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第二章 魔導帝国オルテアガ編
ナラトスの誘惑 〜ニアール視点〜
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時は少し遡って、ハーティ達が王都の白銀の神殿でリリスと出会った頃・・・。
帝都リスラムにある魔導省のとある研究施設で、一人の美しい濃紺のロングヘアをストレートに流した美少女が、その少し吊り上がった大きな瞳で魔導コンソールを眺めていた。
彼女は『ニアール・フォン・ソフィミア』と言う名で、クラリスと同じく帝国の筆頭魔導学研究者である。
彼女は黒のタイトなミニスカートからすらりとした美しい脚を投げ出し、第二ボタンくらいまで開けた白のブラウスの上から白衣を羽織っており、クラリスよりも更に研究者らしい身なりであった。
彼女が固唾をのんで見守る魔導コンソールの先では、魔導具を実験する為の広いスペースがある。
その床には円状の大きな魔導式が描かれており、その中心部には一メートル角程の台座があった。
その台座の上には直径五センチほどの金属様で出来た球体が鎮座していた。
そして、その球体を数メートルほど離れて円陣で取り囲むように二十人ほどの上級魔導士が並んでいた。
「・・これより第二十四回マテリアル・マナ・キャパシタのマナ充填実験を開始する!!」
ニアールが実験開始の声をかけると、総勢二十人の魔導士が一斉にその球体に向かってマナを込め始めた。
魔導機甲の稼働に必要である膨大なマナの供給について、クラリスは生物が自然に行っているエーテル・マナ変換を人工的に実現することで達成しようとしていた。
それに対しニアールは、ほとんどが天然資源で大容量のマナを溜めることが困難である魔導結晶の代替となる、マナ充填用の新物質を開発することで魔導機甲の動力源に用いようと考えた。
そして、今まさにその実験が行われようとしていたのだった。
「魔導学の錬金技術の粋を集めたこの新素材・・・お願いだから耐えて頂戴!」
「理論上、上級魔導士二十人が五時間程マナを込められれば、キャパシタ本体のマナ抵抗を考えても魔導機甲を動かすのに十分な動力源になりうるはず・・・」
そしてニアールが見守る中、実験は一時間ほどが経過した。
マナを充填する魔導士達の額から汗が滲んできた頃、ニアールの隣にいる壮年の男性助手が声を発した。
「ニアールさん・・・先ほどから込めているマナに対して、キャパシタのマナ充填量上昇値が落ち込み始めています」
「・・・やはり、今回の素材も『飽和量』に達したのね・・」
ニアールの声からは大きな落胆が感じられた。
「・・で、充填量は?」
「・・・概ね十五サイクラ時程ですね」
「魔導機甲の定格出力が概ね百サイクラ程度・・・つまりは定格出力稼働での稼働時間は九分程度ってことね」
「上級魔導士二十人が一時間以上全力でマナを込めてようやく稼働時間が九分であれば兵器として運用するにはいささか不足ですね」
それほどの手間をかけてやっと動作する魔導機甲一機を投入するくらいであれば、上級魔導士二十人を直接戦場に投入する方が圧倒的に戦力となるのは誰が見ても明らかであった。
「純粋にマナ・キャパシタの性能としてはそれでも素晴らしいものですが」
直径五センチ程の大きさの球体に上級魔導士が全力で放出するマナを十五時間分も充填できるのだ。
それは魔導学でいえばとてつもない大発明なのだが、ニアールは満足しなかった。
なぜならば、今回実験に用いた球体はそれ以上大きくしても本体のマナ抵抗により充填量が大きく増えることがないからだ。
また、この大きさまでなら単位体積で言えば天然の魔導結晶よりも大容量のマナを充填できる素晴らしい素材であるが、マナ充填量に対しての費用で言えば魔導結晶の何十倍も高くなってしまう。
結果、今の充填量程度であれば複数の魔導結晶を用いてマナを充填するほうが実用的という結果になってしまうのであった。
実験が終わって、上級魔導士や研究員たちが次々と実験施設を後にする。
そして、ニアールの肩に助手の男が手を置いた。
「・・・もうこの実験は無理かもしれませんね」
バンッ!
「・・・・そんなことはない!!」
ため息交じりに言われた助手の言葉に腹を立てたニアールは、魔導コンソールに激しく拳を叩きつけた。
「・・ですがこのままでは研究予算も打ち切りとなりますでしょうな・・」
「いずれにせよ、私も今後身の振り方を考えなければなりません・・」
「ニアールさん。この研究もかなり長期に渡って行って来て愛着があるのはわかります。ですが魔導機甲なんて物自体が夢物語のようなものなのです」
「くれぐれも、良いご判断を・・・」
そう言い残して助手の男もニアールの元を去って行った。
ニアールはただ一人となり、施設には静けさが漂っていた。
その中で、ニアールは一人力なく椅子に腰かけていた。
「・・・一体私はどうしたらいいんだろう。やっぱり、この計画には無理があったのかな・・」
『まだ諦めるのは早いぞ。人間の女よ』
二アールはいきなり聞こえてきた返ってくるはずのない言葉に驚いた。
「だ・・だれ!?」
すると、二アールの目の前が眩く光り始めた。
「・・・っく!」
その激しい光を二アールは自分の腕で遮った。
やがて光が収まると、そこには白銀の長髪を靡かせた、長身の美青年が立っていた。
「白銀の・・髪!?」
本来ありえないはずのその髪色を見て、二アールは目を見開いた。
「あ、貴方は誰なの!?」
「・・私の名は『ナラトス』。古の時に存在した『神』の末裔だよ」
男は両手を広げながらそう答えた。
「・・どうやら精神が参ってるみたいね。いよいよ喋る幻まで見えてきたみたいだわ」
二アールは疲れた表情で掌で額を抑えた。
「幻ではない。確かに私はここにいる」
ナラトスはそう言うと同時にまるで瞬間移動したかのように一瞬で数メートルあった二アールとの距離を詰めて、彼女の小さな顎をその細くて美しい指先で持ち上げた。
「・・・っ!?」
研究一筋で男性に免疫がなかった二アールは突然顎を持ち上げられて頬を染めた。
「私は貴方のことをよく理解している。貴方は家族やライバルを見返したい。だが、自分の研究が上手くいかなくて今どうしようもなく焦っている。そうであろう?」
その言葉を聞いた二アールは目を見開いた。
二アールは帝国貴族であるソフィミア伯爵家の三女として生まれた。
兄である長男は後継として父親の領地運営を補佐しており、その手腕を買われていた。
二人の姉はそれぞれ有力な貴族の嫁として入っていった。
そんなことから、三女である二アールも両親からは政略結婚の駒となる以上の興味は得られなかった。
二アールは『貴族の女性は政略結婚をするもの』という考えに納得がいかなかった。
そんなことから親に反発して好きな魔導学を学んだが、それがさらに家族との溝を深めていった。
それでも二アールは魔導学で大成すれば、家族が二アール自身の価値を認めてくれると思っているのだ。
そして、幼なじみのクラリスは家の爵位こそ二アールより格下だが、家族から認められて自由に魔導の研究に明け暮れており、それが二アールにとって羨ましくて仕方なかった。
アカデミー時代でもライバル視していたクラリスは、いつも二アールより周囲の評価がよかった。
そして、明るくていつも友人に囲まれている姿を見る度に自分に対して酷い劣等感が襲って来ていたのであった。
だからこそ、共通の研究課題である魔導機甲の開発で二アールはどうしてもクラリスから一歩抜きんでたい気持ちが強くあったのだ。
バシッ!
二アールは顎にやられた手を払い除けるとナラトスを睨んだ。
「私は生憎と神様とか『女神教』とかそんなのは全く信じていないわ。どんな目的があって近づいたのか知らないけど目障りだわ」
二アールがそう言って突っぱねても、ナラトスは表情を変えることはなかった。
そして、にわかに微笑むと二アールの手に何かを握らせて、それを両手で包み込んだ。
「貴方にこれをあげよう。これを見れば貴方も私の言葉を信じるだろう」
「・・・・」
その言葉を聞いて、二アールは恐る恐る手を開いた。
「・・・!黒い・・魔導結晶??」
二アールは今まで見たこともないような妖しい輝きを放つ美しい結晶に魅入られていた。
「これは・・一体!?」
「この魔導結晶はかつて神々が滅びる時に遺した『神の遺産』だよ。そしてそれには当時の神気の残滓・・君らで言うマナが込められている。しかもこれは今まで数千年の時が経つまでにさらにマナを蓄えた代物だ」
それを聞いた二アールはわずかに唇を震えさせた。
「そんな・・!?それほど膨大なマナを蓄えられる物なんて!」
狼狽る二アールの手を、ナラトスは再び包み込んだ。
「疑うなら捨ててしまっても構わない。だけど貴方も研究に行き詰まっているのだろう?大丈夫。これは必ず貴方の夢を叶えてくれる」
「貴方が信じるなら、私も貴方を助けよう。この『受肉した身』を使ってね」
「なに、私はこれでも神の端くれだ。私が研究に混じっても周りはなにも疑わない。そのように人々の認識を操作するなど容易い事」
「あんな助手など放っておけばいい。私は君の事を信じている。それに君の研究は私の悲願を達成する為にも必要なのだ。協力は惜しまないよ」
「私は君の成功を約束しようではないか」
二アールを見つめるその瞳に、二アールは不思議な魅力を感じた。
「でも流石にこの髪はまずいであろう。ならばこうしよう」
そう言うとナラトスは指をならす。
すると光輝きながらナラトスの髪色が根元から金色に染まっていった。
「魔導を詠唱もスクロールも無しに発動するなんて!?」
「これなら見た目も怪しまれないであろう?さあ、貴方の才能を二人で咲かせようじゃないか」
そして、ナラトスは握手をするべく二アールへと手を差し出した。
「・・・・はい」
二アールはその手を、恋する少女のように頬を染めながら握り返した。
「私の・・願い」
二アールはふと視線を横へ向ける。
その視線の先には、全高二十メートルに迫るほどの人型をした一機の魔導機甲がハンガーに収まっていた。
そして、その未だに動くことが叶わない漆黒に染まる魔導機甲が、屋根に灯る魔導ランプの光を反射させて妖しく輝いていた。
帝都リスラムにある魔導省のとある研究施設で、一人の美しい濃紺のロングヘアをストレートに流した美少女が、その少し吊り上がった大きな瞳で魔導コンソールを眺めていた。
彼女は『ニアール・フォン・ソフィミア』と言う名で、クラリスと同じく帝国の筆頭魔導学研究者である。
彼女は黒のタイトなミニスカートからすらりとした美しい脚を投げ出し、第二ボタンくらいまで開けた白のブラウスの上から白衣を羽織っており、クラリスよりも更に研究者らしい身なりであった。
彼女が固唾をのんで見守る魔導コンソールの先では、魔導具を実験する為の広いスペースがある。
その床には円状の大きな魔導式が描かれており、その中心部には一メートル角程の台座があった。
その台座の上には直径五センチほどの金属様で出来た球体が鎮座していた。
そして、その球体を数メートルほど離れて円陣で取り囲むように二十人ほどの上級魔導士が並んでいた。
「・・これより第二十四回マテリアル・マナ・キャパシタのマナ充填実験を開始する!!」
ニアールが実験開始の声をかけると、総勢二十人の魔導士が一斉にその球体に向かってマナを込め始めた。
魔導機甲の稼働に必要である膨大なマナの供給について、クラリスは生物が自然に行っているエーテル・マナ変換を人工的に実現することで達成しようとしていた。
それに対しニアールは、ほとんどが天然資源で大容量のマナを溜めることが困難である魔導結晶の代替となる、マナ充填用の新物質を開発することで魔導機甲の動力源に用いようと考えた。
そして、今まさにその実験が行われようとしていたのだった。
「魔導学の錬金技術の粋を集めたこの新素材・・・お願いだから耐えて頂戴!」
「理論上、上級魔導士二十人が五時間程マナを込められれば、キャパシタ本体のマナ抵抗を考えても魔導機甲を動かすのに十分な動力源になりうるはず・・・」
そしてニアールが見守る中、実験は一時間ほどが経過した。
マナを充填する魔導士達の額から汗が滲んできた頃、ニアールの隣にいる壮年の男性助手が声を発した。
「ニアールさん・・・先ほどから込めているマナに対して、キャパシタのマナ充填量上昇値が落ち込み始めています」
「・・・やはり、今回の素材も『飽和量』に達したのね・・」
ニアールの声からは大きな落胆が感じられた。
「・・で、充填量は?」
「・・・概ね十五サイクラ時程ですね」
「魔導機甲の定格出力が概ね百サイクラ程度・・・つまりは定格出力稼働での稼働時間は九分程度ってことね」
「上級魔導士二十人が一時間以上全力でマナを込めてようやく稼働時間が九分であれば兵器として運用するにはいささか不足ですね」
それほどの手間をかけてやっと動作する魔導機甲一機を投入するくらいであれば、上級魔導士二十人を直接戦場に投入する方が圧倒的に戦力となるのは誰が見ても明らかであった。
「純粋にマナ・キャパシタの性能としてはそれでも素晴らしいものですが」
直径五センチ程の大きさの球体に上級魔導士が全力で放出するマナを十五時間分も充填できるのだ。
それは魔導学でいえばとてつもない大発明なのだが、ニアールは満足しなかった。
なぜならば、今回実験に用いた球体はそれ以上大きくしても本体のマナ抵抗により充填量が大きく増えることがないからだ。
また、この大きさまでなら単位体積で言えば天然の魔導結晶よりも大容量のマナを充填できる素晴らしい素材であるが、マナ充填量に対しての費用で言えば魔導結晶の何十倍も高くなってしまう。
結果、今の充填量程度であれば複数の魔導結晶を用いてマナを充填するほうが実用的という結果になってしまうのであった。
実験が終わって、上級魔導士や研究員たちが次々と実験施設を後にする。
そして、ニアールの肩に助手の男が手を置いた。
「・・・もうこの実験は無理かもしれませんね」
バンッ!
「・・・・そんなことはない!!」
ため息交じりに言われた助手の言葉に腹を立てたニアールは、魔導コンソールに激しく拳を叩きつけた。
「・・ですがこのままでは研究予算も打ち切りとなりますでしょうな・・」
「いずれにせよ、私も今後身の振り方を考えなければなりません・・」
「ニアールさん。この研究もかなり長期に渡って行って来て愛着があるのはわかります。ですが魔導機甲なんて物自体が夢物語のようなものなのです」
「くれぐれも、良いご判断を・・・」
そう言い残して助手の男もニアールの元を去って行った。
ニアールはただ一人となり、施設には静けさが漂っていた。
その中で、ニアールは一人力なく椅子に腰かけていた。
「・・・一体私はどうしたらいいんだろう。やっぱり、この計画には無理があったのかな・・」
『まだ諦めるのは早いぞ。人間の女よ』
二アールはいきなり聞こえてきた返ってくるはずのない言葉に驚いた。
「だ・・だれ!?」
すると、二アールの目の前が眩く光り始めた。
「・・・っく!」
その激しい光を二アールは自分の腕で遮った。
やがて光が収まると、そこには白銀の長髪を靡かせた、長身の美青年が立っていた。
「白銀の・・髪!?」
本来ありえないはずのその髪色を見て、二アールは目を見開いた。
「あ、貴方は誰なの!?」
「・・私の名は『ナラトス』。古の時に存在した『神』の末裔だよ」
男は両手を広げながらそう答えた。
「・・どうやら精神が参ってるみたいね。いよいよ喋る幻まで見えてきたみたいだわ」
二アールは疲れた表情で掌で額を抑えた。
「幻ではない。確かに私はここにいる」
ナラトスはそう言うと同時にまるで瞬間移動したかのように一瞬で数メートルあった二アールとの距離を詰めて、彼女の小さな顎をその細くて美しい指先で持ち上げた。
「・・・っ!?」
研究一筋で男性に免疫がなかった二アールは突然顎を持ち上げられて頬を染めた。
「私は貴方のことをよく理解している。貴方は家族やライバルを見返したい。だが、自分の研究が上手くいかなくて今どうしようもなく焦っている。そうであろう?」
その言葉を聞いた二アールは目を見開いた。
二アールは帝国貴族であるソフィミア伯爵家の三女として生まれた。
兄である長男は後継として父親の領地運営を補佐しており、その手腕を買われていた。
二人の姉はそれぞれ有力な貴族の嫁として入っていった。
そんなことから、三女である二アールも両親からは政略結婚の駒となる以上の興味は得られなかった。
二アールは『貴族の女性は政略結婚をするもの』という考えに納得がいかなかった。
そんなことから親に反発して好きな魔導学を学んだが、それがさらに家族との溝を深めていった。
それでも二アールは魔導学で大成すれば、家族が二アール自身の価値を認めてくれると思っているのだ。
そして、幼なじみのクラリスは家の爵位こそ二アールより格下だが、家族から認められて自由に魔導の研究に明け暮れており、それが二アールにとって羨ましくて仕方なかった。
アカデミー時代でもライバル視していたクラリスは、いつも二アールより周囲の評価がよかった。
そして、明るくていつも友人に囲まれている姿を見る度に自分に対して酷い劣等感が襲って来ていたのであった。
だからこそ、共通の研究課題である魔導機甲の開発で二アールはどうしてもクラリスから一歩抜きんでたい気持ちが強くあったのだ。
バシッ!
二アールは顎にやられた手を払い除けるとナラトスを睨んだ。
「私は生憎と神様とか『女神教』とかそんなのは全く信じていないわ。どんな目的があって近づいたのか知らないけど目障りだわ」
二アールがそう言って突っぱねても、ナラトスは表情を変えることはなかった。
そして、にわかに微笑むと二アールの手に何かを握らせて、それを両手で包み込んだ。
「貴方にこれをあげよう。これを見れば貴方も私の言葉を信じるだろう」
「・・・・」
その言葉を聞いて、二アールは恐る恐る手を開いた。
「・・・!黒い・・魔導結晶??」
二アールは今まで見たこともないような妖しい輝きを放つ美しい結晶に魅入られていた。
「これは・・一体!?」
「この魔導結晶はかつて神々が滅びる時に遺した『神の遺産』だよ。そしてそれには当時の神気の残滓・・君らで言うマナが込められている。しかもこれは今まで数千年の時が経つまでにさらにマナを蓄えた代物だ」
それを聞いた二アールはわずかに唇を震えさせた。
「そんな・・!?それほど膨大なマナを蓄えられる物なんて!」
狼狽る二アールの手を、ナラトスは再び包み込んだ。
「疑うなら捨ててしまっても構わない。だけど貴方も研究に行き詰まっているのだろう?大丈夫。これは必ず貴方の夢を叶えてくれる」
「貴方が信じるなら、私も貴方を助けよう。この『受肉した身』を使ってね」
「なに、私はこれでも神の端くれだ。私が研究に混じっても周りはなにも疑わない。そのように人々の認識を操作するなど容易い事」
「あんな助手など放っておけばいい。私は君の事を信じている。それに君の研究は私の悲願を達成する為にも必要なのだ。協力は惜しまないよ」
「私は君の成功を約束しようではないか」
二アールを見つめるその瞳に、二アールは不思議な魅力を感じた。
「でも流石にこの髪はまずいであろう。ならばこうしよう」
そう言うとナラトスは指をならす。
すると光輝きながらナラトスの髪色が根元から金色に染まっていった。
「魔導を詠唱もスクロールも無しに発動するなんて!?」
「これなら見た目も怪しまれないであろう?さあ、貴方の才能を二人で咲かせようじゃないか」
そして、ナラトスは握手をするべく二アールへと手を差し出した。
「・・・・はい」
二アールはその手を、恋する少女のように頬を染めながら握り返した。
「私の・・願い」
二アールはふと視線を横へ向ける。
その視線の先には、全高二十メートルに迫るほどの人型をした一機の魔導機甲がハンガーに収まっていた。
そして、その未だに動くことが叶わない漆黒に染まる魔導機甲が、屋根に灯る魔導ランプの光を反射させて妖しく輝いていた。
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