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第三章 商業国家アーティナイ連邦編
逃亡者 〜ナラトス視点〜
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『商業国家アーティナイ連邦』の首都『カームクラン』、その隣に位置する『ヨークスカ』と言う名の港町にナラトスと二アールはたどり着いた。
『商業国家アーティナイ連邦』はその名の通り商業により発展した国である。
島国であるその国土は七割近くが山林を占めており、それぞれが異なった文化様式を持つ民族が都市圏単位で自治区を設けており、それらが合わさって連邦政府を作ることで国として機能している。
有効活用出来る国土が狭い為に資源や農産物、畜産業は他国より大きく劣るが、他国から材料を輸入して高品質な製品を製造して輸出する加工貿易が盛んで、輸出による国内の取引額合計は魔導具輸出で大成している魔導帝国オルテアガをも凌ぐ世界一であり、神聖イルティア王国や魔道帝国オルテアガに次ぐ世界第三位の経済大国である。
その首都である『カームクラン』に隣接する『ヨークスカ』は貿易港としては取引高と規模が世界一の港町であり、世界中から集まった商人たちによって賑わっていた。
ナラトス達は帝都『リスラム』から逃亡した後、『ヨークスカ』にある小さな宿に潜伏していた。
この宿は『カームクラン様式』という、まるで昔の日本のような伝統様式を取った建物で、夏期には高温多湿になる気候に適した瓦葺き木造二階建ての建物であった。
ここは建物の二階が客室になっており、客室の障子を開けると表の街道が見えるようになっている。
しかし、その障子は閉められており、畳敷きの薄暗い客室の中央に敷かれた布団の上に二アールは横たわっていた。
「はあ・・はあ・・」
横たわっている二アールは胸に手をやって額から汗を浮かび上がらせながら苦しそうな表情をしていた。
そして、その側でナラトスは静かに二アールを見守っていた。
ナラトスは無言でにアールに掌を翳すと、『上級治癒魔導』を放った。
パアァァァ・・・。
直後、ナラトスの掌から柔らかな白銀の光が溢れて二アールを包み込む。
すると、それまで苦しそうな表情をしていた二アールが穏やかな表情に戻って静かに寝息を立て始めた。
「・・・やはり、『上級治癒魔導』では症状を一時的に緩和することしかできぬか」
「二アールが苦しみだすタイミングも徐々に短くなってきている・・」
「このままでは闇に堕ちるのも時間の限界・・か」
『邪神』や『黒の魔導結晶』が持つ闇の力は暴露した人間へ一時的に大量のマナを与えたり、身体機能の強化を行うことができる。
また、その人間から正常な判断力を奪うことにより『邪神』の意のままに操ったりすることもできる。
闇の力が与える影響は人それぞれだが、二アールは『メルティーナ』のコクピット内やナラトスからの口づけによりかなり長時間にわたって闇の力を受け続けていた。
普通の人間がこれほどの闇の力を受けると、肉体が耐えられずに崩壊する場合が殆どである。
仮にそうでなかったとしても、王都イルティアで発生したアンデッドに変貌するか正気を失ってしまう。
だが、二アールは自身が生まれ持った闇の力への耐性が強かったのが、闇の力の影響を受けつつも、何とか正気を保つことが出来ていた。
しかし、現在は身体に残る闇の力が二アールを徐々に蝕んでいる状態で、症状は悪化する一方であった。
そして、このままではいずれ二アールの身体がかつてのアレクス侯爵のように朽ち果てるか、完全に正気を失って気が狂ってしまうのが目に見えていた。
「やはり、闇の力を消し去るには上位の浄化魔導が必要・・か」
ナラトスは受肉した『邪神』である為に治癒魔導を使うことはできたが、流石に上位の浄化魔導を使うことはできなかった。
二アールの身体にある闇の力を消し去るほどの浄化魔導を放てば、自身の存在も危うくなるからである。
なので、ナラトスは二アールの前で葛藤していた。
「やはり、二アールから闇の力を消し去るには『あやつ』の助けが必要・・・か」
「・・しかし、二アールと出会ってから私のこの『不思議な感情』は増していくばかりだ」
「『邪神』にとって人間など『邪神デスティウルス』様復活の糧でしかないはず・・」
「だが、いま私はこの年端も行かない小娘のことが気になっている・・」
「この身体が私に馴染むことで、もともと持っていた記憶や意識の影響を受けているのか・・・」
ナラトスは徐に両掌を眺めた。
「この身体の持ち主は魔導省に勤めていた人間のものだ」
「ニアールとは直接的な接点はなかったが、この身体の持ち主が一方的にニアールに対して執着心を持っていたな・・」
「その気持ちがあまりにも歪で邪悪であったが為に私と良く馴染んだのだが・・ここに来て弊害が出たということか・・・」
「・・私は一体どうしたら良いのか・・」
「『邪神族』にとって『邪神デスティウルス』様復活は達成させなければならない悲願」
「本来たった一人の小娘如き切り捨てなければならぬのだが・・・」
ゴソゴソ・・。
その時、二アールが寝返りをうった。
そしてその白い手が二アールの側に座るナラトスの太腿へ置かれた。
「ううん・・ナラトス様・・・」
ナラトスは二アールが寝言で自分の名前が呼ばれたのを聞くと、無意識に彼女の頭を撫でた。
「ううん・・」
頭を撫でられた二アールはくすぐったがりながらも嬉しそうな表情をしていた。
「いずれにしても私が『黒の魔導結晶』を持つ限り、必ずハーティルティアも私を追ってくるだろう・・」
「それまでに、私が何をしたいのか・・どういう気持ちを持っているのか、定めないとならぬな」
ナラトスはそう言いながら、瞳を静かに閉じてこれからのことを思案し始めた。
『商業国家アーティナイ連邦』はその名の通り商業により発展した国である。
島国であるその国土は七割近くが山林を占めており、それぞれが異なった文化様式を持つ民族が都市圏単位で自治区を設けており、それらが合わさって連邦政府を作ることで国として機能している。
有効活用出来る国土が狭い為に資源や農産物、畜産業は他国より大きく劣るが、他国から材料を輸入して高品質な製品を製造して輸出する加工貿易が盛んで、輸出による国内の取引額合計は魔導具輸出で大成している魔導帝国オルテアガをも凌ぐ世界一であり、神聖イルティア王国や魔道帝国オルテアガに次ぐ世界第三位の経済大国である。
その首都である『カームクラン』に隣接する『ヨークスカ』は貿易港としては取引高と規模が世界一の港町であり、世界中から集まった商人たちによって賑わっていた。
ナラトス達は帝都『リスラム』から逃亡した後、『ヨークスカ』にある小さな宿に潜伏していた。
この宿は『カームクラン様式』という、まるで昔の日本のような伝統様式を取った建物で、夏期には高温多湿になる気候に適した瓦葺き木造二階建ての建物であった。
ここは建物の二階が客室になっており、客室の障子を開けると表の街道が見えるようになっている。
しかし、その障子は閉められており、畳敷きの薄暗い客室の中央に敷かれた布団の上に二アールは横たわっていた。
「はあ・・はあ・・」
横たわっている二アールは胸に手をやって額から汗を浮かび上がらせながら苦しそうな表情をしていた。
そして、その側でナラトスは静かに二アールを見守っていた。
ナラトスは無言でにアールに掌を翳すと、『上級治癒魔導』を放った。
パアァァァ・・・。
直後、ナラトスの掌から柔らかな白銀の光が溢れて二アールを包み込む。
すると、それまで苦しそうな表情をしていた二アールが穏やかな表情に戻って静かに寝息を立て始めた。
「・・・やはり、『上級治癒魔導』では症状を一時的に緩和することしかできぬか」
「二アールが苦しみだすタイミングも徐々に短くなってきている・・」
「このままでは闇に堕ちるのも時間の限界・・か」
『邪神』や『黒の魔導結晶』が持つ闇の力は暴露した人間へ一時的に大量のマナを与えたり、身体機能の強化を行うことができる。
また、その人間から正常な判断力を奪うことにより『邪神』の意のままに操ったりすることもできる。
闇の力が与える影響は人それぞれだが、二アールは『メルティーナ』のコクピット内やナラトスからの口づけによりかなり長時間にわたって闇の力を受け続けていた。
普通の人間がこれほどの闇の力を受けると、肉体が耐えられずに崩壊する場合が殆どである。
仮にそうでなかったとしても、王都イルティアで発生したアンデッドに変貌するか正気を失ってしまう。
だが、二アールは自身が生まれ持った闇の力への耐性が強かったのが、闇の力の影響を受けつつも、何とか正気を保つことが出来ていた。
しかし、現在は身体に残る闇の力が二アールを徐々に蝕んでいる状態で、症状は悪化する一方であった。
そして、このままではいずれ二アールの身体がかつてのアレクス侯爵のように朽ち果てるか、完全に正気を失って気が狂ってしまうのが目に見えていた。
「やはり、闇の力を消し去るには上位の浄化魔導が必要・・か」
ナラトスは受肉した『邪神』である為に治癒魔導を使うことはできたが、流石に上位の浄化魔導を使うことはできなかった。
二アールの身体にある闇の力を消し去るほどの浄化魔導を放てば、自身の存在も危うくなるからである。
なので、ナラトスは二アールの前で葛藤していた。
「やはり、二アールから闇の力を消し去るには『あやつ』の助けが必要・・・か」
「・・しかし、二アールと出会ってから私のこの『不思議な感情』は増していくばかりだ」
「『邪神』にとって人間など『邪神デスティウルス』様復活の糧でしかないはず・・」
「だが、いま私はこの年端も行かない小娘のことが気になっている・・」
「この身体が私に馴染むことで、もともと持っていた記憶や意識の影響を受けているのか・・・」
ナラトスは徐に両掌を眺めた。
「この身体の持ち主は魔導省に勤めていた人間のものだ」
「ニアールとは直接的な接点はなかったが、この身体の持ち主が一方的にニアールに対して執着心を持っていたな・・」
「その気持ちがあまりにも歪で邪悪であったが為に私と良く馴染んだのだが・・ここに来て弊害が出たということか・・・」
「・・私は一体どうしたら良いのか・・」
「『邪神族』にとって『邪神デスティウルス』様復活は達成させなければならない悲願」
「本来たった一人の小娘如き切り捨てなければならぬのだが・・・」
ゴソゴソ・・。
その時、二アールが寝返りをうった。
そしてその白い手が二アールの側に座るナラトスの太腿へ置かれた。
「ううん・・ナラトス様・・・」
ナラトスは二アールが寝言で自分の名前が呼ばれたのを聞くと、無意識に彼女の頭を撫でた。
「ううん・・」
頭を撫でられた二アールはくすぐったがりながらも嬉しそうな表情をしていた。
「いずれにしても私が『黒の魔導結晶』を持つ限り、必ずハーティルティアも私を追ってくるだろう・・」
「それまでに、私が何をしたいのか・・どういう気持ちを持っているのか、定めないとならぬな」
ナラトスはそう言いながら、瞳を静かに閉じてこれからのことを思案し始めた。
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