人で、寂しい想いをしてきた。
だから、そんな私と一緒にいてくれる人は……欲しかったかもしれない。
でも、それが私自身っていうのは、ちょっと違う気もするけど。
私は、そこでその考えを完結させて、夕飯を食べて、お風呂に入って、ベッドにと入った。
それはいつもと同じ光景。
何も変わらない光景だった。
「「う、うーん」
カーテンの隙間から注がれる太陽の日差しで目を擦りながら、身体を起こす私。
目覚まし時計の音が響き渡る前におきるなんて珍しい。
きっと今日は何かあるな。
私はそこで、隣に何かがいる気配を感じ取り、顔を向けた。
そこには鏡があった。
私と同じ黒いストレートの髪の気と白い肌に、パジャマから鎖骨が見え、胸がパジャマを着ていてもその大きさがなんとなくわかってしまう。
私は、鏡を見つめながら、暫く目の前に映る自分を見つめていた。
昨日の今日と言うこともあり、なんとなく気にしてしまったのかもしれない。
私は、なんとなく手を伸ばして鏡に触れてみる。
すると、その触れた鏡の指には温もりがあった。
私は今度は、手のひらを広げて、触れてみる。
やはり温もりがあり、私達は指の隙間に指を入れてみて握ってみる。
握手ができる……鏡なのに?
「「あれ?」」
同じ声が重なった。
まあ、この後、いろいろと悲鳴とかが聞こえるような話になるんだけれども、
どの話でもやっていることだから割愛。
すぐにお互いに口を抑え合って周りから聞こえないようにはしたんだけれどね。
私=櫻井綾音は、二人になってしまったということだ。
容姿は勿論のこと、記憶性格趣味趣向……まったくもって差異はなかった。
私達は、部屋のイスに座りテーブルを間に挟みながら対峙する。
「学校は?連絡した?」
「したよ、こんな状態じゃ学校になんか行けないし」
「はあ……まさか、昨日言っていたことが起こるなんて」
「やっぱり昨日、フラグ立てちゃったからな?」
「フラグっていっても、あれからなんか特別なことあったっけ?」
「ん~……いつもと同じだったよね?」
「そーだよねー、なんか秘密道具使ったわけじゃないし」
「怪しい御婆さんから薬もらってないし」
「どっちにしても、なるようにしかならないか」
「ほら、勝手に分裂したんだから、また勝手に戻るかもしれないし」
私達は、そういって話を纏める。
喧嘩とかしないのかって?
自分と喧嘩するほど不毛なものはない。
私はそれを知っている。
自分の性格をわかっているつもりだ、喧嘩なんかしたら最後、殴り合いにまで発展をして、最終的には二人してこの世からいなくなっちゃうかもしれない。
それくらいに気性は荒いというか、ヒステリックというか。
「でも、学校行かないんじゃ、暇になっちゃったね」
「言われてみれば、どうしよっかー……でも、まずは」
「お腹空いた?」
「うん!」
「我ながら、子供のような奴だな~」
「そういう自分だってお腹空いてるくせに」
「はいはい、手伝ってね」
「わかりました~」
そういって二人で、キッチンにと立つ私達。
自分と二人で料理をするなんて世界で私達が一番最初だろう。
そもそも、自分が二人になったのが私達が初めてのはずだから、それも当然かもしれないか。
私達は、ハムエッグでも作ろうという話になり、調理を始める。
二人共パジャマ姿で、用意をしていた。
皿を用意する私は、調理する私をみる。
自分の背中なんて絶対に見ることができない光景。
私はそんな自分の背中をまじまじと見つめながら、引き締まった腰に、料理をするにあたりお尻に目が行く。
うむ、これは……触りたくなるお尻だ。
いやいやいや、綾音さん。
相手は自分ですよ?自分のお尻を触るなんて、どうかしています。
いやいやいや、綾音さん。
相手は自分ですよ?自分のお尻を触るなんて、いつもお風呂で体を洗うのと同じですよ。
うむ、後者。
「えい」
私は料理をする私のお尻を両手で揉んだ。
遠慮なしに。
「あっ!!ん……ちょっと!!なにすんの!?」
思わぬ声を張り上げる私。
振り返った私が声を上げる。
「え?いや、そこにお尻があったから」
私の返答に、もう一人の私は、深く頷きながら
「なるほどなるほど、そーいうことね」
私も笑顔を見せて同じように頷く。
「そうそう、そういうこと」
そして料理が完成。
「「いただきます」」
私達は、一緒になってフォークを使い、自分の料理を食べる。
上手いかどうかはわからないけれど、いつも自分が食べるそれと同じだ。
やっぱり、こいつは私のようだ。
まさか、本当に私がもう一人出てくるなんてね。
私は、私と見つめ合う。
「それで、ご飯食べたらどうする?」
「ゲームでもして?」
ここで外に出て遊ばないというのも、まさに私と同じ選択だ。
「そうしよっか。引きこもり気味の私同士が揃えば、こういうこともできるんだね」
「褒めているのか、貶されているのか……」
「自分を貶すことなんかしないよ。ただ凹むだけ」
「自分が凹むようなことに、私を巻き込むな!」
そんなやり取りを終えて、お皿を片付ける。
さっきと違い料理をしていないほうの私が、片付けている。
こういうことはしっかりと役割分担をしないとすぐに喧嘩になる。
さっきもいったように、自分同士の喧嘩ほど不毛なものはない。
だから、こういうのはなんとなく空気で誰が何をやるのか決まっていく。
そんな片づけをしている私の背後にと近づく私。
片づけをしている私が気が付いたが……甘いな私。
自分の行動はすべてわかっている。
後ろから鷲掴みにしてもいいけれど、振り返って防御態勢に入ろうとした私の胸を正面から揉んでやる。
「あぐっ、う……あ、あんたねえ」
「お返しだよ、自分の胸を正面から揉むとなんか違うね」
「そーなんだ。後で揉ませてもらうよ」
「断る」
「あんたの意見は聞いてない」
「自分の意見を聞かないとって、どういうことよ!?」
「それはこっちの台詞だ!!自分の身体はセクハラしないんじゃなかったっけ?違うか。身体は別か」
「そういうこと。私の身体は素晴らしいからいいのー」
「ふーん、じゃあ、胸を揉まれたらあんたにちゅーしてやろうか」
ドクン
ちょっとちょっと、なんですか今の言葉は。
ちゅーってなにさ、
えーっとキスですか、そうですよねキスですよね。
聞き間違いじゃないですよね?
キス……。
ドクン
私同士で?同じ櫻井綾音同士で、顔を近づけあってお互いの吐いた息を吸い合って。
元々、同じ一人の人間だったのに、それを補うようにして、唇を重ね合う。
バカ、気持ち悪い、だって自分だよ?自分とちゅーとかしたって、気持ちよくなんか……
「ちょ、ちょっと?私?なに黙ってるの?」
「え、いや、何を突然言い出すのかなと思って!」
「じょ、冗談に決まってるでしょ!じょーだん!」
ドクン
なに本気にしているのよ、この私は。
キスなんか自分にしたって、なんにもならないんだから。
まったく、そんなこと本気になって考えちゃうなんてこの私も、たいがいだよ。
ドクン
だいたい、私同士でキスって、おかしいでしょうよ。
自分と同じ顔を近づけあって、肩に両手を置いて、自分と同じ唇を重ね合わせて
押し付け合って、何度も擦りつけ合って……口をあけて、舌を出して……。
「な、なにぼーっとしてるの!?」
「そ、そんなことない!そんなこと!」
「ほ、本当に?変なこと考えてない。
「考えてない!あんたじゃない!」
「私だって考えてない!」
「さきにちゅーとかいったのは、どこの綾音さ!?」
「妄想をしたのは、どこの綾音でしょうか?!」
私達はお互いを睨み合いながら、顔が熱くなるのを感じ取りながら、その場は互いの顔から視線をそらす。
だって……。
これ以上見つめ合っていたら、どうにかなってしまいそうだったから。
私達は、気分を変えて、ゲーム機を使って二人で並んで遊ぶこととなった。
一緒になって遊びながら、常に相討ちで、喧嘩をすることもなく、時間だけが過ぎていく。
晩御飯を食べて、また互いセクハラ攻撃を掛け合いながら、交互にお風呂に入りつつ、もうすっかり日は落ちて夜を迎える。
「「楽しかったね」」
私達は素直にそう答えた。
自分同士で遊ぶのは、趣味とか趣向とか同じだからきっと盛り上がるんだろうなと思った。
実際に、時間が過ぎるのを忘れてしまうほどに話は盛り上がったし。
なによりも、部屋で孤独でいるということを感じなかった。
きっと家族がいるとこんな感じなんだろうな。
私達は、ベッドの上で、お互いを見つめ合う。
もう一人の自分が出てくるなんて、夢にも思わなかったけれど……。
「じゃあ、おやすみ」
「きっと寝たら、またいつもの日が来ちゃうんだろうね」
「なになに?寂しい?私がいなくなっちゃうの?」
「あんたこそ寂しいんじゃないの?人の手さっきからずーっと触ってるけど」
いつの間にか私は無意識に私の手を撫でている。
きっとあれだ。
分裂した体が戻ろうとして、ボディータッチが多くなっているだけだ。
だから、これは仕方がないことだ!と自分に言い聞かす。
私達は、ただ黙ってお互いにと顔を向けあいながら、一緒にベッドにと眠る。
「おやすみ、私」
「おやすみ、綾音」
私達は、無意識に……きっと、たぶん。
お互いの手を握り合った。
離したく……なかったから。
友達として、だったら相手が自分でも一緒にいて、悪くないかな。
そう思った。
今日一日、楽しかった。
いなくなったとしても……きっと、今日のことは忘れない。
私達は、そう思った。
なんでだろう……その日は、とてもよく眠れた気がする。
安心……できたからかな。
「「って、戻ってねぇーーーーーー!!!!!」」
翌朝、私達は現実を知る。
相変わらず戻らないまま、ベッドの上で、現実、目の前に私はいた。
ボサボサの寝癖のついたパジャマ姿。
そんなもう一人の私が目の前にはいる。
……こうして、私達は、二人の櫻井綾音として生活をしていくこととなっていくのだ。
一か月後
「おはよう、今日は、あんたの当番だっけ?」
「そう、あんたは掃除に洗濯、買い物よろしく」
朝食の支度をする私に、洗濯物を洗濯機にと投げ込む私。
制服姿の私を見送る私服姿の私。
私達は、お互いに笑顔を見せて、手を振りながら、見送る。
私が、家を出て行き、残される私。
扉が閉まり、私達は同時に想う。
あれ?なにしてるんだ、私達。
えーっと……なんで、こんな、普通の生活を送っちゃってるんだ。
私は二人になったんだよね?
普通じゃないし。異常なことなはずなんだけれど……。
まあ……別に不便もないし、いいか。
私達は、ふと、そんなことを思い浮かべながらそれぞれの役割をこなす。
そう……私達は、この一ヶ月の間で、二人でいる生活に完全に
慣れた。
人間とはこうも環境の変化に順応するものなのだろうか。
私達は、自分が二人になったことに対して、もう違和感などなくなっていた。
よくよく考えれば、双子の姉妹ができたと思えばいい。
いつも、誰かと一緒にいれる……寂しくないし、ちょうどいいじゃないか!
そう、私達は自分たちに言い聞かせながら、奇妙な共同生活を続けていくこととなったのである。
喧嘩とかもしないし、私が嫌いってわけでもないし。
どっちかっていうと話も合うし、一緒にいて楽しいかな―なんて思っちゃったりもするわけだ。
自分同士で、仲良くしているのって、変なのかもしれないけれど。
だ、誰も見てないんだし……いいよね?
学校と家事は交互に実施。
家に帰ってきたら、その日の情報を交換する。
何だったら額でも合わせれば、記憶とかも模写できれば完璧だなーとか思いつつ
そんなことをしていれば、夕食、お風呂と言う生活サイクルな訳だ。
「なんだか、こんなのでいいのかな」
私は湯船につかりながら、今日までのことを思い返す。
自分と一緒になってご飯を食べて
自分と一緒になって遊んで
自分と一緒になって眠って
しかも、それがとっても楽しくて……幸せで。
家族?友達?まあ、そういうもんなんだろうけどなぁ……。
私は湯船に、顔の半分を沈めて口から息を吐いて泡立てる。
湯船で体を温めて、立ち上がる私。
身体を洗い終えていた私は、そのまま、身体をタオルで拭いながら、浴室から外にと出る。
「もうでたー??」
ドアを開ける私。
目が合う私達。
私、全裸。
もう一人の私も、下着姿。
私達はお互いを見つめながら、暫く沈黙が続き……
「なんで全裸なんだーっ!!服着ろ!!」
「何見てんだ!ド変態ーっ!!」
私達はお互いに言葉をかけ合い、指を差し合う。
「だいたい風呂場で全裸なのは当たり前でしょうが!!」
「そんなこといったら、あんたの裸なんか、自分の裸なんだから見飽きてるっツーの!!」
「じゃあ!!服着ろていう、あんたの突込みがおかしいだろうが!」
「なら、ド変態って言葉をすぐに訂正しろ!!」
「だいたいいつも自分相手にセクハラをしている奴が言えることか!」
「自分のことを言っているの!?私だけじゃないでしょうが!!」
私達は、お互いを指さし合いながら全裸と下着姿で怒鳴り合う。
そんなことを続けていた私達は、お風呂から出たばかりで足元が濡れていたことで
まず私が滑る。
目の前にいる私。
そして、真正面からぶつかる。
そのまま、倒れる。
「「んん……」」
柔らかい感触がする。
全身が包まれている。
温かくて、甘い匂いがして……ずっとこうしていたくなるような。
ゆっくりと意識が覚醒し、目を開く。
そこにいるのは、私。
同じように目を開けて私を見ている。
目の前に過ぎて鼻が当たっている。
もう、なんでこんなことに、ってか、お前のせいだろう!?
私達は私達にそう怒鳴りつけてやろうと口を開けようとした。
「「んんふぅ……」」
漏れる声。
私達は自分たちの口元を見る。
重なっている。
しっかりと、ぴったりと……。
「「ん??」」
全てを察知した私達は、お互いから離れる。
「「なあああああ!!?」」
「なにしてくれてんだ!!あんたは!?」
「それはこっちの台詞だ!!私のファーストキス返せぇえ!!」
「それこそこっちの台詞だ!!自分同士でファーストキスなんて……」
「だーかーらー!!それは私の台詞だ!!」
「ちがーう!!私の台詞だ!!!」
壁際に背中を押し当てながらお互いに言い合う私達。
私達は、こうして、不意な事故により互いの、ファーストキスをお互いに捧げあってしまったわけだ。
私達は涙目になりながらも、互いの風呂に入り、一つしかないベッドである以上
一緒に寝ることになる。
私達は、さっきのこともあり、お互いに背中を向けあって眠ることにする。
背中同士ぴったりと押し付け合いながら……。
「「もっと、そっちによりなさいよ」」
互いに言い合う私達。
同じ声を絡ませ合いながら言い合った言葉に、私達は互いの方を体勢を変えず顔だけ見る。
「人の陣地に入り込もうとするのは、よくないと思うぞ?私ならばわかってくれるはずだけど」
「あらあら、それは同じ私であるならば、そっちこそ、理解をしているものだと思ったけれど」
「なるほど!太ったのか?だから、幅を取っているんだな?」
「気にする必要はない、お前が太ったのは私と比較すればわかる話だ」
「デブと比較したら私が痩せていることは明らかだろうが!!」
「デブにデブなんて言われたくないっ!!」
だんだん露骨な表現になり、背中の押し合い……だけにとどまらず
お尻同士で押し合いへし合いを始める私達。
同じ大きさ、弾力性を持つ綾音同士のお尻がしっかりと重なり合う。
「「あっちいっっけぇーーーーー!!!」」
結果、引き分け。
疲れ果てた私達は、そのまま眠ってしまった。
え?楽しかったんじゃないのかって?
……まあね~~。
自分同士でファーストキスなんて、ノーカンでしょ。ノーカン。
「「おはよう~~」」
眠そうな顔をお互いに見せ合えば、大丈夫、すぐに仲直り~。
自分同士で不毛な喧嘩はしない。
だから、さっきのはただのじゃれ合い。
あーしているのだって、嫌いじゃないし、楽しいって思えるくらいの余裕は私にだってあるんだから。
そう、ただのじゃれ合い。
冗談なんだからさ。
じょう……だん。
さらに一か月後。
私達の……部屋。
「隙あり!」
「きゃうん!ったく、やりやがったなー!!!お返しだ」
「お尻揉むな!このド変態!!」
「自分に言え~~!!!」
変わらない自分同士でセクハラ合戦。
相手は自分だから遠慮なんかしないし、する必要もない。
お互いの手は、自分自身の胸に触れ、さわり、揉んでやる。
お尻もしっかりとつかんで、揉みほぐしてやる。
自分の身体だから、大丈夫、変態でも痴漢でもないんだから……。
ただ、その行為は変態じゃないかもしれないけれど。
私の脳裏に過ぎることは変態なことだ。
それは、お風呂場で事故ったキスのこと。
毎晩夢で見る。
毎晩あの続きを夢で見てしまう。
互いの肩にと手を置いて、自分の方にと引き寄せあう。
そして唇を押し付け合ったまま何度も向きを変えて重ね合う。
お互い、私達を見つめ合って、その瞳は濡れていて……目を閉じる。
そんな細かい内容のことを何度も夢で見てしまうのだ。
あんなこと、求めてない。
求めてなんかいない、相手は自分なんだから、そんな気持ちの悪いことなんか、思ったりなんか……しないんだから。
「って!!顔近いっツーの!!」
「そっちが近づいてきてんでしょうが!?」
「「うう……あんた!」」
私達はふざけあっていて、いつの間にか、身体を寄せ合っていたことに気が付いて、お互いの顔を腕を伸ばして放しながらお互いにと言い放った。
私達は、お互いから離れてそれぞれの役割にと戻る。
私は学校に
私は家事を
「いってきます」
「いってらっしゃい」
扉が閉まる。
振り返る私達。
扉を挟んで、私達は、私達を見た。
私と同じ姿、同じ心を持つ私を……見つめ合った。
……。
何とも言えない気持ちが私の中にあった。
ただ、胸が痛かった。
私達は自分の心の身体の異変にと気が付き始めていた。
相手は自分だ。
自分相手に、変な気持ちなんて持つことなんてありえない。
ましてや……特別な感情を持つことなどありえない。
でも、私達は、分裂をしてしまってから、おかしくなっていたんだ。
それに気が付かなかった。
気が付けないくらい、その進行速度は遅く、そして徐々に私達の心を侵していく。
そして、気が付いた時には、もう……手遅れになっていて。
「「……痛い」」
教室の席で……。
家のベッドの上で……。
私達は自分の胸を抑えながらつぶやいた。
その気持ちがなんなのか……私達にはわからなかった。
でも、それをもう一人の私に言うことはできなかった。
……知っていたのかもしれない。
気が付いていたのかもしれない。
家に帰れば、そこはいつものように、過ごす。
「ただいま」
「おかえり」
そんないつもの会話を交わして、面白おかしく今日の出来事を共有。
そして、夕食を手伝い、お風呂に入って、一緒に寝る。
何も変わらない、いつもと同じだ。
ただ……変わったことは、私は私をよく見るようになった。
話しているときとかじゃなくても、目で私を追っている。
そして、その視線が良く重なり合うようにもなった。
「「なに?」」
「あんたが見てきたんでしょうが!?」
「あんたでしょうが!なにかようなの?」
「な、なんでもないよ」
「なんでもないなら見るなっつーの!」
「あんたこそ、なんなのさ」
「べ、別に……なんでもない!」
一緒に眠るベッドで……。
私達は、お互いの方を見て、目を閉じる。
眠る毛布の下で片手が触れて、指が触れ合う……。
私達は、その人差し指を絡ませた。
……普段セクハラ行為をするよりも、ずっと……心臓音が高鳴り、満たされる感覚があった。
痛い
苦しい
痛い
苦しい
私は、友人に学校で聞いた。
「ある奴といると、胸が痛くなって苦しくって、でも一緒にいたいーって思うのってなに?」
「あ?なにそれ?」
「いいから答えろ」
「そんなの、そいつのことが好きだってことだろ?」
「え?」
「え?じゃなくて、好き、愛してる、付き合って、抱いて~ってやつでしょ?」
友人の言葉が頭の中でぐるぐるとまわる。
私の脳裏に過ぎるのは、もう一人の私が、私を見つめて友人の言葉を私に向かって囁いている姿だった。
『好き、愛してる、付き合って、抱いて……』
「な、な、な……何言ってるのおおお!!そんなわけあるわけないでしょうがああああ!!!」
私は友人の胸ぐらをつかみ、大声を上げる。
友人は私の変わりように驚きながら、呆然としている。
「そんなこと、あるわけない!あるわけないって!そんな気持ちの悪いこと、あるはずないんだから!!」
でも、口では幾らそう言っても……。
私は、自分で分かっていた。
答えなんかでていた。
ただ、認めたくなかっただけで。
二人になっちゃった、それだけで、私達がこうなることは、決まっていたのかもしれない。
私と私は欠けた半身同士……身も心も引き寄せあうのは当然のことなんだろう。
でも、私は認めたくなかった。
自分が好きだって、自分が大好きだって……認めたくなかった。
だから、私は家に帰らなかった。
帰りたくなかった。
帰って、私と会えば、それだけ私の気持ちは、ううん……私も、私も、私たちお互いに対して気持ちが高まり続けるだろう。
だって、私達は、お互いを求め合う存在だから。
私たち以外に、もし分裂した人達がいたとするのならば、きっと、誰もが同じことをするのだろう。
みんな、結果的には、そのお互いを想う気持ちを止めることはできないはずだ。
だったら、会わなければいい。
そうすれば、きっと、今のこの気持ちも、収まるだろう。
それがいい。
それが一番だ。
胸の痛みを堪えつつ
苦しさから逃れるように、私は家から離れるように歩く。
行く宛のなんてない。
ただ……逃げたくて、遠くに行きたくて歩いていく。
既に日は落ちて、辺りが暗くなる中、私は河川敷の土手の上を歩いていく。
暗いその道を、私はただ歩いていく。
「……なに、してるんだろう。私」
私は、自分の行動を考えて笑う。
こんなことしたって、無意味なのに。
なんで、私は、私のことを認められないのかな。
……違う。
認められないんじゃない。
認めることが、怖いだけ。
私が私のことを好きになって、付き合ったら、どうなってしまうんだろう。
お互いが、お互いの想うことが同じだから。
好きなことの際限がなくて……ドロドロに溶け合うほどに、お互いに溺れてしまうだろう。
そんなことになってしまえば、外に出ることもやめて。
ずっと、お互いだけを見つめているだろう。
他のことに目も耳も傾けないで、ただ全身で、私同士を感じ合うだろう。
気持ち悪いし、ありえない……でも、私は、そうなってしまう確信があった。
それを望んでしまっている自分が、私の心の奥底には確かに存在したから。
「帰り道はそっちじゃないぞ、このバカ」
振り返った私の前には、自転車に乗った私がいた。
その表情は汗をかいていて、大きく息も吐いている。
ここまで探しにきたのか。
バカな奴……私なんか放っておけばいいのに。
「何してんだよ!心配したんだから!!」
私の目の前で私を叱り飛ばす私。
その目は今までふざけていたものじゃない、真剣そのものだ。
私はうつむき、私から視線をそらした。
「……私さ、あんたに会っちゃ駄目なんだよ」
「はあ?!何言ってんのさ?なんで、駄目なの?」
「駄目なの……あんたに会ったら、あんたと一緒にいると」
私は、顔をあげて、私を見る。
「……あんたが、大好き……なの」
私の言葉に、目の前の私の表情が固まる。
私は、自分の手を握りしめる。
「あんたが、私が、櫻井綾音が!!大好きで、大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで!!!!!どうしようもないから!!!」
私は、大声で地面を見て叫んだ。
胸の中で溜まりにたまった、バカの私に対しての言葉を吐きだす。
もう、我慢なんかできなかった……どうしようもない気持ちだった。
こんなバカでどうしようもない、私のことだけしか、もう考えられないように私はなっていた。
「なに……言ってんの?あんたは?」
私の言葉が返ってくる。
「家に帰らないで、迎えにきてやってみれば、いきなり告りだすし……」
あれ?
「しかも、告白の相手はあんたと同じ私だし、なに?ナルシスト?気持ち悪いって!」
あれれ??
様子がおかしい。
てっきりがばっと抱きしめられて、そのままキスされて、服脱がされて、ここで!?みたいな展開だと思ったけど。
あれ?もしかして、ここまでのことって勘違い?
壮大な、私の思い込み??
私は恐る恐る顔を上げる。
「おかしいな、なんで、私……こんなバカな話聞いてるのに、涙が……と、止まらないんだろ……おかしい、おかしいよ」
私の目の前では、私が大粒の涙を零しながら、私を見つめている。
バカは……どっちよ。
あ、でも……私がバカなら、私も……バカか。
だって……私もあんたと同じ、泣いてるもん。
「おかしいよ、私達。どっちも、同じ私だし……おかしいに決まってるじゃん」
私が私を抱きしめる。
私の背中に手が伸びて強く抱きしめられた。
同じ体が強くひきつけあい
欠けた半身が元に戻ろうとする。
全身が、心が……震える。
温かくて、柔らかくて、気持ちがいい……。
「私も……あんたが、大好き。大好き……綾音、綾音、綾音、綾音……大好き……」
ああ、言っちゃった。
とうとう……言っちゃったね。
もう……私達は戻れない。
私達は、お互いのことだけしか、もう……見れない。
他のものを見たくないし、見ることができない。
大好きで、大好きで……どうしようもない私だけしか、もう……。
でも、これはきっと予定調和。
いつかきっと、起こってしまうものだった出来事。
そーいうこと。
3か月後
「いってきます」
「いってらっしゃい」
それは、いつもと変わらない光景。
お互いの役割を持って、その一日を始める。
で、行く前に……、私達はその唇を重ね合わせる。
目を閉じて、お互いの肩に手を振れて、顔を近づけて。
朝起きてから2度目のキス。
朝、ベッドで目を開けて全裸同士でするおはようのキスと、行ってくる前のキス。
本当は、離したくなくて、名残惜しそうな顔を見せ合う。
って、やめやめーっ!!ただのノロケ話。
私達は、そういって扉が閉まる前まで、手を振り合う。
どうして、役割分担を続けているかって?
だってさ……。
そうしないと、本当に、もう……一緒に。
何もせずに、ただ、お互いだけをずっと……ずーっと求め合うようになってしまうと思うから。
今だって……本当はそうしたいって、想ってしまっているから。
「そういえば、最近、セクハラしなくなったね?なんかあったの?」
学校の友人が声をかけた。
私は、笑顔で、友人を見る。
「実はね、嫁ができてね」
友達は、飲んでいたお茶を噴出した。
「私」は『私』と恋をする。
「きゃあ!!バカ!!」
「呆れるわ……あんたは」
「ちょっと!なにしてるの!!
「はいはい、わかったわかった」
「誰にでも言ってるでしょ?」
「女の子だったら、誰でもいいの?」
今日一日で言われた言葉の数々。
はあ……。
そんなこと言われたって、女の子は可愛いものだよ。
とかいうと、本当に変態だと思われてしまうけれど
残念。
私は女の子。
だから、こういう行為は、セーフなわけですね、はい!
女の子は皆、可愛い生き物さ!
その反応から、言動まで、なんともね、そうね、愛でたくなるんだよ。
だから、勝手に手が出てしまうんだよ、
もうしょうがないじゃないか!受け入れなさいよ。
「じゃあさ、自分がもう一人いたら、それも愛でられるわけ?」
「え?」
「私」は『私』と恋をする。
episode 14 櫻井綾音
友人から言われた言葉に私は、口をあけたまましばらく呆然としていた。
それは、彼女が言った言葉の理解が私の中で出来ていなかったからである。
そもそも、ありえないことがこのたった一行の言葉に二つ存在する。
まず一つ目が、私が二人いるという状況だ。
そんなことが、まずありえない出来事であるから、想像ができなかった。
二つ目が、愛でる。
私がたとえば、もう一人現れたとして愛でることができるだろうか?
こんな女の子にいつもセクハラまがいをしている女のことを?
ありえない。
絶対にありえない。
私は可愛い女の子を見て愛でるのが好きであって
人の胸を後ろから揉んだり、スカートに手を突っ込もうとする女などに興味はない。
そんな奴がいたらグーパンだ。
「ないないないないない」
私は、教室で私の方にと向いて話しかける友人を見て大きく首を横にと振った。
そんな私を見つめて、友人は、大きく首を上下に揺らして、不思議そうな表情を浮かべた。
「だってさ、綾音って……スタイルいいし、胸でかいし、まあまあ可愛いし。人のことセクハラするオヤジ女には、ぴったりの奴だと思うけどね」
「なんだか褒められているのか、バカにされているのかわからないけれど」
「まあ、バカにしている」
「してるんかーい!!」
そんな、やりとりが学校で行われて私は、家にと帰る。
もう一人の自分が現れたとして、そいつのことにセクハラができるか。
ふむ、考えたことがなかった。
私は、一人暮らしをしている寮にと向かいながら腕を組み考える。
一つ一つハードルを考えてみよう。
まず、私は女の子が好きだ。
これは前提だ。
でも、その好きとはなんだろうか。
Q,私は、女の子の身体が好きなのか?
A,イエス。
柔らかくて、いい匂いがして、抱きしめてしまいたい。
Q,女の子と付き合えるのか?
A,わからない。
男子と付き合ったこともない私としては、好きになるという感覚がよくわからない。
友人たちのように、あれだけ相手に溺れていくようなこと……私には真似ができないし、そんな相手ができるとも思えない。
それでいうならば、私は女の子同士や男の子同士の同性愛とかいう奴に、嫌悪感はない。
好きな奴が異性だろうが同性だろうが、好きになったもの同士が幸せなら、周りがどうこう言うのはおかしな話だ。
問題は此処からだ。
Q,私の身体は好きか?
A,不もなく可もなく
家にと帰り、等身大の鏡に、その体を映す。
胸はEカップ……小さいとはとてもじゃないが言えない大きさだ。
スタイルも、自分ではいい方だと思っている。
こんな身体の女の子が、目の前にいると考えてみよう。
……。
胸は、揉むかな……前から、後ろからでもいい。
鷲掴みにするかな……。
お尻も、触るかもしれないな~、きっと可愛い声で喘いでくれるだろう。
私の顔で?
……いや、いやいやいやいや。
私の顔で、そんなことされたら驚くし、なによりも気持ちが悪い。
となると、やはり……
Q,私は私と付き合えるか
A,出来ない
となってしまうわけだ。
まあ、私のような体を持っている女の子がいたらまあセクハラはするってことになるね。
なかなか、こんな身体を持っている奴はいないだろうけど~ってこれってナルシストか?
違う違う、これはただの自慢だから。しかも身体だけだから。
私は、荷物を置いて大きく背伸びをしながら、制服を脱ぎ捨てる。
外はオレンジ色の夕日に照らされており、私の部屋を照らしている。
でも……。
姉妹、みたいなのは欲しかったかも。
私は自分の誰もいない寮の部屋を眺めながら、ふとそう思った。
家族は仕事で家にはいつもいなかった。
そんな私はいつも一人で、寂しい想いをしてきた。
だから、そんな私と一緒にいてくれる人は……欲しかったかもしれない。
でも、それが私自身っていうのは、ちょっと違う気もするけど。
私は、そこでその考えを完結させて、夕飯を食べて、お風呂に入って、ベッドにと入った。
それはいつもと同じ光景。
何も変わらない光景だった。
「「う、うーん」
カーテンの隙間から注がれる太陽の日差しで目を擦りながら、身体を起こす私。
目覚まし時計の音が響き渡る前におきるなんて珍しい。
きっと今日は何かあるな。
私はそこで、隣に何かがいる気配を感じ取り、顔を向けた。
そこには鏡があった。
私と同じ黒いストレートの髪の気と白い肌に、パジャマから鎖骨が見え、胸がパジャマを着ていてもその大きさがなんとなくわかってしまう。
私は、鏡を見つめながら、暫く目の前に映る自分を見つめていた。
昨日の今日と言うこともあり、なんとなく気にしてしまったのかもしれない。
私は、なんとなく手を伸ばして鏡に触れてみる。
すると、その触れた鏡の指には温もりがあった。
私は今度は、手のひらを広げて、触れてみる。
やはり温もりがあり、私達は指の隙間に指を入れてみて握ってみる。
握手ができる……鏡なのに?
「「あれ?」」
同じ声が重なった。
まあ、この後、いろいろと悲鳴とかが聞こえるような話になるんだけれども、
どの話でもやっていることだから割愛。
すぐにお互いに口を抑え合って周りから聞こえないようにはしたんだけれどね。
私=櫻井綾音は、二人になってしまったということだ。
容姿は勿論のこと、記憶性格趣味趣向……まったくもって差異はなかった。
私達は、部屋のイスに座りテーブルを間に挟みながら対峙する。
「学校は?連絡した?」
「したよ、こんな状態じゃ学校になんか行けないし」
「はあ……まさか、昨日言っていたことが起こるなんて」
「やっぱり昨日、フラグ立てちゃったからな?」
「フラグっていっても、あれからなんか特別なことあったっけ?」
「ん~……いつもと同じだったよね?」
「そーだよねー、なんか秘密道具使ったわけじゃないし」
「怪しい御婆さんから薬もらってないし」
「どっちにしても、なるようにしかならないか」
「ほら、勝手に分裂したんだから、また勝手に戻るかもしれないし」
私達は、そういって話を纏める。
喧嘩とかしないのかって?
自分と喧嘩するほど不毛なものはない。
私はそれを知っている。
自分の性格をわかっているつもりだ、喧嘩なんかしたら最後、殴り合いにまで発展をして、最終的には二人してこの世からいなくなっちゃうかもしれない。
それくらいに気性は荒いというか、ヒステリックというか。
「でも、学校行かないんじゃ、暇になっちゃったね」
「言われてみれば、どうしよっかー……でも、まずは」
「お腹空いた?」
「うん!」
「我ながら、子供のような奴だな~」
「そういう自分だってお腹空いてるくせに」
「はいはい、手伝ってね」
「わかりました~」
そういって二人で、キッチンにと立つ私達。
自分と二人で料理をするなんて世界で私達が一番最初だろう。
そもそも、自分が二人になったのが私達が初めてのはずだから、それも当然かもしれないか。
私達は、ハムエッグでも作ろうという話になり、調理を始める。
二人共パジャマ姿で、用意をしていた。
皿を用意する私は、調理する私をみる。
自分の背中なんて絶対に見ることができない光景。
私はそんな自分の背中をまじまじと見つめながら、引き締まった腰に、料理をするにあたりお尻に目が行く。
うむ、これは……触りたくなるお尻だ。
いやいやいや、綾音さん。
相手は自分ですよ?自分のお尻を触るなんて、どうかしています。
いやいやいや、綾音さん。
相手は自分ですよ?自分のお尻を触るなんて、いつもお風呂で体を洗うのと同じですよ。
うむ、後者。
「えい」
私は料理をする私のお尻を両手で揉んだ。
遠慮なしに。
「あっ!!ん……ちょっと!!なにすんの!?」
思わぬ声を張り上げる私。
振り返った私が声を上げる。
「え?いや、そこにお尻があったから」
私の返答に、もう一人の私は、深く頷きながら
「なるほどなるほど、そーいうことね」
私も笑顔を見せて同じように頷く。
「そうそう、そういうこと」
そして料理が完成。
「「いただきます」」
私達は、一緒になってフォークを使い、自分の料理を食べる。
上手いかどうかはわからないけれど、いつも自分が食べるそれと同じだ。
やっぱり、こいつは私のようだ。
まさか、本当に私がもう一人出てくるなんてね。
私は、私と見つめ合う。
「それで、ご飯食べたらどうする?」
「ゲームでもして?」
ここで外に出て遊ばないというのも、まさに私と同じ選択だ。
「そうしよっか。引きこもり気味の私同士が揃えば、こういうこともできるんだね」
「褒めているのか、貶されているのか……」
「自分を貶すことなんかしないよ。ただ凹むだけ」
「自分が凹むようなことに、私を巻き込むな!」
そんなやり取りを終えて、お皿を片付ける。
さっきと違い料理をしていないほうの私が、片付けている。
こういうことはしっかりと役割分担をしないとすぐに喧嘩になる。
さっきもいったように、自分同士の喧嘩ほど不毛なものはない。
だから、こういうのはなんとなく空気で誰が何をやるのか決まっていく。
そんな片づけをしている私の背後にと近づく私。
片づけをしている私が気が付いたが……甘いな私。
自分の行動はすべてわかっている。
後ろから鷲掴みにしてもいいけれど、振り返って防御態勢に入ろうとした私の胸を正面から揉んでやる。
「あぐっ、う……あ、あんたねえ」
「お返しだよ、自分の胸を正面から揉むとなんか違うね」
「そーなんだ。後で揉ませてもらうよ」
「断る」
「あんたの意見は聞いてない」
「自分の意見を聞かないとって、どういうことよ!?」
「それはこっちの台詞だ!!自分の身体はセクハラしないんじゃなかったっけ?違うか。身体は別か」
「そういうこと。私の身体は素晴らしいからいいのー」
「ふーん、じゃあ、胸を揉まれたらあんたにちゅーしてやろうか」
ドクン
ちょっとちょっと、なんですか今の言葉は。
ちゅーってなにさ、
えーっとキスですか、そうですよねキスですよね。
聞き間違いじゃないですよね?
キス……。
ドクン
私同士で?同じ櫻井綾音同士で、顔を近づけあってお互いの吐いた息を吸い合って。
元々、同じ一人の人間だったのに、それを補うようにして、唇を重ね合う。
バカ、気持ち悪い、だって自分だよ?自分とちゅーとかしたって、気持ちよくなんか……
「ちょ、ちょっと?私?なに黙ってるの?」
「え、いや、何を突然言い出すのかなと思って!」
「じょ、冗談に決まってるでしょ!じょーだん!」
ドクン
なに本気にしているのよ、この私は。
キスなんか自分にしたって、なんにもならないんだから。
まったく、そんなこと本気になって考えちゃうなんてこの私も、たいがいだよ。
ドクン
だいたい、私同士でキスって、おかしいでしょうよ。
自分と同じ顔を近づけあって、肩に両手を置いて、自分と同じ唇を重ね合わせて
押し付け合って、何度も擦りつけ合って……口をあけて、舌を出して……。
「な、なにぼーっとしてるの!?」
「そ、そんなことない!そんなこと!」
「ほ、本当に?変なこと考えてない。
「考えてない!あんたじゃない!」
「私だって考えてない!」
「さきにちゅーとかいったのは、どこの綾音さ!?」
「妄想をしたのは、どこの綾音でしょうか?!」
私達はお互いを睨み合いながら、顔が熱くなるのを感じ取りながら、その場は互いの顔から視線をそらす。
だって……。
これ以上見つめ合っていたら、どうにかなってしまいそうだったから。
私達は、気分を変えて、ゲーム機を使って二人で並んで遊ぶこととなった。
一緒になって遊びながら、常に相討ちで、喧嘩をすることもなく、時間だけが過ぎていく。
晩御飯を食べて、また互いセクハラ攻撃を掛け合いながら、交互にお風呂に入りつつ、もうすっかり日は落ちて夜を迎える。
「「楽しかったね」」
私達は素直にそう答えた。
自分同士で遊ぶのは、趣味とか趣向とか同じだからきっと盛り上がるんだろうなと思った。
実際に、時間が過ぎるのを忘れてしまうほどに話は盛り上がったし。
なによりも、部屋で孤独でいるということを感じなかった。
きっと家族がいるとこんな感じなんだろうな。
私達は、ベッドの上で、お互いを見つめ合う。
もう一人の自分が出てくるなんて、夢にも思わなかったけれど……。
「じゃあ、おやすみ」
「きっと寝たら、またいつもの日が来ちゃうんだろうね」
「なになに?寂しい?私がいなくなっちゃうの?」
「あんたこそ寂しいんじゃないの?人の手さっきからずーっと触ってるけど」
いつの間にか私は無意識に私の手を撫でている。
きっとあれだ。
分裂した体が戻ろうとして、ボディータッチが多くなっているだけだ。
だから、これは仕方がないことだ!と自分に言い聞かす。
私達は、ただ黙ってお互いにと顔を向けあいながら、一緒にベッドにと眠る。
「おやすみ、私」
「おやすみ、綾音」
私達は、無意識に……きっと、たぶん。
お互いの手を握り合った。
離したく……なかったから。
友達として、だったら相手が自分でも一緒にいて、悪くないかな。
そう思った。
今日一日、楽しかった。
いなくなったとしても……きっと、今日のことは忘れない。
私達は、そう思った。
なんでだろう……その日は、とてもよく眠れた気がする。
安心……できたからかな。
「「って、戻ってねぇーーーーーー!!!!!」」
翌朝、私達は現実を知る。
相変わらず戻らないまま、ベッドの上で、現実、目の前に私はいた。
ボサボサの寝癖のついたパジャマ姿。
そんなもう一人の私が目の前にはいる。
……こうして、私達は、二人の櫻井綾音として生活をしていくこととなっていくのだ。
一か月後
「おはよう、今日は、あんたの当番だっけ?」
「そう、あんたは掃除に洗濯、買い物よろしく」
朝食の支度をする私に、洗濯物を洗濯機にと投げ込む私。
制服姿の私を見送る私服姿の私。
私達は、お互いに笑顔を見せて、手を振りながら、見送る。
私が、家を出て行き、残される私。
扉が閉まり、私達は同時に想う。
あれ?なにしてるんだ、私達。
えーっと……なんで、こんな、普通の生活を送っちゃってるんだ。
私は二人になったんだよね?
普通じゃないし。異常なことなはずなんだけれど……。
まあ……別に不便もないし、いいか。
私達は、ふと、そんなことを思い浮かべながらそれぞれの役割をこなす。
そう……私達は、この一ヶ月の間で、二人でいる生活に完全に
慣れた。
人間とはこうも環境の変化に順応するものなのだろうか。
私達は、自分が二人になったことに対して、もう違和感などなくなっていた。
よくよく考えれば、双子の姉妹ができたと思えばいい。
いつも、誰かと一緒にいれる……寂しくないし、ちょうどいいじゃないか!
そう、私達は自分たちに言い聞かせながら、奇妙な共同生活を続けていくこととなったのである。
喧嘩とかもしないし、私が嫌いってわけでもないし。
どっちかっていうと話も合うし、一緒にいて楽しいかな―なんて思っちゃったりもするわけだ。
自分同士で、仲良くしているのって、変なのかもしれないけれど。
だ、誰も見てないんだし……いいよね?
学校と家事は交互に実施。
家に帰ってきたら、その日の情報を交換する。
何だったら額でも合わせれば、記憶とかも模写できれば完璧だなーとか思いつつ
そんなことをしていれば、夕食、お風呂と言う生活サイクルな訳だ。
「なんだか、こんなのでいいのかな」
私は湯船につかりながら、今日までのことを思い返す。
自分と一緒になってご飯を食べて
自分と一緒になって遊んで
自分と一緒になって眠って
しかも、それがとっても楽しくて……幸せで。
家族?友達?まあ、そういうもんなんだろうけどなぁ……。
私は湯船に、顔の半分を沈めて口から息を吐いて泡立てる。
湯船で体を温めて、立ち上がる私。
身体を洗い終えていた私は、そのまま、身体をタオルで拭いながら、浴室から外にと出る。
「もうでたー??」
ドアを開ける私。
目が合う私達。
私、全裸。
もう一人の私も、下着姿。
私達はお互いを見つめながら、暫く沈黙が続き……
「なんで全裸なんだーっ!!服着ろ!!」
「何見てんだ!ド変態ーっ!!」
私達はお互いに言葉をかけ合い、指を差し合う。
「だいたい風呂場で全裸なのは当たり前でしょうが!!」
「そんなこといったら、あんたの裸なんか、自分の裸なんだから見飽きてるっツーの!!」
「じゃあ!!服着ろていう、あんたの突込みがおかしいだろうが!」
「なら、ド変態って言葉をすぐに訂正しろ!!」
「だいたいいつも自分相手にセクハラをしている奴が言えることか!」
「自分のことを言っているの!?私だけじゃないでしょうが!!」
私達は、お互いを指さし合いながら全裸と下着姿で怒鳴り合う。
そんなことを続けていた私達は、お風呂から出たばかりで足元が濡れていたことで
まず私が滑る。
目の前にいる私。
そして、真正面からぶつかる。
そのまま、倒れる。
「「んん……」」
柔らかい感触がする。
全身が包まれている。
温かくて、甘い匂いがして……ずっとこうしていたくなるような。
ゆっくりと意識が覚醒し、目を開く。
そこにいるのは、私。
同じように目を開けて私を見ている。
目の前に過ぎて鼻が当たっている。
もう、なんでこんなことに、ってか、お前のせいだろう!?
私達は私達にそう怒鳴りつけてやろうと口を開けようとした。
「「んんふぅ……」」
漏れる声。
私達は自分たちの口元を見る。
重なっている。
しっかりと、ぴったりと……。
「「ん??」」
全てを察知した私達は、お互いから離れる。
「「なあああああ!!?」」
「なにしてくれてんだ!!あんたは!?」
「それはこっちの台詞だ!!私のファーストキス返せぇえ!!」
「それこそこっちの台詞だ!!自分同士でファーストキスなんて……」
「だーかーらー!!それは私の台詞だ!!」
「ちがーう!!私の台詞だ!!!」
壁際に背中を押し当てながらお互いに言い合う私達。
私達は、こうして、不意な事故により互いの、ファーストキスをお互いに捧げあってしまったわけだ。
私達は涙目になりながらも、互いの風呂に入り、一つしかないベッドである以上
一緒に寝ることになる。
私達は、さっきのこともあり、お互いに背中を向けあって眠ることにする。
背中同士ぴったりと押し付け合いながら……。
「「もっと、そっちによりなさいよ」」
互いに言い合う私達。
同じ声を絡ませ合いながら言い合った言葉に、私達は互いの方を体勢を変えず顔だけ見る。
「人の陣地に入り込もうとするのは、よくないと思うぞ?私ならばわかってくれるはずだけど」
「あらあら、それは同じ私であるならば、そっちこそ、理解をしているものだと思ったけれど」
「なるほど!太ったのか?だから、幅を取っているんだな?」
「気にする必要はない、お前が太ったのは私と比較すればわかる話だ」
「デブと比較したら私が痩せていることは明らかだろうが!!」
「デブにデブなんて言われたくないっ!!」
だんだん露骨な表現になり、背中の押し合い……だけにとどまらず
お尻同士で押し合いへし合いを始める私達。
同じ大きさ、弾力性を持つ綾音同士のお尻がしっかりと重なり合う。
「「あっちいっっけぇーーーーー!!!」」
結果、引き分け。
疲れ果てた私達は、そのまま眠ってしまった。
え?楽しかったんじゃないのかって?
……まあね~~。
自分同士でファーストキスなんて、ノーカンでしょ。ノーカン。
「「おはよう~~」」
眠そうな顔をお互いに見せ合えば、大丈夫、すぐに仲直り~。
自分同士で不毛な喧嘩はしない。
だから、さっきのはただのじゃれ合い。
あーしているのだって、嫌いじゃないし、楽しいって思えるくらいの余裕は私にだってあるんだから。
そう、ただのじゃれ合い。
冗談なんだからさ。
じょう……だん。
さらに一か月後。
私達の……部屋。
「隙あり!」
「きゃうん!ったく、やりやがったなー!!!お返しだ」
「お尻揉むな!このド変態!!」
「自分に言え~~!!!」
変わらない自分同士でセクハラ合戦。
相手は自分だから遠慮なんかしないし、する必要もない。
お互いの手は、自分自身の胸に触れ、さわり、揉んでやる。
お尻もしっかりとつかんで、揉みほぐしてやる。
自分の身体だから、大丈夫、変態でも痴漢でもないんだから……。
ただ、その行為は変態じゃないかもしれないけれど。
私の脳裏に過ぎることは変態なことだ。
それは、お風呂場で事故ったキスのこと。
毎晩夢で見る。
毎晩あの続きを夢で見てしまう。
互いの肩にと手を置いて、自分の方にと引き寄せあう。
そして唇を押し付け合ったまま何度も向きを変えて重ね合う。
お互い、私達を見つめ合って、その瞳は濡れていて……目を閉じる。
そんな細かい内容のことを何度も夢で見てしまうのだ。
あんなこと、求めてない。
求めてなんかいない、相手は自分なんだから、そんな気持ちの悪いことなんか、思ったりなんか……しないんだから。
「って!!顔近いっツーの!!」
「そっちが近づいてきてんでしょうが!?」
「「うう……あんた!」」
私達はふざけあっていて、いつの間にか、身体を寄せ合っていたことに気が付いて、お互いの顔を腕を伸ばして放しながらお互いにと言い放った。
私達は、お互いから離れてそれぞれの役割にと戻る。
私は学校に
私は家事を
「いってきます」
「いってらっしゃい」
扉が閉まる。
振り返る私達。
扉を挟んで、私達は、私達を見た。
私と同じ姿、同じ心を持つ私を……見つめ合った。
……。
何とも言えない気持ちが私の中にあった。
ただ、胸が痛かった。
私達は自分の心の身体の異変にと気が付き始めていた。
相手は自分だ。
自分相手に、変な気持ちなんて持つことなんてありえない。
ましてや……特別な感情を持つことなどありえない。
でも、私達は、分裂をしてしまってから、おかしくなっていたんだ。
それに気が付かなかった。
気が付けないくらい、その進行速度は遅く、そして徐々に私達の心を侵していく。
そして、気が付いた時には、もう……手遅れになっていて。
「「……痛い」」
教室の席で……。
家のベッドの上で……。
私達は自分の胸を抑えながらつぶやいた。
その気持ちがなんなのか……私達にはわからなかった。
でも、それをもう一人の私に言うことはできなかった。
……知っていたのかもしれない。
気が付いていたのかもしれない。
家に帰れば、そこはいつものように、過ごす。
「ただいま」
「おかえり」
そんないつもの会話を交わして、面白おかしく今日の出来事を共有。
そして、夕食を手伝い、お風呂に入って、一緒に寝る。
何も変わらない、いつもと同じだ。
ただ……変わったことは、私は私をよく見るようになった。
話しているときとかじゃなくても、目で私を追っている。
そして、その視線が良く重なり合うようにもなった。
「「なに?」」
「あんたが見てきたんでしょうが!?」
「あんたでしょうが!なにかようなの?」
「な、なんでもないよ」
「なんでもないなら見るなっつーの!」
「あんたこそ、なんなのさ」
「べ、別に……なんでもない!」
一緒に眠るベッドで……。
私達は、お互いの方を見て、目を閉じる。
眠る毛布の下で片手が触れて、指が触れ合う……。
私達は、その人差し指を絡ませた。
……普段セクハラ行為をするよりも、ずっと……心臓音が高鳴り、満たされる感覚があった。
痛い
苦しい
痛い
苦しい
私は、友人に学校で聞いた。
「ある奴といると、胸が痛くなって苦しくって、でも一緒にいたいーって思うのってなに?」
「あ?なにそれ?」
「いいから答えろ」
「そんなの、そいつのことが好きだってことだろ?」
「え?」
「え?じゃなくて、好き、愛してる、付き合って、抱いて~ってやつでしょ?」
友人の言葉が頭の中でぐるぐるとまわる。
私の脳裏に過ぎるのは、もう一人の私が、私を見つめて友人の言葉を私に向かって囁いている姿だった。
『好き、愛してる、付き合って、抱いて……』
「な、な、な……何言ってるのおおお!!そんなわけあるわけないでしょうがああああ!!!」
私は友人の胸ぐらをつかみ、大声を上げる。
友人は私の変わりように驚きながら、呆然としている。
「そんなこと、あるわけない!あるわけないって!そんな気持ちの悪いこと、あるはずないんだから!!」
でも、口では幾らそう言っても……。
私は、自分で分かっていた。
答えなんかでていた。
ただ、認めたくなかっただけで。
二人になっちゃった、それだけで、私達がこうなることは、決まっていたのかもしれない。
私と私は欠けた半身同士……身も心も引き寄せあうのは当然のことなんだろう。
でも、私は認めたくなかった。
自分が好きだって、自分が大好きだって……認めたくなかった。
だから、私は家に帰らなかった。
帰りたくなかった。
帰って、私と会えば、それだけ私の気持ちは、ううん……私も、私も、私たちお互いに対して気持ちが高まり続けるだろう。
だって、私達は、お互いを求め合う存在だから。
私たち以外に、もし分裂した人達がいたとするのならば、きっと、誰もが同じことをするのだろう。
みんな、結果的には、そのお互いを想う気持ちを止めることはできないはずだ。
だったら、会わなければいい。
そうすれば、きっと、今のこの気持ちも、収まるだろう。
それがいい。
それが一番だ。
胸の痛みを堪えつつ
苦しさから逃れるように、私は家から離れるように歩く。
行く宛のなんてない。
ただ……逃げたくて、遠くに行きたくて歩いていく。
既に日は落ちて、辺りが暗くなる中、私は河川敷の土手の上を歩いていく。
暗いその道を、私はただ歩いていく。
「……なに、してるんだろう。私」
私は、自分の行動を考えて笑う。
こんなことしたって、無意味なのに。
なんで、私は、私のことを認められないのかな。
……違う。
認められないんじゃない。
認めることが、怖いだけ。
私が私のことを好きになって、付き合ったら、どうなってしまうんだろう。
お互いが、お互いの想うことが同じだから。
好きなことの際限がなくて……ドロドロに溶け合うほどに、お互いに溺れてしまうだろう。
そんなことになってしまえば、外に出ることもやめて。
ずっと、お互いだけを見つめているだろう。
他のことに目も耳も傾けないで、ただ全身で、私同士を感じ合うだろう。
気持ち悪いし、ありえない……でも、私は、そうなってしまう確信があった。
それを望んでしまっている自分が、私の心の奥底には確かに存在したから。
「帰り道はそっちじゃないぞ、このバカ」
振り返った私の前には、自転車に乗った私がいた。
その表情は汗をかいていて、大きく息も吐いている。
ここまで探しにきたのか。
バカな奴……私なんか放っておけばいいのに。
「何してんだよ!心配したんだから!!」
私の目の前で私を叱り飛ばす私。
その目は今までふざけていたものじゃない、真剣そのものだ。
私はうつむき、私から視線をそらした。
「……私さ、あんたに会っちゃ駄目なんだよ」
「はあ?!何言ってんのさ?なんで、駄目なの?」
「駄目なの……あんたに会ったら、あんたと一緒にいると」
私は、顔をあげて、私を見る。
「……あんたが、大好き……なの」
私の言葉に、目の前の私の表情が固まる。
私は、自分の手を握りしめる。
「あんたが、私が、櫻井綾音が!!大好きで、大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで大好きで!!!!!どうしようもないから!!!」
私は、大声で地面を見て叫んだ。
胸の中で溜まりにたまった、バカの私に対しての言葉を吐きだす。
もう、我慢なんかできなかった……どうしようもない気持ちだった。
こんなバカでどうしようもない、私のことだけしか、もう考えられないように私はなっていた。
「なに……言ってんの?あんたは?」
私の言葉が返ってくる。
「家に帰らないで、迎えにきてやってみれば、いきなり告りだすし……」
あれ?
「しかも、告白の相手はあんたと同じ私だし、なに?ナルシスト?気持ち悪いって!」
あれれ??
様子がおかしい。
てっきりがばっと抱きしめられて、そのままキスされて、服脱がされて、ここで!?みたいな展開だと思ったけど。
あれ?もしかして、ここまでのことって勘違い?
壮大な、私の思い込み??
私は恐る恐る顔を上げる。
「おかしいな、なんで、私……こんなバカな話聞いてるのに、涙が……と、止まらないんだろ……おかしい、おかしいよ」
私の目の前では、私が大粒の涙を零しながら、私を見つめている。
バカは……どっちよ。
あ、でも……私がバカなら、私も……バカか。
だって……私もあんたと同じ、泣いてるもん。
「おかしいよ、私達。どっちも、同じ私だし……おかしいに決まってるじゃん」
私が私を抱きしめる。
私の背中に手が伸びて強く抱きしめられた。
同じ体が強くひきつけあい
欠けた半身が元に戻ろうとする。
全身が、心が……震える。
温かくて、柔らかくて、気持ちがいい……。
「私も……あんたが、大好き。大好き……綾音、綾音、綾音、綾音……大好き……」
ああ、言っちゃった。
とうとう……言っちゃったね。
もう……私達は戻れない。
私達は、お互いのことだけしか、もう……見れない。
他のものを見たくないし、見ることができない。
大好きで、大好きで……どうしようもない私だけしか、もう……。
でも、これはきっと予定調和。
いつかきっと、起こってしまうものだった出来事。
そーいうこと。
3か月後
「いってきます」
「いってらっしゃい」
それは、いつもと変わらない光景。
お互いの役割を持って、その一日を始める。
で、行く前に……、私達はその唇を重ね合わせる。
目を閉じて、お互いの肩に手を振れて、顔を近づけて。
朝起きてから2度目のキス。
朝、ベッドで目を開けて全裸同士でするおはようのキスと、行ってくる前のキス。
本当は、離したくなくて、名残惜しそうな顔を見せ合う。
って、やめやめーっ!!ただのノロケ話。
私達は、そういって扉が閉まる前まで、手を振り合う。
どうして、役割分担を続けているかって?
だってさ……。
そうしないと、本当に、もう……一緒に。
何もせずに、ただ、お互いだけをずっと……ずーっと求め合うようになってしまうと思うから。
今だって……本当はそうしたいって、想ってしまっているから。
「そういえば、最近、セクハラしなくなったね?なんかあったの?」
学校の友人が声をかけた。
私は、笑顔で、友人を見る。
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友達は、飲んでいたお茶を噴出した。
「私」は『私』と恋をする。
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