闇の覇王と無垢な花嫁

満姫プユ

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怖くない、嫌いじゃない

 ヤクザは嫌かと訊かれれば、うんと首肯くしかない。
 けれど、九条が嫌かと訊かれたなら首を縦に振る事が出来そうにない自分に気がついた。

具体的にヤクザに何かされたかといえば、あの金融屋の男が思い浮かぶ。
そして、割り込んできた九条の暴力。
けれどその姿も今は遠い記憶になりつつあった。

 それは、こうして一緒に過ごすうちに自分に都合の言い様記憶が上書きされていっているからだ。
 
 表情が変わらず何を考えているか分からない九条はまたいつ暴力に及ぶか分からないヤクザの男で、縁を切るのが1番正しい選択だ。
 その為に来たのに、こうして訊かれると胸が痛くなる。

 一緒に居た時間が少しずつ自分の心の恐怖心や抵抗する気持ちを溶かしていったのかもしれない。

 九条の言葉に「うん」と頷けないし、嫌いと言えない。

 見つめてくる九条の瞳が揺れて見えるが、実際に揺れているのは自分の瞳に違いなかった。

 ここでヤクザが怖い、嫌い、サヨナラなんて口が裂けても言えない自分。
 言ったらきっと九条の手は離れていくのが分かったからだ。
 強引だったのは初めだけで、後はいつも自分に合わせてくれる。
 本当は怖いのかもしれないが、自分には確かに優しかった九条に否定的な態度は出来なかった。

 終わらせたくない…。

 九条との関わりを切りたくない自分がいた。

 祐羽は首を横にゆるっと振ると九条の腕に自分の手を掛けて、ポツリと言った。

「怖くないです…九条さんは」

 すると九条の瞳が穏やかに、嬉しそうに光を湛えた。

「フッ…そうか」

 それから九条の顔が次第に近づいて来て、祐羽はハッと我に返った。

 えぇっ?!もしかしてキスされる?!何で!!?
 それよりもまだ聞きたい事があるんだけどっ!え~ダメですってば!!

「ちょっ、」

 祐羽は何故かキスの体勢に入った九条を疑問に思いながら、制止の声をあげようとした。
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