【完結】育成準備完了しました。お父様を立派な領主にしてみせます。

との

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3.殺りますか?

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(殿下が騒ぎ出したり、陛下と王弟殿下に話が漏れる前に急がなくちゃ)

 王子の私室では哀れなドジャース法務官がガタガタと震えながら、何もわかっていない王子からの理不尽な吊し上げを食らっている事だろう。


 王子の私室の前で足止めを食らっていたメイドのアリシアを連れて王宮の無駄に広い廊下を急ぎ足で歩いていく。すれ違うメイド達が道をあけてくれるが普段より急ぎ足で行き過ぎるルーナ達の後ろ姿をメイド達は怪訝な顔で見送っていた。
 馬車に乗り込んだルーナは執務室の机に山の様に積まれた書類を思い出したが真っ直ぐ王宮を出てウォルデン侯爵家のタウンハウスへ馬車を走らせた。


(ドジャース法務官にはちょっぴり申し訳なかったけど、安易に王子に関わったのが運の尽きよね。あの様子だと上官には報告してないようだし、国璽の管理が甘い尚書も断罪されるわね)


 ルーナが執務室に寄らなかった理由?

 この日を待ち望んでいたルーナは、執務室に自前の物は何も・・ペンの一本、ハンカチの一枚さえ置いていなかったから。





 侯爵家のタウンハウスは王宮から馬車で三十分程度の場所にある。

 ルーナを乗せた馬車は綺麗に舗装された石畳を走り抜け、貴族街の大きな建物の中でも一際長い塀に囲まれた一角に辿り着いた。
 高い塀に囲まれた正門を抜け、緑溢れる木立の奥に楕円形のモチーフや捻り柱などが特徴的なバロック様式の建物が現れた。

 正面玄関前で馬車が停まり御者が扉を開けると、踏み台が準備されるのを待ちきれなかったルーナがぴょんと飛び出してきた。


「お帰りなさいませ、お嬢様。今日は如何なさいましたか?」

 普段は深夜の帰宅が当たり前のルーナが午前中に帰宅した為、ドアを開けた執事マシューが驚いている。


「紋章の入ってない馬車の準備をお願い。準備ができたら執務室に来て」

 令嬢の鏡と言われる普段の様子とは打って変わったルーナはドレスの裾を絡げからげ二階への階段を駆け上がって行き、その後ろをメイドのアリシアが青息吐息で追いかけている。


 ルーナは階段を上りながらアリシアに指示を出した。

「荷物は最低限で構わない、後はマシューに任せるから。
私は執務室に行って準備をするわね」



 ルーナが机から必要書類を出し鞄に詰めているとマシューがお茶の乗ったトレーを手に執務室にはいってきた。

「婚約破棄されたの、しかも例の三人を後ろに従えて。
王子妃教育しろって言われてサッサと逃げ出してきたから陛下達が騒ぎ出す前に王都を抜け出すつもり。
お父様にお手紙を書くからそれを早馬に預けたら後は手筈通りにね」

 持ってきたお茶をテーブルに置きかけたマシューは中腰のまま固まった。


「・・殺りますか?」

「アレを? あんな人達のせいで罪人になるなんて馬鹿らしいわ。
どうせ留学中の第二王子が帰って来てグレイソンは廃嫡されるでしょう。後は手筈通りにね」



 大慌てで出発したルーナが乗り込んだのは紋章など入っていないごくありふれた馬車。

 ひっそりと静まり返った貴族街を駆け抜け平民街に入った。窓のカーテンの隙間から外の様子を覗いてみると大通りには多くの人が行き交い馬車が警笛を鳴らす音や大声で怒鳴る人の声が聞こえている。

 王都に来てから学園の授業と王子妃教育で忙しく、日が昇って間もない頃に屋敷を出発して深夜に帰宅していたルーナは物珍しげにカーテンの影から外を覗いていた。

「平日の午前中ってこんなに活気があったのね」


 土地の少ない王都特有の三階建てや四階建てのアパートメントが軒を連ねており、一階に入っている商店からは様々な商品を道ゆく人に勧める売り子の元気な呼び声が響いていた。籐の籠を抱えた女性が売り子と話し、のんびりお喋りしている女性達の横をセカセカと男達が通り過ぎていく。


「この後はどうされるのですか?」

 窓から顔を離しアリシアに向き直ったルーナは満面の笑みを浮かべた。

「レガーロの港に行って船に乗るわ。アリシアは船は初めてよね」

「船・・多分ですけど大きいやつですよね」

「ええ、凄く」



 王都を出発し西の関所を通過した後、馬車は進路を南に変え舗装されていない街道をガタガタと走っていた。
 普段乗っている馬車に比べると揺れが酷く座席のクッションも弱い。

「やっぱり揺れるわね、アリシアは大丈夫・・じゃなさそうね」

 アリシアは馬車に酔ってしまったようで真っ青な顔をして口をハンカチで抑えている。

 昼過ぎに一度休憩を入れたルーナ達は途中宿屋で一泊し翌日の夕刻前にはレガーロの港街に辿り着いた。


「まずは宿を取りましょう。昨夜も横になったら随分楽になったもの。今日もベッドで休んだら元気になるわ」

「わっ、私が行ってまい・・まい・・」

 アリシアは昨日と同様に青息吐息で言葉もまともに喋れない。その横で元気一杯のルーナはあたりをキョロキョロと見回しながらにっこりと微笑んだ。

「こういう時は元気な方が動くものよ。少し待ってて」


 馬車は街中に入り大通りをゆっくりと進んでいる。レンガでできた二階建ての建物が多く潮風に強いサルスベリやオリーブの木が植えられその足元にはカラフルな花の鉢植えが並んでいる。
 王都に比べると涼しげな服装の人が多いように見受けられた。日焼けした男性は袖を捲ったシャツ一枚で道を闊歩し、鍔の広い帽子を被ったり日傘を差した女性は少し襟ぐりの広い明るい色合いのドレスを身に纏っている。

 大通りの中程で馬車を停めたルーナはパタパタと走り出し一軒の店に駆け込んだ。

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