転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

文字の大きさ
16 / 229
第一章 神聖イルティア王国編

デビッド殿下の憂鬱

しおりを挟む
「あら、デビッド、もう他の人との挨拶は済んだの?」

 ハーティがデビッドに声をかけると、彼はハーティに歩み寄り、マクスウェルと同じように花束を手渡して来た。

「はい、・・・どうぞ、お祝いの花束です。あと他にプレゼントもありまして、そちらは後ほどお部屋まで届けさせます」

 ハーティは未来の王太子妃で侯爵令嬢の為、今回の誕生日で送られるプレゼントも大量なものになる。

 なので、それらはパーティの開場では目録として置かれ、実物は従者や執事の手によってタウンハウスへと運ばれていた。

「まあ、丁寧にありがとう」

 そう言いながら、ハーティはデビッドの頭にポンポンと手を置いた。

「いつまでも子供扱いしないでください。義姉ねえさん・・」

「あら、ごめんね。デビッドは昔から本当の弟みたいに思っているからつい・・・」

「むう、姉上は僕の姉上なんだからっ!」

 それを聞いたラクナウェルが頬を膨らませた。

「あら、もちろんよ、ラクナウェル。デビッドも年頃になってきたし、気をつけないといけないわね」

「はい。お願いします」

 そう言いながらデビッドが俯いた顔は、少し火照っているように赤かった。

「そう言えば、デビッドもマクスウェルと一緒に騎士団の訓練に参加しているのよね?最近調子はどうかしら」

 神聖イルティア王国の王子は概ね10歳頃から時々騎士団の訓練に混ざって剣や魔導を習う。

 これはいざという時に自身を守るために戦闘術を身につけるという意味がある。

 また、かつての女神ハーティルティアが神界の為に永きに渡る戦いを続けていた戦女神としての存在でもあったということから、それに倣って王家も鍛錬を怠らないようにするという宗教的な意味もあった。

 その伝統に則り、マクスウェルとデビッドも10歳になった頃から騎士団での訓練に参加していたのだ。

「僕は魔導がつかえないので、剣術がメインですが・・模擬戦では兄上はもちろん、そちらのユナさんにも勝てないのです」

「え、ユナも騎士団の訓練に参加してたの!?初耳だわ」

 突然の事実を知ってハーティは驚きを隠せなかった。

「ええ、いつ何時お嬢様をつけ狙うが現れるかわかりませんから。その為に少しでも戦えるようにと思いまして、最近合間を見て参加させてもらったのです」

 そう言いうユナの視線は、完全にマクスウェルの方を向いていた。

「ユナの剣術は女性なのにかなりの腕前だよ。もう騎士団の若い世代では勝てる人間はいないんじゃ無いかってくらいだよ」

「最近は私だって魔導を使わないと勝てるか怪しくなってきたんだよ」

 そう言いながらマクスウェルはため息を漏らした。

 マクスウェルは魔道士としての資質が高いのは周知の事実だが、剣術の腕前も相当なものだと聞いている。

 そのマクスウェルにユナが剣術で互角の戦いをすると聞いたユナは驚きを隠せなかった。

「実はお嬢様とマクスウェル殿下が婚約された頃からコツコツと鍛錬していたのです」

「なんだかユナが鍛錬を始めた時期に悪意があるように感じるが、気のせいか」

「はい、気のせいですよ。ええ、です。その時から特に戦闘術についてを感じたもので」

「・・・・・・・」

「ユナさんは僕と同じで魔導が使えないのに強くて・・だから、僕は王族として情けなくって・・」

「そんなこと言ったら私なんてもっと才能がないわ」

 そう言ってハーティは自身の髪を一房掴んでデビッドに見せた。

(まあ、本当はそんなこと無いのだけれど・・・)

 だが、それはハーティとユナだけが知る真実なので、これからも知られることはないだろうと彼女は思った。

「デビッドはまだ騎士団の訓練に参加してそんなに年数が経っていないし、頑張ってまだまだ伸び代はあるはずよ。だから頑張って続けていってほしいわ」

 ハーティはデビッドの手を取りながら励ましの言葉をかけた。

 そして、その言葉を聞いたデビッドは再び顔を赤らめていた。

(・・・・ユナ的にあれは大丈夫なのか?)

 マクスウェルはユナに小声で語りかけた。

(・・・・前々から兆候はありましたが、由々しき事態ですね。お嬢様は天然人誑しですから・・今は様子見ですが何か対策が必要ですね)

 そう言いながらユナは考え込み始めた。

「そうだ!今度みんなが訓練に参加するときに私も見てみたいわ。ユナ達が実際に戦ってる姿も見てみたいし」

「!そうか、私は歓迎するよ。騎士団の人たちも気合が入るだろうし、私もやる気が増すしね!」

「お嬢様にはお目汚しになるかもしれませんが、私のような児戯でもよければどうぞご覧になってください」

「・・・ぼ、僕もがんばります」

 ハーティの騎士団訓練視察話を聞いて、皆意気込んでいるようであった。

 そして、そんな会話をしていると、さらにもう一人の中年貴族がやってきた。

「これはこれは、皆さんお集まりで華やかですな」

「・・アレクス侯爵」

 その男の名を呼んだマクスウェルの表情は曇っていた。

 彼の名はアレクス・フォン・グラファイトと言い、代々神聖イルティア王国軍の将軍職を輩出している名門貴族のグラファイト侯爵家当主である40歳過ぎの男である。

 彼は、過去にハーティの母親であるユリアーナを巡って、ハーティの父親であるレイノスと決闘を行い敗北した過去を持つ。

 神聖イルティア王国きっての名門武闘派貴族であるグラファイト侯爵家の当時嫡男であった男が決闘に敗北したという醜聞は、王国にとってもデメリットになりうるので公には語られることはなかった。

 結局それから数年後にアレクスは別の伯爵家令嬢を娶ってグラファイト当主となった後、突如始めた大規模な魔導結晶の採掘事業で大成したことにより、どうにか自分の侯爵家当主としての地位を盤石なものとした。

 そして、そんな過去があったからなのか、グラファイト侯爵家は当時の恋敵であったレイノスの娘であるハーティと第一王子の婚約について、水面下で反対をしていた筆頭の貴族家でもあった。

 結局その後王室の画策により、無事にハーティとマクスウェルは婚約関係になったが、当時は現状の王室典範に異を唱えて王位継承順位についての項目を改定するべきだと訴えていたのだった。

 今となっては王室の考えに反して第二王子を盛り立てることは謀反になりうるので、王国貴族から現状のマクスウェルが立太子した件について表だって反対する者はいなかったが、グラファイト侯爵家はマクスウェルにとっても決して良い関係とは言えない侯爵家であった。

「このたびはお誕生日おめでとうございます、ハーティ嬢。お母様に似てますますお綺麗になられて本当に女神様に愛されていらっしゃいますな」

 そう言いながらアレクスは、じっとりと纏わりつくような視線をハーティに向けていた。

 そして、それを察知したユナは顔を顰め、その顔に気づいたアレクスはユナを睨み付けた。

「しかし、ハーティ嬢。あなたも王太子妃になられるのですから、傍付けになる人間は選んだほうがよろしいのではないですかな」

「まあ、思い入れがあるのは分からなくはないですが、まあ・・身分というものもありますしなあ」

 その言葉を聞いてユナは静かに手を握りしめた。

「ご忠告痛み入ります。ですが、貴族や王族の侍女に身分的な制限が名言されているわけではございませんし、これでもユナは非常に気立てが良くて優秀な侍女ですので」

「お嬢様・・・もったいないお言葉です」

「・・・ふん、まあそれでしたら私から言うことはありませんな」

 すると、アレクスはハーティから突如視線を逸らした。
 
 ハーティがその視線の先を追うと、レイノスとユリアーナが歩み寄ってくるのが見えた。

「・・・では、私はこれにて失礼する」

 レイノスの接近を察知したからかなのか、アレクスは踵を返して立ち去って行った。

「・・・・りますか」

「・・・そうか、私はその時は見なかったことにしておくぞ」

「やめなさい」

 ハーティは物騒なことを言い出した二人を窘めた。

 それからハーティは、やってきた両親に祝いの言葉をもらった後、国王陛下や王妃陛下、側姫陛下を筆頭とした賓客へ挨拶を済ませ、そうこうしているうちに華やかなパーティの時間は過ぎていった。

 そして、ハーティーの前を辞した後のアレクスの顔は、憎しみに染まっていた・・・・。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...