転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

文字の大きさ
12 / 229
第一章 神聖イルティア王国編

謁見

しおりを挟む
 王宮に到着した後、取り急ぎ使うことはないハーティ達の荷物を積んだ馬車達はオルデハイト侯爵家のタウンハウスへ運ぶために向かっていった。

 国王陛下は多忙な身の上、こちらも長旅から到着した直後であり、王宮に着いたからといっていきなり謁見できるわけではない。

 ひとまず国王陛下への謁見は明日執り行われるということで、この日はオルデハイト家側は王宮の謁見を控える客人をもてなす為の部屋に案内された。

 そして、簡単とはいえ豪華な王宮料理に舌鼓を打ちながら、その日は早めの就寝となった。


 その翌日、いよいよ陛下との謁見である。


(・・・いよいよね)

 ハーティは朝からユナを筆頭とした侍女団に磨き上げられ、清楚ではあるが豪華なドレスに身を包んで、父親であるレイノスと謁見の間へ続く扉の前に立っていた。

 レイノスは宰相として普段王宮で着ている王国から支給された正装をしており、その胸には沢山の勲章が付いていた。

「緊張する気持ちはわかるけど、いつも通りにしていれば大丈夫だからね」

 そう言いながらレイノスはハーティの頭を優しく撫でた。

 ちなみに国王陛下への謁見には相応の身分が必要である為、ユナの同行は叶わなかった。

 レイノスは謁見の間に設けられた扉の前に立つ衛兵に声をかける。

 声をかけられた衛兵が先に単独で謁見の間に入り、それを見送った二人がしばらく待っていると・・・。

「レイノス侯爵及びその息女ハーティよ、入り給え」

 扉の向こうから国王陛下が二人の入室を促す声が聞こえてきた。

 間髪入れずに衛兵が扉を開き、二人はふかふかの赤絨毯の上を進んでいった。

 謁見の間は白亜調の非常に豪華な部屋で、奥に向けて赤絨毯が敷かれている。

 その絨毯の先に一段上がった場所があり、国王陛下と王妃陛下の玉座があった。

 その玉座の高く聳えた背もたれ部分には、女神ハーティルティアが両腕を広げているシルエットをモチーフにした意匠の国章が刻まれている。

 そして、玉座の背後にはさらに数段上がった祭壇があり、そこには高さ3メートル程の大理石を削り出して作られた女神ハーティルティア像があった。

 ハーティはつい無意識に女神ハーティルティア像から目を逸らした。

 玉座には国王陛下と王妃陛下が腰掛け、玉座を挟んで数人の人間が立っていた。

 玉座に向かって左側の1番玉座に近い所にはユーリアシス側妃殿下が立ち、順にハーティの婚約者になるマクスウェル殿下、第二王子と並んでいた。

 玉座に向かって右側には主要な重臣と見られる人物が並んでいた。

 おそらく普段は父親のレイノスもこの中に並ぶだろうとハーティは想像した。

 そして、ハーティは無意識に第二王子へと目をやった。

 ハーティがマクスウェル殿下から聞いた話によると、第二王子の名はデビッド・サークレット・イルティアと言うらしい。

 ハーティより二つ下の年齢で王妃陛下の実子である。

 イルティア王室典範では王位継承順位は生誕順であるとされる為、王妃陛下の実子でありながらその王位継承順位は第二位である。

 ふとハーティはデビッドの髪色が気になった。

 マクスウェルが美しい金髪なのに対して、デビッドはユナほどではないが紺色の髪色である。

 おそらく魔導の才能はそれほどないと思われたが、王族に魔導の才能は基本的に不要であったし、ハーティ自身がもともと漆黒の髪であるから、ハーティにとってそれ以上の興味は生まれなかった。

 そのままぼやっと見ていて相手に気づかれても困るので、ハーティは再び意識を玉座に戻し、歩みを進めた。

 ほどなくして二人が玉座の前に到着すると、即座に跪いて顔を伏せた。

(もしここにユナがいたら「女神様に頭が高いぞ!」とかいいだして三人まとめて切捨てになったかな・・)

 ハーティがくだらないことを考えていたら、国王陛下が静かに口を開いた。

「面を上げよ」

「はっ!」

 国王陛下の言葉を聞いて、二人は素早く顔を上げた。

「この度は我が娘をお招きいただき感謝を申し上げます。国王陛下、不肖ながらこの娘を紹介してよろしいでしょうか」

「良い」

 一応第一王子の婚約者になるのでハーティのことなど、この場にいる人間で知らない者はいないはずだが、そこは国王陛下に謁見する時の様式美である。

「さあ、ハーティよ。陛下に挨拶なさい」

 レイノスの言葉を聞いたハーティは予め習った口上を述べるべく口を開いた。

「お初に拝顔叶いまして恐悦至極に存じます。ご紹介に預かりました、オルデハイト侯爵家が長女、ハーティ・フォン・オルデハイトでございます」

「うむ、余はジル・グレイル・サークレット・イルティア。この神聖イルティア王国国王である。そなたの口上、感謝する」

 国王陛下は壮年の美丈夫であり、レイノスに似たような明るい茶髪の人物であった。

 その頭に戴く魔導銀ミスリルの王冠には透明で純度の高い大粒の魔導結晶が幾つも嵌っていて、見るからに高価そうなものであった。

「もったいなき言葉でございます」

「そなたは、わが妻とも初対面であったな。それ、挨拶をしたまえ」

 そう言って国王陛下は隣に座る王妃陛下に声をかける。

「こんにちわ、ハーティちゃん。妾は神聖イルティア王国王妃のミリフュージア・グレイル・サークレット・イルティアよ。よろしくね」

 そう挨拶する王妃陛下は同じ年齢であるユリアーナやユーリアシス側妃殿下に似て、年齢よりも愛らしくも美しい容姿をした、薄桃色の髪と瞳を持った女性であった。

 彼女もまた、その頭部に豪華な魔導銀ミスリルのティアラを戴いていた。

 彼女の髪色を見るとハーティの母親と同世代である彼女もまた、かなりの魔導の才能があると思われる。

 そういえばハーティは、父親に三人が学生時代の時は『華の魔道三姉妹』と呼ばれていたと聞いていたのを思い出した。

「お話に聞く以上に愛らしい女の子ね。幼いのにしっかりしているし」

 そう言いながら微笑む姿は年齢を感じさせない愛らしさがあった。

「マクスウェルは妾も息子のように思っているのよ」

「ユーリアシス共々、あなたが成人したら入内することを歓迎するわ」

「この度は大変名誉なお話をいただき、心より感謝しております」

 王妃陛下にもお墨付きをもらったので、ハーティは素直に感謝の意を述べた。

 そして、ハーティが一通りの挨拶を終えると、再びレイノスが口上を述べ始めた。

「国王陛下。恐れ入りながら、この度わが娘がイルティア王家に入内することにあたり、先立って此度の婚約についてご承諾お願い申し上げます」

「・・あいわかった。これをもって余はジル・グレイル・サークレット・イルティアの名に於いて、第一王子マクスウェル・サークレット・イルティアとオルデハイト侯爵家息女ハーティ・フォン・オルデハイトとの婚約を承認する!」

 それを聞いて、様式的ではあるが重臣達も「これは目出度い」といいながら拍手をする。

「今宵は祝いの席である。あらためて、その時に集まった我が国の主要貴族達にそなたを紹介したい」

「ありがたき幸せ」

 そう言いながらハーティとレイノスは頭を垂れた。

「・・・・・・・」

 しかし、その側で二人を眺めていた第二王子デビッドの表情は、恨めしそうな様子であった。

しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...