雪かきという名のデート

櫟 真威

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アクセルを踏み鳴らす車を全力で押し出す。
柔らかい雪にはまっていたタイヤがようやく抜け出す。
朝の六時から、そんな車を何台も救出していた。
除雪中に見かけてしまうと知らんふりもできない。
無論善意からなのだが、こうも続くと体力的にもたない。
例年にない大雪は、歩行者にも自動車にも迷惑だ。

これから通院という高齢ドライバーの車を押す。
タイヤが雪の中を空転する。
疲労からか、先ほどと違い一気に押し出せない。
気持ちが焦る。

「運転手が絶世の美女で、これきっかけで恋に落ちたりとかしちゃったりなんかして」

くだらない妄想で気持ちを湧き立たせる。

「独り言きも」

すぐそばまで来ていたのに気配に気づかなかった。
飛び上がりそうなほど驚く。
そして、発言内容に落ち込む。

「そんなきもい奴と関わらずにさっさと学校行けば」

拗ねたような俺の発言に、楽しそうな笑顔を見せる。

「いやいや、十年来の幼馴染が絶世の美女と恋に落ちる瞬間を見逃す訳にはいかないでしょ」

なんつう嫌味だ。
奴は俺のそばに来て一緒に車を押す。
車はふっと浮いて走り出すことができた。
車窓越しにドライバーが、お礼を言い、走り去る。
柔らかい路面は下手に止まらず走り続けるしかない。
またタイヤがはまっては大変だからだ。

「馬鹿言ってないで、行くぞ」

「そうだね、もう美人ドライバーは現れそうにないね」

しつこい。
俺は渋面になる。
雪はね用のママさんダンプを物置にしまう。
奴は勝手知ったる我が家の玄関から俺の鞄を持って出てきた。
俺の好みは目の前にいる十年来の幼馴染だということは絶対に秘密だ。

「遅刻するぞ、ほら」

幼馴染が楽しそうに俺の肩を叩いた。



〈了〉

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