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第一章 神聖イルティア王国編
デビッド殿下の憂鬱
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「あら、デビッド、もう他の人との挨拶は済んだの?」
ハーティがデビッドに声をかけると、彼はハーティに歩み寄り、マクスウェルと同じように花束を手渡して来た。
「はい、・・・どうぞ、お祝いの花束です。あと他にプレゼントもありまして、そちらは後ほどお部屋まで届けさせます」
ハーティは未来の王太子妃で侯爵令嬢の為、今回の誕生日で送られるプレゼントも大量なものになる。
なので、それらはパーティの開場では目録として置かれ、実物は従者や執事の手によってタウンハウスへと運ばれていた。
「まあ、丁寧にありがとう」
そう言いながら、ハーティはデビッドの頭にポンポンと手を置いた。
「いつまでも子供扱いしないでください。義姉さん・・」
「あら、ごめんね。デビッドは昔から本当の弟みたいに思っているからつい・・・」
「むう、姉上は僕の姉上なんだからっ!」
それを聞いたラクナウェルが頬を膨らませた。
「あら、もちろんよ、ラクナウェル。デビッドも年頃になってきたし、気をつけないといけないわね」
「はい。お願いします」
そう言いながらデビッドが俯いた顔は、少し火照っているように赤かった。
「そう言えば、デビッドもマクスウェルと一緒に騎士団の訓練に参加しているのよね?最近調子はどうかしら」
神聖イルティア王国の王子は概ね10歳頃から時々騎士団の訓練に混ざって剣や魔導を習う。
これはいざという時に自身を守るために戦闘術を身につけるという意味がある。
また、かつての女神ハーティルティアが神界の為に永きに渡る戦いを続けていた戦女神としての存在でもあったということから、それに倣って王家も鍛錬を怠らないようにするという宗教的な意味もあった。
その伝統に則り、マクスウェルとデビッドも10歳になった頃から騎士団での訓練に参加していたのだ。
「僕は魔導がつかえないので、剣術がメインですが・・模擬戦では兄上はもちろん、そちらのユナさんにも勝てないのです」
「え、ユナも騎士団の訓練に参加してたの!?初耳だわ」
突然の事実を知ってハーティは驚きを隠せなかった。
「ええ、いつ何時お嬢様をつけ狙う不届き者が現れるかわかりませんから。その為に少しでも戦えるようにと思いまして、最近合間を見て参加させてもらったのです」
そう言いうユナの視線は、完全にマクスウェルの方を向いていた。
「ユナの剣術は女性なのにかなりの腕前だよ。もう騎士団の若い世代では勝てる人間はいないんじゃ無いかってくらいだよ」
「最近は私だって魔導を使わないと勝てるか怪しくなってきたんだよ」
そう言いながらマクスウェルはため息を漏らした。
マクスウェルは魔道士としての資質が高いのは周知の事実だが、剣術の腕前も相当なものだと聞いている。
そのマクスウェルにユナが剣術で互角の戦いをすると聞いたユナは驚きを隠せなかった。
「実はお嬢様とマクスウェル殿下が婚約された頃からコツコツと鍛錬していたのです」
「なんだかユナが鍛錬を始めた時期に悪意があるように感じるが、気のせいか」
「はい、気のせいですよ。ええ、たまたまです。その時から特に戦闘術について必要性を感じたもので」
「・・・・・・・」
「ユナさんは僕と同じで魔導が使えないのに強くて・・だから、僕は王族として情けなくって・・」
「そんなこと言ったら私なんてもっと才能がないわ」
そう言ってハーティは自身の髪を一房掴んでデビッドに見せた。
(まあ、本当はそんなこと無いのだけれど・・・)
だが、それはハーティとユナだけが知る真実なので、これからも知られることはないだろうと彼女は思った。
「デビッドはまだ騎士団の訓練に参加してそんなに年数が経っていないし、頑張ってまだまだ伸び代はあるはずよ。だから頑張って続けていってほしいわ」
ハーティはデビッドの手を取りながら励ましの言葉をかけた。
そして、その言葉を聞いたデビッドは再び顔を赤らめていた。
(・・・・ユナ的にあれは大丈夫なのか?)
マクスウェルはユナに小声で語りかけた。
(・・・・前々から兆候はありましたが、由々しき事態ですね。お嬢様は天然人誑しですから・・今は様子見ですが何か対策が必要ですね)
そう言いながらユナは考え込み始めた。
「そうだ!今度みんなが訓練に参加するときに私も見てみたいわ。ユナ達が実際に戦ってる姿も見てみたいし」
「!そうか、私は歓迎するよ。騎士団の人たちも気合が入るだろうし、私もやる気が増すしね!」
「お嬢様にはお目汚しになるかもしれませんが、私のような児戯でもよければどうぞご覧になってください」
「・・・ぼ、僕もがんばります」
ハーティの騎士団訓練視察話を聞いて、皆意気込んでいるようであった。
そして、そんな会話をしていると、さらにもう一人の中年貴族がやってきた。
「これはこれは、皆さんお集まりで華やかですな」
「・・アレクス侯爵」
その男の名を呼んだマクスウェルの表情は曇っていた。
彼の名はアレクス・フォン・グラファイトと言い、代々神聖イルティア王国軍の将軍職を輩出している名門貴族のグラファイト侯爵家当主である40歳過ぎの男である。
彼は、過去にハーティの母親であるユリアーナを巡って、ハーティの父親であるレイノスと決闘を行い敗北した過去を持つ。
神聖イルティア王国きっての名門武闘派貴族であるグラファイト侯爵家の当時嫡男であった男が決闘に敗北したという醜聞は、王国にとってもデメリットになりうるので公には語られることはなかった。
結局それから数年後にアレクスは別の伯爵家令嬢を娶ってグラファイト当主となった後、突如始めた大規模な魔導結晶の採掘事業で大成したことにより、どうにか自分の侯爵家当主としての地位を盤石なものとした。
そして、そんな過去があったからなのか、グラファイト侯爵家は当時の恋敵であったレイノスの娘であるハーティと第一王子の婚約について、水面下で反対をしていた筆頭の貴族家でもあった。
結局その後王室の画策により、無事にハーティとマクスウェルは婚約関係になったが、当時は現状の王室典範に異を唱えて王位継承順位についての項目を改定するべきだと訴えていたのだった。
今となっては王室の考えに反して第二王子を盛り立てることは謀反になりうるので、王国貴族から現状のマクスウェルが立太子した件について表だって反対する者はいなかったが、グラファイト侯爵家はマクスウェルにとっても決して良い関係とは言えない侯爵家であった。
「このたびはお誕生日おめでとうございます、ハーティ嬢。お母様に似てますますお綺麗になられて本当に女神様に愛されていらっしゃいますな」
そう言いながらアレクスは、じっとりと纏わりつくような視線をハーティに向けていた。
そして、それを察知したユナは顔を顰め、その顔に気づいたアレクスはユナを睨み付けた。
「しかし、ハーティ嬢。あなたも王太子妃になられるのですから、傍付けになる人間は選んだほうがよろしいのではないですかな」
「まあ、思い入れがあるのは分からなくはないですが、まあ・・身分というものもありますしなあ」
その言葉を聞いてユナは静かに手を握りしめた。
「ご忠告痛み入ります。ですが、貴族や王族の侍女に身分的な制限が名言されているわけではございませんし、これでもユナは非常に気立てが良くて優秀な侍女ですので」
「お嬢様・・・もったいないお言葉です」
「・・・ふん、まあそれでしたら私から言うことはありませんな」
すると、アレクスはハーティから突如視線を逸らした。
ハーティがその視線の先を追うと、レイノスとユリアーナが歩み寄ってくるのが見えた。
「・・・では、私はこれにて失礼する」
レイノスの接近を察知したからかなのか、アレクスは踵を返して立ち去って行った。
「・・・・殺りますか」
「・・・そうか、私はその時は見なかったことにしておくぞ」
「やめなさい」
ハーティは物騒なことを言い出した二人を窘めた。
それからハーティは、やってきた両親に祝いの言葉をもらった後、国王陛下や王妃陛下、側姫陛下を筆頭とした賓客へ挨拶を済ませ、そうこうしているうちに華やかなパーティの時間は過ぎていった。
そして、ハーティーの前を辞した後のアレクスの顔は、憎しみに染まっていた・・・・。
ハーティがデビッドに声をかけると、彼はハーティに歩み寄り、マクスウェルと同じように花束を手渡して来た。
「はい、・・・どうぞ、お祝いの花束です。あと他にプレゼントもありまして、そちらは後ほどお部屋まで届けさせます」
ハーティは未来の王太子妃で侯爵令嬢の為、今回の誕生日で送られるプレゼントも大量なものになる。
なので、それらはパーティの開場では目録として置かれ、実物は従者や執事の手によってタウンハウスへと運ばれていた。
「まあ、丁寧にありがとう」
そう言いながら、ハーティはデビッドの頭にポンポンと手を置いた。
「いつまでも子供扱いしないでください。義姉さん・・」
「あら、ごめんね。デビッドは昔から本当の弟みたいに思っているからつい・・・」
「むう、姉上は僕の姉上なんだからっ!」
それを聞いたラクナウェルが頬を膨らませた。
「あら、もちろんよ、ラクナウェル。デビッドも年頃になってきたし、気をつけないといけないわね」
「はい。お願いします」
そう言いながらデビッドが俯いた顔は、少し火照っているように赤かった。
「そう言えば、デビッドもマクスウェルと一緒に騎士団の訓練に参加しているのよね?最近調子はどうかしら」
神聖イルティア王国の王子は概ね10歳頃から時々騎士団の訓練に混ざって剣や魔導を習う。
これはいざという時に自身を守るために戦闘術を身につけるという意味がある。
また、かつての女神ハーティルティアが神界の為に永きに渡る戦いを続けていた戦女神としての存在でもあったということから、それに倣って王家も鍛錬を怠らないようにするという宗教的な意味もあった。
その伝統に則り、マクスウェルとデビッドも10歳になった頃から騎士団での訓練に参加していたのだ。
「僕は魔導がつかえないので、剣術がメインですが・・模擬戦では兄上はもちろん、そちらのユナさんにも勝てないのです」
「え、ユナも騎士団の訓練に参加してたの!?初耳だわ」
突然の事実を知ってハーティは驚きを隠せなかった。
「ええ、いつ何時お嬢様をつけ狙う不届き者が現れるかわかりませんから。その為に少しでも戦えるようにと思いまして、最近合間を見て参加させてもらったのです」
そう言いうユナの視線は、完全にマクスウェルの方を向いていた。
「ユナの剣術は女性なのにかなりの腕前だよ。もう騎士団の若い世代では勝てる人間はいないんじゃ無いかってくらいだよ」
「最近は私だって魔導を使わないと勝てるか怪しくなってきたんだよ」
そう言いながらマクスウェルはため息を漏らした。
マクスウェルは魔道士としての資質が高いのは周知の事実だが、剣術の腕前も相当なものだと聞いている。
そのマクスウェルにユナが剣術で互角の戦いをすると聞いたユナは驚きを隠せなかった。
「実はお嬢様とマクスウェル殿下が婚約された頃からコツコツと鍛錬していたのです」
「なんだかユナが鍛錬を始めた時期に悪意があるように感じるが、気のせいか」
「はい、気のせいですよ。ええ、たまたまです。その時から特に戦闘術について必要性を感じたもので」
「・・・・・・・」
「ユナさんは僕と同じで魔導が使えないのに強くて・・だから、僕は王族として情けなくって・・」
「そんなこと言ったら私なんてもっと才能がないわ」
そう言ってハーティは自身の髪を一房掴んでデビッドに見せた。
(まあ、本当はそんなこと無いのだけれど・・・)
だが、それはハーティとユナだけが知る真実なので、これからも知られることはないだろうと彼女は思った。
「デビッドはまだ騎士団の訓練に参加してそんなに年数が経っていないし、頑張ってまだまだ伸び代はあるはずよ。だから頑張って続けていってほしいわ」
ハーティはデビッドの手を取りながら励ましの言葉をかけた。
そして、その言葉を聞いたデビッドは再び顔を赤らめていた。
(・・・・ユナ的にあれは大丈夫なのか?)
マクスウェルはユナに小声で語りかけた。
(・・・・前々から兆候はありましたが、由々しき事態ですね。お嬢様は天然人誑しですから・・今は様子見ですが何か対策が必要ですね)
そう言いながらユナは考え込み始めた。
「そうだ!今度みんなが訓練に参加するときに私も見てみたいわ。ユナ達が実際に戦ってる姿も見てみたいし」
「!そうか、私は歓迎するよ。騎士団の人たちも気合が入るだろうし、私もやる気が増すしね!」
「お嬢様にはお目汚しになるかもしれませんが、私のような児戯でもよければどうぞご覧になってください」
「・・・ぼ、僕もがんばります」
ハーティの騎士団訓練視察話を聞いて、皆意気込んでいるようであった。
そして、そんな会話をしていると、さらにもう一人の中年貴族がやってきた。
「これはこれは、皆さんお集まりで華やかですな」
「・・アレクス侯爵」
その男の名を呼んだマクスウェルの表情は曇っていた。
彼の名はアレクス・フォン・グラファイトと言い、代々神聖イルティア王国軍の将軍職を輩出している名門貴族のグラファイト侯爵家当主である40歳過ぎの男である。
彼は、過去にハーティの母親であるユリアーナを巡って、ハーティの父親であるレイノスと決闘を行い敗北した過去を持つ。
神聖イルティア王国きっての名門武闘派貴族であるグラファイト侯爵家の当時嫡男であった男が決闘に敗北したという醜聞は、王国にとってもデメリットになりうるので公には語られることはなかった。
結局それから数年後にアレクスは別の伯爵家令嬢を娶ってグラファイト当主となった後、突如始めた大規模な魔導結晶の採掘事業で大成したことにより、どうにか自分の侯爵家当主としての地位を盤石なものとした。
そして、そんな過去があったからなのか、グラファイト侯爵家は当時の恋敵であったレイノスの娘であるハーティと第一王子の婚約について、水面下で反対をしていた筆頭の貴族家でもあった。
結局その後王室の画策により、無事にハーティとマクスウェルは婚約関係になったが、当時は現状の王室典範に異を唱えて王位継承順位についての項目を改定するべきだと訴えていたのだった。
今となっては王室の考えに反して第二王子を盛り立てることは謀反になりうるので、王国貴族から現状のマクスウェルが立太子した件について表だって反対する者はいなかったが、グラファイト侯爵家はマクスウェルにとっても決して良い関係とは言えない侯爵家であった。
「このたびはお誕生日おめでとうございます、ハーティ嬢。お母様に似てますますお綺麗になられて本当に女神様に愛されていらっしゃいますな」
そう言いながらアレクスは、じっとりと纏わりつくような視線をハーティに向けていた。
そして、それを察知したユナは顔を顰め、その顔に気づいたアレクスはユナを睨み付けた。
「しかし、ハーティ嬢。あなたも王太子妃になられるのですから、傍付けになる人間は選んだほうがよろしいのではないですかな」
「まあ、思い入れがあるのは分からなくはないですが、まあ・・身分というものもありますしなあ」
その言葉を聞いてユナは静かに手を握りしめた。
「ご忠告痛み入ります。ですが、貴族や王族の侍女に身分的な制限が名言されているわけではございませんし、これでもユナは非常に気立てが良くて優秀な侍女ですので」
「お嬢様・・・もったいないお言葉です」
「・・・ふん、まあそれでしたら私から言うことはありませんな」
すると、アレクスはハーティから突如視線を逸らした。
ハーティがその視線の先を追うと、レイノスとユリアーナが歩み寄ってくるのが見えた。
「・・・では、私はこれにて失礼する」
レイノスの接近を察知したからかなのか、アレクスは踵を返して立ち去って行った。
「・・・・殺りますか」
「・・・そうか、私はその時は見なかったことにしておくぞ」
「やめなさい」
ハーティは物騒なことを言い出した二人を窘めた。
それからハーティは、やってきた両親に祝いの言葉をもらった後、国王陛下や王妃陛下、側姫陛下を筆頭とした賓客へ挨拶を済ませ、そうこうしているうちに華やかなパーティの時間は過ぎていった。
そして、ハーティーの前を辞した後のアレクスの顔は、憎しみに染まっていた・・・・。
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