【完結】期間限定聖女ですから、婚約なんて致しません

との

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68.僕はジルベルト反対派だからね〜

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(なんでジルベルト司祭が?)

【だって⋯⋯ロクサーナがジルベルトの執務室に転移門を設定したんじゃん】

(え? あっ! 嘘ぉぉ⋯⋯今まで一回も使わなかったくせに! こんな時に来るとか絶対むりぃぃぃ⋯⋯あ、あれ?)

 パニックになり走り出したロクサーナは、周りの様子を考えずに走り続け、足が宙を蹴った。


  ジャバーン


 崖から見事な勢いで飛び出し、そのまま海に落下して行った。

「ロクサーナ!」

 走りながらローブを脱ぎ捨てたジルベルト司祭が、海に飛び込み沈んでいくロクサーナを追いかけた。


  ザブーン


(あ、飛べば良か⋯⋯水の中きれ⋯⋯金ぃ⋯⋯)

 水面に激突したロクサーナの意識が途絶えた。



(いない⋯⋯どこだ!?)

 底の見えない深い海からコポコポと湧き上がってきた気泡がロクサーナを包み込み、解けた髪と地味な麻の作業着が海と同化して見えなくなっていく。

(くそっ! このままじゃ、見つけられ⋯⋯いた、あそこだ!)

 ゆらゆらと揺れながら沈んでいくロクサーナに手が届いた時、パチンと音を立てて気泡が割れ、お腹に手を回したジルベルト司祭が右手一本で水をかき海面に向けて泳いでいく。

(くそ! 息が⋯⋯風を⋯⋯)

 ジルベルト司祭が風魔法を海底に向けて撃つと、浮かび上がる勢いが増したが、着衣のままの2人を潮が⋯⋯まるで何かに掴まれたように、もっと深くもっと沖へと押し流そうとする。


 
【全く、手のかかる子供達だな⋯⋯】

 かなり苛立ったカイロスの声が聞こえると周囲が空気で満たされて、ゴボッという音と共にロクサーナが水を吐き出した。

(よし! これなら)

 気を失ったままのロクサーナを抱えて上を目指しなんとか海面まで上がれたが、目の前にあるのは切り立った断崖だけ。

(足場も何もない⋯⋯どうやって上がれば)

 見上げた高さは3メートルくらいの断崖絶壁で、足をかけるどころかしがみつける場所もない。

 それほど波は荒くないのに不意に大きく潮が流れ、海の底に引き摺り込もうとしたかと思うと、崖に叩きつけられそうになる。

 海の底から湧き上がる気泡でさえ、ロクサーナを狙っているように思えて苛立ちが止まらない。

 青い顔で意識を失ったままのロクサーナの頭を肩に乗せ、周りを見渡した。

(息はある⋯⋯後は、ここからどうやって上がるか)

 ロクサーナの目が覚めれば浮遊魔法で上がれる可能性はあるが、それまで立ち泳ぎを続けていては体力が持ちそうにない。

(意思があるみたいに引き摺り込もうとする海も厄介だ。確か、港を作ったと言っていたはず⋯⋯右か左か⋯⋯くそっ! どっちだ!?)



 船を異空間から出したり入れたりするロクサーナなら、トランザニア王国の本土から見えないように港を作るはず。

 ジルベルト司祭は島の簡単な地図を頭に描いた。

(本土はドラゴンの住む山の向こうだと言ってたよな。山の手前に家を⋯⋯そこから⋯⋯よし、右だ!)

 ロクサーナの顔ができる限り海水に浸からないよう用心しながら泳ぎはじめた。




 予測が当たり港らしい場所を見つけたが、次の問題にぶち当たった。

 断崖を真っ直ぐ下まで削った跡と、海面から少し上に船を係留できる桟橋状の平らな岩場があるだけのその場所にも、登る方法が見当たらない。

(知ってないと港に見えないのは、防衛面としては良いと思うが⋯⋯海に落ちたら終わりとかヤバすぎる)

 平らな岩場は潮の満ち引きによって海に沈むくらいの高さだが、今は海面より1メートルくらい上にある。

【仕方ないから、1個貸しにしといてやる。でも、僕はジルベルト反対派だって覚えといて】

 ミュウの声が聞こえ岩場まで氷の階段が出来上がった。

 礼を言う元気もないジルベルト司祭はロクサーナを抱えて岩場に上がり、崩れ落ちるように座り込んだ。

(助かりました。後はここは⋯⋯どうやって登るんだ? 昇降機をつけたって言ってたが⋯⋯もっと詳しく聞いとけば良かった)

 ロクサーナの話を適当に聞き流していたわけではないのに⋯⋯と自分に言い訳しながら上を見上げて溜め息をついた。

(こうしていると人の卑小さを思い知るな。神・精霊・自然⋯⋯彼等に何ひとつ勝てるものもないのに、驕り高ぶり我こそ地上の主だと言うかの如く、地を荒らし生命を奪う。狭い土地や財を狙い、他種族を迫害し⋯⋯。全く嫌になる。神と精霊に見放されたのも当然の結果だな)

 白い顔と真っ青な唇のロクサーナを抱きしめて、少しでも暖かさが戻るようにと身体を擦りながら、上に上がる方法を思案していた。

【僕も人間は嫌いなんだけどね、ロクサーナの事だけは大好きなんだ~。だから⋯⋯】

 ウルウルが透き通った小さな羽根をパタパタと揺らしながら両手を広げた。

 ふわっと暖かい風が2人の周りで渦を巻き、浮き上がった身体を地上へと運ぶ。

【ロクサーナのためだから⋯⋯】















「よう寝とりんさる。顔色も良うなったけん、もう大丈夫じゃろう。あんたには、ドワーフ特製のスープを作っとくけん、食べにきんさい。そんとうなそんな青い顔をしとったら、ロクサーナがまた逃げ出すかもしれんけんね」

 ロクサーナの上にかがみ込んでいたドワーフのカジャおばさんが、足踏み台から飛び降りて部屋を出て行った。

 あれから一度も目を覚まさないロクサーナの横には、真っ黒なクマを育てたジルベルト司祭が椅子に腰掛けている。

 海に落ちてから既に3日経っているが、教会には魔鳥で無期の休暇申請を送ってから一度も帰っていない。

【教会から破門されちゃうよ?】

「それも良いかもですね」

 ジルベルト司祭に友好な態度をとる数少ない精霊のピッピが、ロクサーナのベッドに潜り込んだ。

【心がね、冷た~いってなってるの~】

「私のせいでしょうか⋯⋯いや、私のせいですね」

【う~ん、この間再生したばっかりだから~、ピッピにはよくわかんないの~。ミュウとか⋯⋯カイちゃんとクロちゃんならわかるかも~】

 ミュウ達はロクサーナを助けた後は、ジルベルト司祭のいる時限定で顔を出さない。

(私は嫌われていますから。相談を受け付けてはもらうどころかお会いすることもできません)

【あのね~、ミュウが言ってたんだけど~、海(?)が悪い子だって】

「海が? そう言えば⋯⋯穏やかそうな海だと思っていたのに、執拗に海底に引き摺り込もうとしていたり、断崖にぶつけようとしていたり。違和感を感じた覚えがあります」

 海と言えばリューズベイを思い出したジルベルト司祭は眉間に皺を寄せた。

(シーサーペントを殺ったせいか? しかしあれはただの海獣だったはずで⋯⋯そう言えば、シーサーペントが定期的に港を襲ってくる理由は聞いてなかったな。調査してないのか、報告漏れなのか⋯⋯)

 ロクサーナは『シーサーペントはそのまま討伐して良い』と指示された為、セイレーン達がいた事は報告の必要がないと決めた。

 討伐後、セイレーン達が騒いでいる様子はなく、リューズベイは以前より繁栄していると知って安心していた。

『少し落ち着いてからにするつもりなんだ~』

 島への移住計画、ドワーフの引越しや卒業パーティーへの強制参加の準備で、すっかり忘れていたと言うのが本音だが⋯⋯。



【だ~か~ら~、ジルベルトは嫌いなの。だってさぁ、教会が指示したんだから最後まで責任取るべきだろ? ほんと、無責任だよなぁ】

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