小石井あきらの第二の人生

櫟 真威

文字の大きさ
5 / 23
小石井家

昌武

しおりを挟む
「まっさん、結婚するって本当なの?」

「本当」

「やだぁ、ひどぉい」

「誰となのよぅ」

「内緒」

この一月、何回交わした言葉だろう。
独身貴族(こぶつき)を気取っていた私が、ついに年貢を納める時が来たのである。

「云ってみたかったんだよね、年貢の納め時」

「専務……まさか云ってみたいだけで入籍したんじゃありませんよね?」

桜木秘書が呆れている。
無論それだけではない。
長年、小石井家の胃袋を支えたお蔦婆さんの引退があったからだ。
当初、家政婦紹介所にお願いしていたのだが、息子に色目を使ったり、私に色目を使ったりするので、雇用に至らなかった。

早瀬あきら。
この掘り出し物を見つけたのは本当に偶然だった。

最愛の妻、凛が命の灯火を消した時、もう、妻は娶らないと誓った。

「妻以外愛せない。
基本遊びで!」

「鬼畜ですね」

「はるひだって俺を捨てたじゃん」

「他人を名前呼びはなさらないように。
あらぬ誤解を受けます」

「はぁい」

桜木はるひは一番長く続いた「遊び相手」だ。
他の女たちは私が複数の女性たちと平行して付き合うことに難色を示したが、彼女は違った。

中学生になったばかりの頃の麟太郎が反抗期で荒れ、お蔦婆さんも私も悩んでいた。
はるひはしばらくうちで麟太郎と過ごし、話を聞いてくれた。
麟太郎が徐々に落ち着いて来た時は、天使!と思ったものだ。

「天使というのはちょっと。
甘えたかっただけなんですよ、麟くんは」

その話をするとはるひはいつも苦笑いをする。

仕事で忙殺され不在がちな父親。
愛情はあるが家政婦という遠い立場。
母親に恋い焦がれるのも当然か。

「俺ははるひがそのまま母親になってくれると思ったんだがなぁ」

「専務……」

はるひの複雑な表情、私には真意は読み取れない。
気の利く有能な美人秘書。
だが、人に深く踏み込ませない凍てついた面もある。

一方、今度妻に迎えるあきらは、実に分かりやすい。
腹芸が出来ないと云うか、目の前の問題を取り組むので精一杯と云うか。

たまには、と乗ったバスで、おじさんや運転手をなだめる女をなんとなし眺め、これは初めてのタイプだと思った。
おばちゃんのようで小娘のようで。

身元を調べると、世間知らずなほど社会に出ていないとわかった。
利害や計算をできない、ハムスターのような嫁ぎ遅れ。

面白い。

「専務。
それはセクハラです」

「えっ、もうおっぱい揉んじゃだめなの」

「結婚なさるんでしょ。
独身でも問題アリですが」

私が唇を尖らせると、はるひは楽しそうに微笑んだ。

「万が一、離婚したら遊んであげます」

∞∞∞∞∞∞∞∞∞∞


「お、お帰りなさいませ」

引っ越しをしてきたあきらが、玄関で出迎えてくれた。
蔦の割烹着を着ている。
似合う、というより着られている様子に笑ってしまう。
あきらは困ったような顔をした。

「いや、すっごく似合ってるよ」

今度裸に割烹着というのをさせてみよう。
あ、麟太郎がいるからだめか。

「なんだよ、早いじゃん」

麟太郎はキッチンから顔を出した。
珍しいところにいるな。

「……あの、旦那様」

「ほぇっ?」

蔦以外にそう呼ばれるとは思わなかった。
変な声を出してしまった。

「お蔦さん、どうしても辞めないとだめでしょうか……」

「ああ」

初めての他人の家で、色々不安を抱えているのだろう。
味方は蔦だけだと思っているのか。

「無理させられないからなぁ」

蔦の年齢を教えると、あきらは真っ青になった。
無理なお願いだと悟ったようだ。

「晩御飯はなにかな」

キッチンに向かうあきらの尻を触りながらついていく。
あきらの身体が緊張した。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...