我が輩は石である。名前など有るわけが無い。

26．我が輩は石である。生死の境を彷徨う事すら無い石である。

　動く死体すら羨ましく思うときが来るとは思わなかった。
　我が輩は石である。名前など有るはずがない。

　さて、不死者についての考察を続けてみよう。
　リビングデッド、ゾンビ、スケルトンなどの、動く死体であるが、ファンタジー世界に於いて、この状態になる方法は二通りあるように思う。

　一つ、未練を残した最後を迎えた肉体。

　一つ、死霊使いに呼び出された肉体。

　もちろん、吸血鬼などの「朽ちない肉体を持った不死の存在」ということもあり得る。
　だが、総じてアンデッド、と言えば「動く死体」を真っ先に思い浮かべる事であろう。
　しかしながら、我が輩の考え方から進めていくと、動く死体とは生物の「進化」なのでは無いだろうか？
　肉体という器の面だけで考えれば「人間」の限界を超えて、死体でも動ける「ゾンビ」に成っているのだ。
　進化を遂げたと言えるのでは無いか？
　それとも、思考出来なくなっているから「退化」なのであろうか？
　否、死を超越した、という一点に於いてのみであれば、これは「進化」であると言えるのでは無いか？
　崩壊した肉体が、魂のエネルギーのみで動いている状態。
　壊れた器を動かすほどのエネルギーを、魂のみで行使している存在、と定義するなら、純粋な魂のエネルギーの行使は、生物の器を軽く凌駕しているはずだ。

　では、進化をしたと改訂した場合、何故不死者は生物を襲うのか？
　生命に憧れるからなのか？
　それとも自分の仲間を増やそうとしているからなのか？
　種族として考えた場合、後者は尤も合理的な行動である。
　交尾をしなくても相手を殺せば仲間が増える。
　これほど、効率的な子孫繁栄方法はあるまい。
　則ち、ゾンビは、こと肉体という器の能力を超越した状態、である。
　しかしながら、肉体が腐っていくという上では、御免被りたい限界突破な進化であろう。

　生と死の考え方を、もう一つ変えなければ、この『不死体生命進化論』を証明するには至らなそうである。
　すなわち、死という概念を自ら進んで超越していく存在、である。

　我が輩は石である。名前など有るはずが無い。