転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

文字の大きさ
131 / 229
第三章 商業国家アーティナイ連邦編

ハーティの覚悟

しおりを挟む
「貴様ぁぁぁーー!」

 エメラダがハーティに口付けしたのを目の当たりにしたユナは、怒りのまま『女神イルティア・レ・ファティマ』で斬りかかった。

 バキィ!

「ぐはっ!」

 キィィィン・・ドガァァン!

 しかし、その斬撃は口付けを中断したエメラダに容易く回避され、カウンターの回し蹴りを食らったユナは吹き飛ばされてクレーターの壁に衝突した。

「ぐふっ!」

 エメラダの蹴りによるダメージは『神聖魔導甲冑一型』の防御魔導によって緩和されたが、その激しい衝突によってユナの肺から一気に息が漏れた。

「全く下等生物の癖に無粋な奴ねぇ・・興をそがれたわ・・まあいいわ。女神ハーティルティア!次会う時はわたくしを愉しませてねぇ。じゃあ、ばいばーい!」

 ポイ・・ドシャッ!

 ドゥン!

 そう言うと、エメラダは今まで掴んでいたハーティを放り投げ、先程『黒竜バハムート』が去っていった方角へ飛んでいった。

『待て!エメラダ!』

 それを『プラタナ』が追おうとするが、その肩部に『メルティーナ』がマニピュレーターを置いて制止した。

『待て!まずは女神ハーティルティアの治癒が先だ!』

 バシュウ・・・ウィィン。

 直後、『プラタナ』を制止した体勢のまま『メルティーナ』の背部ハッチが解放されて操縦座席がせり出した。

 シュバッ!シュタッ!

 そしてナラトスは二アールを横抱きにすると、座席から跳躍してハーティの側で着地した。

 バシュウ・・・。

 続いて、クラリスも『プラタナ』から降りてハーティに歩み寄った。

 ボゴォ!

 キィィィン!

「ハーティさん!」

 ユナはクレーターの壁からめり込んだ身体を引き剥がすと、焦燥した様子でハーティの元へと飛翔した。

「・・・・まさか私が女神ハーティルティアの治癒をする時が来るとはな・・」

 ナラトスは一人で呟きながら、既に気を失っていたハーティに手をかざして『上級治癒魔導』を発動した。

 パアァァァ・・・。

 ハーティがしばらく柔らかな白銀の光に当てられていると、先程と同じくまるで時間を逆巻きするように身体の損傷が回復していった。

 ナラトスがそれから更にしばらくの間治癒魔導を発動し続けたことによりハーティの傷はすっかり癒えたのだが、ハーティは未だ気を失っている状態であった。

「ハーティさん!ハーティさんっ!」

 ユナはそんな状態のハーティを泣きながら抱き寄せた。

「う・・ん・・」

「ハーティさん!」

「「ハーティ!」」

「ハーテルティア・・・」

 ユナの叫び声でようやく意識を取り戻したハーティはゆっくりと目を開けた。

「ユナ?」

 がばっ!

「うわああん!お嬢様ぁぁ!」

 ハーティが目を覚したのを確認したユナは、歓喜のあまりハーティの事を昔の呼び名で叫びながら抱きしめた。

 ギリギリッ!!

「ちょ・・ま・・ユナ・・ぐるじぃ・・」

「ちょっと!ユナ!『身体強化魔導ブースト』!!そんなに強く抱きしめたらハーティをもう一回半殺しにしちゃうわよ!」

「はっ!?すいません!つい・・」

「ふう・・みんな、心配かけてゴメンなさい・・はっ!?そういえばエメラダと『黒竜バハムート』は!?」

「・・『黒竜バハムート』は突如制御を失って飛び去って行きました。そして、エメラダはそれを追う形でここから去りました」

「そうよ!ハーティ!あんた、エメラダに口付けされてたのよ!?『邪神』にその・・口付けされて・・大丈夫なの!?」

「なんであなたは顔を赤くしながらナラトスの方をチラチラ見てるのよ」

 そんな視線を感じたナラトスは気まずそうに視線を逸らしながら咳払いをした。

「ごほんっ・・そうだぞ女神ハーティルティア。そなたはエメラダに口付けされていたのだが、身体に何らかの違和感はないのか?」

「それは今のところ何ともないけど・・・うううっ!」

 ハーティは言葉の最後で涙目になりながら呻き声を上げた。

「ハーティさん!大丈夫ですか!?」

「ハーティ!?」

「うううっ・・私のファーストキスがあんなみたいな『邪神』とだなんて悲しすぎる・・・」

「なによ、しょうもないわね!心配して損したわ!」

 クラリスはやれやれといった様子で首を振った。

「ハーティさん、大丈夫です。あれはノーカンです。そういうことにしましょう!ええ・・」

「ですが・・あのアバズレは私がこの手でぶっ殺します。ハーティさんの唇を奪った罪は重い・・」

 そう言いながら、ユナは黒い笑みを浮かべていた。

 ユナの笑みを見たハーティは早々に話題を変えることにした。

「まあ・・冗談はさておき、ナラトスはあのエメラダと言う名の『邪神』に覚えは?」

「うむ・・その事なのだが、存在していた『邪神族』の柱が多い為、単に把握していないという可能性もあるが・・私には彼奴に覚えがないのだ」

「でも・・あのエメラダは今まで戦った『邪神』達とは桁違いの強さだったわ」

「ハーティさんの防御魔導をあんなに容易く突破するくらいですからね」

「おかしいわね・・あれだけの力を持つ『邪神』であれば『神界大戦』の時に私やリリスが相対してもおかしくないのだけれど・・・」

「あの『黒竜バハムート』って魔獣も桁外れの強さだったわ。今回は運良く生き残れたけど、次に襲撃があった時には入念に準備をして全力で戦いを挑んでも勝てる見込みがなさそうだわ」

 先程、実際に『黒竜バハムート』と戦ったクラリスの言葉には確かな説得力があった。

「そのことでみんなに話したいことがあるわ」

 そして、クラリスの言葉を聞いたハーティは何かを決意したような様子を見せながら語り出した。

「今回私が死にかけてしまったのは、『自分が強い』と言う慢心があったからなのよ」

「今まで私は『女神ハーティルティア』として扱われるのが嫌だったから、自分の見た目を偽って力を制限しながら過ごしてきた。今まではそれでも問題は無かった・・だけどこうして不意をつかれてしまったわ」

「さっきだって私が『女神化』して全力を出していれば、エメラダに対抗出来た可能性があるもの」

「そして、必ずあのエメラダと『黒竜バハムート』は再び襲撃してくるはずだわ」

「私はもう、自分の我儘や慢心で大切な仲間やこの世界の人々が傷つくのを見過ごすわけにはいかないわ!」

「だから・・・『私は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい』とずっと思っていたけれど・・」

 そして、ハーティは『擬態』の為にずっと装着していた自身の髪飾りに手をかける。

「ハーティさん・・」

「「ハーティ・・」」

「女神ハーティルティア・・」

「・・・私は、『人間』として生きることを諦めるわ」

 そう言いながら、ハーティは一気に髪飾りを取り去った。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スローライフ 転生したら竜騎士に?

梨香
ファンタジー
『田舎でスローライフをしたい』バカップルの死神に前世の記憶を消去ミスされて赤ちゃんとして転生したユーリは竜を見て異世界だと知る。農家の娘としての生活に不満は無かったが、両親には秘密がありそうだ。魔法が存在する世界だが、普通の農民は狼と話したりしないし、農家の女将さんは植物に働きかけない。ユーリは両親から魔力を受け継いでいた。竜のイリスと絆を結んだユーリは竜騎士を目指す。竜騎士修行や前世の知識を生かして物を売り出したり、忙しいユーリは恋には奥手。スローライフとはかけ離れた人生をおくります。   

剣ぺろ伝説〜悪役貴族に転生してしまったが別にどうでもいい〜

みっちゃん
ファンタジー
俺こと「天城剣介」は22歳の日に交通事故で死んでしまった。 …しかし目を覚ますと、俺は知らない女性に抱っこされていた! 「元気に育ってねぇクロウ」 (…クロウ…ってまさか!?) そうここは自分がやっていた恋愛RPGゲーム 「ラグナロク•オリジン」と言う学園と世界を舞台にした超大型シナリオゲームだ そんな世界に転生して真っ先に気がついたのは"クロウ"と言う名前、そう彼こそ主人公の攻略対象の女性を付け狙う、ゲーム史上最も嫌われている悪役貴族、それが 「クロウ•チューリア」だ ありとあらゆる人々のヘイトを貯める行動をして最後には全てに裏切られてザマァをされ、辺境に捨てられて惨めな日々を送る羽目になる、そう言う運命なのだが、彼は思う 運命を変えて仕舞えば物語は大きく変わる "バタフライ効果"と言う事を思い出し彼は誓う 「ザマァされた後にのんびりスローライフを送ろう!」と! その為に彼がまず行うのはこのゲーム唯一の「バグ技」…"剣ぺろ"だ 剣ぺろと言う「バグ技」は "剣を舐めるとステータスのどれかが1上がるバグ"だ この物語は 剣ぺろバグを使い優雅なスローライフを目指そうと奮闘する悪役貴族の物語 (自分は学園編のみ登場してそこからは全く登場しない、ならそれ以降はのんびりと暮らせば良いんだ!) しかしこれがフラグになる事を彼はまだ知らない

転生してモブだったから安心してたら最恐王太子に溺愛されました。

琥珀
恋愛
ある日突然小説の世界に転生した事に気づいた主人公、スレイ。 ただのモブだと安心しきって人生を満喫しようとしたら…最恐の王太子が離してくれません!! スレイの兄は重度のシスコンで、スレイに執着するルルドは兄の友人でもあり、王太子でもある。 ヒロインを取り合う筈の物語が何故かモブの私がヒロインポジに!? 氷の様に無表情で周囲に怖がられている王太子ルルドと親しくなってきた時、小説の物語の中である事件が起こる事を思い出す。ルルドの為に必死にフラグを折りに行く主人公スレイ。 このお話は目立ちたくないモブがヒロインになるまでの物語ーーーー。

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...