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第二章 魔導帝国オルテアガ編
ナラトスの口付け 〜ニアール視点〜
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帝国魔導省建屋のとある研究施設内の一室・・。
書類や資材が部屋中に散乱しており、その薄暗い照明がまるで研究室に居る主の現在の心情を表しているようであった。
バン!
その研究室の主である二アールは荒ぶった心を体現するかのように、書類の束を乱雑にデスクへと叩きつけた。
「・・・この資料にある情報は本当なのですか!!」
それは、先日帝都で多数の冒険者や帝都民に目撃された、飛行する巨人の目撃情報を集約したものであった。
書類を叩きつけながら叫ぶ二アールの瞳の下には隈ができており、皇帝と謁見していた時に比べるとかなりやつれている印象があった。
「・・・いかにも」
二アールの問いかけに対し、ナラトスは抑揚のない声で肯定した。
「そんな!ナラトス様にお借りしたこの『黒の魔導結晶』は人智を超えたものだとおっしゃったではないですか!!」
「なのに、何故!?何故クラリスは『黒の魔導結晶』を使わずしてこれほどの性能を持つ魔導機甲を作ることができたのです!!」
「・・・それは私にもわからぬのだよ。だが、何らかの私のような存在からの介入はあるかもしれぬな」
「・・・折角!折角あのクラリスに勝てたと思ったのに!!どうして!どうしてなのよ!!」
二アールは虫の居所が悪いまま、デスクの上で乱雑に積まれた本をその腕で払いのけた。
ガサササ!
払いのけられた本は音を立てながら床へと落ちていく。
「あいつはいつもそう!私がいくら努力をしても、平然な顔をして私の一歩先を歩いている!」
「私はずっとあいつの背中を見ることしかできなかった!それがようやく一番望んでいた研究で追い越せたと思ったのに!どうして・・・どうしてよ」
「・・・この資料が本当だとすれば・・クラリスの作った魔導機甲は私の『メルティーナ』より遥か上をいくじゃないの・・・!」
二アールは先ほど叩きつけた資料を数枚握りしめてくしゃくしゃにすると、その上に涙の粒を落とした。
「・・・彼女が憎いかね?」
「・・・憎い・・憎いわ!あいつさえいなければ!そうすれば!私はいつだって一番になれるのに!みんな私だけを注目してくれるのに!」
悔しそうに顔をくしゃくしゃにする二アールの肩へナラトスはそっと手を添えた。
「・・・そなたには私がいるではないか」
「・・ナラトス・・様」
「案ずることはない。そなたがそう思うならその望みを実行すれば良かろう」
「望みを・・実行する?」
「いかにも。クラリスという女が邪魔なのであれば其奴の魔導機甲ごと葬り去ればよかろう」
「で、ですが!!魔導機甲の性能差は全く話になりません!一体どうすれば・・」
「単機で駄目なら数で押せばよかろう?その為に私たちはゴーレムの制御と強化を目指している」
「・・ゴーレムの制御については魔導機甲の技術を応用してゴーレムの魔導結晶を移植して作った頭部を元の物と挿げ替えることで実現が可能なのは先日確認したばかりですか・・」
「それでも戦闘能力はただのゴーレムと等しいです。確かに帝国の戦力増強の一助にはなりますが、あいつの魔導機甲には束になってかかっても勝てません・・」
そう言いながらニアールは目を伏せた。
「そなたに面白いものを見せてやろう。ついてくるが良い」
ニアールの訴えに返事をすることのなかったナラトスは、踵を返すとニアールに後をついてくるように促した。
「・・ここは・・」
ナラトスは昔の実験で放棄され、普段は使われていない研究施設へと続く埃が積もった薄暗い廊下をスタスタと歩いて行く。
その廊下を五分ほど歩いてたどり着いた先には、すっかり錆び付いてしまった大きな分厚そうな鉄の扉があった。
ギィィィ・・。
ナラトスが開いた扉の先には魔導機甲が何体も置ける程巨大な空間があった。
そこは暗くてはっきりと見渡せなかったが、ニアールは何やら大きなものが大量に置いてある気配を感じた。
バシン!
そして、ナラトスが壁に備わった大きなレバーを上げると、その空間が大量に灯った魔導ランプによって明らかとなった。
「!!」
ニアールはその明らかになった光景を目にして思わず息を飲んだ。
「頭部を改修したゴーレム・・こんなにたくさん・・」
そこには拘束具のようなハンガーに立たされた多数のゴーレムが聳え立っていた。
しかし、そのゴーレムの胸部には、今までのゴーレム制御の研究では目にしなかったような黒味がかった色をしている水晶に似た大型の鉱石が埋め込まれていた。
「その胸部に埋め込まれたものを近くで見てみるが良い」
ニアールはナラトスに促されて一番近いゴーレムの側へと歩み寄った。
「・・・!」
そして、ニアールは目を凝らしたことによって見えたものから堪らず目を背けた。
「・・獣人の男の子!!」
ニアールが見た鉱石のような物の中は液体のようなものが詰まっており、それに漂うように多数の触手のような物に埋もれた幼い獣人の男の子が、眠るように瞳を閉じていたのが見えた。
「・・これは一体どういうことですか!?」
あまりに衝撃的なものを目の当たりにしたニアールは、思わずナラトスに詰め寄った。
「私の研究で、今まで魔導を行使することが困難とされていた暗い色の髪と瞳をした人間が、実は膨大なマナ出力を秘めていることを発見した」
「そして、それらは『黒の魔導結晶』がもたらすマナをトリガーにして引き出せることが判明したのだよ」
「特に獣人と言われる種族は身体能力が影響しているのか、同じ髪色をした普通の人間よりマナ出力が高い」
「それにかつてのような差別は少なくなったとはいえ、『女神教』が蔓延るこの世界で魔導が使えなくて身体能力しか取り柄のない獣人は他の種族から見下されている」
「それは『女神教』をあまり崇拝しないこの国でも存在していることだ」
「それにより冷遇されて仕事にあぶれた身寄りのない獣人など、帝都のスラムにいけばいくらでも手に入るし、居なくなったところで誰にも気付かれもしない」
「そんな獣人を使うことによって、私のゴーレムは魔導機甲に引けを取らない程の性能を得ることが出来たのだよ!」
「・・ですが!!これはあまりにも非人道的すぎます!」
ニアールの叫びを聞いたナラトスはニアールに冷たい眼差しを向けた。
「非人道的?当たり前であるな。私は神なのだよ?本来神が為すことに人間の意思など関係ないのだからな」
「そなたが躊躇うのは勝手だが良いのか?そなたが安っぽい正義を貫くと言うのなら、そなたは永遠に二流であるな」
「私はそなたに協力してきたが、それはそなたのことを見込んでのこと。だがそなたが二流であると言うならばかまわぬ。私はそなたがいなくても目的は達成できるからな」
「だが、私の計画には『黒の魔導結晶』が必要なのでな。そうであるなら私が渡した『黒の魔導結晶』は返してもらおうか」
「そんなっ!ナラトス様に見捨てられれば・・私は!!」
ナラトスは狼狽るニアールの髪を一房持ち上げると妖しく微笑んだ。
「そなたの髪とそこの獣人。同じ髪色であるな」
「・・・だがそなたには『才能』があるではないか。ゴーレムに取り込まれた獣人と私と共に歩むそなた。違うのはその『才能』であるな」
「良いか。『選ばれた人間』というのはそれに伴う『使命』が必ず存在する」
「選ばれた・・使命・・」
頬を染めながらナラトスの瞳を見るニアールは、徐々に虚な表情へと変わっていく。
「なに、もとより私たちの研究は皇帝にも認められているではないか」
「あとは邪魔になる障害の排除。シンプルであるな」
「障害・・排除・・」
「ゴーレムに備えた『獣人』をそなたの魔導機甲にも備えようではないか」
「そうであるな、獣人の中でも一際黒に近い髪をした素体がよいな。どれ、帝都で私が一体見繕おうではないか」
「そして新しい『獣人』を搭載した『メルティーナ』は、必ずやそなたの憎き魔導機甲を打ち滅ぼすであろう!」
「その時こそ、そなたは帝国一の天才という称号を誰からも認められることであろう!」
そう言いながら、ナラトスはニアールの顎を細く美しい指で掬った。
「二人で美しい夢を見ようではないか。『ニアール』よ」
そして、虚な目で惚けたニアールの赤く小さな唇に口付けをした。
そして、口付けした瞬間に黒い霧状のものがナラトスからニアールへと流れ込んでゆく。
ニアールはそれに一瞬目を見開くが、すぐにそれを受け入れるように恍惚な表情をして瞳を閉じた。
だが、口付けをしているナラトスの眼差しはニアールではなく、遠い何か別のものを見据えているようであった。
書類や資材が部屋中に散乱しており、その薄暗い照明がまるで研究室に居る主の現在の心情を表しているようであった。
バン!
その研究室の主である二アールは荒ぶった心を体現するかのように、書類の束を乱雑にデスクへと叩きつけた。
「・・・この資料にある情報は本当なのですか!!」
それは、先日帝都で多数の冒険者や帝都民に目撃された、飛行する巨人の目撃情報を集約したものであった。
書類を叩きつけながら叫ぶ二アールの瞳の下には隈ができており、皇帝と謁見していた時に比べるとかなりやつれている印象があった。
「・・・いかにも」
二アールの問いかけに対し、ナラトスは抑揚のない声で肯定した。
「そんな!ナラトス様にお借りしたこの『黒の魔導結晶』は人智を超えたものだとおっしゃったではないですか!!」
「なのに、何故!?何故クラリスは『黒の魔導結晶』を使わずしてこれほどの性能を持つ魔導機甲を作ることができたのです!!」
「・・・それは私にもわからぬのだよ。だが、何らかの私のような存在からの介入はあるかもしれぬな」
「・・・折角!折角あのクラリスに勝てたと思ったのに!!どうして!どうしてなのよ!!」
二アールは虫の居所が悪いまま、デスクの上で乱雑に積まれた本をその腕で払いのけた。
ガサササ!
払いのけられた本は音を立てながら床へと落ちていく。
「あいつはいつもそう!私がいくら努力をしても、平然な顔をして私の一歩先を歩いている!」
「私はずっとあいつの背中を見ることしかできなかった!それがようやく一番望んでいた研究で追い越せたと思ったのに!どうして・・・どうしてよ」
「・・・この資料が本当だとすれば・・クラリスの作った魔導機甲は私の『メルティーナ』より遥か上をいくじゃないの・・・!」
二アールは先ほど叩きつけた資料を数枚握りしめてくしゃくしゃにすると、その上に涙の粒を落とした。
「・・・彼女が憎いかね?」
「・・・憎い・・憎いわ!あいつさえいなければ!そうすれば!私はいつだって一番になれるのに!みんな私だけを注目してくれるのに!」
悔しそうに顔をくしゃくしゃにする二アールの肩へナラトスはそっと手を添えた。
「・・・そなたには私がいるではないか」
「・・ナラトス・・様」
「案ずることはない。そなたがそう思うならその望みを実行すれば良かろう」
「望みを・・実行する?」
「いかにも。クラリスという女が邪魔なのであれば其奴の魔導機甲ごと葬り去ればよかろう」
「で、ですが!!魔導機甲の性能差は全く話になりません!一体どうすれば・・」
「単機で駄目なら数で押せばよかろう?その為に私たちはゴーレムの制御と強化を目指している」
「・・ゴーレムの制御については魔導機甲の技術を応用してゴーレムの魔導結晶を移植して作った頭部を元の物と挿げ替えることで実現が可能なのは先日確認したばかりですか・・」
「それでも戦闘能力はただのゴーレムと等しいです。確かに帝国の戦力増強の一助にはなりますが、あいつの魔導機甲には束になってかかっても勝てません・・」
そう言いながらニアールは目を伏せた。
「そなたに面白いものを見せてやろう。ついてくるが良い」
ニアールの訴えに返事をすることのなかったナラトスは、踵を返すとニアールに後をついてくるように促した。
「・・ここは・・」
ナラトスは昔の実験で放棄され、普段は使われていない研究施設へと続く埃が積もった薄暗い廊下をスタスタと歩いて行く。
その廊下を五分ほど歩いてたどり着いた先には、すっかり錆び付いてしまった大きな分厚そうな鉄の扉があった。
ギィィィ・・。
ナラトスが開いた扉の先には魔導機甲が何体も置ける程巨大な空間があった。
そこは暗くてはっきりと見渡せなかったが、ニアールは何やら大きなものが大量に置いてある気配を感じた。
バシン!
そして、ナラトスが壁に備わった大きなレバーを上げると、その空間が大量に灯った魔導ランプによって明らかとなった。
「!!」
ニアールはその明らかになった光景を目にして思わず息を飲んだ。
「頭部を改修したゴーレム・・こんなにたくさん・・」
そこには拘束具のようなハンガーに立たされた多数のゴーレムが聳え立っていた。
しかし、そのゴーレムの胸部には、今までのゴーレム制御の研究では目にしなかったような黒味がかった色をしている水晶に似た大型の鉱石が埋め込まれていた。
「その胸部に埋め込まれたものを近くで見てみるが良い」
ニアールはナラトスに促されて一番近いゴーレムの側へと歩み寄った。
「・・・!」
そして、ニアールは目を凝らしたことによって見えたものから堪らず目を背けた。
「・・獣人の男の子!!」
ニアールが見た鉱石のような物の中は液体のようなものが詰まっており、それに漂うように多数の触手のような物に埋もれた幼い獣人の男の子が、眠るように瞳を閉じていたのが見えた。
「・・これは一体どういうことですか!?」
あまりに衝撃的なものを目の当たりにしたニアールは、思わずナラトスに詰め寄った。
「私の研究で、今まで魔導を行使することが困難とされていた暗い色の髪と瞳をした人間が、実は膨大なマナ出力を秘めていることを発見した」
「そして、それらは『黒の魔導結晶』がもたらすマナをトリガーにして引き出せることが判明したのだよ」
「特に獣人と言われる種族は身体能力が影響しているのか、同じ髪色をした普通の人間よりマナ出力が高い」
「それにかつてのような差別は少なくなったとはいえ、『女神教』が蔓延るこの世界で魔導が使えなくて身体能力しか取り柄のない獣人は他の種族から見下されている」
「それは『女神教』をあまり崇拝しないこの国でも存在していることだ」
「それにより冷遇されて仕事にあぶれた身寄りのない獣人など、帝都のスラムにいけばいくらでも手に入るし、居なくなったところで誰にも気付かれもしない」
「そんな獣人を使うことによって、私のゴーレムは魔導機甲に引けを取らない程の性能を得ることが出来たのだよ!」
「・・ですが!!これはあまりにも非人道的すぎます!」
ニアールの叫びを聞いたナラトスはニアールに冷たい眼差しを向けた。
「非人道的?当たり前であるな。私は神なのだよ?本来神が為すことに人間の意思など関係ないのだからな」
「そなたが躊躇うのは勝手だが良いのか?そなたが安っぽい正義を貫くと言うのなら、そなたは永遠に二流であるな」
「私はそなたに協力してきたが、それはそなたのことを見込んでのこと。だがそなたが二流であると言うならばかまわぬ。私はそなたがいなくても目的は達成できるからな」
「だが、私の計画には『黒の魔導結晶』が必要なのでな。そうであるなら私が渡した『黒の魔導結晶』は返してもらおうか」
「そんなっ!ナラトス様に見捨てられれば・・私は!!」
ナラトスは狼狽るニアールの髪を一房持ち上げると妖しく微笑んだ。
「そなたの髪とそこの獣人。同じ髪色であるな」
「・・・だがそなたには『才能』があるではないか。ゴーレムに取り込まれた獣人と私と共に歩むそなた。違うのはその『才能』であるな」
「良いか。『選ばれた人間』というのはそれに伴う『使命』が必ず存在する」
「選ばれた・・使命・・」
頬を染めながらナラトスの瞳を見るニアールは、徐々に虚な表情へと変わっていく。
「なに、もとより私たちの研究は皇帝にも認められているではないか」
「あとは邪魔になる障害の排除。シンプルであるな」
「障害・・排除・・」
「ゴーレムに備えた『獣人』をそなたの魔導機甲にも備えようではないか」
「そうであるな、獣人の中でも一際黒に近い髪をした素体がよいな。どれ、帝都で私が一体見繕おうではないか」
「そして新しい『獣人』を搭載した『メルティーナ』は、必ずやそなたの憎き魔導機甲を打ち滅ぼすであろう!」
「その時こそ、そなたは帝国一の天才という称号を誰からも認められることであろう!」
そう言いながら、ナラトスはニアールの顎を細く美しい指で掬った。
「二人で美しい夢を見ようではないか。『ニアール』よ」
そして、虚な目で惚けたニアールの赤く小さな唇に口付けをした。
そして、口付けした瞬間に黒い霧状のものがナラトスからニアールへと流れ込んでゆく。
ニアールはそれに一瞬目を見開くが、すぐにそれを受け入れるように恍惚な表情をして瞳を閉じた。
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