魔法王国軍の日常 〜上級冒険者に追放された少女は、レベル0から本気で生き抜いてやると決意したようです〜

たにどおり

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犠牲の上に

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 小さい頃から疑問だった......、なぜ大好きな姉さんや村の人たちが血を流し、誰からも見て見ぬふりをされるのだろうと。

 自己犠牲精神と連中は言う、でも姉さんたちがそれを望んでいるかといえばそうじゃない。
 皆言った......「仕方ないんだ」と、故郷を追われ、首都の壁にされようとここでしか生きられないんだと。

 それがわたしたちキャットピープル、国を持てない少数民族の現実だ。

「ここまでだなミーシャ! ネロスフィアを裏切った罪を払ってもらおう」

 瓦礫が散乱するストリートの階段に、わたしは亜麻色の髪と傷だらけの体を投げ出していた。

「はぁっ......はぁっ」

 ナイフのダメージが想像より大きく、ベルクートにまだ致命打を与えられていない。
 もう炎を出す余力も無い、それでもこの男をエーテルスフィアとやらの元に行かせちゃいけなかった。

 なんとか階段から身を起こそうとするが、直後にベルクートが踏みつける形で押さえつけてくる。

「おいおい立つなよ亜人、せっかく国の首都が吹っ飛ぶというのに水を差してくれるなよ。大人しくしていろ!」
「がッ!?」

 腹部を思い切り踏み潰され、階段に叩きつけられた。
 もう指先すら動かせない......、わたしが動けないのをいいことに、ベルクートは体中を撫で回し始めた。

「んぐッ......!」

 その手はやがて口内にまで及び、わたしの舌をいじくりまわす。
 脱力した体じゃなにもできない、こんなところをナーシャ姉さんに見られたらと思うと羞耻心で死にたくなる。

 散々もて遊んだであろう男の指先には、血混じりの唾液が糸を引いていた。

「去年くらいか、君のように無垢で努力家の少女をレベル上げの道具として使ってね。捨てた後、こういう遊び方を知ってずっと後悔してたんだ」

 今すぐ燃やし尽くしてやりたい......!!
 魔力が、気力があればこんな人間一瞬で殺せるはずなのに。体が言うことを聞いてくれない。

「僕は権力と戦う正義だ、使えるものは何でも使ってクラスレベルも59まで上がった。ここまで来ればもう僕を止める者はいない」

 強力な兵器をバックに置いて交渉、アラル村の犠牲を良しとする老害共を変える計画は完全に破綻した。
 いや......、あんな古代兵器を利用した時点で末路は決まっていたのかもしれない。

 国を持たない非力な民族だからこそ力が必要だった、けれどわたしの正義は利用されるだけされ、もう破滅が眼前に迫っている。

 結局、人間も亜人も自分のためにしか動けないんだ。それ以上でもそれ以下でもない。

「えぐっ......! うぅ......!!」

 完全に失敗した、今更すすり泣いて誰が助けてくれるのだろう。

「君で記念すべき60レベルの壁を突破する、さよなら」

 日を反射する剣が瞬く、けれどそれが振られることは無かった。

「ごはッッ!?」

 鈍い音と並行して吹っ飛んだベルクートが、階段下の地面に激突したのだ。
 何が起きたかわからず困惑していると、半長靴が碎けた石畳を踏んだ。

「――――闇ギルド、上位剣士職《セイバーロード》のベルクート。あなたを本テロの首謀者とみなし、国家反逆罪の容疑で拘束します」

 金色に輝くセミロングの髪、透き通るような碧眼を持った騎士がベルクートを蹴り飛ばしていたのだ。

「貴様......! さっきミーシャが逃した王国軍かッ! 国家の操り人形如きが口偉そうに!!」

 それは絶望に立つわたしへ差した希望の光、蒼国の騎士は起き上がったベルクートへ正対すると、その光沢ある剣を向けた。

「ストラトスフィア王国軍、レンジャー騎士ティナ・クロムウェル。1年前あなたに捨てられた1人の元冒険者よ――――」


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