神様自学

天ノ谷 霙

文字の大きさ
246 / 812

10月3日 光と音

しおりを挟む
話し終えた稲荷様は、遠くを見ながら深く息を吐いた。首元に、汗の垂れた痕がある。緊張していたようだ。ヒトにこの話をするのに、どれだけ勇気がいるものだったか、私は想像していなかった。突然来て、全てを悟ったような稲荷様に丸投げした自分が恥ずかしい。
そして同時に、私が稲荷様を見ることが出来る理由もはっきりした。血筋関係なく、生まれつきのようだ。幼少期から聞こえていたガラスの割れるような音、キラキラ光っているような綺麗な音、それらも私の"生まれつき"で、心の声だと気付いた。初めて会った時、稲荷様の心の声も聞こえていた。そんな経験が、蓮乃くん達にもあったのだろうか。
「…俺は、あなた以外の光も見たことがあります。それも、神様のものなのでしょうか」
蓮乃くんがやっと口を開いて、そう呟いた。
「光?」
「あなたには、稲荷様には黄緑色の光が見えます。たまに光が見えることはありましたけど、目の前で話してて気付いたのは初めてです。他には水色を見たことがあります。…稲森には、オレンジ色の光が見えます」
「…オレンジ」
稲荷様の表情が、一瞬だけ険しくなった。蓮乃くんはそれに気付いていないのか、そのまま続けた。
「神様の色だとは気付きませんでした。けれど、それだと納得がいくのです。光が見えると、決まって編茶乃が泣き出していたから」
「! 編茶乃ちゃんも見えるの!?」
私は驚いて、大きめの声で言ってしまった。蓮乃くんは優しく悲しそうな表情をしながら首を横に振った。
「あいつには。ずっと昔の話だけど、俺が光の方を指しても『そこは変な感じがして嫌』って言うだけだった。俺には少しヒトみたいな姿が見えていたけれど、編茶乃にそのことを言っても信じてもらえなかった」
「編茶乃は、気配を感じるだけだったようだな。見える力は、蓮乃の方に偏ったようだ」
「今ので納得しました。俺はその一点において、編茶乃に劣ることはなかった。だから、他の面で編茶乃に劣っても、尊敬こそすれ妬むことはなかったんだ。どれだけ比べられても」
蓮乃くんの表情かおを見て、私は蓮乃くんが今まで心に蓄積させていた悲しみや傷を想像した。きっと私の想像力じゃ足りないけれど、それくらい辛い思いをしてきたことには気付けた。
「蓮乃くん」
私の手元には、一輪の紫の花。外側に向かって広がるように咲く綺麗な花。
「花言葉は、よい便り、希望。菖蒲あやめの花だよ。もう我慢して、傷ついていないふりをしなくて良いんだよ。優しいメッセージが、君の元に希望となって届くはずだから」
私の言葉に、蓮乃くんは涙を流した。そしてしばらく泣き続けた。時計が7時半を指した時、ようやく神社を出ることになった。稲荷様は「また来い。私は何も出来ないがな」と笑って見送ってくれた。私は蓮乃くんを駅まで送ったあとに逆方向の電車に乗り、家に帰ることにした。

こんな時間まで蓮乃くんを付き合わせてしまったことが申し訳なかった。それに暗闇だったし、周りの人なんて見えなかった。その中に羅樹がいたことに、私は気付けなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

讃美歌 ② 葛藤の章               「崩れゆく楼閣」~「膨れ上がる恐怖」

エフ=宝泉薫
青春
少女と少女、心と体、美と病。 通い合う想いと届かない祈りが織りなす終わりの見えない物語。

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

処理中です...