邪神令嬢の学園事情

りゅうじんまんさま

文字の大きさ
29 / 48
第一章 入学編

はじめての口付け!?

しおりを挟む
 ・・・・・・・・・。

 私が『メルティーナ』で演習場を破壊してしまった後、そのせいで実機講習は中止となって生徒全員が駐機場に集められました。

「おい、あの黒髪の女だろ?」

「演習場を火の海に変えて何を考えているのかしら」

「巻き込まれた奴がいなくてよかったな」

「・・・『邪神』の生まれ変わりというのは本当だったのね」

「神帝国は彼女を野放しにしていいのか?」

 駐機場に集まった生徒達は、私の姿を見た瞬間に思い思いの事を言い出します。

「っ!!」

 たったったっ!!

「アリア!」

 その言葉で居た堪れなくなった私は、レオンハルト様の制止を振り切って駐機場を飛び出してしまいました。

 たったったっ!!

 そのまま当てもなく実機講習用学舎の広大な敷地を彷徨っていると、次第に陽が傾いてきました。

「・・・・・」

 そして、いつの間にか学舎を見下ろせる丘にたどり着いた私は、草むらから飛び出た岩に腰掛けました。

 見下ろした学舎にある演習場には私の『メルティーナ』が作った爪痕が痛々しく残っています。

 それを見て更に気分が暗くなった私は、腕で抱いた膝に顔を埋めました。

 あれだけの大惨事を巻き起こした以上、もうこの学園にも居られないかもしれません。

 そして、気まずさから寮に帰ることすらできません。

「イシズおばさんなら、私を受け入れてくれるかな・・」

 そこで、私はふるふると頭を振りました。

 ダメです。

 いきなり『東雲しののめの奇跡亭』から居なくなった私が、たったの数日で戻るなんで虫が良すぎます。

 でも、兎に角『アーティナイ連邦』に帰りたい。

 そう思って仕方ありません。

「でも、どうやって帰れば・・」

 学園へやって来た時には『サイナード』を使わせてもらいました。

 ですが、流石に『サイナード』を帰りの足にお願いすることはできません。

 遥か彼方、極東の『アーティナイ連邦』に帰る手段なんて・・。

 その時、私は『メルティーナ』の事を思い出しました。

 そうだ!『メルティーナ』に乗れば『アーティナイ』まで帰られる!

 私の事を世話してくれたモニカさんやクラスのみんなにお別れができないのは残念ですが、やむを得ません。

 私はすっと立ち上がると、『白銀薔薇のバレッタ』に手を添えました。

「お願いします!『メルティーナ』!!わた・・」

「早まるな!アリア!!」

 その時、背後からレオンハルト様の声が聞こえてきました。

「レオンハル・・・」

 ぱしっ!

 そして、捕まえたと言わんばかりに私の手を掴み取りました。

「間に合ってよかった」

「レオンハルト様!どうしてここが・・!」

「それは君に付けた護衛の『影』・・おっと、それはいいとして」

「影?」

 確かに今は夕方で、影が長い時間帯ですが・・。

 ぐいっ!

「きゃっ!?」

 私が首を傾げていると、レオンハルト様が突然私の身体を引き寄せてきました。

「アリアは『メルティーナ』を呼び出して何処に行くつもりだったのかな?」

 レオンハルト様は私にずいっと顔を寄せながら問いかけてきました。

「・・っ!」

 私はお互いの顔が近い事による羞恥心と、自分のやろうとしていた事の後ろめたさから顔を背けようとします。

 ぐいっ!

 しかし、レオンハルト様は私の顎を持ち上げて無理やり目を合わせました。

「まさか、私を置いて何処かに行ってしまおうと企んでいたりしないよね?」

「っ!?」

「やはり、図星だったか・・アリア、君はだね」

 そう言いながら、レオンハルト様は妖しく目を細めました。

 そして、『悪い子』という言葉を聞いた瞬間、私の瞳から涙が溢れ出しました。

「だ・・だって!!私は力を抑えようとしました!それなのにあんなことになって・・・!!」

「私は化け物なんです!!このままではたくさんの人に迷惑をかけてしまいます!」

「それだったら、私は一人で生きていきます!!」

「それが、みんなにとって一番幸せな道なんです!!」

 一度感情が溢れたら、もう止まりません。

「だから、私はこの学園を出ていくんです!!」

 私は叫びながらレオンハルト様の手を振り解こうとします。

 ですが、その手は離れません。

「離してください!!」

「いいや、離さない」

「お願いします!!はなし・・っ!?」

 チュッ。

 私がレオンハルト様の手を振り解こうとした時、頬に小さなリップ音と一緒に温かい感触を感じました。

 チュッチュッ。

 それがレオンハルト様のキスと気づいた時には既に涙に沿って何度かの口づけを頬に落とされていました。

「いいか?君が何者であってもアリアは『アリア』だ」

「そして、私も・・エカテリーナ嬢やユイ嬢も・・だがアーヴィンもだ・・」

「彼女達はアリアの事を絶対に見放したりしない」

「それに、アリアの事を悪く言う不届き者など放っておけば良い」

「君は選ばれた人間で大きな力を持っているんだ。君は君らしく生きていればそれでいい」

「だからアリア、私達を信じてくれ。全てを一人で抱えなくて良いんだ」

「みんなに迷惑をかけたっていいんだ。私だって周りの人間に迷惑をかけるときがある、アーヴィンなんてその例だ」

「だけど、お互いにだからこそ、迷惑を掛け合いながらでも成長していけるんだ」

「レオンハルトさ・・・」

 ペロッ。

「ぴゃあ!?」

 今、レオンハルト様に唇の端を舐められっ・・!?

「『レオン』だ」

「無・・無理です!」

 私は顔を真っ赤にしながら首を振ります。

「そうか、なら仕方ない」

 そう言いながら、レオンハルト様が再び顔を寄せてきます。

「わかりました!呼びます!呼びますから!!」

 ぐいっぐいっ!

 私はまた唇を舐められるわけにはいかないと、必死にレオンハルト様の胸を押し返します。

「・・私が顔を寄せているのに手で突き返して来る令嬢は君くらいだよ・・まあいい、じゃあ呼んで?」

「レ・・レオン・・様」

「・・・・・あと一息だね。まあいいだろう、次回に期待しているよ」
  
 そう言いながら、レオンハルト様は私の顎を掴んでいる手から親指を伸ばして唇を撫でてきました。

「っ!?」

「けど、次に私へ何も告げずに何処かに行こうとした時は、その可愛くて美味しそうな唇をからね」

「っ!?こくこくっ!!」

 私はとにかく言う事を聞かないといけないと思って必死に頷きました。

「・・良い子だ」

 チュッ。

 レオン様は満足気に頷くと、私のおでこに唇を落としてから漸く解放してくれました。

 ザッザッ・・。

 それと同時に誰かの足音が近づいてきました。

「レオンハルト様。私の見間違えでなければ・・今、アリア様の顔に口づけをされていませんでしたか?」

「ちっ・・アーヴィンか」

「まあまあまあ!お兄様とお義姉様がそこまで進展なさってたなんて!!見逃したのが残念でしたわ!」

「レオンハルト殿下!!お、おそれながら!アリアちゃんにそ、その!口付けは早いと思います!!」

「はあ・・アリア、厄介な相手に執着されましたわね」

「権力を持ったストーカーは一番厄介ですわよ」

「み・・みなさん!?」

「皆アリアが心配で探しにきてくれたんだよ。こんなにアリアの事を心配してくれる人がいるんだ。勝手に居なくなろうなんて考えたらダメだよ」

「レオン様・・みんな・・ありがとう」

「さあ、今日は疲れただろう。魔導車を待たせている。寮まで送ろう」

「さあ、帰りましょう!お義姉様!今夜も遊びに行きますわ!」

「つまり、パジャマパーティという事ですわね!では、わたくしも行きますわ」

「アリアちゃん!私も行くよ!」

「・・・はい!」

 みんなの言葉を聞いて、私は少し気を持ち直すことができました。

 そして、私は目尻に残った涙を指で拭うと、クラスメイトの元へと駆け寄りました。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

この世界、イケメンが迫害されてるってマジ!?〜アホの子による無自覚救済物語〜

具なっしー
恋愛
※この表紙は前世基準。本編では美醜逆転してます。AIです 転生先は──美醜逆転、男女比20:1の世界!? 肌は真っ白、顔のパーツは小さければ小さいほど美しい!? その結果、地球基準の超絶イケメンたちは “醜男(キメオ)” と呼ばれ、迫害されていた。 そんな世界に爆誕したのは、脳みそふわふわアホの子・ミーミ。 前世で「喋らなければ可愛い」と言われ続けた彼女に同情した神様は、 「この子は救済が必要だ…!」と世界一の美少女に転生させてしまった。 「ひきわり納豆顔じゃん!これが美しいの??」 己の欲望のために押せ押せ行動するアホの子が、 結果的にイケメン達を救い、世界を変えていく──! 「すきーー♡結婚してください!私が幸せにしますぅ〜♡♡♡」 でも、気づけば彼らが全方向から迫ってくる逆ハーレム状態に……! アホの子が無自覚に世界を救う、 価値観バグりまくりご都合主義100%ファンタジーラブコメ!

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

黒騎士団の娼婦

イシュタル
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

花嫁召喚 〜異世界で始まる一妻多夫の婚活記〜

文月・F・アキオ
恋愛
婚活に行き詰まっていた桜井美琴(23)は、ある日突然異世界へ召喚される。そこは女性が複数の夫を迎える“一妻多夫制”の国。 花嫁として召喚された美琴は、生きるために結婚しなければならなかった。 堅実な兵士、まとめ上手な書記官、温和な医師、おしゃべりな商人、寡黙な狩人、心優しい吟遊詩人、几帳面な官僚――多彩な男性たちとの出会いが、美琴の未来を大きく動かしていく。 帰れない現実と新たな絆の狭間で、彼女が選ぶ道とは? 異世界婚活ファンタジー、開幕。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...