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朗読
朗読 冬の魔法
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何も無い田舎の夜の街は、今日も静かに落ち着いている。
そんな、無駄のない澄んだ空気は、日本の四季を教えてくれた。
「…はぁっ、はぁっ、はぁっ(走る息切れ)」
寒さに比例して鈍くなっていく五感。
しかし、冬の空を切り進めて行くたびに、冷えきっていく身体に違和感を与えてくる。
この寒さは、とても気持ちがいい。と
該当のない真っ暗な世界。徐々に慣れてくる視界は、暗闇の中でもしっかりと道を示してくれている。
寒さでかじかむ脚。しかし、それでも不思議と脚は前に進んでいた。
…なんなんだろう。
家を飛び出した時、不快だと感じていたはずの寒さは、いつの間にか心地よくなっていった。
冷えきった心と身体。それなのに、何故か温もりに包まれたように、家にいる時よりも、生きやすいとさえ感じる。
この寒さの正体は、一体何故なんだろう。
がむしゃらに走る自分の思考は、この疑問でいっぱいだった。
なぜ家を飛び出したのか、きっとそれは嫌なことがあったのだろう。
他人事のような思考でしか、今は頭が回らない。
それ以上に、不思議な心地良さが染みる今に、私は集中していたいんだ。
「はっ……はぁ……は…ぁ……」
人気の無い街に、唯一動く人の影。
自分一人だと言うのに、何故か力強く身体が動く。
冬というものは、不思議な力を持っているのかもしれない。
膝に手を付き、浅い呼吸を追いやり、無理やりにでも大きく息を吸う。
太陽の沈んだ暗がりの中では、月と星の光が頼りだ。
暗闇になれた視界の先。
月光に乱反射する空気の層は、一段と済んでいる。
そんな中で、異質に染る白い雲。
こぼれる息は白く色を持ち、意味を抱くようになっていった。
…あっ
溶けていく白い息の奥には、広大な夜空が広がっている。
いつもよりも、何倍にも広く感じたその景色は、きっといつもと変わらない。
それなのになぜか、なぜか、今だけは、とても広く見えている。
目をつけることなんてほとんどなかったこの景色。ネオンに彩られる都会とは違う、何も無いと思い込んでいたこの景色。価値などないと思っていた景色。
…なるほど
あぁ、そうか、寒さが心地いいのはこういうことなのだ。
はっとした意識は思考を早め、済んだ空気をめいいっぱい身体全体に運ぶ。
スッキリと、クリアになった思考の先。
見えていなかったわけじゃない、見ようとしていなかったのだと。この時私は初めて気がついた。
見えないものを見えるようにしてくれる。
自分の身体は当たり前のように、こうして生きているんだ。
こうやって、脚を動かすだけで、前に進むこともできるんだ。
不透明で複雑で、考えれば考える程混濁していく自分自身の存在価値を、今あるこの寒さが、率直に教えてくれる。
この街だって…そう、求めていた人工的な光はなくとも、自然が生み出す天然のプラネタリウムが、優しく私を照らしてくれていた。
そんなに複雑に考えなくていい。
私は、私でしかない。
他人の芝生は青く見えるとなんて言うけれど、それは誰だって同じだ。
誰だって、精一杯生きてる。
もっと豊かに、もっと楽しい方に、もっと、もっと…もっともっともっともっと!
…そんなことばかり考えていたけれど、今もこうして生きている。
それだけでも、誇るべきなんだ。
息をするだけで、自分が生きてると教えてくれる。きっと私は、それを確かめたくて、無意識に家を飛び出したんだ。
もっと頑張らなければ、もっと張りつめなければ、もっと周りを見なければ…
社会の牢獄に囚われていた私の呼吸は、きっと今よりも浅く、そして意味を持っていない。
同じ呼吸なのに、同じ、私がしていたはずの行為だと言うのに、全く意味の重みが違う。
なんて愚かなことを考えていたのだろう。
そう、自分を嫌いになりかけてしまう。
でも、それでも
価値に気づけた今では…私は、前よりもきっと、自分を好きになれるはずだ。
「…帰…いや、もう少し、走ろう」
前よりも、美しく見える景色の先へ、私は意志を持って脚と視線を向けた。
もう少しだけ、この気持ちよさに浸っていたい。
自分の価値を、より感じていたい。
きっと、また迷う時が来るから。
いつでも、この身一つで体感出来る。
みんな、こうして生きている。
それだけで偉いんだ。
忘れないようにと、そっと優しく、身体に刻み込んでいく。
この気持ちを、この感覚を、もう少し体験していたい。
がむしゃらに走っていた私はもう居ない。
今の私は、もう少し余裕を持って生きていける。
小さなことに気づけるこの季節には感謝しないとね。
自分に少しだけ明るい魔法をかけてくれる。
そんな季節が、私は好きだ。
そんな、無駄のない澄んだ空気は、日本の四季を教えてくれた。
「…はぁっ、はぁっ、はぁっ(走る息切れ)」
寒さに比例して鈍くなっていく五感。
しかし、冬の空を切り進めて行くたびに、冷えきっていく身体に違和感を与えてくる。
この寒さは、とても気持ちがいい。と
該当のない真っ暗な世界。徐々に慣れてくる視界は、暗闇の中でもしっかりと道を示してくれている。
寒さでかじかむ脚。しかし、それでも不思議と脚は前に進んでいた。
…なんなんだろう。
家を飛び出した時、不快だと感じていたはずの寒さは、いつの間にか心地よくなっていった。
冷えきった心と身体。それなのに、何故か温もりに包まれたように、家にいる時よりも、生きやすいとさえ感じる。
この寒さの正体は、一体何故なんだろう。
がむしゃらに走る自分の思考は、この疑問でいっぱいだった。
なぜ家を飛び出したのか、きっとそれは嫌なことがあったのだろう。
他人事のような思考でしか、今は頭が回らない。
それ以上に、不思議な心地良さが染みる今に、私は集中していたいんだ。
「はっ……はぁ……は…ぁ……」
人気の無い街に、唯一動く人の影。
自分一人だと言うのに、何故か力強く身体が動く。
冬というものは、不思議な力を持っているのかもしれない。
膝に手を付き、浅い呼吸を追いやり、無理やりにでも大きく息を吸う。
太陽の沈んだ暗がりの中では、月と星の光が頼りだ。
暗闇になれた視界の先。
月光に乱反射する空気の層は、一段と済んでいる。
そんな中で、異質に染る白い雲。
こぼれる息は白く色を持ち、意味を抱くようになっていった。
…あっ
溶けていく白い息の奥には、広大な夜空が広がっている。
いつもよりも、何倍にも広く感じたその景色は、きっといつもと変わらない。
それなのになぜか、なぜか、今だけは、とても広く見えている。
目をつけることなんてほとんどなかったこの景色。ネオンに彩られる都会とは違う、何も無いと思い込んでいたこの景色。価値などないと思っていた景色。
…なるほど
あぁ、そうか、寒さが心地いいのはこういうことなのだ。
はっとした意識は思考を早め、済んだ空気をめいいっぱい身体全体に運ぶ。
スッキリと、クリアになった思考の先。
見えていなかったわけじゃない、見ようとしていなかったのだと。この時私は初めて気がついた。
見えないものを見えるようにしてくれる。
自分の身体は当たり前のように、こうして生きているんだ。
こうやって、脚を動かすだけで、前に進むこともできるんだ。
不透明で複雑で、考えれば考える程混濁していく自分自身の存在価値を、今あるこの寒さが、率直に教えてくれる。
この街だって…そう、求めていた人工的な光はなくとも、自然が生み出す天然のプラネタリウムが、優しく私を照らしてくれていた。
そんなに複雑に考えなくていい。
私は、私でしかない。
他人の芝生は青く見えるとなんて言うけれど、それは誰だって同じだ。
誰だって、精一杯生きてる。
もっと豊かに、もっと楽しい方に、もっと、もっと…もっともっともっともっと!
…そんなことばかり考えていたけれど、今もこうして生きている。
それだけでも、誇るべきなんだ。
息をするだけで、自分が生きてると教えてくれる。きっと私は、それを確かめたくて、無意識に家を飛び出したんだ。
もっと頑張らなければ、もっと張りつめなければ、もっと周りを見なければ…
社会の牢獄に囚われていた私の呼吸は、きっと今よりも浅く、そして意味を持っていない。
同じ呼吸なのに、同じ、私がしていたはずの行為だと言うのに、全く意味の重みが違う。
なんて愚かなことを考えていたのだろう。
そう、自分を嫌いになりかけてしまう。
でも、それでも
価値に気づけた今では…私は、前よりもきっと、自分を好きになれるはずだ。
「…帰…いや、もう少し、走ろう」
前よりも、美しく見える景色の先へ、私は意志を持って脚と視線を向けた。
もう少しだけ、この気持ちよさに浸っていたい。
自分の価値を、より感じていたい。
きっと、また迷う時が来るから。
いつでも、この身一つで体感出来る。
みんな、こうして生きている。
それだけで偉いんだ。
忘れないようにと、そっと優しく、身体に刻み込んでいく。
この気持ちを、この感覚を、もう少し体験していたい。
がむしゃらに走っていた私はもう居ない。
今の私は、もう少し余裕を持って生きていける。
小さなことに気づけるこの季節には感謝しないとね。
自分に少しだけ明るい魔法をかけてくれる。
そんな季節が、私は好きだ。
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