転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

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第一章 神聖イルティア王国編

破邪の神技

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 目を瞑っているハーティにマナの光が集まっていく。

 そして、ハーティはそのままゆっくりと空中へ浮き上がる。

 白銀に光り輝きながら宙に浮くハーティは、まさに神話の女神であった。

(まさか、再びこの神技わざを使う時が来るとは・・)

 ザシュ!ザシュ!

「く、数が多すぎます!」

 ズシュ!ズバッ!

「はあはあ、流石にこの数だと、これ以上食い止め切れない!」

 ユナとマクスウェルは、大量に迫ってくるアンデッドに押され始めていた。

「聖女様・・・あとは頼みます・・」

 ドサッ・・。

「私も・・マナ切れです・・すみません」

 ドサッ・・。

 そして、マナを使い果たしてしまった神官達も次々と倒れていった。

「くっ、流石にわたしも・・限界です」

 闘技場からずっと魔導を行使していたリリスも、いよいよ限界を迎えようとしていた。

 いままで浄化魔導の手数でイラを抑え込んでいたが、神官達が倒れていくことでそれも弱まっていった。

そして、それがチャンスと言うばかりに、イラが浄化魔導を弾きながら立ち上がった。

『愚かな下等生物が・・・所詮はこの程度だということだ!』

『残念だったな。ハーティルティアよ』

『結局貴様一人では何もできないのだ!』

『滅びろ!ハーティルティアァァァ!』

 そして、とうとう浄化魔導を完全に弾いたイラが、ハーティを滅ぼすべく飛びかかろうとする。

「お嬢様!」

「ハーティルティア様!!」

 イラの拳が瞳を瞑るハーティの眼前に迫り、その状況に誰もが絶望した時・・・。

 ・・ピタッ。

 突如イラの動きが固まった。

『な・・・に・・・!?』

 突然の状況に、イラは固まりながら驚愕の表情を浮かべた。

 ヒュンヒュンヒュン・・・。

 そんな中でもいよいよ収束し始めたマナで、ハーティとイラがその光の中に包まれた。

 光の中で、イラが操るデビッドの髪とハーティの髪がまるで風に揺られるように靡き、二人は相対した。

義姉ねえさん・・・」

「デビッド・・デビッドなのね!?」

 そして、デビッドの声を聞いたハーティは目を見開いた。

 ハーティはそのまま、血の涙を流したデビッドの頬に優しく触れた。

 デビッドもハーティの手の甲に被せるように手を乗せる。

義姉ねえさんの手・・暖かいです・・」

「・・思えば頭はよく撫でてもらいましたが、こんなふうに触れたことはあまり無かったですね」

「・・イラの動きは、僕が最後の力を振り絞って止めました」

義姉ねえさん、僕はずっとイラと一体になっていたから、イラが思っていること・・これからしようとしていること・・全て知りました」

「邪神の心は皆が思う以上に邪悪でした」

「・・邪神達はこの世界自体を、ひどく憎んでいます・・」

「このまま邪神を放置すれば、必ず世界は滅びの道を歩むことでしょう・・」

義姉ねえさんに今更こんなこと頼むのは筋違いですが・・」

「どうか、この世界を・・ハーティルティア様が創造した世界を・・もう一度救ってください!」

 その言葉を聞いたハーティは静かに微笑む。

「・・・もちろんよ。デビッド、あなたに約束するわ」

「『女神ハーティルティア』の名に懸けて」

それを聞いたデビッドは満足そうに頷いた。

「・・・よかった」

 そして、デビッドは覚悟を決めた表情をする。

「さあ、義姉ねえさん・・僕を楽にしてください」

「最後は義姉ねえさんの暖かい光に包まれて、召されたい」

「デビッド・・」

 デビッドの名を呼ぶハーティの瞳からは、一筋の涙が溢れていた。

「わかったわ・・」

「デビッド・・あなたのことは決して忘れないわ」

「うん・・・」

 それを聞いたデビッドは優しく微笑む。

『ハーティルティアァァァア!!!!』

 デビッドの背後に張り付くイラは、恨めしい様相で叫んでいた。

 ゴウゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!

 しかし、既にハーティの魔導は構築を完了していた。

 ハーティは眩い光に包まれながら、ゆっくりとイラを指差した。

「・・邪神『イラ』よ」

「『女神ハーティルティア』の名の下に、あなたに神罰を下すわ」

 ゴォォォォ!

 凄まじいマナの奔流により、ハーティの髪は激しく靡いていた。

「破邪の神技!『女神イルティア・レ・ピューリフィア』!」

 パァァァァァァァァァーーーーーー!!!

 ハーティが魔導を発動した瞬間、白銀の光が本礼拝堂を瞬時に包み込む。

 その光により、本礼拝堂にいた全てのアンデッドが声を上げる間もなく消滅する。

『おのれ!ハーティルティアァァァ!』

『たとえこのイラが滅びようとも』

『我ら邪神は必ず貴様らと世界を滅ぼしてやる!!』

『ハーティルティアァァァァァァァァァァァ!』

 イラが断末魔の叫びを叫びながら、白銀の光によって消滅した。

 そして、デビッドが身につけていた『黒の魔導結晶』は、色が徐々に白くなってきて・・。

 パァァン・・・。

 細かい粒子になって割れていった。

 それは、まるで白銀の光を反射するダイヤモンドダストであった。

「ありがとう・・・義姉ねえさん・・」

 そして、デビッドも満足した表情をしながら、白銀の光の奔流に飲み込まれていった。

 その『女神イルティア・レ・ピューリフィア』は、本礼拝堂の屋根を突き破り、空まで聳える光の柱を生み出す。

 やがて、その光は王都全体を包み込んでいた。

 一方、王都の一角で・・・。

「オオオオ!」

 ザシュ!

「くそ・・このままではジリ貧だ!」

 王国軍兵士数人がアンデッドを倒す中、既に同僚の何人かがアンデッド化して絶望を感じていた。

 ジュッ!

 しかし、王都に広がる光を浴びてアンデッドが消滅していく。

「!!なんだ!?アンデッドが消えていく!!」

「なんて暖かい光なんだ」

「ああ・・女神様!」

 突如女神に救われた男達は、白銀の神殿プラチナ・パレスに向けて『最敬礼』をした。

 そして、王都全体を軽く包み光が収まった時・・。

 王都全てのアンデッドは消滅していた。




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