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第二章 魔導帝国オルテアガ編
暁の奇跡亭
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その後も迷路みたいな路地を迷いながらも、ようやくハーティは『暁の奇跡亭』に到着した。
「ここがシエラちゃんたちが営んでいる『暁の奇跡亭』ね」
ハーティが見上げた建物は神聖イルティア王国の集合アパートに似た、こじんまりとした二階建ての古い木造の宿屋であった。
その宿屋は、佇まいこそ築何十年も経った古いものであったが、手入れが行き届いているのか不潔さは感じられない建物であった。
ハーティはその建物中央にある、同じく古びた木の扉を開けて建物の中に入っていった。
カランカラン。
扉に付けられたカウベルが鳴り響くと、そこは食堂のようであった。
ただ、食堂と言うには名ばかりで、そこは数席のカウンター席と4人掛けテーブル席があるだけの狭い喫茶店と言う方が近いような雰囲気であった。
「あ!ハーティさん!おかえりなさい!」
そして、カウベルの音を聞きつけたシエラがカウンター奥の別室にある厨房からパタパタと出てきた。
「ええ、今日からしばらくよろしくね」
その二人の声を聞いて、ジェームズも厨房から出てきた。
「ハーティさんに来ていただいてホッとしました。何もないボロ宿ですが、ゆっくりしていってくださいね」
「はい、ありがとうございます。ジェームズさん」
「では、この宿帳に記名をおねがいします!」
そう言うと、シエラは古びてボロボロになった宿帳を持ってきた。
「ここは私の祖父の代から経営している宿屋なんです。この宿帳は創業の時から使われているんですよ。ここに名前と宿泊日を書いて、連泊する場合は最後の日に日付を書くんです」
ジェームズはにこやかに微笑んで宿帳について説明した。
「そうなんですね、歴史の古い宿屋なんですね!」
ハーティはジェームズの案内通りに宿帳へサラサラと記名した。
「ここには帝都で冒険者をやる限り、しばらく滞在するつもりですが大丈夫ですか?」
「もちろんですとも!ハーティさんは恩人ですし、いつまでも滞在してください」
「ありがとうございます。ちなみにここは一泊いくらですか?纏めて払います」
そう言いながら、ハーティは小さな革袋を懐から取り出した。
この革袋は、ハーティが先程宿屋に向かう途中でハザールで見つけて買ったもので、ギルドで受け取った報酬から数枚の金貨を分けて入れたものであった。
「あ・・あの、うちは一泊・・『銅貨一枚』です」
シエラはそわそわした様子で宿泊にかかる費用をハーティに伝えた。
それがウソであることは、だれが聞いても明らかであった。
「・・・・・本当は?」
「ほ、本当ですよ!!何を言っているんですか!」
いくら古いこじんまりとした宿屋でも一泊あたり銅貨一枚は安すぎる。
ハーティはジト目になりながらシエラに詰め寄ると、彼女はしどろもどろになりながら目を泳がせていた。
恩人だからと破格の安値で泊まってもらおうとする魂胆が見え見えだったので、ハーティは少し意地悪をすることにした。
「せっかく良さそうな宿屋なのに、それじゃあ安すぎて逆に心配だわ。違う宿屋にしようかしら」
「そんなっ!」
わざとらしくハーティが顎に手をやって話すと、シエラは汗を飛ばしながら狼狽始めた。
「で・・本当はいくらなの?」
「・・・銅貨四枚・・です」
シエラはふさふさの耳をパタリと伏せながら上目遣いで呟いた。
(か・・かわいいわ)
「こほん、なぁんだ、じゃあ大丈夫ね。はい、これで97日分ね」
そう言いながらハーティは金貨四枚を手渡した。
「こ、これは!?こんなにいただけません!」
金貨四枚をもらったシエラは再び狼狽えていた。
「あら、どうして?わたしはしばらくお世話になるのだから前金で纏めて払っただけよ?それともそんなに長くは滞在できない?」
「そ、そんなことはありません!・・でしたらこちらは頂いた分きっちりおもてなしします。ですが97日では勘定があいませんよ」
「確かに一泊銅貨四枚であれば金貨四枚で百日分よね。だけど銀貨を一枚さっき借りたから。余りの銅貨二枚は帝都に入るのを助けてもらったお礼ってことで」
「いえ、私たちが助けてもらったのにお礼を貰うわけには・・」
「いいからいいから!もらっておきなさい!ね?」
そう言うとハーティは金貨を持ったシエラの手を包み込んで握らせた。
「・・・何から何までありがとうございます」
ジェームズはそう言いながら深々と頭を下げた。
「いいえ、こちらこそ。ギルドまで案内してくれて助かったわ」
「よし!じゃあシエラ、ハーティさんをお部屋へ案内してくれ!」
「うん、お父さん!ハーティさん、どうぞこちらへ」
ジェームズに促されたシエラは、ハーティにこれから宿泊する部屋を案内する為に食堂から出たのであった。
そして、階段を進んで二階に上がると、廊下の先にある角部屋へとハーティを案内した。
ギィ・・。
「こんな部屋しかないのですが、一番角のいい部屋にしました。こちらがハーティさんのお部屋です!」
木製の扉を開いて部屋に入ると、そこには古びていながらも清掃が行き届いた客室があった。
その部屋の大きさはおよそ二十平米程度の広さで、簡易なチェストとシングルベッドが2つ、小さなティーテーブルとイスが二つだけというシンプルなものであったが、ハーティが一人で泊まるには十分な広さであった。
バンッ。
ハーティが部屋に備え付けられた窓の扉を開けると、目の前には帝都の街並みが広がっていた。
そして、遠くの方では帝都のシンボルである大時計台が見えていた。
「とても素敵なお部屋ね」
「ありがとうございます!ハーティさんにそう言っていただけたら嬉しいです!」
ハーティの言葉に、シエラは心から嬉しそうな表情をしていた。
そして、シエラは淡々と宿泊に対する注意事項を説明し始めた。
「トイレは共同になっていて、宿の裏庭に別棟があります。そこ利用してください」
「お風呂はこの宿にはありませんが、夜一の鐘(18時)から夜二の鐘(19時)の間に食堂まで来ていただければお湯とタオルをお渡しします。それで体を拭いてくださいね」
「朝食は朝一の鐘(6時)から朝四の鐘(9時)の間に食堂へ来てください。毎日日替わりで決まったメニューの朝食が出ますので。もちろんハーティーさんにはお約束通りサービスしますよ!もし、クエストとかで朝食が取れない場合は事前に言っていただければありがたいです」
「同じく外泊などする場合は事前に教えてくださいね!」
「わかったわ」
「今日は夕食を用意しました。夕食は基本付きませんが、こちらもご要望があれば用意しますね」
「ありがとう」
「・・・ちなみに、今日の夕食はサービスですよ!これは譲れませんからね!助けてもらったお礼です!」
そう言いながらシエラはうんうんと頷いていた。
「ありがとう、そういうことなら喜んで頂戴するわ」
そして一通り案内が終わると、ハーティ達は一階の食堂へ降りてきた。
「お父さん!夕食はできた??」
「ああ、できたよ。どうぞ、ハーティさん」
そう言うと、ジェームズは夕食の品を次々とカウンターの上に並べた。
「わあ、おいしそう!いい匂い!」
カウンターの上にはアツアツのシチューとパン、簡単なサラダとオニオンスープ、そして果実水が木のグラスに注がれて置かれていた。
「今日は本当にありがとうございました。ささやかな食事ですがどうぞ召し上がってください」
「ありがとう」
そう言いながらハーティはシチューを木のスプーンですくって一口食べた。
「んん!おいしいわ!」
「よかったです。それにしても、ハーティさんは食べている姿勢がとても綺麗ですね」
「え、そ・・そうかしら!?」
「ええ・・・まるで『お貴族様』みたいですね」
「うぐっ!!!」
ジェームズの突然の指摘によって、ハーティは喉を詰まらせた。
「だ、だいじょうぶですか!?」
それを見てシエラは慌てていた。
「んぐ・・んぐ・・ぷはぁ!大丈夫よ」
「まあ、食事を美しくたべるのは『女の子の嗜み』よ!ええ、そうよ!」
「ほええ・・ハーティさんは私と似た年齢なのにとても魅力的ですもんね。王国の女の子は進んでいるんでしょうか?」
「え・・ええ!きっとそうかもね」
「・・・私もハーティさんみたいな魅力的な女の子になれるように頑張らないと!」
そう言いながらシエラは意気込んでいた。
「シエラはとっても可愛らしくて魅力的よ」
「ありがとうございます。ハーティさん」
それを聞いたシエラは、頬を染めながら恥ずかしそうに俯いていた。
その後もおいしい料理に舌鼓を打ちつつ綺麗に平らげると、ハーティはようやく怒涛の一日を終えて眠りにつくことになったのであった。
「ここがシエラちゃんたちが営んでいる『暁の奇跡亭』ね」
ハーティが見上げた建物は神聖イルティア王国の集合アパートに似た、こじんまりとした二階建ての古い木造の宿屋であった。
その宿屋は、佇まいこそ築何十年も経った古いものであったが、手入れが行き届いているのか不潔さは感じられない建物であった。
ハーティはその建物中央にある、同じく古びた木の扉を開けて建物の中に入っていった。
カランカラン。
扉に付けられたカウベルが鳴り響くと、そこは食堂のようであった。
ただ、食堂と言うには名ばかりで、そこは数席のカウンター席と4人掛けテーブル席があるだけの狭い喫茶店と言う方が近いような雰囲気であった。
「あ!ハーティさん!おかえりなさい!」
そして、カウベルの音を聞きつけたシエラがカウンター奥の別室にある厨房からパタパタと出てきた。
「ええ、今日からしばらくよろしくね」
その二人の声を聞いて、ジェームズも厨房から出てきた。
「ハーティさんに来ていただいてホッとしました。何もないボロ宿ですが、ゆっくりしていってくださいね」
「はい、ありがとうございます。ジェームズさん」
「では、この宿帳に記名をおねがいします!」
そう言うと、シエラは古びてボロボロになった宿帳を持ってきた。
「ここは私の祖父の代から経営している宿屋なんです。この宿帳は創業の時から使われているんですよ。ここに名前と宿泊日を書いて、連泊する場合は最後の日に日付を書くんです」
ジェームズはにこやかに微笑んで宿帳について説明した。
「そうなんですね、歴史の古い宿屋なんですね!」
ハーティはジェームズの案内通りに宿帳へサラサラと記名した。
「ここには帝都で冒険者をやる限り、しばらく滞在するつもりですが大丈夫ですか?」
「もちろんですとも!ハーティさんは恩人ですし、いつまでも滞在してください」
「ありがとうございます。ちなみにここは一泊いくらですか?纏めて払います」
そう言いながら、ハーティは小さな革袋を懐から取り出した。
この革袋は、ハーティが先程宿屋に向かう途中でハザールで見つけて買ったもので、ギルドで受け取った報酬から数枚の金貨を分けて入れたものであった。
「あ・・あの、うちは一泊・・『銅貨一枚』です」
シエラはそわそわした様子で宿泊にかかる費用をハーティに伝えた。
それがウソであることは、だれが聞いても明らかであった。
「・・・・・本当は?」
「ほ、本当ですよ!!何を言っているんですか!」
いくら古いこじんまりとした宿屋でも一泊あたり銅貨一枚は安すぎる。
ハーティはジト目になりながらシエラに詰め寄ると、彼女はしどろもどろになりながら目を泳がせていた。
恩人だからと破格の安値で泊まってもらおうとする魂胆が見え見えだったので、ハーティは少し意地悪をすることにした。
「せっかく良さそうな宿屋なのに、それじゃあ安すぎて逆に心配だわ。違う宿屋にしようかしら」
「そんなっ!」
わざとらしくハーティが顎に手をやって話すと、シエラは汗を飛ばしながら狼狽始めた。
「で・・本当はいくらなの?」
「・・・銅貨四枚・・です」
シエラはふさふさの耳をパタリと伏せながら上目遣いで呟いた。
(か・・かわいいわ)
「こほん、なぁんだ、じゃあ大丈夫ね。はい、これで97日分ね」
そう言いながらハーティは金貨四枚を手渡した。
「こ、これは!?こんなにいただけません!」
金貨四枚をもらったシエラは再び狼狽えていた。
「あら、どうして?わたしはしばらくお世話になるのだから前金で纏めて払っただけよ?それともそんなに長くは滞在できない?」
「そ、そんなことはありません!・・でしたらこちらは頂いた分きっちりおもてなしします。ですが97日では勘定があいませんよ」
「確かに一泊銅貨四枚であれば金貨四枚で百日分よね。だけど銀貨を一枚さっき借りたから。余りの銅貨二枚は帝都に入るのを助けてもらったお礼ってことで」
「いえ、私たちが助けてもらったのにお礼を貰うわけには・・」
「いいからいいから!もらっておきなさい!ね?」
そう言うとハーティは金貨を持ったシエラの手を包み込んで握らせた。
「・・・何から何までありがとうございます」
ジェームズはそう言いながら深々と頭を下げた。
「いいえ、こちらこそ。ギルドまで案内してくれて助かったわ」
「よし!じゃあシエラ、ハーティさんをお部屋へ案内してくれ!」
「うん、お父さん!ハーティさん、どうぞこちらへ」
ジェームズに促されたシエラは、ハーティにこれから宿泊する部屋を案内する為に食堂から出たのであった。
そして、階段を進んで二階に上がると、廊下の先にある角部屋へとハーティを案内した。
ギィ・・。
「こんな部屋しかないのですが、一番角のいい部屋にしました。こちらがハーティさんのお部屋です!」
木製の扉を開いて部屋に入ると、そこには古びていながらも清掃が行き届いた客室があった。
その部屋の大きさはおよそ二十平米程度の広さで、簡易なチェストとシングルベッドが2つ、小さなティーテーブルとイスが二つだけというシンプルなものであったが、ハーティが一人で泊まるには十分な広さであった。
バンッ。
ハーティが部屋に備え付けられた窓の扉を開けると、目の前には帝都の街並みが広がっていた。
そして、遠くの方では帝都のシンボルである大時計台が見えていた。
「とても素敵なお部屋ね」
「ありがとうございます!ハーティさんにそう言っていただけたら嬉しいです!」
ハーティの言葉に、シエラは心から嬉しそうな表情をしていた。
そして、シエラは淡々と宿泊に対する注意事項を説明し始めた。
「トイレは共同になっていて、宿の裏庭に別棟があります。そこ利用してください」
「お風呂はこの宿にはありませんが、夜一の鐘(18時)から夜二の鐘(19時)の間に食堂まで来ていただければお湯とタオルをお渡しします。それで体を拭いてくださいね」
「朝食は朝一の鐘(6時)から朝四の鐘(9時)の間に食堂へ来てください。毎日日替わりで決まったメニューの朝食が出ますので。もちろんハーティーさんにはお約束通りサービスしますよ!もし、クエストとかで朝食が取れない場合は事前に言っていただければありがたいです」
「同じく外泊などする場合は事前に教えてくださいね!」
「わかったわ」
「今日は夕食を用意しました。夕食は基本付きませんが、こちらもご要望があれば用意しますね」
「ありがとう」
「・・・ちなみに、今日の夕食はサービスですよ!これは譲れませんからね!助けてもらったお礼です!」
そう言いながらシエラはうんうんと頷いていた。
「ありがとう、そういうことなら喜んで頂戴するわ」
そして一通り案内が終わると、ハーティ達は一階の食堂へ降りてきた。
「お父さん!夕食はできた??」
「ああ、できたよ。どうぞ、ハーティさん」
そう言うと、ジェームズは夕食の品を次々とカウンターの上に並べた。
「わあ、おいしそう!いい匂い!」
カウンターの上にはアツアツのシチューとパン、簡単なサラダとオニオンスープ、そして果実水が木のグラスに注がれて置かれていた。
「今日は本当にありがとうございました。ささやかな食事ですがどうぞ召し上がってください」
「ありがとう」
そう言いながらハーティはシチューを木のスプーンですくって一口食べた。
「んん!おいしいわ!」
「よかったです。それにしても、ハーティさんは食べている姿勢がとても綺麗ですね」
「え、そ・・そうかしら!?」
「ええ・・・まるで『お貴族様』みたいですね」
「うぐっ!!!」
ジェームズの突然の指摘によって、ハーティは喉を詰まらせた。
「だ、だいじょうぶですか!?」
それを見てシエラは慌てていた。
「んぐ・・んぐ・・ぷはぁ!大丈夫よ」
「まあ、食事を美しくたべるのは『女の子の嗜み』よ!ええ、そうよ!」
「ほええ・・ハーティさんは私と似た年齢なのにとても魅力的ですもんね。王国の女の子は進んでいるんでしょうか?」
「え・・ええ!きっとそうかもね」
「・・・私もハーティさんみたいな魅力的な女の子になれるように頑張らないと!」
そう言いながらシエラは意気込んでいた。
「シエラはとっても可愛らしくて魅力的よ」
「ありがとうございます。ハーティさん」
それを聞いたシエラは、頬を染めながら恥ずかしそうに俯いていた。
その後もおいしい料理に舌鼓を打ちつつ綺麗に平らげると、ハーティはようやく怒涛の一日を終えて眠りにつくことになったのであった。
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