転生女神は自分が創造した世界で平穏に暮らしたい

りゅうじんまんさま

文字の大きさ
148 / 229
第三章 商業国家アーティナイ連邦編

懐かしい声

しおりを挟む
「ぐすっ!ハーティざあ"あ"あ"ん!」

 ハーティは、鼻を啜るミウの頭を優しく撫でる。

『女神化』したハーティがミウを抱きしめながら優しく頭を撫でる姿は、まさに慈愛に満ちた『女神』の姿であった。

「くっ!羨ましいですっ!」

「ユナはブレないわねぇ」

 それを見て悔しがるユナに、クラリスは呆れた眼差しを向けた。

「ミウさん、大丈夫よ。私も『カームクラン』が大好きだし、『黒の魔導結晶』を全て浄化できたら、必ずまた遊びにくるわ」

「ほんとかえ?」

「もちろんよ。私たちは『お友達』なんだから」

 そう言うと、ハーティはミウへ手を差し出した。

「ふふ、『女神様』とお友達になるなんて、名誉なことじゃの」

 ミウは気を取り直した後に自分の涙を拭うと、笑顔でハーティから差し出された手を取った。

「「「ワァァァァァ!」」」

 パチパチパチパチッ!

 その様子を見ていた周囲からは、大きな拍手喝采が沸き起こった。

「ふふっ・・なんだか恥ずかしいわ・・」

『・・ィア様・・・』

「ほんとにのう」

『・・ティルティア様・・!』

「・・うん?」

 ハーティとミウが拍手喝采を浴びて、和みながらも恥ずかしがっている時、突如ハーティが耳につけているピアスから声が聞こえてきた。

 ハーティがその声を不思議に思って『白銀の剣』のメンバーを見渡すが、誰もピアスに語りかけている様子ではなかった。

『ハーティルティア様!!聞こえますか!』

 そして、ピアスからの声は徐々にはっきりしたものへと変化した。

 それはハーティにとって、聞き覚えのある声であった。

「その声は!?まさか!?」

『はい、貴方様の愛しのリリスです!』

「え!?嘘でしょ!?」

「うん?どうしたのじゃ?」

「いや、今突然ピアスから『聖女リリス』の声が聞こえてきたのよ!」

 そのハーティの言葉を聞いたクラリスは満面の笑みを浮かべた。

「さすがカツ!!とうとう、あたしの『長距離エーテル通信』を実現したのね!!」

「どういうこと!?」

 得意げに喜ぶクラリスへ、ハーティは問いかけた。

「カツが帝国に向かった時の研究資材の中に、あたしたちが使ってるピアスを改修したものを入れたのよ!それが王都までたどり着いて使えるようになったんだわ!!」

「ちょっと待って!?じゃあ、今ハーティと聖女が海を渡って会話しているってわけ!?」

 クラリス同様、魔導具に精通している二アールはそれ程距離の離れた相手と会話ができる魔導具の凄さをいち早く理解していた。

「それだけじゃないわ!『長距離エーテル通信』の魔導具は量産化されて『女神教会』の伝達網を使って世界中の主要な人材や機関に送られたわ!それらが全て行き渡れば、世界中に迅速な情報伝達をすることが可能となるわ!」

「なんか、よくわからないけどすごい!」

 ドヤ顔で慎ましい胸を張るクラリスに、ハーティは尊敬の眼差しを向けた。

 そして、ピアスの向こうにいる人物に向かって話しかけた。

「でも、どうしてリリスが突然私に声をかけてきたの!?」

『はぁ・・ハーティルティアさまの美しいヴォイスで、耳が幸せですううう』

「うっ・・・」

 ハーティはその声から、ピアスの向こうで自分の身体を抱きしめながら悶絶しているリリスの幻を見た。

「あなたの知り合いって変な人ばっかね」

 クラリスはやれやれと首を振った。

「ごほんっ!まあいいわ・・で、リリス?そっちの状況はイラとの戦いからどうなったの?」

 ハーティは気を取り直すと、リリスに再び問いかけた。

『はい!ハーティルティア様の『神託』に従って王都はほぼ復興しました。そして、それからハーティルティア様のおかげで帝国とも手を取り合うことが出来ました!』

「そう・・それはよかったわ!・・こっちは今までイラの持っていた分を含めて、三つの『黒の魔導結晶』を浄化することに成功したわ」

『『『おおっ!』』』

 ハーティの方からも近況を伝えると、ピアスの向こうから多数の声が聞こえてきた。

(きっと、私の声がみんなに聞こえているんだわ・・)

 ハーティは気まずい気持ちになりながらも、淡々と語ることにした。

「あと、『邪神』に操られた『黒竜バハムート』を救った時に『黒の魔導結晶』があと一つという事を教えてもらったわ・・そのとき、『黒竜バハムート』は私のことを『親愛なる主君』と呼んでいたわ・・けど、残念ながら・・私は『黒竜バハムート』を救うことが出来なかった」

『っつ!?そう・・ですか・・』

 リリスの声の様子から、ハーティのは伝わったようであった。

 そして、かつての同志であったバハムスの死を悟ったリリスの声は、酷く落ち込んでる様子であった。

『それで、ハーティルティア様はこれからどうされますか?』

「私達は・・これから最後の『黒の魔導結晶』があると言われている『エルフの国リーフィア』へ向かいます」

『『エルフの国リーフィア』・・・本来『エルフ族』は余所者を受け入れませんが、ハーティルティア様が行かれると言うのなら、問題ないでしょう』

『では、距離的には私たちの方が近いので、そんなに遅れず到着できそうですね』

「え!?もしかして、リリスも『リーフィア』に向かうつもり!?」

「もちろんです」

 リリスはさも当たり前のように答えた。

『今回、帝国と協力して、を用意したのです。それをお披露目する為に向かいます。きっとハーティルティア様のお役に立てると思いますよ!』

「えっ!?ちょ!?『みんな』ってどういうこと!?」

 ハーティは聞き捨てならない言葉を聞いて、思わず問いただした。

『実は・・ハーティルティア様が王国を旅立たれてからしばらくして、『お隠れになる』と宣言されたはずの『女神様』が世界を救う為に国を渡り歩きながら奮闘しているという情報が入ってきまして・・』

『それから王国の民衆の信仰心は更に増してしまったのです』

『そして、『女神』を崇拝するはずの『女神教会』が、世界を救う旅に出たハーティルティア様に対して何のお力沿えも出来ていないという不満が、世界中の『女神教会』や民衆達から湧き起こりまして・・もはや止められない状態なのです』

「おぅふ・・・」

『そこで、『女神教』本部のある、『王都イルティア』に属する神官達や聖女である私、そしての人間から結成された部隊がハーティルティア様の元へ馳せ参じることが決定したのです』

『え!?待って・・まだ『女神教会』は良いとして・・『王家の一部』ってどういう・・・』

『ハーティ・・』

 その時、ハーティの言葉を遮るように、ピアスの向こうから男性の声が聞こえてきた。

 その声は、ハーティが幼少の頃から聴き慣れて、王都で別れを告げたはずの男の声であった。

「その声は・・マクスウェル・・」

 ハーティは予想外の人物からの呼びかけに、思わず息を呑んだ。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ
ファンタジー
日本のとある旅館の跡継ぎ娘として育てられた前世を活かして転生先でも作りたい最高の温泉地! 恋に仕事に事件に忙しい! カクヨムの方でも「カエデネコ」でメイン活動してます。カクヨムの方が更新が早いです。よろしければそちらもお願いしますm(_ _)m

99歳で亡くなり異世界に転生した老人は7歳の子供に生まれ変わり、召喚魔法でドラゴンや前世の世界の物を召喚して世界を変える

ハーフのクロエ
ファンタジー
 夫が病気で長期入院したので夫が途中まで書いていた小説を私なりに書き直して完結まで投稿しますので応援よろしくお願いいたします。  主人公は建築会社を55歳で取り締まり役常務をしていたが惜しげもなく早期退職し田舎で大好きな農業をしていた。99歳で亡くなった老人は前世の記憶を持ったまま7歳の少年マリュウスとして異世界の僻地の男爵家に生まれ変わる。10歳の鑑定の儀で、火、水、風、土、木の5大魔法ではなく、この世界で初めての召喚魔法を授かる。最初に召喚出来たのは弱いスライム、モグラ魔獣でマリウスはガッカリしたが優しい家族に見守られ次第に色んな魔獣や地球の、物などを召喚出来るようになり、僻地の男爵家を発展させ気が付けば大陸一豊かで最強の小さい王国を起こしていた。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

ようこそ異世界へ!うっかりから始まる異世界転生物語

Eunoi
ファンタジー
本来12人が異世界転生だったはずが、神様のうっかりで異世界転生に巻き込まれた主人公。 チート能力をもらえるかと思いきや、予定外だったため、チート能力なし。 その代わりに公爵家子息として異世界転生するも、まさかの没落→島流し。 さぁ、どん底から這い上がろうか そして、少年は流刑地より、王政が当たり前の国家の中で、民主主義国家を樹立することとなる。 少年は英雄への道を歩き始めるのだった。 ※第4章に入る前に、各話の改定作業に入りますので、ご了承ください。

【完結】発明家アレンの異世界工房 ~元・商品開発部員の知識で村おこし始めました~

シマセイ
ファンタジー
過労死した元商品開発部員の田中浩介は、女神の計らいで異世界の少年アレンに転生。 前世の知識と物作りの才能を活かし、村の道具を次々と改良。 その発明は村の生活を豊かにし、アレンは周囲の信頼と期待を集め始める。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...