転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

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第二章 魔導帝国オルテアガ編

帝都リスラム

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 ハーティ達は騎馬隊と別れた後も、数時間ほど帝都に向かって馬車を進めていた。

 そして、夕方頃になってようやく帝都の外周部に到着したのであった。

「今日中に到着してよかったですね」

「ええ、確かにもう悪さをしないと思っていても、盗賊たちと夜を明かすのは心配だったものね・・・」

「とりあえず、今日も遅いし・・・ひとまず『彼ら』をギルドに引き渡して、明日から本格的に行動を開始しましょう」

 そう言いながら、ハーティは「んっ!」と伸びをした。

「はい、それがいいかと思います。冒険者ギルドまでは私たちがお供しますね。引き渡しが終わったら一緒に私たちの宿に帰りましょう」

 シエラがにこやかにそういうと、いよいよ馬車は帝都入場審査を待つ再入場者専用の列に並んだ。

(思えば今日は大変な一日だったわね・・・・デビッドと闘技場で戦って、それから王都でイラを倒して・・隣国まで来てシエラ達と出会って・・・)

(間違いなく人生で一番濃厚な一日だったわ・・)

 再入場の列は審査が簡素なのか、ハーティがしみじみと浸っている間に列の順番が来た。

「はい、お帰り・・・ん?なんだこの引かれている男たちの列は!?」

 流れ作業のように対応していた検閲所の衛兵は、ハーティ達一行の引き連れている盗賊達を見て怪訝な顔をしていた。

「あ・・はい。実は道中にこちらの盗賊達に襲われまして・・・そこをこちらの旅の方に助けていただいたのです」

 そう言いながらシエラはハーティを紹介した。

「え!?彼女一人で!?」

 しかし女性一人で盗賊三十人近くを倒したと言われた衛兵は、信じられないといった面持ちであった。

 その表情を見たジェームズは詳しい内容を説明し始めた。

「実は、彼女は非常に優れた魔導師でして・・・あとは運よく戦いの最中に西の谷から『すさまじい爆発』らしきものがあったようで・・・それに盗賊たちが怯んだ隙に、彼女の魔導と私たちの決死の助力で何とか盗賊たちを捕えることができたのです・・」

「本当に幸運な話でした。もし一つでもうまくいったことが無ければ、私たちは命を落としたか違法奴隷となっていたことでしょう」

「なるほど・・それは大変でしたな」

 ジェームズの神妙な顔に、衛兵は事の次第を納得したようであった。

「ええ、私たちはいままでこれといった宗教を信仰していませんでしたが、今回のようなことがあれば『女神様』も信じたくなりますね」

 ジェームズはそういうとハーティに向いて微笑んだ。

「ははは・・・」

 そして、それをハーティは苦笑いで返したのであった。

「まあ、確かにな・・・まあ、『女神教』を信仰するって言っても帝都には『教会』の類はないけどな・・」

(やっぱり!よかった・・)

 衛兵の言葉を聞いたハーティは、帝都が基本的に『女神教』を信仰していないことが確認できてほっとしていた。

「ん、まあとりあえず後がつかえてるんでな・・一応身分証明証を確認できるか」

「はい。こちらに」

 そういうとジェームズとシエラは都民証を衛兵に提示した。

「はい、たしかに。そこの嬢ちゃんは?」

「え?」

 その言葉にハーティは困惑した。

 当たり前の話だが、ハーティは帝都の都民証など持っていない。

 もっと言えば、ハーティは『神聖イルティア王国』の身分証明証も王都に置いて来ているので、今ハーティの身分を証明するものは何もないのであった。

 尤も、もしこの衛兵が『ハーティの本当の身分』を知ったらひっくり返ることになるであろうが・・。

 ハーティがどうしようかと冷や汗を流して思案していると、ジェームズが口を開いた。

「彼女は王都からこちらへ冒険者登録するための旅の途中だそうで、身分証をもっていないのです」

「旅で同行した恩人故、私どもの付添として観光入場査証を発行してほしいのです」

「なるほど、そうなのか。であれば準備をするからちょっと待っていてくれ」

そう言いながら衛兵はハーティ達から一時的に離れた。

「帝都民以外が帝都へ入る際は、世界中で発行されている冒険者ギルドや商業ギルドの『ギルドライセンス』か、他国の正規な身分証明証が必要なんです」

「それらが何もない場合は『在住都民』との付添ないしは帝国政府の紹介などがあれば、観光入場査証で新規入場できるのです」

「ハーティさんは観光入場査証で入場するので、帝都に入りましたら冒険者ギルドで『ギルドライセンス』を発行してもらうといいでしょう」

「一度『ギルドライセンス』を取得すればそれが正規の身分証となるので、世界中どの町にも入ることができるようになりますよ」

 それを聞いてハーティはほっとした。

 もしものことを考えて流れの馬車に同行しようとしたハーティの判断は、どうやら正解であったようだ。

 もし、ハーティが何も考えずに一人で帝都に新規入場しようとしていれば、身分証明などまったく無い怪しい人ということで帝都への入場は叶わなかったはずであった。

 そして再び先程の衛兵が金属の板のようなものを持ってきて帰ってきた。

「じゃあ、そこの嬢ちゃんはこの板に手を当ててくれ」

「・・これは?」

「ああ、これは手を当てた人間に魔導結晶からマナを流す魔導具でな」

「詳しい仕組みは知らねえが、その人の体のどこかに『奴隷紋』や過去の犯罪者が刺青とかで刻まれることで犯罪歴を示す『紋章』があればわかるようになっているんだ」

「これを使えば、嬢ちゃんみたいな女性でも、わざわざ全身の身体検査をせずに犯罪歴がないとかがわかるって代物さ」

「へえ、さすが『魔導帝国』ですね。そんな道具があるのですか」

 そう言いながらハーティはその魔導具に掌を宛がった。

 衛兵が魔導具を作動させると、特に何の反応も示さないまま検査は終わった。

「はい、おつかれさん。問題ないみたいだな。そしたら観光査証発行手数料で『銀貨一枚』を納めてもらえばおしまいだ。あ、帝国が初めてだったら『帝国銀貨』を持ってないだろう。帝国貨幣はイルティア王国と協定で等価値になっているから、『ハーティルティア銀貨』で納めてくれてもいいぜ」

「観光入場査証で入場した後は、帝都内の両替所で等価交換できるからそうすればいいさ」

 それを聞いたハーティは冷や汗を流した。

(やばい・・・・私お金もってない・・)

 この世界には『お金』が流通しており、どの国でも主に貨幣が用いられている。

 特に帝都と神聖イルティア王国では、価値が低い方から銅板、小銅貨、銅貨、銀貨、金貨、魔導銀貨と分類されている。

 それぞれが十枚集まると、一つ上の貨幣と同じ価値になる。

 それらを神聖イルティア王国の物価と比較すると、概ね銀貨1枚が標準的な固定給労働者の日当に相当する。

 標準的な宿屋での宿泊が、一泊あたり朝食付きで概ね銅貨三枚から六枚程度、一般的な食堂で食事をとれば小銅貨八枚から十二枚程度、市場で売られる白パンが銅板五枚から小銅貨一枚と同じくらいの価値である。

 それを踏まえると、観光査証の発行手数料である『銀貨一枚』はそれなりに大きい出費であった。

 すると、ジェームズが腰についている皮袋から銀貨一枚を取り出して衛兵に手渡した。

「ここは私が払っておきますので」

「・・・すいません。必ずあとでお返しします」

「いえいえ・・・ハーティさんは命の恩人なのですから。このくらいはさせてください」

「・・ありがとうございます」

 そして無事に観光入場査証が発行されたハーティは帝都への入場を果たしたのであった。


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