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エーテルスフィア
しおりを挟む「君は甘いよ、兵器は脅すのではなく、実際に使ってこそ意味がある。自治政府を脅すだけで村の惨状を救いたいなんて片腹痛いな!!」
ベルクートはナイフをさらに深く捻じ込むと、幼気な少女の体をえぐってから抜いた。
炎魔法が解除され、口から血をこぼしたミーシャが座り込む。
「けほっ......」
こいつッ......!
「奇襲用じゃ楽には逝かせてやれんな、次は首元を――――」
橋を蹴る。
振りかざされたナイフを砕き飛ばし、渾身の回し蹴りをベルクートへ叩き込んだ。
「ぐおッ!!?」
吹っ飛んだベルクートは転がりながら空中で体勢を立て直すと、無駄のない動きで立ち上がった。
「あんた......ッ! 仲間なんじゃないの!?」
「――――コロシアムの優勝商品であるルナクリスタルの強奪、エーテルスフィア起動までの時間稼ぎが終わったんで、もういらんと思っただけだ。たかが"人的資源"1個になにを感情移入している?」
腸《はらわた》が煮えくり返りそうだ、今までに何人そうやって使い捨てた? 何回そうしてレベルを上げた?
「しかし国も陰湿だな、こんなに素晴らしい兵器をずっと隠していたんだから!」
ベルクートは腕を大きく広げ、高々と叫んだ。
「エーテルスフィアよ! ルナクリスタルを鍵とし、いにしえの王の力を開花せよ!!」
空に浮かぶ球体を中心に花が開き、光の根っこが街へ降ろされた。
巨大な1輪の花......いや、その姿は食虫植物のように不気味で、幹部分から膨らんだ半透明の体液袋はおぞましさで満ちていた。
「美しい! これが超高出力魔導砲《エーテルスフィア》の姿!! アクエリアスの街はこれの蓋をしていたわけか!! 十二契約の悪魔が欲するわけだ!」
十二契約の悪魔? でもようやく理解できた、ネロスフィアの目的はなにがしかの理由で隠されていた兵器の起動。
おそらくは最高軍事機密のものが、今テロリストの手に渡ってしまったんだ。
「じゃあ始めよう......」
大量破壊兵器を持ったテロリストが、なにをするかなんて火を見るより明らか。
わたしが胸中で予想した最悪の展開、それが今――――つぶさに実行されようとしていた。
「まずは生意気な演説をかましてくれた王族を、君たち王国軍の目の前で吹き飛ばしてみようか――――」
「ッ!!!」
魔導通信機を手に取り、沖合の海軍へ怒鳴るように叫んだ。
「未確認物体は敵性!! 大至急支援砲撃を要請します!!」
旗艦レッドフォートレスを介して、要請は速やかに受理。
街へ当たらないよう、エーテルスフィアの上部を狙った砲撃が開始された。
戦艦、巡洋艦、駆逐艦による猛攻撃が続くが命中弾は無し。
エーテルスフィアは、魔甲障壁によって固く守られていたのだ。
「無駄だ、運動エネルギーでの突破は不可能。もうあと10分もすれば魔導砲が王都を消し炭にす――――」
遮るようにして、地面を走る炎がベルクートへ襲い掛かった。
すぐさま抜かれた剣で弾かれるが、攻撃の主は満身創痍のキャットピープル。
「亜人とはなかなかに頑丈だな、まさかまだ歯向かう余力が残っているとは......。邪魔をするな」
「王都を消し飛ばす? 肝心の交渉相手を消すなんて呆れるわね......。あくまで脅しの粋を超えるなら、わたしはあなたに容赦しない」
ミーシャは血の欠片を吐き出すと、傍に転がる剣を取った。
「王国軍の騎士、エーテルスフィアはルナクリスタルという魔力結晶でコントロールしてる......。それさえ奪えば発射は防げるわ」
ミーシャは口元の血を拭いながら、剣を杖代わりに立ち上がる。
「最後にもう一つ......、あなたの探してる黒髪の騎士は、エーテルスフィアの真下。あれを制御するコントロールスフィアという部屋に閉じ込めてる。助けたいなら早く行きなさい......」
確証は無い、けれど時間も余裕も残されていない今は。
「――――わかった」
ただ信じるしかなかった。
「おいおい、そんなの僕が邪魔しないわけないだろ?」
高レベル冒険者であるベルクートが、わたし目掛けて矢のように突っ込んでくるも、それは炎の壁によって遮られた。
「なッ!?」
「早く行きなさい!! お前の仲間の騎士が持つ『アンチマジックスキル』なら、エーテルスフィアの障壁も破れる!」
わたしは頷くと高架橋を降り、声と剣撃を背に不気味な花のような形をするエーテルスフィアの根本目指して駆けた。
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