転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

文字の大きさ
5 / 229
プロローグ

ハーティの決意

しおりを挟む
「・・・よかった」

 極大浄化魔導の発動が終わり、先ほどまでの絶望的な状況が回避されたことを知ったハーティは安堵の声を漏らした。

 そして、先ほどまで死にかけていたユナの事が気になって視線を下ろす。

 すると、そこには跪きながら両手を祈るように組み、俯いたその額にその手を宛がった姿勢をしたユナがいた。

 それは『女神教』において、女神ハーティルティア像の前で信者や神官が行う『最敬礼』の姿勢であった。

 この姿勢はこの世界の創造を代償に消滅した、亡き女神ハーティルティアへ祈りを届けるための姿勢であり、どれだけ高位で偉い神官の前であってもこの姿勢をすることはない。

 正真正銘、女神ハーティルティアの為だけに行う姿勢であった。

「え・・・・・」

 そんな姿勢を目の前でされたハーティは困惑するばかりであった。

「女神ハーティルティア様・・・!」

「この度は信仰心の足らぬ未熟な私めの為に顕現された上、私めを救って頂き感謝致します」

 ユナはハーティの戸惑いなど気にせず、感極まった様子で『最敬礼』のポーズから微動だにしなかった。

(う・・・うそだ)

 ハーティはユナが敬虔な『女神教』信者であることを知っている。

 むしろユナ本人に限れば、『とても熱心な信者』といっても過言ではないであろう。

 そんなユナに対して、もし自分が本当に女神ハーティルティアの記憶を持った生まれ変わりだと知られれば、どうなるかなど容易に想像できた。

 そして、ハーティの髪の毛や瞳の色は今もなお変わらず輝く白銀色である。

 ハーティの知る限り、有史以来このような髪色や瞳の色をした人間など現れたことがない。

 全世界的に『女神教』が信仰されるこの世界で今の髪色のような人間がうろついていれば、大騒ぎになるどころか本家聖女様など霞むほどの崇拝を受けることは想像に容易い。

 ハーティとして生まれてからの8年間を普通の人間として生きてきたハーティにとって、それは絶対に避けたい事態であった。

 せっかく神々の願いが叶い、今の世界が生み出されて自分自身も生まれ変わったのだ。

 考えれば『女神ハーティルティアとして過ごしてきた前世(?)において、そのほとんどの時間は戦いの記憶ばかりであった』

 どのような因果で受肉して生まれ変わったのかは全く謎だが、ぜひとも今度こそは普通の人生を歩みたい。

 今世で女神ハーティルティアの力が必要にされていない以上、今の力を世間に知られることは世界に大きな歪みを生み出すことになるかもしれない。

 ハーティはとにかく発現したこの力を隠すことを決意した。

 そして、まずは眼前の問題であるユナに対してこの状況をどうやって誤魔化そうかを考えていた。

「や・・・やだわ、ユナ。私は女神ハーティルティアなんかじゃなくてよ」

「私の名前を忘れてしまったのかしら・・・」

 ハーティは取り繕った顔でとりあえず自分が女神ハーティルティアでないことをアピールすることにした。

「ふふふ・・・お戯れを女神様。それほど見事な白銀色の髪色と瞳を持つ御方が女神様でないはずがございません」

「・・・・・・」

 しかし、ユナには全く伝わっていない様であった。

 兎に角、どちらにしてもこの髪色をしているのはこの世界においては非常にまずいことである。

 ハーティはすぐさま光属性の魔導を発動して髪色と瞳の色を黒く変化させた。

 これは対象物にあたる光源を光の魔導により屈折させることで、視認するものの見た目を変化させるものである。

 無論、この効果は屈折が作用している間だけものであり、常に視認する色を変化させるには常時魔導を発動する必要があり、常人であれば長時間維持するのは不可能である。

 しかし、女神の力を持つハーティは大気中のエーテルを無尽蔵にマナへと変換して使える為にまったく問題ない。

「そ・・そうだわ!きっと日頃あまりに信仰深い私たちが命の危機に瀕したから、失われた女神の奇跡が起こって一時的に私に女神の力が宿ったのだわ!!」

(く・・・・苦しいか)

 ただでさえ女神が失われたとされるこの世界でいくら聖女様や大司祭様などの敬虔な信者だったとしても、女神の力が宿ることなどありえないだろう。

 しかし、女神としての力を見られてしまった以上、ゴリ押しするしか方法はなかった。

「・・・・・心得ました」

 ハーティの言葉を聞いたユナは、何やら含みを持った表情でそんな言葉を綴った。

「女神ハーティルティア様へ『女神教』の教えを説くなど愚の骨頂。いままでハーティとしての姿でいらっしゃった時に講義を抜け出していらしたのはそういう事でしたのですね」

「・・・なにやら勝手に納得しているけど、違うからね」

「本当に私に女神ハーティルティアとしての記憶なんてなんだから」

 ついさっきまで女神ハーティルティアの記憶がなかったことは事実であり、嘘は言っていない。

「と、とにかくさっきの出来事はここだけの秘密でお願い!本当にお願い!」

「当たり前です。もしハーティルティア様の美しい御姿が露呈すれば女神教会は黙っていませんでしょう」

「・・ぐ、やはりそうよね・・・」

「・・・あと私はハーティルティアなんて名前じゃないから、今も昔もこれからも『ハーティ』よ」

「あんな力だって、きっと二度と使えないんだから。こうして私の髪や瞳だってもとの黒色に戻ったんだからね!」

 そういうと、再びユナはハーティの前で『最敬礼』の姿勢を取った。

「私ユナは女神ハーティルティア様に誓って、この命に代えてでもあなた様の秘密はお守りします」

「べ・・・べつに命までかけなくてもいいとおもう・・よ?」

「いいえ、これは女神ハーティルティア様より賜った神命です。これからも全身全霊を以てあなた様にお仕えします。

 そういいながらユナは満足そうに微笑んだ。

(どうやってもユナを誤魔化すことは不可能みたいね・・・)

(とにかく黙ってもらえるみたいだし、こんなこと何度も起こらないでしょう・・・)

(これからも魔導の才能がない侯爵令嬢ハーティ・フォン・オルデハイトとして生きていくわ!!)

(そして、『普通の人間』としての人生を楽しむのよ!!)

 ハーティは心の中でそんなことを固く決意したのだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

追放された万能聖魔導師、辺境で無自覚に神を超える ~俺を無能と言った奴ら、まだ息してる?~

たまごころ
ファンタジー
王国一の聖魔導師アレンは、嫉妬した王子の策略で「無能」と断じられ、国を追放された。 辿り着いた辺境の村で、アレンは「ただの治癒師」として静かに暮らそうとするが――。 壊れた街を再生し、疫病を一晩で根絶し、魔王の眷属まで癒しながら、本人はただの村医者のつもり。 その結果、「あの無能が神を超えた」と噂が広がり、王と勇者は頭を抱えることに。 ざまぁとスカッとが止まらない、無自覚最強転生ファンタジー開幕!

処理中です...