転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

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第一章 神聖イルティア王国編

聖女リリス

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 それからしばらくそのままの状態で聖女が固まっていたので、ハーティは彼女に声をかけることにした。

「あの・・・聖女様??大丈夫ですか?」

「ぐうっ!」

 ハーティの声を聞いた聖女は、突然鳥肌を立たせて顔を青ざめさせながら胸を押さえて苦しそうな表情をした。

「あ・・あの、大丈夫ですか?」

 それを見兼ねたヴァン枢機卿まで聖女に心配そうな声をかけた。

「あの・・ヴァン枢機卿。お願いがあります」

「は、はあ・・なんでしょうか?」

「本洗礼前にハーティル・・ハーティ様と個人的なお話がしたいのです」

「え!?」

 突然の聖女の発言に、居合わせている全員が驚いた。

「はあ・・それはここではまずいので?」

「ええ、別室がいいのです。個人的なお話をしたいので・・・」

「いやしかし・・・」

「お願いです!!」

「わ、わかりました・・」

 聖女のあまりにも鬼気迫った表情に、ヴァン枢機卿は思わず頷いた。

「あの・・聖女様・・」

「かはっ・・なんでしょうか?」

 何故か聖女に話かける度に具合を悪そうにしているので、別室に行って話をしても大丈夫かと心配であったが、誘いを受けた以上は話の内容を聞いてみようとハーティは思った。

「お話は構いませんが・・彼女も連れて行って構いませんか」

 そう言ってハーティはユナへ目配せした。

 そして、それを追って聖女もユナを見る。

 それから聖女は、ユナを見ながら何かを考えるような素振りを見せたあと、同意するように頷いた。

「貴方様がそうおっしゃるなら、私が拒否することはできません。どうぞこちらへ」

 なんだかやたら丁寧な言葉使いをしている聖女に疑問を感じながら、ハーティとユナは彼女について行った。

 そして、一旦本礼拝堂を出てから聖女の後をしばらくついていくと、応接間のような部屋にたどり着いた。

 そして、三人が部屋に入って扉を閉めた瞬間・・・。

「っつ、ハーティルティア様!!!この日が来ることをどれだけ待ちわびたことか!!」

 聖女がいきなり、ハーティたちの前で涙を溢れさせながら跪いていた。

「あ、あの・・・聖女様?私の名前はハーティであって・・・」

「そんなご無体な!!!私には貴方様の正体が一眼見たときからわかっております!」

「え?!」

 ハーティの言葉を食い気味に否定して叫び出した聖女の言葉に、彼女は驚きを隠せなかった。

「私はかつての女神としての力を失いましたが、それでも人の身では最も光の魔導に優れております。その能力の一つで、私はマナの動きを感じることができるのです!」

「貴方様からはとても人の身から出るものとは思えない凄まじい量のマナがダダ漏れしています!普通の人間には分からなくても私にはわかります!」

「何よりこの元『女神リリス』であった私が貴方様の気配を間違うはずがございません!」

「ええ・・・」

 ハーティは聖女の凄まじい剣幕に軽く引いていた。

 何より、自分から常時大量のマナがダダ漏れしていたという事実にショックを隠せなかった。

「お嬢様・・もはや隠し切れないかと」

 そのユナの声を聞いて、ハーティも自分が女神の生まれ変わりであることを隠すことを諦めることにした。

「はあ・・そうですよ。いかにも私はかつての女神ハーティルティアの生まれ変わりで、今はしがない侯爵令嬢のハーティです。聖女様はもしかして『女神リリス様』の記憶を持っていらっしゃるのですか?」

「かはっ!」

 ハーティが聖女に話しかけると、再び彼女が苦しみ出した。

「あ・・あの・・?」

「はあはあ・・そうです。私はかつての女神としての力をほとんど失いましたが『女神リリス』の記憶を持った転生者です」

 そう言いながら、リリスはユナの方をチラリと見た。

「・・彼女は私の専属侍女ユナです。彼女は唯一私の秘密を知る女性です。なのでご安心ください」

 それを聞いた聖女はユナに羨ましそうな目を向けた。

 そして、そのまま今までの出来事を語り始めた。

「私が何故生まれ変わったのがははっきりわかりませんでしたが、私は物心ついた時から王都の孤児院で育ちました」

「だから、自分の両親がどんな人間であったか、自分が生まれたルーツなどは全く分からないのです」

「そして幼い時のある日、自分が女神リリスであった時の記憶を思い出しました」

「その時は、我々の願いが叶って新しい世界が生まれたことに心から喜びました」

「しかし、同時にハーティルティア様が失われたというこの世界に絶望もしたのです・・・」

「やがて私の髪色から光属性魔導の素質を見出した女神教会の幹部が私を教会に引き取って、私は『リリス』という洗礼名を授かりました」

「それからいつのまにか女神教会で聖女と呼ばれるようになった私は、私にとってハーティルティア様の忘形見となったこの世界にハーティルティア様の遺志を根付かせる為に、聖女リリスとして全身全霊で責務を全うしてきました・・!」

「それが、まさかハーティルティア様まで蘇られたとは・・こんなに嬉しいことはありません」

 そういいながらリリスは涙を流してハーティに縋り付いた。

 ハーティはつい女神であったときの癖で縋り付いたリリスの頭を優しく撫でてしまった。

「あっ!申し訳ありません。つい・・もう貴方様は聖女様になられてしまったのに大変失礼を・・」

 その言葉を聞いたリリスは絶望に染まった表情で更に涙を流した。

「そんな!!私は生まれ変わっても女神ハーティルティア様の忠実なるしもべです!」

「ですが生まれ変わってお互い立場も変わりましたし・」

「嫌です!!こればかりは聞き入れられません!先程からハーティルティア様に恭しく対応されて私は死にそうなのです!ハーティルティア様は私に死ねとおっしゃるのですか!!」

「ええ・・」

 ハーティはかつての女神リリスも自分を敬愛しすぎる為に暴走しすぎる節があったことを思い出した。

「もしハーティルティア様が対応を変えられないとおっしゃるのでしたら、私は手短な男性と姦通してでも聖女なんて辞めてやります!」

「!!だめよ!そんなこと!わ、わかりまし・・わかったから!あなたのことはリリス!これで良くて?」

「はふぅ・・ようございます」

 リリスはようやく安心したようであった。

 そして、先程の苦しそうな表情はハーティがリリスに対して恭しく対応したことが原因であったとハーティは悟った。

 これからも、いちいちハーティの対応でリリスが苦しめられても困るので、ハーティはリリスの希望を呑むことにした。

「だけど私は今は『ハーティ』と言う名の人間なの。だから私のことも『ハーティ』と呼んでほしいわ」

「ハーティ様の御心のままに」

 リリスはハーティのにすかさず礼をとった。

「・・あと、一応私は未来の王妃になるかもしれないわけで、聖女の立場であるリリスが私に傅くのを見られたら女神教会の立場がないのよ」

「世間が見れば王室が女神教会を下に見てると捉えられかねないから・・だから人前では普通にしててね?」

「ハーティルティア様を崇める女神教会が下に見られるのは私も看過できません。そこのところはご安心ください!」

「本当にお願いね・・・」

 ハーティの抱く『聖女像』は完全に崩れ去り、もう一人増えた『狂信者』に、ハーティは悩みの種が増すような予感がするのであった。


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