神様自学

天ノ谷 霙

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11月9日 姉弟

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「海斗ぉーーー!!!」
花凛さんは、何度も小野くんに話しかけに来た。その度に恥ずかしそうな、面倒くさそうな複雑な気持ちが織り混ざった態度を取る小野くん。私は2人の様子を見ながら、由芽に話しかけた。
「ねぇ、彼女としてあんなにお姉さんがべったりで大丈夫なの?」
「ん?うん、全然。むしろ、海斗はあんな風にくっついて貰える方が嬉しいんじゃないの?」
「え?」
「海斗、花凛さんと会うの十数年ぶりだから」
「えっ」
十数年ぶりに再会した姉弟きょうだい。裏の事情を何も知らない私には、弟が大好きなお姉さんにしか見えなかった。それが、裏に何か事情があるならば見え方も変わってくる。
「夕音なら、話しても大丈夫かもしれないけど…まぁでも、海斗に聞いてよ。私は情報屋として、個人の事情を簡単には話せないからね」
「う、うん…?」
由芽との会話はそこで途切れた。消化し切れないモヤモヤを抱えながら、小野くんたちの様子を見ていた。

「はぁ…はぁ…」
息を整える音がする。私はそちらを振り返って、その音の主が小野くんだと気付いた。
「小野くん?」
「…あ、稲森…」
口元を拭って、呼吸を整えようと急ぐ小野くん。そのまま、またふらっと何処かへ行ってしまいそうだった。
「…小野くん、お姉さんと会うの十数年ぶりって本当?」
いつの間にか口に出ていたのは、本題だった。私は慌てて誤魔化そうとしたが、小野くんはきょとんとした表情で、いつもと変わらない様子で答えた。
「うん、本当だけど。由芽から聞いたの?」
「う、うん…でも由芽はここまでしか話してないよ。ここから先は、小野くんに聞けって」
「あー…あいつの言いそうなことだな。って言っても、あいつもそんな俺の家のことなんて知らないと思うから、許してやって」
「うん…?」
「別に楽しい話じゃねーぞ?それでも聞くか?」
私が聞いて良い話なのだろうか。そう思うと、その後の言葉が思い浮かばなかった。何か言おうと唇を動かして、何も言えなくてまた閉じる。それを繰り返していた。
「…稲森は口固そうだよなぁ…聞くか、じゃなくて聞いてくれ、って言ったら、聞いてくれるか?」
小野くんは困ったような表情で、優しくそう提案した。私は黙って頷く。小野くんはその辺に適当に座って、遠くを見つめた。
「楽しくもなければ悲しくもない、ただの昔話だから。そんな表情かおしないでくれよ」
小野くんは静かにそう言って、話を始めた。
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