転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

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第一章 神聖イルティア王国編

オルデハイト侯爵家

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「・・・ところでお嬢様、すっかり時間が経ってしまいましたね」

「あっ!」

 先ほどの事件はハーティがユナに諭されて屋敷に戻ろうとしたときに発生したので、かなりの時間が経っていた。

 しかもつい先ほどまで激しい雨が降っていたのだ。

 どう考えてもハーティの両親が心配して探しているのが目に見えた。

「だけど・・・・」

 ハーティは徐に二人の姿を確認する。

 先ほどの事件により、二人の着ている服は血まみれかつ泥だらけで、雨に打たれたことからびっしょりと濡れていた。

 もし、こんな姿を両親に見られたら間違いなく大騒ぎになるはずである。

「・・・・・・うーん、仕方ないか」

 どのみちハーティの女神化はユナに見られてしまっているし、先ほどの極大浄化魔導の件もある。

 1回も2回も変わらないだろうと判断したハーティは、二人の服を光属性の浄化魔導で綺麗にすることにした。

「ユナ、ちょっとじっとしていてね・・・えいっ!!」

 ハーティ―が浄化魔導を発動すると二人の体に光が纏われ、まるで時間を逆戻ししているように衣類の汚れがなくなっていった。

 ちなみにこの魔導は光属性の初級魔導で、冒険者などが身なりを綺麗にするために用いるもので、一般的な魔導士であれば大体使用できるポピュラーなものである。

 尤も、魔導の発動にはなんらかの詠唱キャストか、詠唱キャストを肩代わりする道具が必要で、間違っても「えいっ!!」では通常魔導を発動することは不可能だが、今まで今世で魔導の才能が無く魔導の講義を受けたことがないハーティは知らなかった。

 この世界の『魔導』と呼ばれる現象は、かつての神界では『神技』と呼ばれていた。

 もちろん、女神などの当時の神界に住まう神々達は神技の発動など呼吸のようにするもので、いちいち詠唱キャストなどしなかった。

「ふう・・・・これで大丈夫・・」

「あの、お嬢様・・・・服はともかくその御姿はまずいのでは?」

「・・・え?」

 ハーティはユナに指摘されて再度自分の姿を確認する。

 すると、ハーティの髪は再び美しい白銀に光り輝いていた・・・。

「・・・・・・」

 どうやら何らかの魔導を発動すると、髪と瞳の色を擬態している魔導が解除されるらしい。

(初級魔導を発動するだけでいちいちこんな状態になっていては人前で魔導を使用することはできなさそうね・・・)

 ハーティは無言で再度魔導を発動して髪と瞳の色を黒に戻した。

「・・・・お嬢様、わたしは何も見ておりませんので」

「・・・そういう気遣いは結構よ・・」

「わたしは絶対にこのことを漏らしたりしませんのでご安心ください」

「・・・・・・」

 ハーティは女神化の件をユナに隠すことを諦めることにしたのだった。

・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・。

 それから二人が屋敷に戻ると、ハーティの両親が慌てて駆け寄ってきた。

「ハーティ!一体どこに行っていたんだ!」

「あなたはいっつもいっつもおてんばばっかり!」

 ハーティの父親であるレイノス・フォン・オルデハイトはオルデハイト侯爵家当主で、神聖イルティア王国の宰相という立場の三十になったばかりの美丈夫である。

 ハーティの母親と婚姻したことで先代から爵位と領地を受け継いで当主となったのだが、歴代当主が宰相を勤めるオルデハイト公爵家次期当主であったこと、そして絶世の美男子であったことから当時レイノスの正妻の座をかけた争いは苛烈を極めたらしい。

 レイノスは王宮で宰相としての職務がある為、普段は単身王都のタウンハウスに滞在しており、時々オルデハイト領内での執務の為に戻ってくる。

 今はちょうど領内の執務を行う為に一週間ほどオルデハイト領で滞在していた。

 そして、母親であるユリアーナ・フォン・オルデハイトは元伯爵家の長女で同じく美人な二十八歳の女性である。

 当時は女神ハーティルティアの愛し子と呼ばれるほど美人で有名で、代々将軍を勤める武闘派侯爵家であるグラファイト侯爵家嫡男とレイノスが恋敵となり、決闘の末勝利したレイノスが娶ったらしい。

 ただ、将軍閣下の嫡男が宰相の嫡男に決闘で負けたというのは世間的には問題みたいで、公には伏せられているらしい。

 基本的に政略結婚が主である王国で、侯爵家次期当主でありながら恋愛結婚であることは非常に稀であった。

 そして、そんな事情からレイノスはユリアーナを溺愛しており、侯爵家当主でありながら側室は持たず、今もオルデハイト領に戻った時は毎夜夫婦でよろしくしているようで、ユリアーナのお腹の中には現在次期オルデハイト侯爵家次期当主候補(男児であれば)が宿っている。

 まったくもって、非常に仲のよろしいことである。

 駆け寄ったレイノスはハーティを強く抱きしめた。

「ハーティがいなくなったと思えば、外は急に雨が降り出したし、近くで雷が落ちたのか凄まじい光が屋敷の裏で見えたから心配したんだぞ!」

 どうやらレイノスはハーティが先程放った極大浄化魔導を雷が落ちたと勘違いしたらしい。

 女神化を隠したいハーティにとっては好都合であったので、それに乗っかることにした。

「近くで落ちたみたいですが、たまたまユナがそばにいてくれたから怖くはありませんでしたわ」

「とにかく、今日はもう遅いし神官様はお帰りいただきましたが、次回の講義の時はちゃんと謝るのよ」

「はい、申し訳ありません。お母さま」

「私たちはあなたが魔導の才能が無くても心からあなたのことを愛しているのよ」

「そうだぞ、気に病むことではないからな」

「ユナもハーティを連れ戻してくれてありがとう」

「いえ、お嬢様の専属侍女として当然のことです」

 そう言いながらユナは流れるような所作で一礼する。

 もはや魔導の才能云々以前の問題だが・・・。

「ささ、そうと決まればお夕食の支度をお願いしましょう」

「ああ、明日は大事な予定があるから早めに就寝しないとな」

 そう言いながらハーティの両親は微笑んだ。

「大事な予定ですか?」

 どんな予定があるのかとハーティは首を傾げる。

「ああ、ハーティをびっくりさせようと思ってね、おめでたいぞ!ハーティの婚約者が決まったんだ」

「そうよ、とっても高貴な方なのよ。ハーティもきっと喜ぶわ。明日はその婚約者様がうちにいらっしゃるのよ!」

「ユナもハーティの婚約者については気にしてただろう。今回はかなりの良い条件だしよかったな!」

 確かにユナはハーティ婚約者がどんな人物になるかを気にしていた。

 ハーティが王国でも高貴な身分である以上、相手もかなり高貴な人物と予想できたからだ。

 そんなこともあったので、ユナは少々おてんばなハーティを「お嬢様は高貴なお方のお嫁さんになるのですから、淑女としていつも気をつけて行動しないといけませんよ」と、何時も優しく嗜めていたのだが・・・。

「・・・ちっ」

(え!?なんで!?)

 何故かユナは殺し屋も裸足で逃げるような恐ろしい顔で静かに舌打ちしていた。
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