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居眠り男とクラスの天使さま
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俺は昼休みにいつも眠っている。
コートを常に持ち歩き、眠れるタイミングさえあれば仮眠をとる、一見グータラな男。夜にバイトをしているからだが、俺は母子家庭。母は一生懸命、働いて俺を養ってくれる素晴らしい女性だ。少しでも生活を楽にするため俺も夜はバイトしている。
勉強もしっかりやっている。中学高校と奨学金を得ているからね。奨学生の資格を維持するため、勉強は常に上位に居る必要があるから一生懸命にやっているさ。大学に進んだら上位三分の一に居続ければとっておきの資格・特別奨学生は維持できる。学費まで給付してくれる返済不要の特別奨学生、それになれば母をかなり楽させることが出来る。
貧乏だから進学できなかったと時々聞く。でもさ、奨学生になってバイトすれば親の負担は少ないんだ。成績だけは必要だけど、貧乏だから進学しないという理由はないよ。
で、バイトが終われば次は勉強の時間だ。宿題などの課題だけでなく復習と予習を根を詰めてやっている。テスト前なら限界ギリギリまで攻める。その反動で俺は昼に眠くなり、パンや弁当を早食いして睡眠を出来るだけ摂ることにしているんだ。早朝にはジョギングや懸垂など他の運動もやっている。才能と努力のおかげで持久走も学内トップクラス、短距離走も陸上部に迫るほど速い。更に、そこそこ球技などチームプレイも出来る。
しかしクラスでは若干ボッチ気味だ。どうしてもクラスメイトと交流する時間が少なく、睡眠を優先してしまうので友人はできにくく距離を取られてしまうのだ。あだ名が付けられていた。コートマンとかマトリックスとか、割と格好いいと思っていたので問題なしだが。
・・・・・
少し前からの事だ。眠りこけている俺は、寝返りなどをして、背にかけたり膝に載せたりしたコートを落とすことがよくあったが、いつの間にか掛けなおしてくれる人が居るらしい。今までは(あ、落とした、でも面倒くさい。そのまま寝ておこう)という風に、被ったコートを平気で落としていた。
せっかく母がお金を出して買ってくれたコートを汚してしまったと、目が覚めると反省するのだが、眠い時は眠気に逆らえず寝続けてしまう。
ある時、校庭にあるベンチで寝転んでいたところ、寝返りをしたらコートが落ちた。仕方がないなとそのまま寝ていたら、ふわっと誰かがコートを掛けなおしてくれた。そして頭を二~三回撫でられた。うすらボケの頭で目だけ薄っすらと開けてみてみれば、クラスの女子が去っていくところが見えた。天使みたいな娘だな、と思った。
また教室で寝ていた時だ。背中に掛けていたコートがズレていたらしい。それをそっと掛けてくれた。薄目で去っていく子を見ると、美那だった。彼女は俺の幼馴染だ。普段は可愛いくせにツンとして愛想がないのに、こういう事をしてくれるだなんて優しいじゃないか。ただ眠気に勝てない俺は、また目を瞑ってしまう。
目が覚めてから声を掛けてみた。
「美那……」
「ん」
「あ、えっと、いつもありがとう」
「何が?」
塩対応だと感じて素直になれない。もう一歩だけ彼女が優しくしてくれたら告白できるのだが、俺の覚醒時だといつも彼女はそっけない。
俺は放課後もバイトの時間まで教室で眠る。また毛布のように使っているコートを寝返りで落としてしまった。眠くて拾えない。すると誰かが近づいてきてコートを床から拾い上げてパンパンと埃を払い、掛け直してくれた。そしてまた頭撫でをされる。その子は何も言わず、同じローテーションを繰り返す。
俺は恥ずかしくて彼女に問いかけたりも出来なかった。心の中では目いっぱい感謝をしていた。(ありがとう美那。俺は君の事が好きだ)よく呟いたが、彼女には心の内を言葉では伝えられなかった。
そんな日々が過ぎていくうち、変化が起きた。コートを掛けなおしてくれた子に「おい美那、行くぞ」と男子の声が掛かった。「う、うん」と返事をした彼女は、その男子と一緒に教室を出ていく。
彼氏なのだろうか? クラスメイトではないな……。俺はそこまで考えて、また眠ってしまう。
目が覚めて頭も冴えると、猛烈な後悔が襲ってきた。今まで彼女に助けられていたことが、どれだけ精神の支えになっていた事か。彼女を失ってしまったと感じた俺は、今になって自分で気づくのかと呆れかえってしまった。益々、幼馴染と距離を感じた。それでも彼女はいつもコートを掛けなおしてくれる。
秋、夏、冬と年月が巡った。
進級によるクラス替えが行われた。又、俺と美那は同じクラスになった。今度は美那の彼氏も同じクラスになった。
俺は校庭のベンチに仰向けで寝ていた。コートを毛布のように掛けている。年季の入ったコートで、すでにベテランの風情がある汚れやほつれ等があった。買い替えたくても節約をしなければならない。オシャレ感覚で新調するわけにはいかない。大切にしなければならないのに、また寝返りで落としてしまった。
また彼女が近づいてきてコートを掛けなおしてくれる。頭も三回撫でていった。今回は彼女が喋った。
「身体に気をつけてね」
小さい声だった。聞こえたらいけないという遠慮が入った小声。すると
「おう、美那、いい加減にしろ。行くぞ」
彼氏の声が迫ってきた。
「ご、ごめんね」
「もう幼馴染だという理由で構うなよ。いい加減、俺も嫉妬してるんだぞ」
「で、でも……」
「俺が彼氏だという事を忘れるな」
「……はい」
そう話したのち、去って行った。
・・・・・
学校が休みに入りクリスマス・イブになった。お昼、彼女から会いたいと連絡が着た。近くの公園で待ち合わせ。渡したいものがあるらしい。すぐに彼氏とデートだからと時間は短かかった。俺もプレゼントを買っていた。可愛いアンティークのカメオのブローチだ。
「はい、これプレゼント」
新しいコートだった。その時、気づいてしまった。彼女の二の腕にアザが出来ていたのを。両腕に出来ていた。そして顔をじっと見ると頬が腫れている。彼女の目は腫れていた。少し前にでも泣いていたのだろうか。俺はモノグサだが、ニブくはない。すぐにDVだと察した。
「美那、お前、そのアザどうした? 何があった?」
俺にしては珍しくスムーズに喋ることが出来た。
「ううん、何もないよ。大丈夫、心配してくれてありがとう」
「いや、だけどな……」
「それ以上、聞かないで。本当に大丈夫だから」
彼女は気丈なふりをしていた。上手く言ってるつもりでも俺は幼馴染。嘘をついていることぐらい分かる。
「俺は彼氏でもないから強くは言えないけど、俺には頼れないか?」
「あなたが彼氏だったら良かったのだけど。でも大丈夫よ。それに私には今の彼氏が居るから」
「その彼氏に付けられたアザじゃないのか?」
「……」
それが答えだった。
「あのね、彼氏だったら出来ることって一杯あるの。何があったか知ることも出来るし。他に男性が近寄ってきても彼氏なら『近寄るな』って堂々と言えるの。逆に、彼氏だと貴方が何か言っても彼氏が優先になっちゃうの」
私の考えだけどね、と微笑みながら美那は小声で話した。
「ありがとね、私のこと気にかけてくれて。でも卒業したら私結婚するの。もう婚約もしてるの。つい先日決まっちゃったの……」
俺は無力感を感じた。彼氏というのは、そんなにも発言権があるのか。それに結婚だって? ショックを受けてアングリとしてしまった。
「そんな……あと数か月しかないじゃないか……」
「ごめん、そろそろ彼氏が迎えに来るの。プレゼントをあげられるのは今回が最後になると思う。ごめんね」
彼女は俺の手を握った。強く握っていた。目には涙が溢れんばかりになっていた。
・・・・・
それから特別奨学生になった俺は、大学の入学から卒業まで優秀な成績を収め続け、社会人となっていた。海外を飛び回り、美那に貰ったコートもボロボロになったので自宅のクローゼットに大切に保管している。
歳月が過ぎた。
俺は日本の地元に戻ってきた。久しぶりに地元を歩き回りたいと、例のコートを羽織って幼馴染の家の方へ歩いて行った。
美那は結婚したらしいが、夫からのDVによりアザが酷くなったと近所でも心配されていたようだ。実家に帰ってくるたび、離婚を勧められたという。しかし美那は筋を通す性格をしていた為、どんなに酷い夫でも自分からは別れない、裏切ることは出来ないと反論するらしい。
彼氏や夫に操を立てるのは立派だが、DVになると話は別だろう。どうして、そんなに意地を張るんだ、と母から噂話を聞かされるたびに思った。
幼馴染の家の前に来た。彼女は結婚して夫と居るはずだから、ここには居ないだろう。しかし思い出が蘇る。美那は彼氏が居ようと、夫が居ようと、人間として優しくて素晴らしい女性だった。幼馴染というだけで俺みたいな不愛想な奴にすら優しくしてくれた。孤独でボッチだったのに彼女が居てくれたおかげで精神が捻くれず真っ直ぐに維持できた。感謝の極みだ。
高校時代、俺には何が出来たんだろう? 何を間違えたんだろう?
俺が家の前に佇んでいたからだろうか、彼女の家から玄関ドアを開けて人が覗いた。
「あっ」
大人になった彼女だった。美那は目を開いて驚いた表情をしていた。俺は社会人らしくにこやかに彼女へ顔を向ける。
「お、お久しぶり」
「お久しぶりです。あ、あの……」
「……」(感激して声が出ない)
「あれ? そのコート、私があげたプレゼントのコートですか?」
「……」(頷く)
「こんなにも長い間、大切に使っていてくれたのですね。とても嬉しい……」
彼女は笑顔になり、条件反射のように涙ぐんだ。
彼女はすでに離婚しており、俺の帰国を待っていたらしい。そして自ら告白する行動を取ろうと、もう受け身では駄目だと、後悔はしたくないと覚悟していたそうである。
この再会を契機に、まるで運命に導かれるように心が通い始め、昔の学校でのコートを掛けなおしてくれる思い出を話したりしながら、二人は急接近していった。
彼女は確実に成長していた。俺も少しは成長できていたかな?
そして二人は結婚して幸せな日々を送る。俺の母親もニコニコしながら子育てをサポートしてくれている。
・・・・・
これは、言葉にしなくても心が通い合った、告白すらできなかったけど、行動が告白そのものの二人の幼馴染が結ばれた物語。
コートを常に持ち歩き、眠れるタイミングさえあれば仮眠をとる、一見グータラな男。夜にバイトをしているからだが、俺は母子家庭。母は一生懸命、働いて俺を養ってくれる素晴らしい女性だ。少しでも生活を楽にするため俺も夜はバイトしている。
勉強もしっかりやっている。中学高校と奨学金を得ているからね。奨学生の資格を維持するため、勉強は常に上位に居る必要があるから一生懸命にやっているさ。大学に進んだら上位三分の一に居続ければとっておきの資格・特別奨学生は維持できる。学費まで給付してくれる返済不要の特別奨学生、それになれば母をかなり楽させることが出来る。
貧乏だから進学できなかったと時々聞く。でもさ、奨学生になってバイトすれば親の負担は少ないんだ。成績だけは必要だけど、貧乏だから進学しないという理由はないよ。
で、バイトが終われば次は勉強の時間だ。宿題などの課題だけでなく復習と予習を根を詰めてやっている。テスト前なら限界ギリギリまで攻める。その反動で俺は昼に眠くなり、パンや弁当を早食いして睡眠を出来るだけ摂ることにしているんだ。早朝にはジョギングや懸垂など他の運動もやっている。才能と努力のおかげで持久走も学内トップクラス、短距離走も陸上部に迫るほど速い。更に、そこそこ球技などチームプレイも出来る。
しかしクラスでは若干ボッチ気味だ。どうしてもクラスメイトと交流する時間が少なく、睡眠を優先してしまうので友人はできにくく距離を取られてしまうのだ。あだ名が付けられていた。コートマンとかマトリックスとか、割と格好いいと思っていたので問題なしだが。
・・・・・
少し前からの事だ。眠りこけている俺は、寝返りなどをして、背にかけたり膝に載せたりしたコートを落とすことがよくあったが、いつの間にか掛けなおしてくれる人が居るらしい。今までは(あ、落とした、でも面倒くさい。そのまま寝ておこう)という風に、被ったコートを平気で落としていた。
せっかく母がお金を出して買ってくれたコートを汚してしまったと、目が覚めると反省するのだが、眠い時は眠気に逆らえず寝続けてしまう。
ある時、校庭にあるベンチで寝転んでいたところ、寝返りをしたらコートが落ちた。仕方がないなとそのまま寝ていたら、ふわっと誰かがコートを掛けなおしてくれた。そして頭を二~三回撫でられた。うすらボケの頭で目だけ薄っすらと開けてみてみれば、クラスの女子が去っていくところが見えた。天使みたいな娘だな、と思った。
また教室で寝ていた時だ。背中に掛けていたコートがズレていたらしい。それをそっと掛けてくれた。薄目で去っていく子を見ると、美那だった。彼女は俺の幼馴染だ。普段は可愛いくせにツンとして愛想がないのに、こういう事をしてくれるだなんて優しいじゃないか。ただ眠気に勝てない俺は、また目を瞑ってしまう。
目が覚めてから声を掛けてみた。
「美那……」
「ん」
「あ、えっと、いつもありがとう」
「何が?」
塩対応だと感じて素直になれない。もう一歩だけ彼女が優しくしてくれたら告白できるのだが、俺の覚醒時だといつも彼女はそっけない。
俺は放課後もバイトの時間まで教室で眠る。また毛布のように使っているコートを寝返りで落としてしまった。眠くて拾えない。すると誰かが近づいてきてコートを床から拾い上げてパンパンと埃を払い、掛け直してくれた。そしてまた頭撫でをされる。その子は何も言わず、同じローテーションを繰り返す。
俺は恥ずかしくて彼女に問いかけたりも出来なかった。心の中では目いっぱい感謝をしていた。(ありがとう美那。俺は君の事が好きだ)よく呟いたが、彼女には心の内を言葉では伝えられなかった。
そんな日々が過ぎていくうち、変化が起きた。コートを掛けなおしてくれた子に「おい美那、行くぞ」と男子の声が掛かった。「う、うん」と返事をした彼女は、その男子と一緒に教室を出ていく。
彼氏なのだろうか? クラスメイトではないな……。俺はそこまで考えて、また眠ってしまう。
目が覚めて頭も冴えると、猛烈な後悔が襲ってきた。今まで彼女に助けられていたことが、どれだけ精神の支えになっていた事か。彼女を失ってしまったと感じた俺は、今になって自分で気づくのかと呆れかえってしまった。益々、幼馴染と距離を感じた。それでも彼女はいつもコートを掛けなおしてくれる。
秋、夏、冬と年月が巡った。
進級によるクラス替えが行われた。又、俺と美那は同じクラスになった。今度は美那の彼氏も同じクラスになった。
俺は校庭のベンチに仰向けで寝ていた。コートを毛布のように掛けている。年季の入ったコートで、すでにベテランの風情がある汚れやほつれ等があった。買い替えたくても節約をしなければならない。オシャレ感覚で新調するわけにはいかない。大切にしなければならないのに、また寝返りで落としてしまった。
また彼女が近づいてきてコートを掛けなおしてくれる。頭も三回撫でていった。今回は彼女が喋った。
「身体に気をつけてね」
小さい声だった。聞こえたらいけないという遠慮が入った小声。すると
「おう、美那、いい加減にしろ。行くぞ」
彼氏の声が迫ってきた。
「ご、ごめんね」
「もう幼馴染だという理由で構うなよ。いい加減、俺も嫉妬してるんだぞ」
「で、でも……」
「俺が彼氏だという事を忘れるな」
「……はい」
そう話したのち、去って行った。
・・・・・
学校が休みに入りクリスマス・イブになった。お昼、彼女から会いたいと連絡が着た。近くの公園で待ち合わせ。渡したいものがあるらしい。すぐに彼氏とデートだからと時間は短かかった。俺もプレゼントを買っていた。可愛いアンティークのカメオのブローチだ。
「はい、これプレゼント」
新しいコートだった。その時、気づいてしまった。彼女の二の腕にアザが出来ていたのを。両腕に出来ていた。そして顔をじっと見ると頬が腫れている。彼女の目は腫れていた。少し前にでも泣いていたのだろうか。俺はモノグサだが、ニブくはない。すぐにDVだと察した。
「美那、お前、そのアザどうした? 何があった?」
俺にしては珍しくスムーズに喋ることが出来た。
「ううん、何もないよ。大丈夫、心配してくれてありがとう」
「いや、だけどな……」
「それ以上、聞かないで。本当に大丈夫だから」
彼女は気丈なふりをしていた。上手く言ってるつもりでも俺は幼馴染。嘘をついていることぐらい分かる。
「俺は彼氏でもないから強くは言えないけど、俺には頼れないか?」
「あなたが彼氏だったら良かったのだけど。でも大丈夫よ。それに私には今の彼氏が居るから」
「その彼氏に付けられたアザじゃないのか?」
「……」
それが答えだった。
「あのね、彼氏だったら出来ることって一杯あるの。何があったか知ることも出来るし。他に男性が近寄ってきても彼氏なら『近寄るな』って堂々と言えるの。逆に、彼氏だと貴方が何か言っても彼氏が優先になっちゃうの」
私の考えだけどね、と微笑みながら美那は小声で話した。
「ありがとね、私のこと気にかけてくれて。でも卒業したら私結婚するの。もう婚約もしてるの。つい先日決まっちゃったの……」
俺は無力感を感じた。彼氏というのは、そんなにも発言権があるのか。それに結婚だって? ショックを受けてアングリとしてしまった。
「そんな……あと数か月しかないじゃないか……」
「ごめん、そろそろ彼氏が迎えに来るの。プレゼントをあげられるのは今回が最後になると思う。ごめんね」
彼女は俺の手を握った。強く握っていた。目には涙が溢れんばかりになっていた。
・・・・・
それから特別奨学生になった俺は、大学の入学から卒業まで優秀な成績を収め続け、社会人となっていた。海外を飛び回り、美那に貰ったコートもボロボロになったので自宅のクローゼットに大切に保管している。
歳月が過ぎた。
俺は日本の地元に戻ってきた。久しぶりに地元を歩き回りたいと、例のコートを羽織って幼馴染の家の方へ歩いて行った。
美那は結婚したらしいが、夫からのDVによりアザが酷くなったと近所でも心配されていたようだ。実家に帰ってくるたび、離婚を勧められたという。しかし美那は筋を通す性格をしていた為、どんなに酷い夫でも自分からは別れない、裏切ることは出来ないと反論するらしい。
彼氏や夫に操を立てるのは立派だが、DVになると話は別だろう。どうして、そんなに意地を張るんだ、と母から噂話を聞かされるたびに思った。
幼馴染の家の前に来た。彼女は結婚して夫と居るはずだから、ここには居ないだろう。しかし思い出が蘇る。美那は彼氏が居ようと、夫が居ようと、人間として優しくて素晴らしい女性だった。幼馴染というだけで俺みたいな不愛想な奴にすら優しくしてくれた。孤独でボッチだったのに彼女が居てくれたおかげで精神が捻くれず真っ直ぐに維持できた。感謝の極みだ。
高校時代、俺には何が出来たんだろう? 何を間違えたんだろう?
俺が家の前に佇んでいたからだろうか、彼女の家から玄関ドアを開けて人が覗いた。
「あっ」
大人になった彼女だった。美那は目を開いて驚いた表情をしていた。俺は社会人らしくにこやかに彼女へ顔を向ける。
「お、お久しぶり」
「お久しぶりです。あ、あの……」
「……」(感激して声が出ない)
「あれ? そのコート、私があげたプレゼントのコートですか?」
「……」(頷く)
「こんなにも長い間、大切に使っていてくれたのですね。とても嬉しい……」
彼女は笑顔になり、条件反射のように涙ぐんだ。
彼女はすでに離婚しており、俺の帰国を待っていたらしい。そして自ら告白する行動を取ろうと、もう受け身では駄目だと、後悔はしたくないと覚悟していたそうである。
この再会を契機に、まるで運命に導かれるように心が通い始め、昔の学校でのコートを掛けなおしてくれる思い出を話したりしながら、二人は急接近していった。
彼女は確実に成長していた。俺も少しは成長できていたかな?
そして二人は結婚して幸せな日々を送る。俺の母親もニコニコしながら子育てをサポートしてくれている。
・・・・・
これは、言葉にしなくても心が通い合った、告白すらできなかったけど、行動が告白そのものの二人の幼馴染が結ばれた物語。
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