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12月24日 太陽は側に
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菜古ちゃんは五十嵐くんに頭を撫でられた瞬間びくっと肩を震わせたが、顔を上げずそのまま五十嵐くんの胸に埋まっていた。
「古宮さんの言う通り、ボクは拒絶されるのが怖い。紗奈ちゃんが気付いてくれなかった時も、桐竜さんが来と付き合い始めた時も、皆ボクを置いて行くって感じたんだ。何も行動しなかったくせにね。結局行動して、相手の幸せが壊れるのが怖かったんだ。2人ともやっと進めたのに。それをボクが邪魔してしまうのが怖かったんだ。そこまで、図々しくなれなかった」
紗奈は竜夜くんとの関係を壊したくなくて『自分は羅樹が好きだ』と思い込んでいた。その紗奈の閉じ籠っていた殻を竜夜くんが破ってくれたお陰で、紗奈は進むことが出来た。自分に素直になる方向へ、歩き出すことが出来た。亜美は何人もの人から言い寄られていたけど、恋が何なのか分からなかった。好きという気持ちが理解出来ず、苦しんでいた。それでも、自分のことを大切にしてくれる優しい潮賀くんに恋に落ちて。やっと解放された。五十嵐くんは、2人を助けてあげられたのは自分じゃない、そうわかっているからこそ辛いんだ。幸せになって欲しいからこそ、幸せにしてあげられるのが自分じゃないことが苦しいんだ。
「…でも、そんな臆病なボクのことを想ってくれる人がいるなら、ボクもまた恋が出来るかもしれない」
菜古ちゃんがそっと顔を上げる。至近距離でぶつかった視線に、五十嵐くんがふっと微笑んだ。
「優しいって言ってくれて嬉しかったよ。古宮さんの言う通り努力してみようと思う。だから古宮さん、ボクのこと振り向かせてみせてよ」
菜古ちゃんは2度、3度と瞬きをした後、泣き笑いの表情を浮かべた。
「えぇ、はい。覚悟しててくださいね。きっとメロメロにさせてみせますから!」
「楽しみにしてるね」
温かい気持ちが巡って行く。私はそっとその場を離れ、記録を反芻する。覗き見してしまった申し訳なさと、2人が悲しい結末にならなくて良かったという思いが混じり合う。安堵のため息をついて、人気の無いところで"恋使"を解く。結構時間が経ってしまっていたので、羅樹からメッセージが届いていた。
「やばっ…」
待たせた言い訳を考えながら、羅樹の元へと急いだ。
廊下に残っていた2人に、ふわふわと舞い降りる2つの花。
「こんな季節に、花?」
「これ、昨日見た花だ」
「昨日?それって、ストレリチアの花ですよね?12月に、しかもこんなところに咲くような花じゃ…それに、こっちはリナリア…あれ、私、どこかでこの花を…」
菜古は考え込む。10月のある日の記憶に、その花を見つけ出した。
「あっ思い出した!あの時も、季節外れのリナリアが窓から入って来て…確か、稲森先輩と一緒にいたときに」
「稲森さん?ボクも昨日、稲森さんから貰ったんだ。あれ?そういえばあの花、どうしたっけ…」
2人が首を傾げていると、ストレリチアとリナリアは金がかった桃色の光を纏って、ふわっと弾け宙に舞った。
「…不思議なことも、あるものですね?」
「そうだね…」
キラキラと空を舞う光に包まれ、2人は明日、出掛ける約束をした。
「古宮さんの言う通り、ボクは拒絶されるのが怖い。紗奈ちゃんが気付いてくれなかった時も、桐竜さんが来と付き合い始めた時も、皆ボクを置いて行くって感じたんだ。何も行動しなかったくせにね。結局行動して、相手の幸せが壊れるのが怖かったんだ。2人ともやっと進めたのに。それをボクが邪魔してしまうのが怖かったんだ。そこまで、図々しくなれなかった」
紗奈は竜夜くんとの関係を壊したくなくて『自分は羅樹が好きだ』と思い込んでいた。その紗奈の閉じ籠っていた殻を竜夜くんが破ってくれたお陰で、紗奈は進むことが出来た。自分に素直になる方向へ、歩き出すことが出来た。亜美は何人もの人から言い寄られていたけど、恋が何なのか分からなかった。好きという気持ちが理解出来ず、苦しんでいた。それでも、自分のことを大切にしてくれる優しい潮賀くんに恋に落ちて。やっと解放された。五十嵐くんは、2人を助けてあげられたのは自分じゃない、そうわかっているからこそ辛いんだ。幸せになって欲しいからこそ、幸せにしてあげられるのが自分じゃないことが苦しいんだ。
「…でも、そんな臆病なボクのことを想ってくれる人がいるなら、ボクもまた恋が出来るかもしれない」
菜古ちゃんがそっと顔を上げる。至近距離でぶつかった視線に、五十嵐くんがふっと微笑んだ。
「優しいって言ってくれて嬉しかったよ。古宮さんの言う通り努力してみようと思う。だから古宮さん、ボクのこと振り向かせてみせてよ」
菜古ちゃんは2度、3度と瞬きをした後、泣き笑いの表情を浮かべた。
「えぇ、はい。覚悟しててくださいね。きっとメロメロにさせてみせますから!」
「楽しみにしてるね」
温かい気持ちが巡って行く。私はそっとその場を離れ、記録を反芻する。覗き見してしまった申し訳なさと、2人が悲しい結末にならなくて良かったという思いが混じり合う。安堵のため息をついて、人気の無いところで"恋使"を解く。結構時間が経ってしまっていたので、羅樹からメッセージが届いていた。
「やばっ…」
待たせた言い訳を考えながら、羅樹の元へと急いだ。
廊下に残っていた2人に、ふわふわと舞い降りる2つの花。
「こんな季節に、花?」
「これ、昨日見た花だ」
「昨日?それって、ストレリチアの花ですよね?12月に、しかもこんなところに咲くような花じゃ…それに、こっちはリナリア…あれ、私、どこかでこの花を…」
菜古は考え込む。10月のある日の記憶に、その花を見つけ出した。
「あっ思い出した!あの時も、季節外れのリナリアが窓から入って来て…確か、稲森先輩と一緒にいたときに」
「稲森さん?ボクも昨日、稲森さんから貰ったんだ。あれ?そういえばあの花、どうしたっけ…」
2人が首を傾げていると、ストレリチアとリナリアは金がかった桃色の光を纏って、ふわっと弾け宙に舞った。
「…不思議なことも、あるものですね?」
「そうだね…」
キラキラと空を舞う光に包まれ、2人は明日、出掛ける約束をした。
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