夢のテンプレ幼女転生、はじめました。 憧れののんびり冒険者生活を送ります

ういの

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日常編

127 後始末と反省会

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「お疲れ様、チナちゃん」

 唐突に迎えた戦いの終幕はあっけないもので、呆然と立ち尽くしていた私に掛けられた言葉を、しばらくの間理解できなかった。
 耳に入っていたはずのその声を脳が認識するまでの間に、アルトさんはグランウルスの状態を確認し、回収までしてしまう。
 目の前に倒れていたさっきまで戦っていた敵の亡骸が消えたことで、私はふっと気が抜けたようだ。

 膝が崩れ落ちるようにして尻もちをつく。自分の体を見れば、血やら土やらでドロドロだ。なんか、もういいか、という気分になって、私はそのまま背中から地面に倒れた。仰向けに寝転べば体の力が全て抜けたようで、全身にグンと圧がかかったように感じる。もう起き上がれる気がしない……。
 目を開けば、視界いっぱいの緑と青。枝葉のフレームから覗く空の青さが眩しい。とんでもなく長い時間戦っていたようで、実際はそうでもなかったのだろう。太陽の高さはあまり変わっていないようだ。
 
 ぼーっと空を眺めていると、突如、見上げる視界が塞がた。代わりに映り込むのは、シエルの顔だ。真っ白の柔らかい毛並みに光が透き通ってキラキラとしている。
 シエルのお腹に顔を埋めたいという欲が湧き上がるが、今の私の姿を考えればそんなこと恐ろしくてできない。……とりあえず、自分の体を綺麗にしておこうと魔法で洗浄した。

「チナ、大丈夫?」

 大丈夫か大丈夫じゃないかで言えば、大丈夫じゃない。精神的にも肉体的にもすごく疲れた。ずっと緊張状態だったせいか、その疲れが一気に襲ってきたようで、今は指一本たりとも動かしたくない。そんな状態だから声を出すのも億劫で、ただ無言でシエルを見つめるだけにとどめた。

「大丈夫じゃなさそうね」
「チナちゃん、他の魔物が寄ってきちゃう前に後始末だけしたいんだけど……」

 苦笑気味なシエルに続くように、アルトさんが遠慮がちに声を掛けてきた。確かにそれは重要だ。ここは血の匂いと争いの気配が充満しすぎている。いつ血の気の多い魔物が襲ってくるかわからない。
 最後の気力を振り絞って体を起こすと、荒れ果てた周囲の様子が目に入る。これは早急になんとかせねばなるまい。私は座った状態のまま地面に手をついた。

 血の匂いを消すため、火魔法で地面を焼く。草まで燃えてしまうが仕方がない。土魔法で地面をかき混ぜ、平らにならした後、植物の成長を促すようにすればあっという間に元通りだ。傷つき、倒れてしまっている木々にも治癒を施せば、そこには争いなど一切なかったかのように様変わりする。
 魔法は楽だ。イメージさえできれば後は有り余る魔力で補ってくれるのだから。億劫だった後始末も、思ったより楽に終わった。

 もう一回寝よう。と、体を後ろに倒せば、地面と平行になる前にぽすんと背中に何かが当たった。振り向いて確認してみれば、そこには伏せたシエルが。思わず体を反転させてギュッと抱きつく。
 シエルはそのまま立ち上がり、私はシエルの背中に載せてもらっている状態となった。どうやらこのまま運んでくれるらしい。

 心地よい揺れにうつらうつらとしながらも、最初のキャンプ地へと戻って来た。
 たくさんの魔物を手に入れてホクホク顔のアルトさんは、鼻歌を歌いながら荷物の整理を始める。ハンモックでは珍しいことにカイルさんが爆睡していた。ライくんは相変わらず木の上でお昼寝だ。
 スースーと寝息を立てる穏やかな顔のカイルさんに惹かれ、私は無意識のうちにカイルさんの横に潜り込んでいた。すでに半分寝ているような状態だった私は、一瞬のうちに眠りに落ちていた。


 
 目が覚めたのは、日が落ち始めた夕暮れ時。オレンジ色に染まった空が、赤や黄色の紅葉を明るく照らし、昼間とはまた違った趣のある空間を作り出している。
 隣に眠っていたはずのカイルさんはすでにおらず、ハンモックの中には私一人。いつの間に掛けてくれたのか、私の体は薄手の毛布に包まれており、秋の肌寒さを緩和してくれている。空を見上げて眠っていた私は、むくりと体を起こした。
 
「お、起きたか」

 緩慢な動きでその声に振り向けば、カイルさんが丸太に座り、焚き火で温まっていた。小さく聞こえる、パチパチと何かが爆ぜるような音は、焚き火だったらしい。
 霞む目を擦りながらハンモックから降り、そちらへ近づけばカイルさんが寝癖を直してくれる。毛布を置き去りにしてしまったせいで冷え始める体は、焚き火の炎が温めてくれた。
 カイルさんと場所を変わり、丸太に座る。その間にカイルさんはあっという間にハンモックを片付けてしまった。

「チナちゃん、これ食べる?」

 焚き火の反対側で何やらゴソゴソしていたアルトさんが差し出したのは、紫色の細長い塊。湯気がのぼるそれを恐る恐る手に取れば、それは今年の秋は必ずやろうと楽しみにしていた焼き芋だと分かった。

「やきいもだ!いつのまに」

 一瞬にして脳が覚醒した。半分閉じたままだった目が、パッと見開く。
 ドキドキと胸を高鳴らせながら焼き芋を半分に割れば、ふわりと甘い香りが漂った。中は濃い黄色、密がたっぷり詰まっている。こんなに良いお芋、どこで手に入れたんだろうと重いながらかぶりつけば、今まで食べたどの焼き芋よりも、甘くて美味しく感じた。

「ん~!」

 半分に割った片割れは一旦膝の上に待機させておきながら、もう半分を堪能する。薄くて柔らかい皮は特に気になることもなく、剥かずにそのまま食べ進めた。
 向かいでは、焚き火をいじりながら同じように焼き芋を食べるアルトさん。カイルさんとライくんは、一生懸命栗を向きながら頬張っている。従魔たちも、焼き芋と剥いてもらった栗を黙々と食べていた。
 ちらりとカイルさんへ視線を向ければ、私の口元にむき身の栗を差し出してくれる。一度、口の中を水でリセットして、栗にかぶりつく。ギュッと詰まった身はホクホクと柔らかく、ほんのり感じる甘さと栗の香ばしさが口いっぱいに広がった。

 みんなで黙々と秋の味覚を堪能する。食べるのに忙しいあまり誰も喋らず、あたりは焚き火の音と風の声しか聞こえない。
 私は、昼間の戦いのことを思い返していた。

 足止めしながらも一匹ずつ短剣で倒していったコルピッド。脳震盪を起こさせ、水刃で首を落としたストーンボア。攻撃を回避し、隙を待ち続けたグランウルス。
 コルピッドには数匹逃げられたが、概ね私の勝利といえる結果だった。
 しかし、今思えばもっと良い戦い方などいくらでも思いつく。もっと冷静に、もっと柔軟に魔法を使えていれば、ここまで苦労すること無く倒しきれただろう。
 
 今回の戦いで、私の弱点が判明した。
 それは、咄嗟に魔法が使えないこと。

 私は、創造魔法という、イメージできるものなら何でもできるチート級の魔法を持っている。これがあれば、どんな戦いにだって負けない。対人戦であれば出しどころを考える必要はあるが、こんな誰も来ないような山奥で出し惜しみなんてする必要は無いのだ。
 しかし、私にはそれができなかった。正確に言えば、頭の中で作戦を組み立てた後なら、十分に使えてはいたが。自分の中で、「この魔法さえあればなんでもできる」と思い込んでいた私は、十分に魔法の練習をする時間を取っていなかったのだ。
 最近の鍛錬では、身体づくりと短剣の練習ばかりをしていた。もちろんそれが大切なことは分かっている。短剣での戦い方なんて、練習しないと確実に身につかないのだから。
 ただ、それは魔法にも言えることだったのだ。「魔法の使い方を知っている」「イメージさえあればなんでもできる」それだけでは、戦いに活かせるはずなんて無かったのに。

 普段やらないことを、戦いの中の一瞬の判断でできるはずなど無かったのだ。
 初めて使う魔法ともなると、イメージを固めるためにも更に集中力を必要とする。一対一、もしくは一対多での戦闘の中でそこまで集中力を割けるかと言われると自信が無い。その分、隙が多く生まれてしまうことは間違いないだろう。
 そうならないためにも、普段から様々なパターンを考えて、こういったときにはこの魔法、など想定しておくのが良いだろう。これからは、魔法の鍛錬も力を入れていく必要がある。

 反省点は多いが、こうして次へと繋げられる戦いができたことに私は満足した。今後の課題もまとまったことだし、今回の反省会はこれで終わりとする。あまりグダグダ考えすぎても良くないと思うしね。

 焼き芋の最後の一欠片を口に放り込んで、私は帰り支度を始めた。
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