転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

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第二章 魔導帝国オルテアガ編

クラリスとの遭遇

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 ハーティが二級冒険者になってから数日が経った。

 あれからハーティは毎日のように討伐系の依頼を受けては『飛翔フライ』で飛び回って魔獣を狩まくっていたが、初日以降『変異体』らしき魔獣には遭遇しなかった。

 因みに、毎日のように昼頃には大量に素材を持って帰ってくること、『ブラックスミス』を下して二級冒険者になったことはあっという間に帝都の冒険者ギルド中に広まり、ハーティに対して悪意を持って絡む冒険者はいなくなった。

 それよりも実力があり、美少女であり、ソロで活動しているハーティに対して「うちのパーティに入らないか」という誘いが後を絶たず、それすらも断り続けていることから、帝都の冒険者の中でハーティは最早『孤高なアイドル』のような扱いを受けていた。

 そして、今日も数々のパーティー勧誘を蹴散らして昼過ぎに冒険者ギルドを後にすると、ハーティは一人で賑わうバザールを練り歩いていた。

 ジュウウウ・・。

 ハーティは漂う香ばしい匂いと音に誘われるまま、にへらっと顔を崩しながら最近毎日通ってる屋台へ足を運んだ。

「はーい、オークバラ串焼きたてだよー・・っとハーティちゃん、また来たのかい?」

 威勢の良い声を出しながら串を焼いていた中年店主は、歩いてきたハーティを見かけると声をかけた。

「こんにちは、匂いにつられて今日も来ちゃいました。串を二本もらえますか?」

「あいよ、小銅貨六枚な。今日も一本サービスしとくよ。別嬪さんは得だね。ほらよ」

 店主はハーティから小銅貨を受け取ると、炭焼きされている肉汁滴るオークバラ串を三本纏めてタレ壺に浸し、大葉であしらった舟皿に乗せてから彼女へ手渡した。

「ありがとうございます!また明日も来ますね!」

「はいよ、まいどあり!」

 ハーティはご機嫌で屋台を後にすると、串にかぶりつきながら他の屋台飯を探すために再び屋台通りを歩き出した。

「うーん、ここのタレは本当に美味しい!誰にも咎められず好きな時に好きなものを好きなだけ食べれるって幸せ!」

 そう一人呟きながら歩いていると、ハーティは向かいの賑わう雑踏の中から、一際暗い顔をしながら歩く美少女を見つけた。

(すこし私よりお姉さんってところだけど可愛らしい人だな・・・でもせっかくバザールにいるのに元気なさそう・・)

(見たところ、冒険者でもないし商人でもなさそう・・白衣を着ているから診療所の先生か魔導省の研究者かな?にしては若すぎる気がするけれど・・)

 ハーティは残りの串を平らげて、取り留めない思考を巡らせながらその美少女とすれ違おうとしていた。

 その美少女がすれ違いざまに、ふとハーティの腰に携えてある『ガンブレード』を一瞥すると、カッ!と目を見開いた。

「ちょっとあなた!」

 そして、すれ違って背後を向けていたハーティの手をいきなり掴んできたのであった。

「むぐっ!きゃあ!な、なんですか!?」

 突然の出来事に驚いて咀嚼していた串を喉に詰まらせかけながらハーティが振り返ると、その美少女は汗を飛ばしながらハーティの『ガンブレード』を指差していた。

 余程興奮しているのか、『ガンブレード』を指している彼女の指先はゆらゆらと揺れていた。

「あんた!その腰についてる剣!詳しく見せなさいよ!」

「は・・え?」

 訳もわからずハーティが狼狽えていると、その美少女は存外素早い身のこなしでハーティの背後に回ってしゃがむと、『ガンブレード』をまじまじと見た。

「ププププ・・・」

「ぷぷぷ?」

 なんとなく既視感のある台詞に嫌な予感がしたハーティは冷や汗を流した。

神白銀プラティウムじゃないの!?これ!?ウッソ!?実在したの!???」

 突然その美少女は大きな声で叫びたしたので、バザールにいた周りの人達が何事かと二人を注目し始めた。

「あ、あの!?声が大きいです!なんだかわかりませんがひとまずこちらへ!!」

 ハーティは人に聞かれるとまずそうな予感がしたので、その美少女の手を取ると最寄りの路地へ引き込んだ。

「ちょっと・・痛い、あんた思った以上に怪力ね・・」

 連れ込まれた美少女は掴まれた手首をさすりながらハーティをジト目で睨んだ。

「人通りが多くて迷惑になるとおもったので・・急に引っ張ってごめんなさい。私はハーティって言います。最近帝都に流れてきたソロの冒険者です」

「はぁ・・あたしはクラリス・フォン・レゾニア。こう見えて帝国魔導省の筆頭研究者よ」

「はぁ、お貴族様で研究者なんですねぇ」

「まあ、こんなでも男爵令嬢なんだけど、研究者として生きているから家からもほったらかしにされているわ。あんたこそ冒険者の癖に節々で上品さが滲み出ているわね」

 クラリスは腕を組みながらまるでハーティを品定めするような目つきで上から下まで眺めた。

「・・で、その剣・・よく見たらあなたの髪飾りもよね?それ、神白銀プラティウムよね?」

 いきなり核心に迫ってきたクラリスを警戒したハーティは、ひとまず嘘で誤魔化すことにした。

「え?あははー、あなたもしかして『女神教』信者ですか?帝都では珍しいですね!!神白銀プラティウムって神話に出てくる物ですよね?そんなのある訳ないじゃないですか!これは魔導銀ミスリルで出来ているんですよ!ええ!」

 ハーティは目を泳がせ汗を飛ばしながら、つらつらと嘘を並べた。

「騙されないわ」

 しかし、クラリスはハーティの言葉をバッサリ否定した。

「こんなに白くて美しい魔導銀ミスリルがある訳ないじゃない」

「じ・・じつはこれ純粋魔導銀ピュア・ミスリルなんですよ!すごいですよね!」

 それを聞いたクラリスはやれやれとため息を吐いた。

「だから騙されないってば。それだけの純粋魔導銀ピュア・ミスリルを集めるのに一体幾らすると思ってるのよ。それに、あたしは研究でよく純粋魔導銀ピュア・ミスリルを扱うのよ。純粋魔導銀ピュアミスリルよりも更に白が強くて美しい光沢を放っているわ」

「・・ぐっ」

「・・それをどこで手に入れたのか教えなさい。勿論タダでとは言わないわ。教えてくれたらお礼はする」

 ジリ・・。

 そう言いながら、クラリスはハーティと距離を詰める。

「いや・・その」

 ザッ・・。

 そしてハーティはそれと同じだけ後退りした。

「なんならその情報、言い値で買うわ。あたしはどうしてもそれが必要なのよ!さあ!!」

「う・・ご・・ごめんなさぁぁい!!」

 いよいよ辛抱たまらなくなったハーティは、路地から脱兎の如く逃げ出した。

「あ!こら!待ちなさい!」

 それをクラリスも追いかける。

 しかし、普通の女の子がハーティの脚に追いつく訳はなく、クラリスはすぐにハーティを見失った。

「はあはあ・・なんて逃げ足の早いやつなのよ」

 クラリスは肩で息をしながら呟いた。

「・・・神白銀プラティウムを持つ『冒険者ハーティ・・』」

「あたしは絶対に諦めないんだからっ・・!」

 そう言うクラリスの目には、激しい決意の炎が灯っていた。
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