【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

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23.ノリのいい熊は、犬・猿・雉をお供にしている

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「イカは血行が良くなるし老化防止になるんだよね~。更年期障害って知ってる? 全身の倦怠感・不眠・勃起不全・集中力の低下とかになるの。
ウルサさんの気の短さとか⋯⋯あ、イカ焼きのおじさんとこによるからひとつだけあげるね」

 広場を出て歩きはじめたロクサーナが楽しそうに蘊蓄を垂れていると、ウルサが眉間に皺を寄せた。

「でけえ声で『勃起』とか言うんじゃねえ! 俺はまだ枯れてねえしな」

「勃起なんて医学用語じゃん。医者とか薬師が使うアレだよ。やらしいことばっか考えてるとガンツみたいなエロジジイになっちゃうよ?」

「⋯⋯ガンツが誰か分かんねえけど、苦労してそうだな」

「今朝も会ってきたけど超元気で、昨日の夜も奥ちゃんとあっつあつの夜⋯⋯」

「だーまーれー! 屋台に行くんじゃねえのか?」

「そうだった! おじさーん、熊⋯⋯ウルサさん捕獲したよ~。イカ焼き、できてる?」

 パタパタと走って屋台に近付くと、屋台のおじさんが手を上げた。

「できてんぞ。ウルサ、久しぶりだな」

「おう、変なのに声かけられたからな」

「酔っ払ってばかりより面白そうじゃねえか」

 ロクサーナに大量のイカ焼きを持たされて目を丸くしたウルサが、屋台のおじさんを睨みつけた。

「こんな大量のイカ焼き売りつけたのかよ!」

「こちとら商売だから、買うって言われりゃ売るに決まってんだろ? 情報料は別に貰ったしな~。酒を奢ってやるから、暇になったら遊びにこいよ。ガッハッハ」

 またね~と手を振って路地裏に向かって歩くロクサーナを、ウルサが『おい、待てよ!』と言いながら追いかけた。

「この辺でいいか、これから見る事は全部秘密ね。いい?」

「あ、ああ? まあ、いいけど」

「イカ焼きが冷めちゃうから急いで契約しちゃいま~す。ロクサーナ・バーラムの指示に従い、ウルサは2~3回船を操縦する。必要な人材はウルサが集め、その報酬としてウルサが納得できるキャラベル船をロクサーナ・バーラムは譲渡する。全員の人件費や必要経費はロクサーナ・バーラムが現金で支払う。
ロクサーナ・バーラムは船員全員に対し生命の保証と怪我の治療を確約するが、ウルサと船員はロクサーナ・バーラムに関係する全ての内容に対して守秘義務が生じる。
ウルサが契約を違えた時、船を没収しそれと同額の支払いを行う。ロクサーナ・バーラムが契約を違えた場合には、ロクサーナ・バーラムの資産の全てをウルサに譲渡した後に生命を持って支払いとする。
これで納得できたら契約ね」

「契約違反の時の内容が重すぎるが⋯⋯俺は黙ってるだけでいいんだな。船員達はどうする? 奴等が喋るかもしんねえ」

「契約してくれる人だけを見つけてね」

「⋯⋯いいだろう、契約してやろうじゃねえか」

 ウルサの言葉が終わると同時に足元に現れた複雑な魔法陣は、円の中に六芒星が描かれ、見たこともない文字や記号が書かれている。

 魔法陣が虹色に光り輝き、ロクサーナとウルサを包み込んだ後、光の粒を残しながら消えていった。

「⋯⋯な、なんだ、今のは」

「契約の魔法陣。私は聖⋯⋯魔法士だからね~」

 茫然としているウルサの手から受け取ったイカ焼きを異空間にしまいこみ、港へ向かって歩きはじめた。



「人がいないとこ⋯⋯入江みたいになってるとことかがいいんだけど」

「なら、あっちだな。港の端に壊れたまま修理していない桟橋があるんだ。そこなら誰もこねえ」

 ウルサが指し示した方には一見すると問題のなさそうな桟橋があり、手漕ぎボートが一艘ゆらゆらと揺れている。

 近付いてみると少し傾いていて、あちこちの板が腐っている。

「持ち主は直さないの?」

「俺の知り合いなんだが直す金がねえんだと。そいつも船がなくなったから仕事もできねえしな」

「じゃあ、直しても怒られないってことだね。あんまり派手に直すと面倒になりそうだから⋯⋯傾きを直して⋯⋯板を張り替えて⋯⋯ウルサさんの重さに耐えられるくらいに、強化! よしオッケー」

「魔法士、怖え」

「船を出すね、気に入ってくれたら夕食に間に合うかなぁ」

 認識阻害をかけて異空間から船を出して海に浮かべた。

【この船、久しぶりに見た】

【ピッピは初めて見たの~】

(私のコレクションのひとつ、かっこいいでしょ~)

 口をぽかんと開けていたウルサが目を輝かせて船に飛び乗った。船首から船尾まで走り回って雄叫びを上げ、帆を確認してマストに抱きついた。

「凄え! 初期のキャラベル船じゃねえか。全長は20ちょいか? 2本のマストで全長と全幅のバランスもいい。保存も完璧! まさか、コイツをくれるとか言わねえよな」

「報酬はこれのつもりだから、気に入ったなら助かる」

「やる! すぐに人を集めてくるからすぐに出航しよう!」

 ウルサが桟橋に飛び上がり、ロクサーナを小脇に抱えて走り出した。

(ギシって言ったよね、桟橋を強化したのにギシって。作り替えなきゃウルサには対応できないみたい)


 
 そして再び銀の梟亭へ⋯⋯。

「カーニス、シーミア、アンセル! 海に出るぞ」

 バンっと大きな音がして3人の男が飛び出してきた。

「マジか!? 酔って幻覚を見たとかじゃねえよな!」

「やりぃ~、海がアタシを呼んでるぅ」

「ふふ、船⋯⋯船は?」

「話は船を見てからだ、他にも話があるしな」

「⋯⋯アンタが小脇に抱えてる小動物。もしかしてさっき見たアンタの隠し子?」

「金持ちの女捕まえてたのか!? やったじゃねえか」

「いい、遺産?」

「違え! 兎に角話を⋯⋯詳しい話が先だ」

「いや、その前に下ろしてくんないかな! お腹が痛いし気持ち悪くなってきたじゃん」

 腹を立てたロクサーナの足がプラプラと揺れ、ウルサの興奮が一気に冷めた。



「ちっこいから抱えてるの忘れてた。で、契約内容なんだが⋯⋯」

「あーやーまーれー! 次に小荷物よろしく配送したら、何しでかすか分かんないからね!」

「酷いわよねぇ、もう大丈夫?」

「う、うん⋯⋯大丈夫」

 オネエ言葉で話されると、なぜか心がほっこりとなるのは⋯⋯ジルベルト司祭に調教されてるせいか。




 カーニス、シーミア、アンセルの3人は長年ウルサの船に乗っていた仲間。

(うぷぷ⋯⋯動物園みたい)

【ウルサ、カーニス、シーミア、アンセル⋯⋯昔の言葉で熊と犬・猿・雉だね】

 3人は船を見た途端『契約する!』と叫び船に飛び乗った。

 背の低いカーニスは力自慢、オネエ言葉のシーミアは風を読むのが得意、吃り気味のアンセルはオールマイティで全員のフォローをする。

 たった4人で船を動かせるのは魔力があるからだと言う。



「この陽気なら午後に一度行けるな」

「もう、ワクワクが止まんないんだけどぉ」

「明日なら、ちょっと沖に出て定置網やるか?」

(定置網かぁ、何が取れるんだろう。気になる~)

「その前にチビの依頼だ」

「そうよ! それを先に済ませなきゃだわ。何がしたいの? 海水浴のシーズンは終わったから小島巡り? 貝殻探し?」

「クラーケン釣り」

「「「⋯⋯はあぁぁぁ」」」

「今回はクラーケンの踊り食いが狙いなんだ~」

「この海ってクラーケンがいるのか?」

「いる。デカい帆船の向こうにいる」

「⋯⋯なあ、チビが魔法士だってのは信じてる。けど、クラーケンは無理。シーサーペントだって追っ払うのが関の山なんだぜ? クラーケンなんて船ごと海の藻屑になっちまう」

「ふ~ん、じゃあやめる? 契約違反になるけどね」

「⋯⋯」

「船は回収、それと同額の借金⋯⋯もう酒も飲めないし娼館にも行けないね」



「行ってやろうじゃねえか! 生命の保証と怪我の治療も契約の内だからな」

「大丈夫、クラーケンなら大したことないもん。縛りなしでチャチャっとやっちゃうからね」

【いえ~い、ようやくクラーケンだぁ】

【あたしはぁ、サラッと炙り焼きにしちゃおっかな~】

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