我が輩は石である。名前など有るわけが無い。

seizann

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8.我が輩は石である。生前、なにも成せなかった石である。

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 嵐である。
 豪雨である。
 風が吹きすさび、大木が倒れ、稲妻が走り、鉄砲水が我が輩の身体を押し流す。
 だが、大自然の猛威に晒されても、特に感慨もわかない。

 我が輩は石である。名前など有るわけが無い。

 今度は、この世界について、考察をしてみようと思う。
 といっても、我が輩に出来ることは、認知している周辺の環境のみであるが。

 まず一つのテーマは、この世界の成り立ちについて、である。

 前世では我が輩が神仏の存在を軽んじていたからか、ついぞ神や仏の導きを得ることは出来なかった。
 もったいないことをしたものだ。
 魂の存在を信じ、異世界に憧れを抱きながら、一番身近にあるファンタジーな存在を軽んじていたのだ。
 滑稽にも程があろう。
 もっとも、坊主丸儲けなどという言葉で、拒否感を得ている諸姉諸兄も多いことだろうから、これだけは言っておこう。

 相手の時給換算をしろ、と。

 例を出そう。
 戒名、という文化が日本にはある。
 何文字の戒名をつけるか、で金額を変えるのだ。守銭奴の坊主であれば8文字9文字で何百万と言い始める。
 逆に、8文字でも9文字でも、生前に交流があれば、そんなに要らない、葬儀の分も含めて何十万、と言ってもらえる。
 単純な話だ。
 ちゃんと交流を持っていれば、アホな金額は言い出さない。
 逆に交流を持っていてぼったくる気になるなら、相当ダメな坊主である。
 さらに、まったく見ず知らずの坊主に、ある日突然、戒名をお願いしますと言って、こちらに気を遣う可能性は低かろう。

 簡単に言えば、ちゃんと人間として付き合ってきたかどうか、ということが全てになる。
 諸姉諸兄、どうか面倒くさがらず、普段から付き合いをしっかりと持っていてほしい。

 我が輩のように、引きこもり状態で孤独死をした後、パソコンの中のデータやらなんやら、何もかも赤の他人に晒されていると考えたら、生前の煩わしさなど微々たる者では無いか!!

 もとい。
 冷静になろう。

 この世界の成り立ち、について、であった。
 まぁ、神の悪戯、とも言えまいが、石に転生、または憑依している我が輩の観点から考察をしてみよう。

 まず、物体それぞれに、魂が宿っている、という前提を考えてみたい。

 神が無から有を生み出すとして、宇宙開闢の一番最初から存在できたのか、という話になるが、現時点でこの場所は地獄である、と定義している。
 つまり、全ての物体には、元人間の魂が宿っているのではないか、という前提だ。

 残念ながら、今のこの世界は我が輩の知る地球という衛星と同じ条件であると、確証をもっていない。
 それこそ、地動説、天動説から、疑いを持って考察しなければ成るまい。
 なぜなら、異世界だからである。
 この考察は、もちろん、天体から考察するべきであろう。
 時間という概念を失って久しい気がするが、それでも朝と夜はやってくるのだから。

 我が輩は石である。名前など有るわけが無い。

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