小石井あきらの第二の人生

櫟 真威

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小石井家

麟太郎 15歳 七

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二時過ぎに、寺沢達は訪れた。
昌武は忖度しない部下からの電話に渋々出掛けていった。
偉くなるのも考えものである。

「初めまして。
母のあきらです。
いつも麟太郎がお世話になってます」

よそゆきの顔で挨拶をしているので、麟太郎は笑いを堪えるのに努力せねばならなかった。
寺沢達も寺沢達で、神妙に頭を下げて、それぞれ自己紹介をしている。

小学校からの付き合いなので、お互いの家には何回か行き来しているのだが、「あら、麟くん、うちのは二階にいるよ」みたいなノリだったので、あきらの恭しい態度が新鮮というか、違和感というか。

「じゃ、二階に行くか」

「あ、おやつ用意しておりますのよ。
応接間にご案内して」

あきらさん?
うちに応接間なんてないよね?
あれはリビングっていうんだよ? 

「今お紅茶も用意しますわね」

キッチンへ消えるあきらの背中を、三人で見送る。

「なんか……楽しいおかあさんだな」

柳谷は呟いた。
寺沢も静かに頷く。

「麟の父さんが選んだ理由、わかったような気がするわ。
今までにないタイプだね」

麟太郎は二人にソファを勧めると、キッチンへ行った。
あきらは肩を落としていた。
ヤカンがしゅんしゅんいっている。
麟太郎は火を止める。

「大丈夫?
キャラ崩壊してるけど」

「肝っ玉母さんにしようか、寺内貫太郎一家にしようか、迷ってしまって……」

「ごめん、どっちもわかんない」

「『斜陽』で言葉遣いを見習おうかと思ったら、おかしくなった……」

「あきらさん……そのまんまでいいのに」

麟太郎はヤカンのお湯を茶器に注ぐ。
茶葉のいい香りが立ち上る。

「実際本番を迎えたら、難度の高いミッションだったわ」

「大袈裟」

「家事に関しては虎の巻があったし……。
私って応用が利かないのね」

麟太郎には、あきらの不安はわからない。
なんとかしたい、とだけ強く感じた。
抱き締めてみたいが、それは後だ。

「ババ抜きしよう!」

麟太郎はトランプを出してきた。
戸惑うあきらを仲間に引き入れる。
柳谷は手先の器用さで見事なカード捌きを披露し、あきらを感心させた。
滑るようにカードがそれぞれに配られる。

あきらは、麟太郎が扇形に広げたカードを慎重に選別する。
カードの一枚に触れては、麟太郎の顔色を窺う。
アーモンドの形をした目の中に、麟太郎が映っている。
麟太郎はわざと負けてみたりした。

「何年か振りにやったけど、楽しいね」

あきらは最初の緊張はどこへやら、子供のような笑顔を見せた。
寺沢と柳谷があきらを見つめ、視線を反らした。
麟太郎はそんな二人の足を蹴った。

「いやだってなんかかわいいから」

柳谷は脛をさすって云った。
それは麟太郎だけが抱いていい感想だ。
寺沢は柳谷に同意した。

「見かけに騙されてはいけない気がする。
ただの大人ではない」

「かわいいことは否定しないが母性の塊だ。
やらしい目で見るな」

「さすがにそれはないよ。
親子ほど離れてるし」

「つまり麟太郎はやらしい目で見ていると」

「ちょっと表へ出ろ」

「あっ、アップルパイを焼いたのよ。
切りましょ」

雰囲気を変えねばとあきらが立ち上がり、明るい声を出した。

「今時の高校生はお世辞が上手ね」



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