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第二章 魔導帝国オルテアガ編
クラリスの思い 〜クラリス視点〜
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ゴーレム討伐を終えて帝都に戻った二アールは宮殿からの招集によりオルクス皇帝の前に跪いていた。
そして、その横には同じようにナラトスが跪いている。
ナラトスの反対側にはクラリスも沈痛な面持ちで跪いていた。
「面をあげよ」
オルクス皇帝は三人の顔を順に眺めると、そのよく通る声で語り出した。
「・・二アール博士、そしてナラトスよ。此度の研究成果、誠に大儀であった」
「此度の大成により、魔導帝国オルテアガは魔導工学の分野に於いて、もはや他国の追従を許さぬ程になるであろう」
「そなた達には此度の成果の褒美として学術分野最高位の勲章である紫宝勲章を授けよう」
「また、その成果として二アール博士には金貨一万、ナラトスには金貨五千を授ける」
「「ありがたき幸せ」」
「ニアール博士よ」
「はっ!」
「そなたには更に研究に勤しんでもらいたい。その為に必要な物であれば望むものを支給しよう。何かあるか?」
「・・恐れながら申し上げます」
「なんだ。言ってみるが良い」
「魔導機甲は無事落成と相成りましたが量産には今暫くかかるのも事実であります」
「・・であるな」
「そこで魔導機甲の量産化に並行して進めたい計画が御座います」
「・・してその計画とは?」
「・・はい。私たちはゴーレムを人工的に制御する計画を検討しております」
「!!」
ニアールの言葉を聞いたクラリスが驚きで目を見開きながら顔をニアールの方へ向けた。
「ほう・・確かに。そのようなことが本当に可能であれば早急な軍備拡張も見込めるか。どう思う?クウォリアス軍務卿」
「はい。確かにこれからの王国への軍事力による牽制を画策されるのであれば有用な計画かと。しかし、本当にそんなことが可能なのでしょうか」
「・・それにつきましては現在ゴーレムの生態について調査中です。しかしながら私たちの見積では十分に実現は可能かと。なので恐れながらまずは計画について承認を頂きたいのです」
そう言いながら二アールは頭を下げた。
「・・あいわかった。そなたには魔導機甲の実績もあるしな。ではその件承認しよう。帝国からも予算を捻出しよう。後ほど魔導省経由で詳しい計画書を提出するように」
「ありがたき幸せ」
ニアールとナラトスは静かに頭を下げた。
「・・してクラリス博士よ」
「・・はい」
「そなたも帝国の為に力を尽くしてくれた。感謝する」
「・・勿体なき御言葉に御座います」
「・・しかしながら、魔導機甲の開発についてはニアール博士の理論に軍配が上がったようだ」
「・・そなたには心苦しいが、本日をもってそなたの研究グループは解体となる」
「魔導機甲の件は残念であったがこれからも別の分野で帝国魔導工学に貢献してほしい」
「・・わかりました」
「せっかくの場である。そなたにもし不服があれば申してみるが良い」
「不服は全くございません。ただ、一つだけお願いしたい事があります」
通常皇帝に直接願い事をするのは不敬である。
クウォリアス軍務卿はため息を吐き、オルクス皇帝は眉をひそめた。
「・・言ってみるが良い」
「・・はい、可能であれば研究に使用した試作機体を私費で購入させていただけませんか。図々しい願いとは自負していますが、強い思い入れがありますので、どうかご配慮をお願いします」
クラリスはそう言いながら平伏した。
「むう・・まあ動かないものであるが思い入れはある・・か。あいわかった。そうするが良い」
「・・ご配慮心より感謝します」
そして、その日の謁見は終了した。
・・・・・。
・・・・・・・。
クラリスはその後今まで開発した特許などで儲けた莫大な私財のほとんどを注ぎ込んで魔導機甲の開発に使用した機材や資材を魔導省から買い取って、自らのレゾニア男爵家の敷地に搬入した。
レゾニア家は男爵家であったが、祖父の代にクラリスと同じように魔導具の開発で大成して莫大な財を築いた。
その財は帝国貴族の中でも有数で、下手な上級貴族よりも富と大きな屋敷を持っていた。
クラリスは敷地内の倉庫に置かれたハンガーに固定されている魔導機甲に優しく触れた。
そして、美しい曲面で成形され、魔導銀で出来た装甲板が少しひんやりとしているのを確認すると、優しく微笑んだ。
「・・私は諦めないわ・・そうでしょう?『プラタナ』」
そう言いながらクラリスはその白銀の機体を撫でた。
クラリスは小さい頃に亡くなった祖父を魔導工学の研究者として心から尊敬していた。
そして愛する祖父の名である『プラタナ』をそのまま魔導機甲の機体名にしたのだ。
クラリスは瞳を閉じて小さい時に祖父と過ごした時代に思いを馳せた。
・・・・・。
小さい時のクラリスは嫌な事があれば、いつもすぐに屋敷にあった祖父の研究室に遊びに来ていた。
幼い時のある日も屋敷のメイド達がクラリスを探し回る中、祖父の元へと逃げ込んできたのであった。
「おや、どうしたクラリス。またメイド達から逃げてきたのかい?」
「・・うん」
「・・・なにがあったのかお爺ちゃんにいってごらん?」
「あのね。またニアールが私のことを馬鹿にしたの。『男爵のくせに魔導具なんて作って生意気なのよ』って」
「それで、わたしが作った魔導具を無理やり取ろうとしてきたの」
そう言いながらクラリスは祖父におずおずと自分が作った魔導具を差し出した。
それは木を削り出して作った翼を持った流線型の胴体に小さな魔導結晶を嵌め込んで、その先端に魔導により回転するプロペラを付けたものであった。
「・・これは」
「ニアールとね、『鳥のおもちゃ』を作ってどっちがたくさん飛ぶかって勝負をしたの」
「で、それを作ったんだけど『こんなの鳥じゃない』って言われたの。二アールは羽を動かす物を作ったけど全く飛ばなくて、それで怒り出したの」
「・・・なるほど、翼の形を風を受けるようにして、プロペラで前方から風を送って飛べるような仕組みを考えたのか」
「まあ、私のも飛ばなかったんだけど・・」
そう言いながらクラリスはしゅんとした。
「・・・いや、着眼点は悪くない。この発想は間違いじゃない。今は実現できないかもしれないが、いつか空を飛ぶための道具が発明されるとすればこういう形かもしれないね」
プラタナはそう言いながら、やけに真剣な表情でクラリスが作った物を見ていた。
「・・クラリス、お前は私によく似ている」
プラタナはクラリスの頭に手をやると、優しく撫でた。
「いいかい、クラリス。物づくりに貴賎なんかないんだよ。物を作るというのは、みんなに役立つ物を生み出したいという気持ちが一番大切なんだから」
「お前はとても才能がある。だから自分のことを信じるんだよ」
「周りがどんなことを言ってきても、どんな逆境にぶつかっても、自分のことを信じて自分の意思を貫くんだ」
「そうすればいつかは何らかのいい結果に辿り着く」
「わかったね」
「わかったよ!お爺ちゃん!」
そしてプラタナはにこやかにクラリスの頭を撫でた。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
「自分の意思を・・貫く」
思考を現在に戻したクラリスは静かに瞳を開いた。
その瞳には、未だ激しい炎が灯っているようであった。
「あたしに残った僅かな可能性・・・」
そう言うと、クラリスは椅子の背もたれにかけてあった白衣を羽織った。
「行くわよ・・冒険者ギルドへ!」
そう言いながらクラリスは歩み出した。
そして、その横には同じようにナラトスが跪いている。
ナラトスの反対側にはクラリスも沈痛な面持ちで跪いていた。
「面をあげよ」
オルクス皇帝は三人の顔を順に眺めると、そのよく通る声で語り出した。
「・・二アール博士、そしてナラトスよ。此度の研究成果、誠に大儀であった」
「此度の大成により、魔導帝国オルテアガは魔導工学の分野に於いて、もはや他国の追従を許さぬ程になるであろう」
「そなた達には此度の成果の褒美として学術分野最高位の勲章である紫宝勲章を授けよう」
「また、その成果として二アール博士には金貨一万、ナラトスには金貨五千を授ける」
「「ありがたき幸せ」」
「ニアール博士よ」
「はっ!」
「そなたには更に研究に勤しんでもらいたい。その為に必要な物であれば望むものを支給しよう。何かあるか?」
「・・恐れながら申し上げます」
「なんだ。言ってみるが良い」
「魔導機甲は無事落成と相成りましたが量産には今暫くかかるのも事実であります」
「・・であるな」
「そこで魔導機甲の量産化に並行して進めたい計画が御座います」
「・・してその計画とは?」
「・・はい。私たちはゴーレムを人工的に制御する計画を検討しております」
「!!」
ニアールの言葉を聞いたクラリスが驚きで目を見開きながら顔をニアールの方へ向けた。
「ほう・・確かに。そのようなことが本当に可能であれば早急な軍備拡張も見込めるか。どう思う?クウォリアス軍務卿」
「はい。確かにこれからの王国への軍事力による牽制を画策されるのであれば有用な計画かと。しかし、本当にそんなことが可能なのでしょうか」
「・・それにつきましては現在ゴーレムの生態について調査中です。しかしながら私たちの見積では十分に実現は可能かと。なので恐れながらまずは計画について承認を頂きたいのです」
そう言いながら二アールは頭を下げた。
「・・あいわかった。そなたには魔導機甲の実績もあるしな。ではその件承認しよう。帝国からも予算を捻出しよう。後ほど魔導省経由で詳しい計画書を提出するように」
「ありがたき幸せ」
ニアールとナラトスは静かに頭を下げた。
「・・してクラリス博士よ」
「・・はい」
「そなたも帝国の為に力を尽くしてくれた。感謝する」
「・・勿体なき御言葉に御座います」
「・・しかしながら、魔導機甲の開発についてはニアール博士の理論に軍配が上がったようだ」
「・・そなたには心苦しいが、本日をもってそなたの研究グループは解体となる」
「魔導機甲の件は残念であったがこれからも別の分野で帝国魔導工学に貢献してほしい」
「・・わかりました」
「せっかくの場である。そなたにもし不服があれば申してみるが良い」
「不服は全くございません。ただ、一つだけお願いしたい事があります」
通常皇帝に直接願い事をするのは不敬である。
クウォリアス軍務卿はため息を吐き、オルクス皇帝は眉をひそめた。
「・・言ってみるが良い」
「・・はい、可能であれば研究に使用した試作機体を私費で購入させていただけませんか。図々しい願いとは自負していますが、強い思い入れがありますので、どうかご配慮をお願いします」
クラリスはそう言いながら平伏した。
「むう・・まあ動かないものであるが思い入れはある・・か。あいわかった。そうするが良い」
「・・ご配慮心より感謝します」
そして、その日の謁見は終了した。
・・・・・。
・・・・・・・。
クラリスはその後今まで開発した特許などで儲けた莫大な私財のほとんどを注ぎ込んで魔導機甲の開発に使用した機材や資材を魔導省から買い取って、自らのレゾニア男爵家の敷地に搬入した。
レゾニア家は男爵家であったが、祖父の代にクラリスと同じように魔導具の開発で大成して莫大な財を築いた。
その財は帝国貴族の中でも有数で、下手な上級貴族よりも富と大きな屋敷を持っていた。
クラリスは敷地内の倉庫に置かれたハンガーに固定されている魔導機甲に優しく触れた。
そして、美しい曲面で成形され、魔導銀で出来た装甲板が少しひんやりとしているのを確認すると、優しく微笑んだ。
「・・私は諦めないわ・・そうでしょう?『プラタナ』」
そう言いながらクラリスはその白銀の機体を撫でた。
クラリスは小さい頃に亡くなった祖父を魔導工学の研究者として心から尊敬していた。
そして愛する祖父の名である『プラタナ』をそのまま魔導機甲の機体名にしたのだ。
クラリスは瞳を閉じて小さい時に祖父と過ごした時代に思いを馳せた。
・・・・・。
小さい時のクラリスは嫌な事があれば、いつもすぐに屋敷にあった祖父の研究室に遊びに来ていた。
幼い時のある日も屋敷のメイド達がクラリスを探し回る中、祖父の元へと逃げ込んできたのであった。
「おや、どうしたクラリス。またメイド達から逃げてきたのかい?」
「・・うん」
「・・・なにがあったのかお爺ちゃんにいってごらん?」
「あのね。またニアールが私のことを馬鹿にしたの。『男爵のくせに魔導具なんて作って生意気なのよ』って」
「それで、わたしが作った魔導具を無理やり取ろうとしてきたの」
そう言いながらクラリスは祖父におずおずと自分が作った魔導具を差し出した。
それは木を削り出して作った翼を持った流線型の胴体に小さな魔導結晶を嵌め込んで、その先端に魔導により回転するプロペラを付けたものであった。
「・・これは」
「ニアールとね、『鳥のおもちゃ』を作ってどっちがたくさん飛ぶかって勝負をしたの」
「で、それを作ったんだけど『こんなの鳥じゃない』って言われたの。二アールは羽を動かす物を作ったけど全く飛ばなくて、それで怒り出したの」
「・・・なるほど、翼の形を風を受けるようにして、プロペラで前方から風を送って飛べるような仕組みを考えたのか」
「まあ、私のも飛ばなかったんだけど・・」
そう言いながらクラリスはしゅんとした。
「・・・いや、着眼点は悪くない。この発想は間違いじゃない。今は実現できないかもしれないが、いつか空を飛ぶための道具が発明されるとすればこういう形かもしれないね」
プラタナはそう言いながら、やけに真剣な表情でクラリスが作った物を見ていた。
「・・クラリス、お前は私によく似ている」
プラタナはクラリスの頭に手をやると、優しく撫でた。
「いいかい、クラリス。物づくりに貴賎なんかないんだよ。物を作るというのは、みんなに役立つ物を生み出したいという気持ちが一番大切なんだから」
「お前はとても才能がある。だから自分のことを信じるんだよ」
「周りがどんなことを言ってきても、どんな逆境にぶつかっても、自分のことを信じて自分の意思を貫くんだ」
「そうすればいつかは何らかのいい結果に辿り着く」
「わかったね」
「わかったよ!お爺ちゃん!」
そしてプラタナはにこやかにクラリスの頭を撫でた。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
「自分の意思を・・貫く」
思考を現在に戻したクラリスは静かに瞳を開いた。
その瞳には、未だ激しい炎が灯っているようであった。
「あたしに残った僅かな可能性・・・」
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