小石井あきらの第二の人生

櫟 真威

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小石井家

あきら 《土曜日》

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休日出勤になってしまった昌武の帰宅は日がすっかり沈んだ頃だった。
麟太郎に夕食を用意しながら、時計を気にしてしまう。
詳しい事情を聞かなかったあきらは、門扉まで出て、辺りを見回してから家へ戻るを繰り返していた。
その姿を見つけたときは、自然と安堵のため息が漏れた。

「おや、お出迎えとは」

昌武は楽しそうに笑った。
その笑顔をまともに見てしまい、あきらは赤面した。

「あ、あの」

鞄を受け取りながら並んで玄関へ入る。

「寺沢君達、楽しそうにしてくれてました。
さっき帰ったところです」

「それは重畳」

昌武は靴べらをフックにかけ、階段を上がる。
云いたいことが口から出てこない。
あきらは、自分の不甲斐なさが情けない。

「あの」

あきらは、先の段を踏む大きな背中に話しかける。

「すみませんでした、今朝は……」

昌武は歩みを止めずにちらとあきらを見た。

「私……」

「気にしてないよ。
嫌なことは嫌と云った方がいいし」

「あ……」

「それより、初のおもてなし、お疲れ様」

昌武は部屋に入るとスーツを脱ぎ始めた。
あきらが受け取る前提の動きだ。
あきらはハンガーを片手に、それらを次々受け取る。
すごく連係プレーが上手みたい。
あきらはひとりで喜んだ。

「今日は、がんばったね」

昌武は、小さな子供にするように頭にぽんぽんと手を乗せた。
あきらは、今日一番欲しい言葉をもらった。
子供たちの笑顔より、この言葉が嬉しいとは。
部屋着を着た昌武に、あきらは云った。

「肩を揉みましょうか?
上手いんですよ」

欲しい言葉を、こんなに簡単にくれる昌武は、大人だ。
小さないさかいを、流してくれる昌武は大人だ。
だからあきらは、怒ったり拗ねたり、勝手をできるのだ。
ありがたい、と思った。

昌武の身体は厚い。
指に力を入れて、丁寧に揉む。
昌武は目を閉じて寛いでいる。

「気持ちいい、上手だね」

あきらは、嬉しくなる。
肘でぐりぐりしてみたり、耳の後ろのツボを押さえてみたり、知識を駆使する。

「背中や腰もお願いできるかな」

「はいっ」

昌武はベッドにうつ伏せになった。
あきらはその背中を指圧する。
ベッド横から身体を伸ばしてしているのだが、少し姿勢に無理を感じた。

「乗っかっていいよ」

「はい」

よいしょ、と昌武の腰辺りに乗る。
なるほど、やりやすい。
しかも力を入れやすいので、効果もある。

「そこ、いい気持ち。
あーいいわ」

褒められているようで嬉しい。
あきらは張り切る。

「腰も頼む。
強めに押して」

「はいっ」

あきらは後ろに身体をずらす。
昌武のお尻の上に乗る形になった。
肩甲骨の付近を指圧する。
真上から自分の体重に乗せて力を増幅させる。

「そこ、今のとこよかった」

「はいっ」

「もうちょっと足開いて」

「はいっ」

「腰前後してみて」

「はいっ……えっ」

またからかわれた。
あきらは赤面する。
しかしやられてばかりもつまらない。
あきらは、昌武の背中にうつ伏せになった。

親亀子亀だ。

昌武がびっくりしてくれると期待したのに、昌武はうっとりしたような声を出した。

「あきらの胸、気持ちいい……勃つ」

「きゃ!」

昌武が一枚上手であった。




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