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第四章 エルフの国リーフィア編
少女の逆鱗2 〜シエラ視点〜
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「・・シエラちゃんマジギレしてる・・やべえよ」
「え!?あれってマナじゃないのか!?視認出来るほどマナが溢れ出してるのっておかしく無いか!?」
シエラのただならない様子を見て、居合わせている冒険者達が様々な憶測を繰り広げていた。
「・・・例え乱暴な方でも、通常の方法で予約するのならと思ったけど、気持ちが変わりました」
「ハーティさんを侮辱する人に用意する部屋など、うちにはありません!」
ツカツカ・・・。
そして、シエラは無言のままゲラハに歩み寄っていく。
チャキ・・。
ゲラハの後ろに控える屈強な男達は彼の護衛らしく、歩み寄るシエラを見て腰に携えた長剣に手をかけた。
「貴様!部屋を用意しないとはどう言うことだ!!」
怒り心頭のゲラハはシエラの変化など気にも留めずにその怒りに任せて再び祭壇に蹴りを入れようとする。
シュルッ!
ズガァァァァン!!
しかし、それはシエラが咄嗟に投げた物によって阻止された。
シウゥゥゥゥゥ・・・。
「あが・・!?はえ?・・あ・・?」
ゲラハは目の前で起こった出来事に理解が追いつかずに言葉にならない声をあげていた。
そして、シエラがゲラハに投擲した物は、祭壇に蹴りを入れようといたゲラハの顔面すれすれを通り抜けて、背後の壁に刺さった状態でひらひらと揺らめいていた。
「ああ・・お気に入りだったのに」
シエラがゲラハを制止する為に咄嗟に投擲したのは、自分の尻尾に結んでいた赤色のリボンであった。
ちなみに、シエラが投擲したリボンはあまりに速い初速による摩擦熱で、全体が焦げ付いて煙を上げた状態になりながら壁から垂れ下がっていた。
「え?何でシエラちゃんのリボンが壁に刺さってんの!?」
「え!?シエラちゃんの手から出たの火炎魔導じゃなくてリボンだったの!?」
事態を傍観していた冒険者達は、あまりに非現実的な状況に驚きを隠せないようであった。
「ゲラハさん・・あなたは『暁の奇跡亭』に金輪際出入りをする事は出来ません。・・お引き取りを」
スタスタ・・。
冷たく言い放ったシエラは、能面のような顔のままゲラハ達へと更に歩み寄る。
「ひっ!?ひぃ!?貴様!このわしにこんな仕打ちをしてタダで済むと思うなよ!!おい、お前ら!この獣臭い小娘を痛めつけてやれ!」
「ですが・・」
ゲラハに命令された男達は、シエラの様子を見て躊躇いの表情を見せる。
「ええい!貴様らに一体幾ら払ってると思ってるんだ!やらぬか!」
チャキッ!
「くそっ!悪く思うなよ!やあぁぁぁ!」
「はぁぁぁ!」
だが、ゲラハに再度命令された二人の護衛が、心底気が進まない様子で剣を振りかぶった。
そして、その斬撃がシエラに伸びる様子を、その場に居合わせた誰もがなす術もなく見ているしか出来なかった。
ガキィィン!
しかし、その斬撃がシエラの肉を絶つことは出来なかった。
何故なら、それぞれの剣戟をシエラが片手の指先二本で受け止めたからである。
屈強な男が渾身の力で放った斬撃が、年端のいかぬ小娘の指先二本で受け止められたという現実に、護衛の二人は信じられないものを見たような表情となった。
そして、シエラはそのまま無言で指先に力を込める。
パキィィィン!
すると、シエラが指で受け止めた剣は、二本とも中程でぽっきりと折れてしまった。
「・・・お引き取りを」
「・・ひぃぃ!ば・・化け物!!このわしに暴力で物言わすような仕打ちをして、絶対に許さないからな!こんな安宿など、わしの商会の力でいくらでも潰す方法があるんだからな!」
ゲラハは身体を震わせながらもシエラに脅し文句を言う事をやめなかった。
「・・それは、困りますな」
突如その時、一人の初老の男を筆頭とする数人の男達が、騒然とする食堂に入ってきた。
「「!!!」」
その男達の姿を見て、その場に居合わせた神官たちが慌てて跪いた。
そして、その神官達のうち一人が口を開いた。
「貴方様は・・ヴァン枢機卿猊下・・!」
「いかにも。私は『ヴァン・ゴドレス・ルシード』、『女神教会』において枢機卿の位を賜る者です」
その言葉を聞いたゲラハが目を見開いた。
「なんですと!?何故貴方のような高位の人間が、こんな粗末な宿屋に?」
先程まで怒りに顔を赤く染めていたゲラハも、思わぬ大物の来訪に驚きを隠せないようであった。
ヴァン枢機卿はゲラハの言葉を聞いてすっと目を細めた。
「粗末な宿屋ですと?聞き捨てなりませんな。こちらの『暁の奇跡亭』は『女神ハーティルティア様』が人の姿となられていた時にご滞在された場所。正式な教会施設が未完の帝国内においては『女神教会』にとって最も神聖な場所と言っても過言ではありません」
「それに実際、こちらの場所は『女神教会』で正式に『聖地』として認定されています」
そして、ヴァン枢機卿はツカツカと側仕えの神官を連れて『女神ハーティルティア像』の前まで歩みを進めると、『再敬礼』で祈りを捧げた。
それから暫く『女神像』へ祈りを捧げたヴァンは、その祈りを終えてから立ち上がると、再びゲラハに対して剣呑な表情を向けた。
「そんな『暁の奇跡亭』に、もし害を為そうとするならば、それは即ち世界中の『女神教会』、ひいては『神聖イルティア王国』を敵に回すという事になりますな。『女神教会』と『神聖イルティア王国』に敵視された一商会に対して、果たして『帝国』はどのような対応をされますかな?」
冷酷に語るヴァン枢機卿の目には怒りの色が込められていた。
「ひっ!ひぃ!?」
ヴァン枢機卿の言葉を聞いたゲラハは腰を抜かした状態で後退りした。
「そんな!?めめめ滅相もありません!わしにそんなつもりはありません!この宿には絶対に手を出さないと誓います!おい!お前ら!行くぞ!」
先程とは反対に一気に顔を青くしたゲラハは脱兎の如く『暁の奇跡亭』を後にした。
「・・・・さて」
ヴァン枢機卿はその姿を冷めた眼差しで見送ると、シエラの方へと視線を向けた。
そして、シエラの側まで歩み寄ると、彼女の前でヴァン枢機卿と側仕えの神官達は一様に跪いた。
「シエラ様、先程名乗りましたが改めてご挨拶申し上げます。私は『女神教会』で枢機卿の位を賜る『ヴァン・ゴドレス・ルシード』と申します。以後、お見知り置きを」
「え!?えぇ!?」
いきなり『女神教会』の重鎮が自分に跪いた事に対して、シエラは理解が追いつかないという様子であった。
「あの!?立ち上がってください!?私、唯の宿屋の街娘ですので、猊下にこのような対応をされる訳には・・!?」
狼狽えるシエラを見て、ヴァン枢機卿は優しく微笑んだ。
「ふふ・・貴方様が『唯の宿屋の街娘』などと・・ご冗談を言われる姿も可憐ですね。流石は至高なる『女神様』が見込まれたお方です」
「この度、私めがこちらにお伺いしたのは他でもありません。至高なる女神ハーティルティア様とそれに追従する勇者クラリス様が生み出された『神器』を『女神様』が直々に貴方様へ下賜なさるという事で、私め自らがお届けに上がった次第です」
「『神器』・・ですか?」
ヴァンの言葉を聞いてシエラが開け放たれた扉から外を見やると、そこにはまるで皇帝陛下が移動するような馬車の車列が並んでいた。
そして、『女神教会』の紋章が備わった豪華な馬車は、武装した『教会騎士』や高位の神官、更には帝国から派遣されたと思わしき帝国軍人によって護りを固められていた。
その様子を見るだけで、どれだけ『女神教会』がハーティから送られた『神器』を大切に扱っているかがうかがえた。
「そして、数人の神官がその馬車からシエラの元へ、人が入る棺ほどの大きさになる上質な布で梱包された木箱のような物を恭しく運んできた」
「実は・・我々も木箱の中は全く確認しておりません。この『神器』は正当な持ち主であらせられるシエラ様が最初に触れるべき物であるからです」
「ですから、シエラ様。輸送された『神器』をシエラ様自らがあらためていただけますか?」
「・・・わかりました」
シエラは、思った以上に厳重に運ばれてきたハーティ達からの『贈り物』にごくりと喉を鳴らした。
尤も、送った張本人はそこまで大袈裟な話になるなど思ってもいなかったが。
「では・・開けます」
そして、シエラは意を決して梱包された木箱に手をかけた。
その様子を、その場にいた全員が固唾を飲みながら見守っていた。
「え!?あれってマナじゃないのか!?視認出来るほどマナが溢れ出してるのっておかしく無いか!?」
シエラのただならない様子を見て、居合わせている冒険者達が様々な憶測を繰り広げていた。
「・・・例え乱暴な方でも、通常の方法で予約するのならと思ったけど、気持ちが変わりました」
「ハーティさんを侮辱する人に用意する部屋など、うちにはありません!」
ツカツカ・・・。
そして、シエラは無言のままゲラハに歩み寄っていく。
チャキ・・。
ゲラハの後ろに控える屈強な男達は彼の護衛らしく、歩み寄るシエラを見て腰に携えた長剣に手をかけた。
「貴様!部屋を用意しないとはどう言うことだ!!」
怒り心頭のゲラハはシエラの変化など気にも留めずにその怒りに任せて再び祭壇に蹴りを入れようとする。
シュルッ!
ズガァァァァン!!
しかし、それはシエラが咄嗟に投げた物によって阻止された。
シウゥゥゥゥゥ・・・。
「あが・・!?はえ?・・あ・・?」
ゲラハは目の前で起こった出来事に理解が追いつかずに言葉にならない声をあげていた。
そして、シエラがゲラハに投擲した物は、祭壇に蹴りを入れようといたゲラハの顔面すれすれを通り抜けて、背後の壁に刺さった状態でひらひらと揺らめいていた。
「ああ・・お気に入りだったのに」
シエラがゲラハを制止する為に咄嗟に投擲したのは、自分の尻尾に結んでいた赤色のリボンであった。
ちなみに、シエラが投擲したリボンはあまりに速い初速による摩擦熱で、全体が焦げ付いて煙を上げた状態になりながら壁から垂れ下がっていた。
「え?何でシエラちゃんのリボンが壁に刺さってんの!?」
「え!?シエラちゃんの手から出たの火炎魔導じゃなくてリボンだったの!?」
事態を傍観していた冒険者達は、あまりに非現実的な状況に驚きを隠せないようであった。
「ゲラハさん・・あなたは『暁の奇跡亭』に金輪際出入りをする事は出来ません。・・お引き取りを」
スタスタ・・。
冷たく言い放ったシエラは、能面のような顔のままゲラハ達へと更に歩み寄る。
「ひっ!?ひぃ!?貴様!このわしにこんな仕打ちをしてタダで済むと思うなよ!!おい、お前ら!この獣臭い小娘を痛めつけてやれ!」
「ですが・・」
ゲラハに命令された男達は、シエラの様子を見て躊躇いの表情を見せる。
「ええい!貴様らに一体幾ら払ってると思ってるんだ!やらぬか!」
チャキッ!
「くそっ!悪く思うなよ!やあぁぁぁ!」
「はぁぁぁ!」
だが、ゲラハに再度命令された二人の護衛が、心底気が進まない様子で剣を振りかぶった。
そして、その斬撃がシエラに伸びる様子を、その場に居合わせた誰もがなす術もなく見ているしか出来なかった。
ガキィィン!
しかし、その斬撃がシエラの肉を絶つことは出来なかった。
何故なら、それぞれの剣戟をシエラが片手の指先二本で受け止めたからである。
屈強な男が渾身の力で放った斬撃が、年端のいかぬ小娘の指先二本で受け止められたという現実に、護衛の二人は信じられないものを見たような表情となった。
そして、シエラはそのまま無言で指先に力を込める。
パキィィィン!
すると、シエラが指で受け止めた剣は、二本とも中程でぽっきりと折れてしまった。
「・・・お引き取りを」
「・・ひぃぃ!ば・・化け物!!このわしに暴力で物言わすような仕打ちをして、絶対に許さないからな!こんな安宿など、わしの商会の力でいくらでも潰す方法があるんだからな!」
ゲラハは身体を震わせながらもシエラに脅し文句を言う事をやめなかった。
「・・それは、困りますな」
突如その時、一人の初老の男を筆頭とする数人の男達が、騒然とする食堂に入ってきた。
「「!!!」」
その男達の姿を見て、その場に居合わせた神官たちが慌てて跪いた。
そして、その神官達のうち一人が口を開いた。
「貴方様は・・ヴァン枢機卿猊下・・!」
「いかにも。私は『ヴァン・ゴドレス・ルシード』、『女神教会』において枢機卿の位を賜る者です」
その言葉を聞いたゲラハが目を見開いた。
「なんですと!?何故貴方のような高位の人間が、こんな粗末な宿屋に?」
先程まで怒りに顔を赤く染めていたゲラハも、思わぬ大物の来訪に驚きを隠せないようであった。
ヴァン枢機卿はゲラハの言葉を聞いてすっと目を細めた。
「粗末な宿屋ですと?聞き捨てなりませんな。こちらの『暁の奇跡亭』は『女神ハーティルティア様』が人の姿となられていた時にご滞在された場所。正式な教会施設が未完の帝国内においては『女神教会』にとって最も神聖な場所と言っても過言ではありません」
「それに実際、こちらの場所は『女神教会』で正式に『聖地』として認定されています」
そして、ヴァン枢機卿はツカツカと側仕えの神官を連れて『女神ハーティルティア像』の前まで歩みを進めると、『再敬礼』で祈りを捧げた。
それから暫く『女神像』へ祈りを捧げたヴァンは、その祈りを終えてから立ち上がると、再びゲラハに対して剣呑な表情を向けた。
「そんな『暁の奇跡亭』に、もし害を為そうとするならば、それは即ち世界中の『女神教会』、ひいては『神聖イルティア王国』を敵に回すという事になりますな。『女神教会』と『神聖イルティア王国』に敵視された一商会に対して、果たして『帝国』はどのような対応をされますかな?」
冷酷に語るヴァン枢機卿の目には怒りの色が込められていた。
「ひっ!ひぃ!?」
ヴァン枢機卿の言葉を聞いたゲラハは腰を抜かした状態で後退りした。
「そんな!?めめめ滅相もありません!わしにそんなつもりはありません!この宿には絶対に手を出さないと誓います!おい!お前ら!行くぞ!」
先程とは反対に一気に顔を青くしたゲラハは脱兎の如く『暁の奇跡亭』を後にした。
「・・・・さて」
ヴァン枢機卿はその姿を冷めた眼差しで見送ると、シエラの方へと視線を向けた。
そして、シエラの側まで歩み寄ると、彼女の前でヴァン枢機卿と側仕えの神官達は一様に跪いた。
「シエラ様、先程名乗りましたが改めてご挨拶申し上げます。私は『女神教会』で枢機卿の位を賜る『ヴァン・ゴドレス・ルシード』と申します。以後、お見知り置きを」
「え!?えぇ!?」
いきなり『女神教会』の重鎮が自分に跪いた事に対して、シエラは理解が追いつかないという様子であった。
「あの!?立ち上がってください!?私、唯の宿屋の街娘ですので、猊下にこのような対応をされる訳には・・!?」
狼狽えるシエラを見て、ヴァン枢機卿は優しく微笑んだ。
「ふふ・・貴方様が『唯の宿屋の街娘』などと・・ご冗談を言われる姿も可憐ですね。流石は至高なる『女神様』が見込まれたお方です」
「この度、私めがこちらにお伺いしたのは他でもありません。至高なる女神ハーティルティア様とそれに追従する勇者クラリス様が生み出された『神器』を『女神様』が直々に貴方様へ下賜なさるという事で、私め自らがお届けに上がった次第です」
「『神器』・・ですか?」
ヴァンの言葉を聞いてシエラが開け放たれた扉から外を見やると、そこにはまるで皇帝陛下が移動するような馬車の車列が並んでいた。
そして、『女神教会』の紋章が備わった豪華な馬車は、武装した『教会騎士』や高位の神官、更には帝国から派遣されたと思わしき帝国軍人によって護りを固められていた。
その様子を見るだけで、どれだけ『女神教会』がハーティから送られた『神器』を大切に扱っているかがうかがえた。
「そして、数人の神官がその馬車からシエラの元へ、人が入る棺ほどの大きさになる上質な布で梱包された木箱のような物を恭しく運んできた」
「実は・・我々も木箱の中は全く確認しておりません。この『神器』は正当な持ち主であらせられるシエラ様が最初に触れるべき物であるからです」
「ですから、シエラ様。輸送された『神器』をシエラ様自らがあらためていただけますか?」
「・・・わかりました」
シエラは、思った以上に厳重に運ばれてきたハーティ達からの『贈り物』にごくりと喉を鳴らした。
尤も、送った張本人はそこまで大袈裟な話になるなど思ってもいなかったが。
「では・・開けます」
そして、シエラは意を決して梱包された木箱に手をかけた。
その様子を、その場にいた全員が固唾を飲みながら見守っていた。
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