小石井あきらの第二の人生

櫟 真威

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小石井家

麟太郎 15歳 六

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あきらは落ち込んでいた。
町内会自治会第七班長の川端の顔に正拳を打ち込み、鼻血を出させたからだ。

「気にすることないよ。
あのスケベ爺、有名だから」

麟太郎は慰める。

「そうだそうだ。
俺の大事な妻に不届きなことをしおって。
鼻血で済んでよかったと思え」

昌武は憤慨していた。
一応あのあと、謝りながら家まで送り、事と次第を川端夫人に説明した。
昌武が。

「奥さん、真っ青になって謝ってくれたな。
そんなことしなくていいのに」

「させた癖に」

麟太郎はぼそりと云った。
実際、川端は、ごみの分別のミスをあげつらい、セクハラをしていた。
被害にあった奥様方は数知れない。

「それより、午後から寺沢たちが来るから、よろしくね」

「あ」

あきらは顔を上げた。
使命を思い出したらしい。

「うん。
任せて」

あきらはお菓子作りを始めた。
昌武はキッチンテーブルに新聞を広げどっかりと腰かける。

「父さん、出掛けないの」

「仕事休み」

「いつもなら、ゴルフとかデートとか行くじゃん」

「おい」

デート、をことさら強調した麟太郎に、昌武は鼻白む。
なにやら頭上に暗雲が巻き起こっているようにも感じる。
あきらが、そんな二人に割って入る。

「まあまあ。
英雄色を好むと云いますし」

「それ、フォローになってない。
それに俺は、今はあきら一筋だから」

昌武は胸を張る。
あきらはあからさまに嫌そうな顔をした。
先程の裏拳と云い、あきらが昌武に自分の感情をはっきり表明するのを、麟太郎は初めて見た。
何かあったのだろうか。

「旦那様は、恋人が複数いるのがいいような気がしてました」

「なに?
やきもち?
あきらも案外かわいいとこあるね」

「抱きつかないでくださいっ」

いや、中年の夫婦が思春期の息子の前でいちゃつくってなんの拷問なのそれ。

「なんか、あきらの被ってた猫がべろべろ剥がれてくの見てると楽しくてつい」

昌武は本当に楽しそうだ。
麟太郎は驚く。
あきらも驚いていた。

「猫?
被ってたの?」

「だって、ここに来たばかりのあきらは、よき母よき妻にならないとってプレッシャーあったみたいで、堅かったよね」

あきらは赤面した。

「そんな、立派なものではなくて、ですね」

「いいんだよ、あきら。
俺たちは家族になったんだから。
あきらに、気を遣わせたくなくて、わざとやってたんだ、俺」

あきらは感動して目が潤んでいるが、絶対今考えた理屈に違いない。
歴代の彼女達もそうだが、なぜ容易く騙されるのか。
麟太郎が呆れていると、あきらは麟太郎に向けていたずらっぽく笑って見せた。

……なるほど、あきらも大人だった。

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