転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

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第三章 商業国家アーティナイ連邦編

再会

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 キィィィィン!

(エメラダは討伐できたけど、『黒竜バハムート』は一体どうなったのかしら!?)

 ハーティは逸る気持ちを抑えながら、ユナ達の元へと飛翔する。

 すると、すぐに大地へ墜落した巨大な黒い塊が見えて来た。

(よかった!ユナ達も『黒竜バハムート』を無力化できたのね!!)

 ハーティはその様子を見て安堵した。

 そして、程なくしてハーティがユナ達の元へとたどり着こうとしたその時・・・。

 グググ・・・。

 突如、今まで動かなかった『黒竜バハムート』の首がゆっくりと起き上がった。

 それを見たハーティは目を見開いた。

「ユナ、クラリス、二アール、ナラトス!!」

「っ!ハーティルティア様!やはり先程の光はエメラダを討伐した光だったのですね!」

 飛翔するハーティを見て、ユナ達は歓喜の表情をする。

「ユナ、後ろ!『黒竜バハムート』が!!」

 しかし、ハーティはユナの言葉を無視して叫んだ。

 ハーティのただならない様子を見て、皆が一様に『黒竜バハムート』へと視線を向けた。

「『『!!?』』」

 その瞬間、全員が驚きの表情を見せ、その場に緊張が走った。

 シュタッ!

 ハーティもユナ達に到着し、すぐさま皆が臨戦態勢となる。

 いつ、再び戦いが始まるのかと皆が息を呑む。

 グググ・・・。

 しかし、『黒竜バハムート』はそんな様子を気にも止めずにハーティへとその巨大な瞳を向けた。

 すると、何故か突然、恭しくその頭部を下げたのであった。

『お久しぶりです。『親愛なる主君』』

 その声は、その場にいた全員の脳裏に直接響いてきた。

 そして、その声を聞いたハーティは再び驚愕した。

『あの神技わざは、かつて『浮島の戦い』で我が披露したものですな。いやはや懐かしいですなあ。しかし、まさか記憶を頼りに模倣なさるとは・・流石は親愛なる主君でありますな』

「その声は・・・『バハムス』!?そうなのね!」

『『「バハムス?」』』

 ハーティから語られた聞き慣れない名前に、皆が一様に首を傾げた。

『左様です。『デスティウルス』との決戦以来ですな。親愛なる主君が創造されたこの世界で再び会い見えたことを嬉しくおもいますぞ』

『我はこんな身になったゆえ、このような体勢でいること、平にご容赦を』

「そんなことはいいのよっ!私も貴方に会えて嬉しいわ!」

「あの・・ハーティルティア様。この方は?」

 ハーティの様子を見ていたユナがおずおずと尋ねた。

「ああ、彼はね・・かつて私の側近の一柱だった『バハムス神』よ!」

「なんと!」

 それを聞いたユナは素早く『黒竜バハムート』の前に膝をついた。

「これは大変失礼致しました、バハムス様。私、女神ハーティルティア様の専属侍女であり、祖国より女神様にお仕えする為に『聖騎士』の称号を賜った『ユナ・エインヘリアル』と申します」

「ほう、君が今は親愛なる主君の側近を務めているのか。それは素晴らしい」

「いえ!そんな!私はまだ未熟な身故・・などとは」

『謙遜するでない。君は我を見事討ち倒したではないか。それほどの腕を持つ者が親愛なる主君に侍るので有れば、我も安心だ』

『ただ、親愛なる主君は美しい見た目に反して割と暴走するタイプでな。君たちが見守ってほしい』

「なっ!?バハムス!?ちょっと!どういうこと!?」

 バハムスの言葉を聞いたハーティは顔を赤くしながら頬を膨らませた。

『しかし、『黒の魔導結晶』の影響を受けていたとは言え、親愛なる主君の仲間達に牙を向けてしまったようです・・いくら詫びても許されません』

 そう言いながら、バハムスは項垂れた。

「いいのよ、バハムス。それよりも傷を治しましょう!これから貴方も私達と一緒に戦ってくれるなら心強いわ!!」

 ハーティはバハムスに微笑みながら、巨大な頭部の鼻先を撫でた。

 しかし、その表情からは確かな拒絶が感じられた。

「・・バハムス?」

『親愛なる主君・・我の肉体については我が一番理解しています』

『我は長時間『黒の魔導結晶』の影響を受けました。浄化魔導で『闇の力』は取り払われましたが、既にこの身体は蝕まれています。ですから幾ら浄化魔導や治癒魔導を駆使したとしても既に手遅れです』

「っつ!?そんな!?」

 ハーティの顔が絶望に染まると、バハムスは徐に語り始めた。

『親愛なる主君。我はどういう訳か、『神界』が失われた後、貴方様が創造されたこの世界に『ドラゴン』として転生しました』

『今から五千年以上も前の事です。その頃、この世界には何もありませんでした』

『しかし、それから現在の間で新たな生命や文明が育まれていきました』

『そして、人々は『女神教』を信仰することによって、親愛なる主君に感謝の意を捧げ続けてきました』

『我は五千年以上の生涯で、それをずっと見守ってきたのです』

「バハムス・・・」

『かつて神であった身で過ごした時には刹那のようであった時が、肉体を持つとやけに長く感じましたな・・』

『ですが・・とても濃厚で・・幸せな時間でした』

『思えば、戦いに明け暮れた悠久の時の中で、最後にこの世界で過ごした五千年余りの時は、我に安らぎを与えてくれました・・』

『我はもう十分生きました。最期に親愛なる主君と新しい仲間達に会うことが出来たので、我に悔いはありません』

 幸せそうに語るバハムスの姿を見て、ハーティ達はただ押し黙ることしか出来なかった。

『親愛なる主君。『黒の魔導結晶』はいくつ見つけ出せましたでしょうか?』

 ハーティはバハムスから不意に尋ねられて、湧き上がる涙を堪えながら静かに答えた。

「私達が確認したのは貴方の首輪にあったのを含めてよ」

 ハーティの言葉を聞いたバハムスは安心した表情になった。

『それはよかった。ならば我の記憶が正しければ、『黒の魔導結晶』は残すところでありますな』

「『『!!?』』」

 バハムスの言葉にその場の全員が驚愕した。

「ということは、その最後の一つを浄化すれば『邪神デスティウルス』の復活を阻止できるわけね!ねえ、バハムス?最後の『黒の魔導結晶』はどこにあるの!?」

 ハーティの言葉を聞いたバハムスは、意味ありげな表情をしながら瞼を閉じた。

『最後の『黒の魔導結晶』は今までのものとはわけが違います。それには邪神の残滓だけではなく、『邪神デスティウルス』の存在の一部が内包されています』

『おそらく、『邪神デスティウルス』は『神界』が全てエーテルになって新たな世界として再構築される時に、その力を結晶化したのでしょう』

『そして、自らの存在の一部もまた、『黒の魔導結晶』に内包したのです』

「そんな!?じゃあ・・もしその『黒の魔導結晶』が『邪神』の手に渡ったら・・・」

『はい・・世界は再び『邪神デスティウルス』の生み出した混沌に包まれるでしょう』

 バハムスから語られた驚愕の事実に、皆が沈痛な面持ちとなった。

 その中で再びハーティが顔を上げた。

「なら尚のこと急いでそれを手に入れないと!教えて!バハムス!最後の『黒の魔導結晶』は何処にあるの!?」

 ハーティに問い詰められたバハムスは、意を決した表情で語り出した。

『最後の『黒の魔導結晶』は・・『エルフの国リーフィア』の女王が封印しています』
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