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私を拾ったのは、あの日泣いた、赤鬼さんでした。

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むかしむかし、あるところに、ひとりのおんなのこと、あかおにが、くらしていました。
これは、おんなのこが、あかおににひろわれて、しあわせにくらす、おはなしです。
  




 私が生まれたのは、田舎にある小さな村の小さな家。そこは、閉鎖的な村で他者を寄せ付けません。その村の出身だった父は、私が生まれてくる前に事故で亡くなり、母は、他所から嫁いできた娘だったため村のものに受け入れられていなかったようです。
 
 私を無事に産むために、母は毎日一人で頑張っていたそうです。栄養のあるご飯を食べるために一生懸命働き、なんとか村の医者に出産を手伝ってもらおうと頼みこみ、産まれてきた私が孤立しないように、村の子供達に毎日話しかけて受け入れてもらおうと頑張っていました。

 しかし、その努力も虚しく、医者に手伝ってもらうこともできず、ひとりきりで私を産んだそうです。日々の心労も祟り、私を産んでそのまま、母はなくなってしまいました。

 私はもちろん、村のものに受け入れられるはずもなく、産まれた状態のまま放置され、次第に弱っていきました。

 このまま、また死んじゃうのかな?そう思った時、彼が現れました。

 

 真っ赤な髪に真っ赤な目。目つきは鋭いし、角もはえている。ある者は腰を抜かし、ある者は走って逃げていく。それほど恐ろしい容姿をした彼……赤鬼さんが、死にかけていた私を拾ってくれたのです。

 それから私は、深い山の中の赤鬼さんのお社で生活しています。

菜乃花、一歳。
 「おにしゃん、おにしゃん。おにしゃんにおなまえはないでしゅか?」
 「……ないな。なんならお前がつけるか?」
 「なのかがでしゅか?いいのでしゅか?」
 「ああ、いいぞ。」
 「じゃあ……おにしゃんはまっかなので、紅ってかいてコウってよむでしゅ。」
 「紅か。うむ。良い名だ。これからは紅と呼ぶがいい。」
 「あい。紅。」

菜乃花、三歳。
 「紅!またちらかして!おそうじするの、なのかなんですから、もっときれいにつかってください!」
 「悪い悪い。」
 「ぜんぜんわるいっておもってないですよね?」
 「そんなことないぞ。菜乃花は掃除まで完璧で偉いな―。さすがは俺の嫁。」
 「だれがよめですか!!この、ろりこん!!」
 「こら!そんな言葉どこで覚えてきたの!駄目でしょ!……それに、俺は断じてロリコンではない!」

菜乃花、五歳。
 「紅。紅はもう料理しなくていいです。菜乃花がします。」
 「おお、いつ言い出すかと思ってたよ。やっとか。」
 「紅。一応聞いておきますが、申し訳ないとか思わないんですか。」
 「全く思わんな。俺は菜乃花の料理が好きだ。」
 「……もう。そんなこといっても全然嬉しくないんですからね!……今日の晩御飯は、紅の好きなお肉にすることにします。」 
 「めちゃくちゃ喜んでるじゃねえか。」
 「うるさいですよ!!」


 それから、七歳になると私は、山の麓にあるお団子屋さんで働き始めました。お団子屋さんのおばあちゃんは、とても優しいのです。私が失敗しても怒らないし、帰りには毎日、お団子を持たせてくれます。私はおばあちゃんが大好きです。



 こうして、毎日平穏に過ごしてきた菜乃花は10歳になりました。

 その日、家に帰ると紅が玄関の前で倒れていました。

 「……紅?…………紅!紅!!」
 「……はら、へった。」

 ……心配して損したのです。私はコウを放おって置いて、そのまま家の中に入りました。

 「……おい、菜乃花。放おって置くなんてひどいではないか。我は悲しいぞ。」
 「あんな馬鹿なことをした紅なんてしりません。心配して損した。」

 紅はたまに、あんな風にイタズラを仕掛けてくるのです。毎回、引っかかってあげているのは紅には内緒です。……かまってほしくてあんなことをしている紅は、ちょっと可愛いと思います。

 「……腹が減っているのは本当だ。早くお前が食いたい。」
 「……紅。それは、捉え方によってはセクハラになりますよ。」
 「そんなふうに考える菜乃花が悪い。早くお前の魔力をよこせ。」
 「もう。紅はわがままなんですから。」

 紅の食事は、主に魔力です。私の魔力の味が大好きなんだそうです。私から直接魔力を食べるのは三日に一回。それ以外は、私の作った料理に混ざっている魔力を食べています。単純に私の料理が好きだとも言っていましたが。

 私は紅に首筋を差し出しました。紅の魔力の吸い方は、まるで吸血鬼ですね。

 私は紅に魔力をあげる時、少しドキドキしてしまいます。だって……私は紅のことが大好きなんですから。こんなこと毎日していたら私の心臓が持ちません。三日に一回の約束を勝ち取って、本当に良かったです。




 それから二年経ち、私は十二歳になりました。

 いつものように、朝からお団子屋さんに向かうと、いつもは起きているおばあちゃんが起きていませんでした。私は、おばあちゃんを起こしに向かいました。何度声をかけてもおばあちゃんは起きてきません。私は、不安になり、おばあちゃんを揺さぶろうと体に触れました。

 おばあちゃんは、冷たくなっていました。

 私は、それからの記憶がありません。気づいたときには、紅に抱きしめられていました。

 

 それから、一週間経ち、ようやく落ち着いてきた私は、お団子屋さんに向かいます。おばあちゃんがいなくなってしまっても、休憩をしに立ち寄る人はたくさんいるのです。一人でするお仕事は、寂しいし大変だけど、私がずっと落ち込んだままだと、あばあちゃんも安心してお空に行けないのです。

 それに、最近は紅が毎日お昼に、お団子を食べに来てくれます。ただ、お団子を一本食べていくだけで、すぐに帰ってしまうのですが、私はとても嬉しいです。



 私は、15歳になりました。もう、結婚もできる立派な大人の女性です。

 でも、最近の紅はなんだかよそよそしいのです。私は不安でたまりません。もう、一人で生きていける大人になったから、紅は私を捨ててしまうのでしょうか?紅は私がいなくなったら生きていけないと思うのですが……。

 その日、紅は出掛けていて、私は久しぶりにひとりの夜を過ごしました。七歳を過ぎたあたりから寝室は別にしていたのですが、隣の部屋に紅がいる、というだけで安心感があったのです。紅のいない夜は、とても寒く感じます。こんな日はあの日のことを思い出すのです。



◆◇◆◇◆◇◆ 

 私が菜乃花として生まれる前、私はそこで、1089番と呼ばれていました。

 そこは、真っ白でひどく冷たい、天国のような地獄のような、寂しい場所でした。

 私は毎日、白衣を着た大人に体中を調べられ、テストを行い、成績が悪いと折檻される。そんな毎日を過ごしていました。私のからだは、たくさんの注射の跡と、鞭でできた傷でいっぱいでした。

 そんな中でも、私にはとても楽しみな日があったのです。それは、お勉強の日。別に、お勉強が好きだったわけではありません。どちらかというと苦手です。私の成績は他の方たちよりも悪かったのだそうです。でも私は、お勉強の日にだけ会える、0008番さんが大好きだったのです。

 0008番さんは別に、特別優しくしてくれたわけでも、かっこよかったわけでもありません。むしろ顔は怖かったです。でも、私はその人が大好きでした。0008番さんは、私が正解すると優しく頭を撫でてくれるのです。ここにいる大人で他に、そんなことをしてくれる人はいません。

 他の大人の目はいつも冷たく、私を物のように扱うのです。でも、0008番さんの目は、とても暖かいのです。私を一人の人間として見てくれていました。顔はものすごく怖いのですが。


 


 その日は、お勉強の日でした。私のからだは、いつものように動かず、ベットの上から動けませんでした。お腹のあたりから何かが流れ出ているような感覚もしています。そういえば、昨日の折檻はいつもよりひどかったですね。お腹の傷が開いちゃったのでしょうか?

 でも私にはそんなこと、どうでもよかったのです。もしかしたら0008番さんが、抱き上げて椅子まで運んでくれるのではないかと少し期待していました。しかし、私はなんだか寒く、眠たくなってきたのです。


 私が眠りにつく直前、0008番さんが部屋に入ってきました。

 私を見た0008番さんの目は大きく見開き、びっくりした顔をしていたのです。

 「ふふっ。そんな顔初めてみました。今日はいい日ですね。」

 0008番さんは、私に駆け寄ってきて抱きしめてくれたのです。今日は、本当にいい日ですね。

 「そんな顔しないでください。私はあなたの笑った顔が見てみたいのです。」

 彼の眉は顰められ、とても苦しそうな顔をしていました。

 「最期に、笑った顔を見せてください。」

 私のお願いは、聞き入れてはもらえませんでした。0008番さんは、私を強く抱きしめ、私の首筋に顔を埋めていました。その体は、少し震えていたように思います。

 「しょうがない人ですね。」

 そう言って、最後の力を振り絞り、彼の頭を撫でると、ゆっくりと顔を上げてくれました。

 最期に、あなたの顔を見ながら逝けるなんて、私はとても幸せ者ですね。

 その時、視界に映ったものは、少し乱れた真っ赤な髪に、涙に濡れた真っ赤な目。眉が顰められ、いつもより数倍怖い、0008番さんの顔でした。

◆◇◆◇◆◇◆




 「……0008番さん。」

 目が覚めると、真っ赤な髪と目の、怖い顔が私を覗き込んでいました。

 「……我には、紅という素晴らしい名前がある。……うなされていたが、またあの夢を見ていたのか。」
 「だって、最期に紅は笑ってくれなかったんですもの。」
 「あの状況で笑えるか、ばかやろう。」 

 クスクス笑うと紅の眉は顰められてしまいました。怒らせてしまったようです。

 「今日は、帰ってこないのではなかったのですか?」
 「また、お前が泣いている気がしてな。急いで帰ってきた。」
 「私のために帰ってきてくれたのですか?」
 「当たり前だ。我の最優先は、昔からお前だよ。」

 なんだか今日は、紅が甘いです。今なら、勢いで言っちゃえるかもしれません。

 「ねぇ、紅。私が三歳の頃に紅が私に言ったこと、憶えてますか?私は紅の嫁だって。」
 「?覚えているが。それがどうした。」
 「……もし、今でもそう思ってくれているのなら、私は、紅のお嫁さんになりたいです。」

 言っちゃいました!顔が暑いです。紅の顔をまっすぐ見れません。

 「……何言ってるんだ?お前が我の名前をつけた時点で、お前はとっくに我の嫁だぞ?菜乃花。」
 「……は?」
 「あれ、言ってなかったか?……鬼は産まれたときに名を持たない。夫婦となるものが、お互いに名をつけ合うのだ。お前の名前は我がつけたし、我の名前はお前がつけた。その時点で夫婦となっているぞ。」

 夫婦。……私と紅が。…………すでに夫婦。

 「ふむ。菜乃花から我の嫁になりたいと言ってくれたということは、菜乃花は我を好いているということだな。つまり、これからは我慢する必要は無いということか。……よし!菜乃花!我は準備万端だぞ!いつでも襲いかかってくるがいい!」

 「こぉ~~~~う~~~~」

 「こうの、ばかぁ~~~~~!!!!」


 「な、なのか!違う!襲いかかるの意味が違うぞ!!いてっ。こら!痛いぞ菜乃花!」
 「もう紅なんか知りません!!!」

 
 思いが通じ合ったその日、私はしっかりと紅に襲いかかりました。(攻撃的に)





 めでたしめでたし?
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みんなの感想(1件)

せち
2024.01.30 せち

う〜泣いてしまいました😭
素敵なお話をありがとうございます✨

解除
1 / 5

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