【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

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49.聖女に興味なんてありませんが、それが何か?

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 時期はズレているが王家主催で、聖女が『諸魂の日』の祈りを行うという。護衛は騎士団が行うが、冒険者達は隊列に先行する⋯⋯所謂露払い。

「途中に出てきた魔獣や盗賊の討伐って事?」

「ええ、それと合わせて街道のチェックもだそうです。リューズベイにある山の魔物は大型でも凄く大人しくて、被害はほとんどないんですけど、念の為強い冒険者についてきて欲しいそうなんです」

 予想と違ってつまらなそうな依頼だと落ち込んだレオンが『聖女様には会えないんだ』と落ち込むと、受付嬢が身を乗り出した。

「リューズベイの領主館で宴が開かれるそうですから、会えるはずですわ。アーノルド王子殿下と婚約間近⋯⋯既にほぼ確定だそうですから、これからはあちこちでお会いできるとは思いますけどね」

(もう婚約間近って噂がここまで広がってるんだ。受付嬢がレオンに、聖女様との出会いを勧めるから不思議だったんだよね)

 既に予約済みなら問題ないと言うことか⋯⋯と納得したロクサーナは、別の依頼を探すことにした。

 何が起きるのか、面白そうではあるけれど⋯⋯触らぬ神に祟りなし。



 レオンにチラッと手を振ってギルドを出たロクサーナは、宿に帰ってひと休みすることに決めた。

【冬は面白そうな依頼が少ないね】

(だね。雪が溶けるまで、南の暖かい国に遊びに行こうかなぁ)

【トランザニアとか?】

 トランザニア王国は南方の島国で、通年を通して温暖な気候の国。

(あ、それいいかも。宿に帰ってジルベルト司祭に聞いてみようかな。あそこは蛇系の魔物が多いから素材&食材がとれまくりなんだよね)

 既に心はトランザニア王国に飛んでいるロクサーナの後ろから、レオンが慌てて追いかけてきた。

「ま、待って! さっきの依頼、ジルも受けるよね!」

「受けないよ? 僕は聖女様には興味ないし」

「ええ~! ならさ通信鏡持ってちゃダメかな。あれがあればいつでもジルと連絡取れるんだろ? お金払うからさ、お願い!」

「そちらは非売品となっておりまして、ゴリ押しされた場合や強奪された場合、全身こんがり丸焼けコースとなります。
荷物から服、頭髪等も全て燃やしつくすコースですので、通信鏡も燃えてなくなる仕組みとなっておりますが⋯⋯どうする?」

 売る気になったら教えて欲しいと言いながら諦めたレオンは、名残惜しげにロクサーナの手元を見つめていた。

「分かった、取り敢えず今は諦めるよ。でね、リューズベイだけど一緒に行こうよ。もしかしたらだけど、例の聖女様かもしれないんだ。違うかもしれないけど、年齢も近いから知り合いだったりするかも⋯⋯だから、お願い」

(取り敢えず今は⋯⋯だと!?)

「僕達はパーティー組んでるわけじゃないし、一緒に依頼を受けなくてもいいじゃん」

「そうなんだけどさ⋯⋯ここで別れたらジルとはもう会えない気がして。
さっきの依頼を聞いて、この町に来る夢を見たのは『あの時の聖女様』に会えるっていう意味もあったのかもしれないって気がしてきたんだ。だから、顔だけでも見てみたいんだ」

「⋯⋯見てきたらいいんじゃないかな。僕には関係ないから、たいした返事はできないけどね」

 ロクサーナは、身勝手で強引なレオンに少しずつ⋯⋯かなりイライラしはじめた。

 出会ってからのモヤモヤにここ数日のイライラが加算されて、爆発寸前な状態に近付いている。

「聖王国の聖女様だよ? なんで? 興味ないわけないよね?」

「全く興味ない。ねえ、馬車の事故って10年以上前なんだよね? その間に聖女に会いに行ったりしたの?」

「あ、いや⋯⋯えーっと⋯⋯してない。ほら、聖女様にとっては人助けなんて当たり前のことだから⋯⋯」

 居心地悪そうに足を踏み替えながら目を逸らしたレオンは、ロクサーナの指摘にモゾモゾと言い訳を口にした。

【人間らしい考え方だよな~。与えられるのは当たり前で、それを受けるのは当然の権利と勘違いしてる】



 慈愛の化身である聖女にとって怪我人や病人を救うのはごく普通の事で、彼女達にとっての使命で⋯⋯生きる意味。人を救うことが聖女の存在価値そのもの。

 これが世間一般のイメージで、レオンも⋯⋯。

 事故に遭った少年を助けたことなど⋯⋯多くの怪我人や病人を救っている聖女様なら、忘れているかも。

 家族で話す時には『いつかお礼に行こう』と言うが、聖王国の聖女に会うのは大変だと聞いているから、そこまでの手間をかける必要はない気もする。

 精々⋯⋯機会があれば会ってお礼を言おう⋯⋯程度で、わざわざ聖女に会いに行く必要はないだろうと思っていた。



「たまたま近くに聖女がいるって聞いたから、ちょっと見てみようって⋯⋯それに僕が付き合う理由なんてないよね。
第一、顔を見たら分かるの? それとも『あの時の聖女様ですか?』って聞いてみるとか? 今まで探してもいなかったくせに⋯⋯ そうだって言われたらどうするの?
すごく不愉快だから、僕には関わらないでくれるかな。これからは顔を合わせることがあっても、声をかけないでくれ」

【ピッピも、プンプンになった。チリチリにしちゃおうよ!】

「ごめん! 確かにジルの言う通りで、普段はあんまり考えてなかったかも。感謝はしてるけど、聖女様って忙しそうだしって。この依頼が終わったら、また一緒に討伐依頼を受けてくれるかな」

「⋯⋯やめとく。僕はひとりの方がいい」




 宿に戻って通信鏡を握りしめたロクサーナはジルベルト司祭に繋いだ。

「って事で、スタンピードの方はあらかた目処がついたし⋯⋯少し暇があるからトランザニアに行ってくる」

「大変だったね。レオンがそんな子だったなんて残念だよ」

 一緒に討伐をしているうちに、良い友達ができれば⋯⋯と思っていたジルベルト司祭。

(やっぱりロクサーナの能力を考えると難しいのかな)

「帝国の様子はこっちでも調べておくよ。で、ロクサーナ⋯⋯な~んで先に言わなかったのかな~。すっごぉぉぉく、すっごぉぉぉく危険だったわよね! ドワーフの救出とか城の潜入とか、なんで先に言ってくれなかったのよ! 心臓が止まるかと思ったじゃないのぉぉ」

「ごめ~ん。勢いがついたって感じでさ。止められるかなあって思ったから⋯⋯つい?」

「ついじゃないから! もう⋯⋯ホントに⋯⋯ロクサーナが怪我したら泣くわよ!」

「う、うん」

「ホントのホントに泣くんだから!」

「心配かけてごめんね」



 今日のジルベルト司祭のオネエ言葉はいつにも増して激しい。通信鏡の向こうで目を吊り上げて髪を掻きむしっていたかと思うと、机に突っ伏してのの字を書いている。

「ホントはさ、今回の任務はひとりで行かせたくなかったんだ。ロクサーナは目を離すとすぐに無茶するから」

「うん」

「⋯⋯はぁ⋯⋯無事で良かった。二度と無茶しないでくれ。僕の心臓が持たなくなりそうだから」

「うん⋯⋯多分」

「た⋯⋯多分じゃなーい! 絶対しないと約束しなさい。いいわね!」

「むぅ⋯⋯」

「ロクサーナの生命はあんただけのものじゃない。これ以上あたしを泣かしたら、どうなるか分かってるんでしょうね⋯⋯執務室に監禁して書類三昧にしてやるから!」

「ぁ⋯⋯あぅぅ⋯⋯それは無理」

「トランザニアでストレス発散してらっしゃい。その後はお利口にするのよ」

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